【完結】遺手(いしゅ)~その一手は何を見せるか~ 将棋を通した父と子の物語

西東友一

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5話 修行入り、修羅道

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 俺も凛太郎も休日の日。
 凛太郎がリビングでリラックス時を待っていた俺と千尋は目を合わし、作戦の決行に移る。

「は~い、注目」

 手を叩いて、陽気に俺は話す。

「父さんね、凛太郎と竜王トーナメントで対戦できるように修行に出ます。ちょーーっと、金山先生のところに居候させてもらって修行してきます」

「・・・あっそ」

 こちらに視線をやることなく、一人で棋譜を打っている凛太郎。

「この野郎、鬼のような修行して体も心も削ってでもお前を負かしたるから、見とけよ」

「・・・勝手にすれば。まぁ、俺は一生誰にも負けないけど」

 びしっと、将棋盤に駒を打つ凛太郎。

「こいつめ、見てろよ!」

 そう言って、家を出て、金山先生のところにお世話になった。

「すいません。不肖の弟子で」

 和室に通されて、奥様にお茶を出される。
 先生は生け花を生けてあまりこちらを見ない。

 パチンと枝を切るが、あまりよくないところを切ってしまったのか金山先生が不機嫌な顔をする。

「ほんまや、馬鹿タレ。せやけど、吾郎。不肖の弟子なら不肖の弟子で最後ぐらい、わしにタイトル見せてみんか」

「ははっ、才能的にも、体的にも厳しいかなぁ、なんて」

 先生はこちらをちらっと抗がん剤の影響で少し弱々しくなった俺を見て、ふんっ、と言う。

「地獄や、お前を地獄に落としたる。泣き言言っても容赦せんぞ。覚悟は・・・ええな?」

「はい!よろしくお願いします」

 畳が凹むくらい額を付けた。

 寿命と棋士としての技量を同時に伸ばす。
 それは、想像以上に過酷だった。

 死んだら地獄でいいから、今の地獄から逃げたいと何度も思った。
 
 辛い。抗癌剤が。
 
 痛み止めを使うと、頭が回らない。
 俺は痛み止めなしで抗がん剤の副作用に耐えた。
 そして、先生は修羅の鬼となって、弱音を吐く俺、凡才の俺に叱咤をしてくださった。
 先生を殺したい、殺してでも逃げたいと思ったが、それを押さえつけて将棋を叩きこんだ。
 千尋も毎食、食べやすいよう、食べたくなるよう工夫して料理を運んできてくれた。

「嫌です。もう食べたくないです」

「食べな、あかん。体力なくなっとったら、対局まで生きてられんぞ」

「もう・・・いい、もういいですから。死にたいです・・・っ」

「いいから、食えや!屑のお前が今死んでも、生ごみが増えるだけや!爪痕残して死んでいけ。それにな、地獄ではな、食いとうなっても二度とお前の大事な母ちゃんのメシ食えんのやぞ」

「うぐぅぅごぉ」

 生きることとはこんなに辛くなくてはいけないのか。
 
 こんなことならもっと健康な時に努力しておくべきだった・・・


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