【完結】魔女の憂鬱

西東友一

文字の大きさ
1 / 1

1

しおりを挟む
「えいっ」

 私はろうそくに火を灯す。
 これでもう、50本目。
 適当に点けているわけじゃない。

 魂を込めての50本目は本当に疲れてしまうが、

「ふふふっ、若さの秘訣だから仕方ないわよね」

 私は妄想笑いをしてしまう。
 火を点けたろうそくをゆっくり運んで、くりぬいたカボチャの中に入れると、

「キキキキキキキッ」

 カボチャが瞬きをして三角の目と鼻、ギザギザの口が現れて、点滅しながら笑い出す。手を離しても、ろうそくは落ちて来ず、マントが現れて下から手と釜が現れる。
 オーランタンの完成だ。

「さっ、キミもお願いね」

 コクッと頷いたオーランタンは夜空へ飛んでいく。
 狩のために。

「さぁ、今年はどれくらい集まるかしら」

 私はのんびりと、ダージリンティーを飲む。

「うん、美味しい」

 献血をしたように、疲れ切った私。でも、その疲れが心地いいし、出し切って疲れた体にダージリンティーが染みこんでくれる。新しい血はきっとダージリンティーで作られるだろう。そう考えると、嬉しい。

「キキキキキキッ」

「んっ・・・もう来たか」

 最初に飛ばしたオーランタンが帰ってきた。ちゃんと、ナイトメアを持って来た。
 たっぷりどす黒いナイトメア。美をキープするには必要な物は身体にいい食べ物や飲み物。きれいな血が造らなければ、きれいになれない。けれど、若さと魂の寿命はこれぐらい劇薬でないと伸びてはいかない。

「ふぅ、じゃあ・・・いただきますっ」

 毎年のことだけど、最初の一口は勇気がいる。

「あむっ・・・」

 決して不味いわけではない。
 けれど、心臓が激しく鼓動を打つ。

「んんっ?」

 今年のナイトメアは・・・

「美味しい?」

 外側は真っ黒なのに、内側はとても真っ白。

「偽りの・・・恐怖? ははーんっわかった」

 私は紅茶を飲む。

「あら、紅茶に合うじゃない」

 私はゆっくりと紅茶を飲む。
 すると、第二、第三のオーランタンが帰ってくる。

「まったく・・・みんなハロウィンを楽しんじゃって・・・子どもぐらい怯えさせたらどうなのかしら」

 まぁ、悪くはない。
 これでも、ちゃんと、寿命と若さを得られるのだから。

「でも、刺激がないと、ボケちゃうわよ・・・全く」

 とはいえ、もしかしたら、徐々に成分は失われ、私もお婆ちゃんになってしまうかもしれない。

「まったく・・・誰よ・・・ハロウィンにハッピーを付けた人は・・・っ。頭、お花畑じゃないの?」

 私は外を見ると、オーランタンのオレンジの光が空にたくさん舞っていた。

「ふぅ・・・まったくこの景色は最高ね。頭、お花畑になりそうね」

 ちょっとこの庭園から出てしまえば、人工衛星ってのが私たちを監視する。全く持って、人外の魔女には生きづらい世の中だ。

「みんな元気にしているのか・・・それとも・・・」

 この世界に絶望して死んでしまったか。
 どちらにしても、私も飽きてきてしまった。

「よしっ、私もハッピーハロウィンってのを楽しみますかっ」

 日本に送ったオーランタンたちのエネルギーをたっぷり吸いこんで、覚悟を決める。さてさて、母国のハロウィンはどうなっていることやら・・・。

「わくわくするわっ!!」

fin


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あなのあいた石

Anthony-Blue
絵本
ひとりぼっちだったボクは、みんなに助けられながら街を目指すことに。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

25匹の魚と猫と

ねこ沢ふたよ
児童書・童話
コメディです。 短編です。 暴虐無人の猫に一泡吹かせようと、水槽のメダカとグッピーが考えます。 何も考えずに笑って下さい ※クラムボンは笑いません 25周年おめでとうございます。 Copyright©︎

うそつきはだぁれ?

月芝
児童書・童話
わるいことをした魔女がつかまりました。 めでたしめでたし。 でも魔女はいいました。 わたしは神にちかって……はしていないと。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

風船タコさん会えるかな?

いもり〜ぬ(いもいもぶーにゃん)
絵本
おととの左手は、おいしいソースいいにおい、ホカホカたこ焼きの入った袋。 ボクの右手は、タコさん風船のひも。 タコさん風船、タコ焼き屋さんでくれはった。 タコさん風船、ボクの頭の上をぷっかぷっか気持ちよさそう。 風船タコさんがボクをちらっ、ちらっ。 そしてボクをじーっと見る。 ボクも風船タコさんを見る。 そして「タコさん、わかったで」とうなずく。

【掌編】少年サーファーの夢

空原海
児童書・童話
水の色は濁ってはいない。 曇天では光り輝かないだけだ。 波は。海は、太陽の光を浴びて輝くものだ。 表紙イラスト = ウバ クロネ様

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...