【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。

西東友一

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 ジャーーーーーッ

(もったいないっ!!)

 かけ流しで溢れて消えていくお湯はたいそう贅沢な使い方。私のいた国では考えられない。
 昔はそんなことを全く思わず、きれいなお湯の中で遊べるって無邪気にいたのを思い出す。
 そんな話をリチャードとしようと思うけれど、大浴場で距離を取りながら隣り合って座る私とリチャード。
 お互い裸だと今の私たちには間に3、4人分くらいのスペースが必要なようだ。

「ふぅーーーーっ」

 リチャードがリラックスしながら息を吐く。
 リラックスしているとはいえ、浴場に剣を持ってきているのは、今が戦時中だからだろうか。

(まぁ、私って敵国の貴族だったし、なんなら、その王子と婚約してたし・・・)

 リチャードに疑われている気がして、ショックを受けた。

「あのさ・・・アリア」

「はいっ!」

 自分で誘っておいて、緊張した私は、お湯に浸かって見えるはずがなくても、大事な部分を隠してしまう。

「・・・臭かった?ボク」

 心配そうな声で尋ねてくる。リチャード。

「ええ」

 ガビーンッ

 ショックを受けるリチャードがこっちを見てくる。

(誘ってよかった)

 何を言っていいかわからない状態で、咄嗟に出た言葉だったけれど、本当に良かった。
 私は久しぶりに怖くないリチャードの顔を見れて嬉しくなる。

「ふふっ、大丈夫よ。私は嫌いじゃない匂いだったわ」

「そっ、そう?」

「ふふっ・・・はぁ~~っ」

 私はお湯を掬ってみる。綺麗なお湯。今度は天井を見ると、湯気がゆっくりと天井へと向かっていく。
 私は久しぶりにゆっくりした物をまじまじと見たかもしれない。

 戦争中ということもあって、城の中も外も慌ただしかった。そんな状況で役割の与えられていない私でも、心がそわそわしながら、何かに迫られて、頭をどんどん回転させなければならないプレッシャーのようなものを感じていた。リチャードはもっとそうに違いない。

 湯気はそんな私、そして一番忙しいリチャードに「慌てなくてもいいんだよ」とほほ笑んでいる気がした。

「懐かしいね、リチャード」

「そう・・・だねーーーっ」

 背伸びをするリチャードからの優しい声。
 あぁ、やっぱり。私はこの声がいい。
 
「よくお庭で走り回って汗掻いたものね」

「うーん、ボクはあまり掻きたくなかったけれどね、おかげで鍛えられたよ」

 ちらっと見ると、リチャードの逞しくなった上腕二頭筋と、胸板が目に映り、ドキッとしたけれど、それを気づかれないように冷静を装った。

「そっ、そうね、あの時はヒョロガキだったものね」

「あーっ、そういうこと言う?キミだってお転婆娘だったじゃないか」

 お互いクスっと笑う。
 
「初めて会った時・・・ボクはキミが嫌いだった」

「えーーーっ」

 笑いながら返事をしたけれど、ちょっとショックだ。

「ボクのペースなんかお構いなし。嫌がっているのに虫やカエルを顔の前に持ってきたりして、ボクの嫌がった顔を見て、嬉しそうに笑ってさ・・・嫌な奴だと思ってたよ」

「そう・・・」

 都合の悪いことは覚えていないようだ。私はそんな悪い奴だったとは・・・。恥ずかしい。
 私は体勢を変えて、足を組み替える。

「でもね、ボクが足をひねって怪我をしたときに、ボクをおんぶして運んだくれただろ?あの時から・・・」

 ふーっと息を吐くリチャード。

「キミのことが好きになった。そして、それは・・・今もだ」

 かっこ良かった。
 私は思わず、彼に見惚れていた。

 ジャバッ

「アリアっ!?」

 私は立ち上がった。口を真一文字にして、恥ずかしさを押し殺して、リチャードの真横まで歩いて行く。

「なんで急にそんなことを言うのよ・・・」

 私はリチャードの隣に座って、彼の肩に頭を預ける。

「あぁ・・・あの時のキミの汗の匂いを思い出して・・・ボクもキミの汗の匂いは好きだなって・・・」

「そっちじゃないわよ・・・どうしたのよ、急に告白だなんて」

 汗の匂いが好きだなんて気恥ずかしいことを言われて、ちょっと喜んでいる私はヘンタイなのだろうか。私は拗ねたようにリチャードと逆側の明後日の方向を見る。

「・・・降伏しようと思っている」

 私はびっくりして、リチャードの顔を見る。
 戦を忘れて、和やかな雰囲気だったけれど、再びリチャードの顔は暗い顔になった。

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