限りなく狂愛に近い恋 ヤンデレ短編

しみずりつ

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大丈夫、僕は君の恋人 学生ヤンデレ恋人×学生あの子

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本条ほんじょう 奏太かなた
彼の半生はまさに「愛」で溢れたものだった。
両親や友人に溢れんばかりの愛情を受け、これといった困難もなく、大切に守られながら生きてきた。
そしてまもなく彼は20歳を迎える。

天は二物を与えないといったが、彼には容姿も頭脳にも恵まれ、大学でも絵にかいたようなキャンパスライフを送っている。
学部でも良い成績を修め、サークル活動も盛んで友人も多い。
そして何よりも彼には最愛の人がいる。
恋人とこの後講義を終えたら昼を食べる約束をしている。
この時間も彼にとっては幸福な一時なのだが、今日はいつもより気分が落ち込んでいる。
先日の出来事を彼女に聞いて確かめたかったのだ。
金曜日、自分の講義が終わった後、もう1コマ受けている彼女の講義が終わったら一緒に帰ろうと彼女の研究室の前で待っていた。
しかしいつまでも彼女は出てこず、すでに帰ってしまったようだった。
その夜、土曜日は一緒に出掛けようと誘ったが、友人との先約があると断られ、日曜日は月曜日に出す課題レポートの作成を同じ研究室の友人とするとのことだった。

まさか誘いをことごとく断られると思っていなかった奏太は愕然とするが、電話の向こうで申し訳なさそうにしている彼女を責める気にもならず「大丈夫だよ」としか言えなかった。
後のことはどうしたか記憶になく、ただ眠りにつくまで思いに沈んだ。

月曜日の今日はその話をしようと思っていた。

なんで一人で帰ったの?僕と帰りたくなかった?
僕が最優先じゃないの…?
レポートだって、言ってくれれば手伝ったよ。
週末は一緒にいられると思って予定を入れなかったのに。

奏太は言い募りたいほどの想いを抱えて、奏太は彼女を待つ。

彼女はいったいどう思っているのか聞こうと思っていたが、廊下の向こうから小走りで来る彼女を見てハッと我に帰った。

「奏太くん、週末はごめんね、せっかく誘ってくれたのに…課題で忙しくて」

開口一番に本当にすまなそうに頭を下げる彼女を見て、聞くに聞けなくなってしまった。
彼女はこんなにすまなそうにしているのに、僕はなんでこんな幼稚なことを考えているんだろうと小さくため息をついた後、いつものように微笑んだ。

「大丈夫だよ、ごはん食べに行こう?」

大丈夫、それは自分に言い聞かせるようだった。

昼を食べながらも彼女は週末のことを申し訳なさそうに謝ってきた。
「恋人の君と一緒にいられなくて寂しかった」と最初こそ彼女に一言そう言いたかったが、金曜日はこちらが勝手に迎えに行った手前居なかったことを咎めるのはおかしな気がしたし、それに彼女は自分と違いアルバイトをしている。
金曜日は講義が終わったあとそれがあったはずだ。きっと忙しかったのだろう。

奏太は笑顔のまま胸につかえるようなものを、紛らわせるようにぬるくなったブラックコーヒーで流し込む。じんわりと苦味が喉に広がっていく。
ふと、目をやれば彼女はいつも決まって買う飲み物を持っている。

「いつも君はそれを飲むよね」

奏太は彼女の持つタンブラーに目をやる。

「うん、これ好きなんだ。あれば絶対に買っちゃうなぁ」

「それがなければどれを飲むの?」

「お茶も飲むし、ミネラルウォーターも飲むよ。あんまり決まってないかな」

「そうなんだ。ねぇ、君は和菓子と洋菓子どっちが好き?」

「うーん、どっちも好きかな。あ、でもどちらも抹茶が使われているお菓子はあんまり得意じゃないかな」

「他に不得意なものはある?」

「苦いものはちょっと苦手かな…奏太君みたいにコーヒーをブラックで飲めたら格好いいんだけどね」

コーヒーを飲む奏太を見て、彼女は微笑んだ。

格好いい

過去に数えきれないほど自分が言われてきた他者評価のその言葉をこれほどまで強く実感したことはなかった。
彼女が自分を格好いいと思っている。
それが何より奏太に幸福感を与えた。

そして奏太は彼女のことをもっと知りたいと思い色々な質問をした。
程なくして彼女が少し困ったように「さっきから私のことばっかり話してない?」と微笑みながら言った。

だが奏太は首を振り、彼女の手の平に自分の手を乗せて言う。

「まだ全然足りない。君のことをもっとおしえて?」

「そんな矢継ぎ早に言われても答えられないよ。奏太君のこともおしえて?」

その言葉に奏太は目を見張る。彼女も自分のことを知りたいと思ってくれている。
先程よりも満ち足りた幸福感が胸に広がっていく。

「じゃあ、今日の夜一緒にごはん食べない?そこでまた沢山話をしようよ」

もっと彼女のことを知りたい気持ちと週末一緒にいられなかった寂しさを埋めようと食事へ誘う。
高まる気分が声を大きくさせた。しかし、彼女は奏太の声と反して先程よりも小さくなる。

「あ…ごめん、奏太君。今日は無理かな…」

高まった感情がその一言で一気に体が冷えていくのを奏太は感じた。

「え、どうして?なにか予定でもあるの?」

「今日、お母さんの誕生日なんだ。だから今日は代わりに晩御飯の準備をするの。プレゼントも渡したいし…」

どんどん声が小さくなって、顔を伏せる彼女をただ奏太は濁った目で見ることしか出来なかった。

最近、バイトで忙しいのもそのためか。
土曜日に友人との先約があると言ったのはそのためか。
母への日頃の感謝を込めたプレゼントを買うために。そう、特別な。

ぐるぐると想いが反芻する。

「そうだったんだ、ごめんね。知らなかったから」

そう言った自分の顔はいつものように笑えているか分からないが、努めて明るく振る舞う。

「こっちこそごめんね。断ってばっかりで…今度一緒にごはん食べに行こう?」

そう言った彼女の声はひどく鈍く反響して聞こえた。

「そうだね、また今度ね」

今日何度目かになるその言葉はすべて自分へ言い聞かせるもの。

言えるわけがない。
でも、言ってしまいたいと奏太は思った。

君の母親が邪魔だと。
二人の仲を違えるような友人など邪魔だと。

僕だけが、君の特別になりたい。

喉まで競り上がってくる言葉を飲み込んで、俯く。

ゆらりと揺らめくコーヒーの水面には、ひどく歪んだ自分の顔が写っている。
それを見ていたくなくて、一気に飲み干した。
コーヒーはその苦味をもってじわりと胸に黒いシミをつけていくようだった。
 
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