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治癒魔法には甘いもの
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椅子に座ってウトウトとしていた城の治癒魔法士サラの所へ、血まみれのメイドを抱いたエスターが現れた。
「頼む!必ず助けて‼︎ 」
急に来てそんな事を言えば普段のサラなら文句の一つも言う所なのだが、美少年の必死な顔に懇願されたおばさま魔法士は、ポッと頬を赤らめながら「まっ、任せてちょーだい!あたしは城の最高位の治癒魔法士なんだから!凄いんだからね!」と張り切って言った。
診療台の上に寝かせる様に言って、その子を見たサラは、あまりの怪我の酷さに目を見張る。
「… 服を脱がせるからあなたは扉の向こうに出てちょうだい」
「でも… 」
「いやらしいっ、乙女の裸を見るつもりなの⁈ 」
「あっ、はい出ます!」
エスターは慌てて治療室から出た。
廊下の窓際に置いてある椅子に腰掛け、治療室の扉を青い瞳を不安げに揺らしながら見つめた。
「うわーっ、ちょっとコレは…… 」
さっきの魔法士の驚いた様な声が聞こえた後、治療室は静かになった。
扉の隙間から白い光が溢れ出している。治癒が始まったのだろうか?
かなり酷い傷だった…。
エスターはさっきまで腕の中に抱いていた女の子の重みを思い出していた。
多分、自分と同じ歳ぐらいの子だ。
オスカー兄さんから手渡された瞬間、全身が粟立ち鼓動が高まった感じがした。あれは何だったのか?… 血の気の失せた顔と血まみれの体を見て鳥肌が立ったのだろうか… 。
…どうか助かってくれ、エスターは祈る様に膝の上で両手を組んで無事を願った。
突然、バンッと扉が開き、顔を出した治癒魔法士が、廊下の先を指差しながらエスターに向かって一息に言った。
「甘い物、食堂から取って来て!沢山よ!それから白ワインも三本ほど、急いで!」
彼女はそれだけ言うとまたバンッと大きな音を立てて扉をしめた。
… 白ワイン?何に使うんだろう…
考えても分からない、エスターは急いで食堂へ行き、甘いケーキやお菓子、白ワインを持ち治療室へ戻った。
コンコンと扉を叩くと、入る様に言われる。
「そこのテーブルに置いておいて、えっとー」
「僕はエスターです、エスター・レイナルドです」
「レイナルド… 偉大なる公爵閣下の御令息でしたか、それはそれは… 」
サラは女の子に治癒魔法をかけながら、部屋の端にいるエスターをチラリと見る。彼の服には血があちらこちらについていた。
「何故このメイドの子は、こんな酷い怪我をしなければならなかったのかしら?」
少しだけ冷たい口調でサラは言ってしまった。
「…… すみません」
「あなたが謝る様な事が起きたのかしら?…よし、一旦休憩」
女の子にそっと布をかけ、治癒魔法士は持って来させた白ワインを片手に、甘いケーキを口に運ぶ。
「私はサラよ、城の最高位治癒魔法士」
サラはゴクゴクと喉を鳴らしながらワインを飲む。
「竜獣人の、しかもあのレイナルドの御令息がなぜこの子を此処へ連れて来たのか説明してちょうだい」
そう言うとまたお菓子を食べはじめた。
目で、『ほら話しなさい』と言っている様だ。
「今日、王妃様主催のパーティーが開かれているのはご存知ですか?」
口にタルトを頬張りながらサラは頷いた。
「何故かそこに魔獣が現れました。剣さえ持っていればすぐに対応できたのですが、本日会場では剣帯が許されておらず、僕と兄さんで人の居なかった庭園の端へと誘い込んだのです。その時、僕目掛けて襲いかかって来た魔獣を避けたのですが…」
「エスター令息が避けた先にこの子がいて、やられたのか… 」
口の中の物を食べ終えたサラは納得した様に言った。
ゴクゴクと二本目のワインを飲み干し、「よし、やるか」と、腕を伸ばし伸びをすると再び女の子に治癒魔法をかけ始めた。
ポウと手のひらから白い光が溢れ出し体を包み込む。
「この子が負った傷は深かったわ、とりあえず体の中は治したからこれで一安心ね、ただ表面の傷はあと何回か魔法をかけないと綺麗にはならないわ、一度に大量の魔法を浴びせると副反応が出るしね」
そう言うとサラは、うつ伏せに寝かせている女の子の体に掛けた布を半分めくり取り、斜めに走る数本の大きな爪痕をエスターに見せた。
白い肌にある爪痕は魔法で塞がれていた。皮膚は盛り上がり紫色になっていて、とても痛々しかった。
思わずそこに触れようとしたエスターの手をサラが握る。
「女の子の肌に許可なく触れるんじゃありませんよ、御令息」
「は、はい、ごめんなさい」
何故傷に触れようとしてしまったんだろう、エスター自身も自分の無意識の行動が理解できなかった。
「この子は明日にならないと目が覚めないと思うわ、気になるならまた明日いらっしゃい、そこに居るお兄様もご一緒にね」
サラの言葉に振り返ると、オスカー兄さんが扉の前に立っていた。
女の子の傷跡を見て痛々しい顔をしている。
「さ、二人共、もう出てちょうだい」
二人はサラに治療室を追い出された。
仕方なく侍従がいる控室へと戻って着替え、嫌々ながらパーティー会場へと向かった。
そのまま帰っては、ミリアリア王女に申し訳がなかったからだった…が、相変わらずオスカーに婚約の話をする王妃と第一王女エリーゼ、それにエスターに纏わりついてくる第三王女マリアナの態度に、戻らなければよかったと二人はうんざりした。
「頼む!必ず助けて‼︎ 」
急に来てそんな事を言えば普段のサラなら文句の一つも言う所なのだが、美少年の必死な顔に懇願されたおばさま魔法士は、ポッと頬を赤らめながら「まっ、任せてちょーだい!あたしは城の最高位の治癒魔法士なんだから!凄いんだからね!」と張り切って言った。
診療台の上に寝かせる様に言って、その子を見たサラは、あまりの怪我の酷さに目を見張る。
「… 服を脱がせるからあなたは扉の向こうに出てちょうだい」
「でも… 」
「いやらしいっ、乙女の裸を見るつもりなの⁈ 」
「あっ、はい出ます!」
エスターは慌てて治療室から出た。
廊下の窓際に置いてある椅子に腰掛け、治療室の扉を青い瞳を不安げに揺らしながら見つめた。
「うわーっ、ちょっとコレは…… 」
さっきの魔法士の驚いた様な声が聞こえた後、治療室は静かになった。
扉の隙間から白い光が溢れ出している。治癒が始まったのだろうか?
かなり酷い傷だった…。
エスターはさっきまで腕の中に抱いていた女の子の重みを思い出していた。
多分、自分と同じ歳ぐらいの子だ。
オスカー兄さんから手渡された瞬間、全身が粟立ち鼓動が高まった感じがした。あれは何だったのか?… 血の気の失せた顔と血まみれの体を見て鳥肌が立ったのだろうか… 。
…どうか助かってくれ、エスターは祈る様に膝の上で両手を組んで無事を願った。
突然、バンッと扉が開き、顔を出した治癒魔法士が、廊下の先を指差しながらエスターに向かって一息に言った。
「甘い物、食堂から取って来て!沢山よ!それから白ワインも三本ほど、急いで!」
彼女はそれだけ言うとまたバンッと大きな音を立てて扉をしめた。
… 白ワイン?何に使うんだろう…
考えても分からない、エスターは急いで食堂へ行き、甘いケーキやお菓子、白ワインを持ち治療室へ戻った。
コンコンと扉を叩くと、入る様に言われる。
「そこのテーブルに置いておいて、えっとー」
「僕はエスターです、エスター・レイナルドです」
「レイナルド… 偉大なる公爵閣下の御令息でしたか、それはそれは… 」
サラは女の子に治癒魔法をかけながら、部屋の端にいるエスターをチラリと見る。彼の服には血があちらこちらについていた。
「何故このメイドの子は、こんな酷い怪我をしなければならなかったのかしら?」
少しだけ冷たい口調でサラは言ってしまった。
「…… すみません」
「あなたが謝る様な事が起きたのかしら?…よし、一旦休憩」
女の子にそっと布をかけ、治癒魔法士は持って来させた白ワインを片手に、甘いケーキを口に運ぶ。
「私はサラよ、城の最高位治癒魔法士」
サラはゴクゴクと喉を鳴らしながらワインを飲む。
「竜獣人の、しかもあのレイナルドの御令息がなぜこの子を此処へ連れて来たのか説明してちょうだい」
そう言うとまたお菓子を食べはじめた。
目で、『ほら話しなさい』と言っている様だ。
「今日、王妃様主催のパーティーが開かれているのはご存知ですか?」
口にタルトを頬張りながらサラは頷いた。
「何故かそこに魔獣が現れました。剣さえ持っていればすぐに対応できたのですが、本日会場では剣帯が許されておらず、僕と兄さんで人の居なかった庭園の端へと誘い込んだのです。その時、僕目掛けて襲いかかって来た魔獣を避けたのですが…」
「エスター令息が避けた先にこの子がいて、やられたのか… 」
口の中の物を食べ終えたサラは納得した様に言った。
ゴクゴクと二本目のワインを飲み干し、「よし、やるか」と、腕を伸ばし伸びをすると再び女の子に治癒魔法をかけ始めた。
ポウと手のひらから白い光が溢れ出し体を包み込む。
「この子が負った傷は深かったわ、とりあえず体の中は治したからこれで一安心ね、ただ表面の傷はあと何回か魔法をかけないと綺麗にはならないわ、一度に大量の魔法を浴びせると副反応が出るしね」
そう言うとサラは、うつ伏せに寝かせている女の子の体に掛けた布を半分めくり取り、斜めに走る数本の大きな爪痕をエスターに見せた。
白い肌にある爪痕は魔法で塞がれていた。皮膚は盛り上がり紫色になっていて、とても痛々しかった。
思わずそこに触れようとしたエスターの手をサラが握る。
「女の子の肌に許可なく触れるんじゃありませんよ、御令息」
「は、はい、ごめんなさい」
何故傷に触れようとしてしまったんだろう、エスター自身も自分の無意識の行動が理解できなかった。
「この子は明日にならないと目が覚めないと思うわ、気になるならまた明日いらっしゃい、そこに居るお兄様もご一緒にね」
サラの言葉に振り返ると、オスカー兄さんが扉の前に立っていた。
女の子の傷跡を見て痛々しい顔をしている。
「さ、二人共、もう出てちょうだい」
二人はサラに治療室を追い出された。
仕方なく侍従がいる控室へと戻って着替え、嫌々ながらパーティー会場へと向かった。
そのまま帰っては、ミリアリア王女に申し訳がなかったからだった…が、相変わらずオスカーに婚約の話をする王妃と第一王女エリーゼ、それにエスターに纏わりついてくる第三王女マリアナの態度に、戻らなければよかったと二人はうんざりした。
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