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第1章 P勇者誕生の日
第4話 幼女軍師 クローディア
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【勇者】になってはや2週間が過ぎた頃、俺はメリーさんにセクハラしたり昼寝したりセクハラしたり幼女と喧嘩したりする穏やかで平穏な日々を過ごしていた。
一度だけ村の近くに縄張りを作った狂犬病化した魔物、シャドウウルフの群れを退治するという高難易度の仕事もあったが。
俺がモンクとして棍棒を振り回して戦ってるフリだけしてる間に、超有能プリーストであるメリーさんが光魔法で殲滅してくれた。
クロも【軍師】として同行していたものの、一人で前衛をしていた俺にはクロが何をしていたのか確認する余裕が無かった。
そしてその討伐のおかげで、クロはレベル1から養殖で一気に7まであげていたから、恐らく俺も今は同じだけの経験値を得てレベルが多少上がっているはずだ。
はっきりと言えないのは、【モンク】の偽装ライセンスは作ったが【勇者】の正規のライセンスは作っていない為に数値の更新をしていない為だ。
レベルを上げたクロが【頑丈C】とか【鼓舞B】みたいなスキルを手に入れていた事から、俺にも何かしらのスキルを手に入れている可能性もあるのだが、だからと言ってそれを使おうとするとモンクで無い事がバレる危険性があるので、メリーさんに当たり障りの無い【信心D】【神の加護E】みたいな恩恵が分かりにくいものを偽装ライセンスに表記して貰った。
そしてあれ以来クロはレベルを上げる楽しみを覚えたようで、村の外に罠を作ったり、三英傑に養殖して貰ったりして、近場に縄張り作っている魔物を片っ端から狩りまくっているそうだ。
おかげで俺とメリーさんが魔物の討伐という役目に駆り出される事もなく、そして俺はメリーさんが超優秀なおかげで、僅かばかり存在するまともな作業である事務や力仕事どころか、トイレ掃除や再診のお知らせみたいな雑用すらメリーさんに任せ切りにして何もしないを毎日する生活だ。
適当に昼前に出勤し、メリーさんにセクハラ(言葉の)して一緒にお茶を飲んで一人で隠れて昼寝するという、変わり映えも無く成長も無い自堕落な怠け者の生活がすっかり板について来た次第である、我ながら社会不適合者の極みだった。
「たーのもー!、更新に来たのん!」
俺が適当に素振りの練習をしてる体で空想上のメリーさんのスカートを風圧で捲る練習していると。
毎日のように閉業ギリギリの時間にクロがライセンスの更新をする為にやって来た。
この2週間でクロはレベルを7から27まで上げるという驚異的な成長を遂げている。
下級職のレベル上限は50で、上級職は99で頭打ちとなり、転職する事が出来るようになるが、レベルを上限まで上げるのは下級職で平均して4~5年かかるのが普通であり、上級職ならもっと長い年月を必要とする。
だからクロのこの短期間での成長は驚異的なものであるし、その背景には成長期の子供だけが稀に獲得出来るレアスキル【超学習】によるもので、まぁつまりクロが幼女だからこそ、この短期間での成長が実現したのだ。
ちなみに昨日見せてもらったクロのステータスはレベル27で体力C-、魔力C、筋力D+、敏捷D、賢さD、運A+と、メリーさん曰くレベルを上げればオールAも夢では無い天才形の高ステータスであり。
所持スキルもランクアップした【頑丈B】【鼓舞A】【超学習】に加え、レアスキルである【悪魔の誘惑】まで手に入れて、これに加えて更に三英傑からの指導により下級魔法も5種類覚えたそうだ。
だから【軍師】として見ればまだまだだが、冒険者としてギルドでパーティを組んだり、その他の仕事で面接を受ける分には、このライセンス一枚で採用にほとんど事足りるくらいには、短期間でクロは仕上がっていた。
「今日は朝にバトルマウスを調教したストライクキャットで狩りまくって、昼は隣村で道場破りして、午後は汗を流しつつ滝登りしたのん、帰りにデモンベアに襲われた時は死ぬかと思ったけど、なんとかかんとか逃げ切ってみせたのん、これは絶対レベル上がってるのん」
「は?、デモンベアから逃げ切るとか有り得んだろ・・・」
デモンベアはデビルベアのボス個体であり、ここら一帯の村では既に何人もの討伐隊員が返り討ちに遭い、犠牲となっているほどの存在で、村にとっての長年の悩み種でもあった。
そのあまりにもの強さから今は『女王』と呼ばれ、既にネームド化してる事から鑑みても、レベルカンストした上級パーティでようやく勝負になるような上級モンスター。
先日宣告を受けたばかりの幼女には逃げ切る事すら不可能な相手のはずなのだ。
「というかそもそも『女王』は気性は荒いですけど、前回の討伐で痛手を負って“殺戮の森”からは出てこないはず、・・・なのになんで」
仕事柄、教会は町医者を兼ねてる為に『女王』の被害者について一番詳しいのはメリーさんだった、故に青ざめていた。
「うにゅ、クロも“殺戮の森”には近づいてないのん、ただ近場の魔物が減ってきたから谷を挟んだ隣の“帰らずの林”でちょっとモンスターを物色していただけなのん、それと『女王』はまだ怪我は完治してなかったのん、だから多分『女王』は“殺戮の森”から追い出されて来たのん」
「『女王』が“殺戮の森”を・・・?、それって・・・」
考えられる理由としは新たなボス個体の誕生による排斥、『殺戮の森』の獲物の減少による縄張りの移動、もしくは人間への復讐、と言った所か。
とにかく、村の戦力では『女王』に太刀打ちする事は難しい、だから早急に対策を練る必要がある事だけは間違いない。
俺はメリーさんの指示を待たずに、メリーさんに告げた。
「取り敢えず村長と親父に話してみるので、メリーさんはクロのライセンスの更新しててください、終わったら戻ってきますんで」
そう言って俺はのろのろと立ち上がって村長の家へと歩き出した。
最悪、隣村との連携の為に伝令として遣わされるというか、多分そうなるので、村の中くらい省エネでいいだろう。
というか本当の最悪として、メリーさんが【勇者】の俺に討伐するように頼み込む可能性もゼロじゃない、今の俺の実力がどれだけのものかは分からないけど、【勇者】になったのならば最強になれるポテンシャルだけは間違いなくあるからだ。
そうならない為にも、近隣の村と連携し、『女王』をなんとか追い返さないといけない。
俺は先ず村の畑仕事に出ていた親父に事情を説明し、二人で村長の家に向かった。
「あれ、村長の家、いつの間にかすごく物々しい感じだな・・・」
魔物の頭蓋骨が小さいものから順に家の周りに並べられていた。
その数ざっと50は越えようかというくらい。
おそらくクロの狩った魔物の首なのだろうが、自宅を首塚にされても村長は気にしないのだろうか疑問だ。
それに骨の無いスライムや小物は含まれ無いのだとしたら、実際にこの2週間でクロが狩った魔物は100は優に超えるだろう。
討伐数1000~2000くらいがレベルカンストする基準と考えれば、クロはもうその10分の一、【超学習】による恩恵も含めればそれ以上の経験値を、たった2週間で稼いだ事になる。
そう考えるとクロの目覚ましい進歩は本当に常識を外れていた。
俺が庭に並べられた頭蓋骨に感慨深いものを感じていると親父が一番でかいヤツを指さして言った。
「へへ、あのボルケーノボア、昨日俺たちと一緒に狩った奴だな、こうして飾ってくれてるとなんか嬉しいぜ」
「ボルケーノボアって、親父たちでも手こずる相手だろ、それを養殖しながらでよく勝てたな」
ボルケーノボア、Bランクの魔物であり2メートルを越す巨体に300キロ近い体重を持つ大型の魔物であり、その突進は木を複数本薙ぎ倒しても止まらず、そしてその桁外れの肺から吹き出される息吹は空気砲となり、それだけで岩を吹き飛ばすほどの威力を持つ。
この村でボルケーノボアの相手になるのは親父たち三英傑くらいだろう。
「まぁ確かにクロっちは戦闘面では役に立たないけど【軍師】だからな、罠を張ったり敵を誘い込んだり指揮を取ったりで色々してくれるし、体力だって申し分無い、普通の養殖よりかは全然マシと言うか、むしろクロっちを入れて四英傑にしたいくらいだぜ」
「ふーん、やっぱり【軍師】ってすごいんだな、つーかだったらさっさと誘ってやれよ、あの調子でレベルカンストしていったら「俺より強い奴に会いにいく」とか言って村を出ていくかもしれないぞ」
「いや、それは無いだろ、まぁお前も村を出て行きたいと言うなら話は別だが」
「は、村の未来を担う俺が出ていく訳ないだろ、俺じゃなくてクロの話だよ」
「いや、だからクロっちが・・・」
「なんじゃお前ら、けったいに家の前でダベってからに」
と、用件を後回しに雑談していたら村長が家から出てきた。
「あっ、聞いてくださいよ村長、クロっちの話なんですけど『女王』に襲われたらしいっすよ」
「な、なにーーーーーーーーーッ!?」
村長は還暦過ぎの老齢とは思えない声量で叫びながら親父に掴みかかる。
「そ、それでクロは、クロは無事なのか、あいつがいなくなったらワシは、ワシはっ」
この村の村長、シマダ・カンベル、【悪代官】の守銭奴だが重度の子煩悩でもあり、時々権力を職権乱用してクロを我儘に育てた張本人である。
「どうどう、クロっちは無傷ッスよ、何せ我ら三英傑が鍛えてるんで、それより問題は『女王』の事ッス、クロっちの話だと“殺戮の森”を抜けて“帰らずの林”まで来てたとか、一応念の為に、村人に周知させて、ついでに隣村との連携も考えないと」
「う、うーむ、そうか、しかし、この村と隣村の戦力を足してもせいぜい女王と互角、討伐隊を組んでも確実性が無ければ損害は計り知れない、どうしたものか・・・」
この村にはいくつかの無視出来ない課題が存在するが、その中で一際深刻なのが『女王』だった、今までは資源が豊富な“殺戮の森”を縄張りとしている事で村人が襲われる事は稀だったが、そこから出てきたのだとすれば何か対策を打たなくては村が滅びるかもしれない。
しかし『女王』に対応できる手札が村には存在しないからこそ、対策は困難を極める。
「まぁ、村長、いざとなったら村長のへそくりでまた街から冒険者雇ってくればいいじゃないですか、また俺が値切りまくって交渉してくるんで」
親父は指で輪っかを作りながらそう言う。
「バカもん、ワシのへそくりはクロちゃんと旅行する時の為にあるんじゃ、クロちゃんに王都の凱旋門を見せたり絶景の塔に行ったりお土産いっぱい買ってあげたりする為に使うんじゃ、それにお前は安く値切ったとしても自分の懐に入れるだけじゃろがい、しかも呼んできた冒険者も三流で結局倒せず全滅してしまったじゃないか」
親父は前回依頼金を値切るために敢えてデモンベアについての不利な情報は与えず、かつ、死んでも良心が痛まないような、高慢で、無能で、だけど戦力としてはそれなりの者達を厳選してきた。
おかげで報酬は前金だけで済んだし、街のギルドからも厄介者がいなくなって感謝されてはいるものの、これが倫理的に正しい行いかと言われれば違う。
でもこの常に危険に晒されている村においては、間違いなく正しい判断だった。
「前回は小手調べのつもりで妥協が多かったからな、村長が300万デン用意してくれるのならば、今度はAランクの冒険者を雇って確実に仕留めに行くさ」
前回の報酬は前金の50万と後払いの150万の200万、【詐欺師】のスキルで値切ってこれなのだから、デモンベアを確実に討伐出来る冒険者を雇いたいのならば、300万でも心許ないくらいだ。
「むう、300万、か、次回の村長選挙の為には賄賂が必要なのじゃが・・・」
「なぁに、デモンベアの頭蓋骨を庭に飾っておけば、これからは賄賂が無くても推薦してくれるさ、それに金が足りなくなったらまた賭博で巻きあげればいいだろ」
村の数少ない娯楽、賭博、これは村長だけに賭場を開く権利があり、もちろん身内で内々に開く事も可能だが、競馬や競人、村人最強決定戦など大きな金が動くようなギャンブルは村長の権限でしか開けない。
なお、村の三英傑は全員村長の犬なので、これらのギャンブルは巧妙に八百長をして村長が勝つように作られている。
なので俺は八百長の可能性の低いチンチロくらいしか参加した事は無いが、初めてのチンチロで借金を背負わされて以降、ギャンブルには一切手を出していない。
「むぅ・・・、取り敢えず今夜に緊急会議だな、飯を食ってからでいいから夜に集まるように言ってくれ、わしは夜の準備をする」
村長はそう言うとさっさと家に入っていった。
「へへ、久しぶりの会議だな、ライア、お前ももう宣告されたんだし、参加してみるか?」
「いいよ、俺は三英傑継ぐつもりとかないし、てか、隣村への伝令はどうするんだ?」
「そうだな・・・、普通なら今すぐ伝令に行かせるのが筋かもしれないが、もう夕暮れだ、夜に出歩いて魔物に襲われるのもアレだしな、取り敢えず会議で方針決めて、それで明日報告すればいいだろう」
別に協定がある訳では無いが、『女王』についての情報なら、一刻も早く届けるべきものだろう、でなければ犠牲者が出るかもしれないのだから。
だがそれでもそうしないのは、恐らく親父が、願わくば隣村の住人が『女王』の犠牲になってその腹を満たし、少しでも時間を稼いで欲しいと思っているから。
不作為の罪は問われないのが普通だが、隣村の住人は、他人と呼べるか微妙な相手。
少なくとも隣村にも親戚はいるし、ンシャリ村から引っ越した人間も少なくない。
小競り合いやいざこざも耐えないが、それでも村同士、時に助け合い認め合い傷つけ合いながら、長く共生して来た切っても切れない相手だ。
それを親父みたいに一時とはいえ見捨てる事は、・・・俺には辛い。
そんな俺の感傷に気づいたのか、親父が俺の頭を撫でた。
「他人の為に思い悩めるお前はいいヤツだし、立派だよ、でも世の中はそれだけじゃ成り立たないから、俺みたいな悪い大人がいるってだけの話だ、だからまぁ、あんま気にすんな」
「・・・分かってるよ」
俺も親父も、プライドとか無いからお袋と喧嘩したら直ぐに頭を下げるし、汚れ仕事だって進んで引き受ける、だからこういうのも慣れっこだし理解している。
でももしこれで明日になって隣村が襲われていたらものすごく寝覚めが悪いんだろうなという不安だけは、拭いきれないものだった。
親父と一旦別れて、俺は教会に戻ってきた。
「おかえりなさいライアさん、お疲れ様でした」
「おかえりなのん、ぬふふ、聞いて驚くのんライア、とうとうレベル30に到達したのん!」
中に入るなりドヤ顔のクロに更新されたライセンスを見せつけられたが、気乗りしないので反応は適当にした。
そしてメリーさんに内容を報告する。
「取り敢えず今夜緊急集会するみたいです、それで方針決めてから明日隣村に報告するとか」
「明日、ですか・・・」
やはりメリーさんも明日というのは不安なようだった、伝令に行くのが明日なら、明日森に出かける人間は被害に遭うかもしれないのだから。
でも俺はメリーさんにかける言葉は既に用意してあった。
「メリーさん、もう遅い時間で、今から出かけると夜行性の魔物に襲われるかもしれません、そうなれば結局伝令に失敗するので同じ事です、だったら明日を待つのも今行くのも同じ事では無いでしょうか」
「・・・確かにそうですが、でも、私なら」
メリーさんは休眠期間が長かったとは言え、年季の入った超優秀なプリーストだ。
レベルはカンストしていないものの、逆に言えばカンストしなくても強くて優秀という事であり、この村で一番『女王』から逃げ切れる可能性が高い人間であるのは間違いない。
それにメリーさんは自殺願望を持っていた、だからこんな美味しい任務があるのならば、放ってはおけない筈だ。
それは使命とか義務では無く、今のメリーさんの本当にやりたい事だから。
それが感じとれたから俺は、メリーさんにこう言った。
「仕方ないですね、取り敢えず晩御飯食べてから、それから一緒に行きましょう、メリーさんを一人で行かせませんよ、約束なんで」
別に心中する訳じゃない、ただ協力者であるメリーさんの心を一度救いたいと思ったのは事実なので、ならば最後までその責任を果たしたいだけだ。
それに【勇者】としての俺の力も未知数、だからひょっとしたら、があるかもしれないし、足でまといにはならないだろう。
「・・・ありがとうございます、正直、以前の私なら、一人でこっそり行こうと考えたと思います、でも今は少しだけ、ライアさんが行くなと止めてくれるんじゃないかと期待している、昔の私がいました」
という事は、俺が引き止めていればメリーさんは断念していたのか、選択肢ミスった。
「・・・じゃあやっぱり行くの辞めましょう、罪とか責任とか全部俺が被るし、俺自身は1ミリも行きたいとか思ってないんで!」
「ふふ、だったら私一人で行っちゃいますよ、いいんですか、私一人で行かせても、止めても私の方が強いんで止められませんよ」
「・・・じゃ、じゃあ行きましょうか」
「はい」
・・・何故だろう、メリーさんの本心に行きたくない気持ちがあったのだとしたら、何故俺が行くと言った事で嬉しそうなのかが分からない。
まさか、今日まで昼行灯してた俺に勇者としての自覚が目覚めたように見えたから、とか?
だとしたら問題だが、今更訂正出来るものでも無いし、メリーさんには働いてないのに給料も貰ってるし、多少の義務感があるのも事実だから断れないが、それでも勇者として期待されるのだけは困る。
だけど口では嫌がっていたものの、この仕事をやり遂げたいと思っていた自分がいたのもまた嘘じゃなかった事に、俺は気づいていなかった。
それから晩御飯を食べてお袋に報告し、俺はメリーさんと隣村まで向かう事にした。
直線距離だと3キロ程度だが川を挟んでおり、広い平野にはスライムを筆頭とした野生の魔物が多く生息する為に、夜間に移動するのは推奨されない。
だから俺たちは足音を立てず、静かに行進していたが。
「てかクロ、なんでついて来たんだよ、幼女はもう寝る時間だろ」
「うにゅ、ライアのお守りをする為に決まってるのん、レベル30もあればこの辺の魔物なんてイチコロなのん」
「いやそうは言っても『女王』と遭遇したらどうにもならないだろ、俺はメリーさんの同僚として付き添っているだけで、お前がこんな危険を犯す必要なんて無いし、お前が死んだらみんな悲しむぞ」
「それはライアも同じなのん、それにクロは『女王』から逃げ切ったおかげで【逃亡者】のスキルも手に入れたのん、だからクロがいた方がライアが生還出来る確率は上がるのん」
【逃亡者】、大抵の魔物からは逃げられるという、敏捷さえ上げれば誰でも入手可能なスキルだが、その効力は本人にしか発揮されない。
だがまぁ、クロの安全が確保されているならいいか。
本音を言えばクロに伝令を頼みたい所だが、幼女に伝令が務まるわけないし、幼女にさせるのも心が痛むしな。
いや、宣告を受けたのなら村ではもう子供扱いはされないのだが。
「『女王』は血に飢えたケダモノで、力も素早さも普通にやったらとても太刀打ち出来ないのん、だからいざとなったらクロがうまく目くらましするから、二人はクロが隙を作ってる間に逃げて欲しいのん」
「お前、『女王』と一度対峙してる癖に、よく囮になるなんて言えるな・・・」
間違いなく勇気だけなら勇者になれる、いやポテンシャルもやる気も元気も全部勇者らしいし、是非とも勇者になって欲しいくらいだ。
幼女故の無鉄砲さとも言えるが、クロは昔から怖いもの知らずだったので、それもある意味才能なのだろう。
「まぁクロの事は切り札兼最終兵器とでも思ってくれればいいのん、それにもうちょっとレベルを上げれば『女王』にも勝てる気がするし、ここで勝負しない理由も無いのん」
命知らずの特攻幼女、なんとなく、クロに対してそんな二つ名が思い浮かんだ。
こいつがこのまま突き進んで英雄になるのか、途中で下手を踏んで死んでしまうのかは、五分五分といった所か。
それでも村にとっては心強い存在なのは間違いないな。
「本当にすごいですね・・・、自分より強い相手に恐れずに立ち向かっていけるなんて、普通は出来ない事なのに」
メリーさんは感心したようにそう呟いた。
「うにゅ、それは誰だって同じ事なのん、でも一度目を経験すれば、二度目は対策が出来てるのん。クロは自分より強い相手と遭遇してしまった時の対処法を30は用意してるのん、簡単なものだと目くらましに使う煙玉、辛子玉、匂い玉、他には目にしみる洗剤とか刺さったら痺れる毒矢とか、常に色々準備してるし、『女王』以外のネームド級の想定もきっちりしてるのん、だから不測の事態になってもなんとか出来るという自信があるから平気なのん」
「は?、宣告を受けてまだ2週間だろ、それでそこまでプロの冒険者みたいな心構えもってるとか有り得ないだろ、いつからそんな賢くなったんだよ」
【軍師】のジョブ補正で多少賢さが引き上げられたとしても、イタズラ好きで遊びたいざかりだった幼女がたった2週間でここまで大きな精神面での成長をしてるのは信じられない事だった。
「昔から三英傑に指導して貰ってたからなのん、ペテっち達も昔はドラゴンの巣穴に丸腰で飛び込む度胸試ししてたらしいのん、だからクロがこれくらいの度胸があっても普通なのん」
「いや、親父達の武勇伝はただの自殺行為だから、度胸試しと称して凶暴な魔物怒らせるのはただ後先考えてないバカなだけだから」
親父は過去の栄光を人に話すのが大好きなので、色んな人に昔の武勇伝を脚色して叙事詩風に語るのだが、だいたいその後始末をしていたのはお袋の親父(故人)である元村長だった。
ちなみに今は引退したが村長と元村長は兄弟で村の七英雄として勇名を轟かせており、親父たちはその弟子として三英傑を名乗っているのである。
「うにゅ、ペテっち達が馬鹿なのは知ってるのん、でも馬鹿から学ぶ事が無い訳でも無いのん、他山の石、反面教師なのん、ドラゴンに食べられそうになっておしっこ漏らしたら食べられずに済んだ話はとても参考になったのん」
「・・・まぁ俺がやって同じ効果があるかは知らんけど、普通は尿まみれの汚いおっさんを食いたいとかは思わないだろうからな」
ドラゴンも知性の高いものから低いものまでピンキリだが、雑食性ではあるものの美食家なのが常だ。
故に家畜の羊とか牛を狙われる危険性がある為に、牧場を持っている村においては天敵とされている。
ちなみにンシャリ村の家畜は鶏と農業で使う馬と牛が数頭程度なので、ドラゴンの被害に遭う事は無いが。
「うにゅ、ライアもいざとなったらうんこを漏らして体に塗りたくれば命は助かるかもしれないのん、だからこれあげるのん」
そう言ってクロは俺に卵の殻を布で密封した手製の煙玉をくれた。
「なんだこれ、臭い玉か?」
「うにゅ、その中には嗅いだだけで失神する、ビビッド・トードのオタマジャクシの死体を発酵させたものが入ってるのん、クロの切り札なのん、最悪それを自分の体に塗りたくれば、命だけは助かるのん」
「自殺になる可能性もゼロでは無いが・・・まぁ有難く貰っておくよ」
クロの切り札的な隠し道具なのだろうけど、既に【逃亡者】スキルを手に入れたクロには不要なのだろう、だから貰っておいて損は無い。
体に塗ると最悪匂いが落ちなくて村に入れて貰えなくなり飢え死にするかもしれないが、まぁそれでも普通に強力な道具である事は間違いない。
村に立ち寄った冒険者に人気の品である事も確かだ。
そんなこんなで他愛の無い雑談をしつつ、周囲の魔物を警戒しながら歩いていった。
ンシャリ村と隣村であるサマーディ村の中間に位置する川の所までやって来た。
橋はゴーレム製の石造りで頑丈に作られており、川が氾濫しても壊れないような100年耐えられるくらいのちゃんとした橋だ。
故にこの橋を利用する魔物も少なくないが、幸い今は橋を占領する魔物はいなかった。
なので俺たちは、橋の真ん中をゆっくりと渡る。
「──────────っ」
突如、悪寒。
いや、鋭角化させた神経がそのオーラを感じたのだろう。
辺りに薄らと薄霧が漂う。
フード付きのマントを羽織ったそれは、俺が今まで対峙してきたどの人間よりも凶悪な気配を感じさせた。
俺はいつでも川にとびこめるようにと二人に端に寄るように誘導する。
カツンカツンと、おそらく戦闘用の鉄板の入ったブーツが石畳を叩く音が響いた。
心臓を掴まれたような気分だった、こんな夜中に出歩く人間など、人斬りだったとしても不思議では無い、故に、気まぐれに殺される事も十分考えられる。
そう思い、対岸から渡ってきていた謎の人物の一挙手一投足に神経を集中させると、俺たちと同じ列で立ち止まり、言葉を発した。
「そう警戒するな、アタシはただの風来坊さ」
それは落ち着いた女の声だった、こちらを女子供と見て侮ったのだろう、がさつな物言いだが、声音は少し優しかった。
ここは俺が返事したかった所だが、年長者にして上級者であるメリーさんを差し置いて会話する事は、モンクを演じている俺の分を過ぎる、だから何も言わずにメリーさんに答えてもらった。
「そうですか、私はンシャリ村のプリーストをしている、メリーと申します」
「へぇ、プリーストね、まぁ格好を見りゃあ分かンだが、プリーストがこんな時間に出歩くって事は、大した用なんだろ、聞かせてもらってもいいかい」
「はい、近くの森に縄張りを作っていたデモンベアのネームド級、通称『女王』が、縄張りを離れて近くに出没した情報を、サマーディ村に伝える伝令として来ました」
「ふぅん、デモンベアのネームド級ね、確かに厄介な魔物だが、【勇者】にでも頼めばいいンじゃないのかい、まだ近くにいるンだろ」
─────────と、女はこちらの急所を突くような事を言った。
【勇者】の事は誰にも話していない、だけど予言や探知が出来る人間がいたとしてもおかしくは無い。
この世には【千里眼】や【未来予知】といったスキルだって存在するし、それによって位置や座標を特定されてても不思議では無いからだ。
「って、【勇者】がいるならわざわざ隣の村に報告する必要も無いか・・・、って事はもしかして、こっちの村に【勇者】がいて、その【勇者】に助けを求めに来た、って話か?」
しかし、選ばれた【勇者】がロクにレベル上げをしないどころかその存在を隠蔽してるとは思いもつかないのだろう、俺たちの行動を女はそんな風に解釈し、俺たちの中に【勇者】がいるなどとは考えもつかない様子だ。
俺はここでうまく誤魔化す為に発言する。
「あの、もしよろしければ我が村に雇われていただけませんか?、『女王』は強敵ではありますが、きちんと戦力を整えれば勝てない相手じゃない、今回はたまたま村の手練たちが徴兵でいなくなっていて、その為にサマーディ村に援軍を求めるって話だったんです。
あなたはとても腕の立つ冒険者に見えます、報酬はそれなりの額をお支払いしますので、お手伝い頂けませんでしょうか」
敢えて値段の話はせず、引き受けてもらった後に断りにくい雰囲気を作って安値で強引に引き受けさせるという作戦。
この女の強さは未知数だが、最低でもAランク冒険者以上のオーラは感じるので、うまく相打ちに持っていく事が出来れば、こちらとしては丸儲けだ。
「─────貴様」
と、そんな俺の薄汚い目論見を感じたのか、女は俺の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「男の癖に腕っ節よりも弁舌で成り上がろうとする、魂の腐ったハイエナのような匂いがするな、蛆虫が、二度とアタシに話しかけるな、潰すぞ」
俺は両手で口を塞ぎながら、大げさに頷いて見せて、女の機嫌を損なわないように息を潜めた。
そしてそのまま手を離されて落下し、尻もちをついてガクガクと震える演技までする。
ヒーローにやられる三下のチンピラの演技なんかは、変に存在感や威圧感を出す必要が無いので簡単だった。
「ライアさん!」
急に乱暴にされた俺を気遣うようにメリーさんが駆け寄るが、女は何事も無かったように訊ねた。
「なぁプリースト、あんたも宣告はしてるんだろ、【勇者】について、何か知ってる事は無いかい」
「え、えっと・・・知らない、です」
チラッと、俺を見ながらメリーさんはそう答える。
知っていたけどメリーさんは嘘が下手すぎだ、メリーさんに勇者について聞かれた時の受け答えの練習するべきだったと俺は後悔したが、俺は目でメリーさんを威嚇しながら、手で口を塞ぐジェスチャーをしながらぶんぶんと首を横に振る。
「なんだ、お前何か知ってるのか」
女は訝しむように俺を見下すが、俺は知らない体を貫き通そうと必死に首を横に振った。
「まぁいいや、お前みたいな蛆虫踏み潰してもアタシの良心は痛まないからな、正直に話せば許してやるが、だんまり、隠し事、無知は罪だ、そんときは潰す」
理不尽過ぎる、結局嘘でも何かは話さないと潰されるなら、何かしらは話すという目論見だろうか。
だとしても、ここで【勇者】が俺だと明かした所で殺されるのがオチだ、俺みたいな奴が【勇者】だと知れば嫌悪感から衝動的に殺すかもしれない、そんな危険さを彼女からは感じらさせられた、だからどちらにしても死ぬしかない、万事休す。
ここに来て俺はクロからもらった臭い玉の使用のリスクとリターンについてそろばんを弾いてみるが、この場で使えば全員が気絶し、誰が最初に目覚めるかの勝負になるし、気絶しているうちに魔物に襲われないとも限らない。
それに女はマントを着ている為に、臭い玉の効果をマントで弾く可能性もある。
だから臭い玉を使うのならば、女のマントを脱がせて至近距離で使うのが絶対条件か。
俺自身には女を出し抜く手立てが無い、そう悟った俺は、川に飛び込むしかないと腹を括るが。
「わー、お姉ちゃんのマントかっこいいのん、色んな加護がついててすごいのん、見せて欲しいのん、貸して欲しいのん」
突如、俺の思惑を読んだのか、クロが女のマントを剥ぎ取ろうと強引に飛びつく。
「うわ、よせ、やめろ、どこを触ってる、んあぁ」
流石に強引過ぎる絡み方だったが、打開策はそれしか無かっただろう。
女がキレてクロがぶっ飛ばされるのでは無いかと心配したが、女も幼女に対しては甘いのか、俺の時とは違い乱暴はしなかった。
「分かった分かった、貸してやるから、だから離せ」
「わーい、やったのんやったのん、マントかっこいいのん」
しかも驚いた事に女は、クロの要求を受け入れてマントを脱いだ。
もしかしたらこれはクロが持っている謎スキル【悪魔の誘惑】によるものかもしれないが、単純に女が子供に甘いだけかもしれないので真実は分からないか。
だがこれで臭い玉を使用する条件を満たした。
そう思ったが、しかし。
────────マントを脱いだ女の姿に、俺は惹き付けられた。
薄霧がその輪郭を暈しているが、しなやかだが力強いと思わせる、女性的で中性的なその肉体は、露出度の高い軽装の鎧でのみ覆われており、鍛え上げられた太ももや腹筋、二の腕と言った部位は見せつけるように晒されている。
そしてそんな暴力を芸術にしたような肉体の上に、戦女神とでも言うような苛烈で鮮烈な美貌を持つ相貌に煌めく二つの眼が、俺を蛆虫を見るように睨んでいた。
薄い月明かりの中だったが、彼女が俺が今まで出会ってきた人間の中で一番危険で、そして美しい生き物だと、一目で理解した。
だから俺は、その瞳に吸い込まれるように固まった。
────────彼女の頭には、人間には無いモノが生えている。
その事実など無かったかのように。
「ま、魔族・・・」
メリーさんがぽつりと呟いた。
魔族は目下戦争中の相手であり、殺し合い支配する事でしか分かり合えなかった存在。
普通ならば子供の魔族がいれば迫害されて追い出され、大人の魔族ならば憎しみのはけ口にされて拷問されて衰弱死するのがオチだろう。
村にも一度落ち武者魔族が流れてきた事があったが、無慈悲にトドメをさされて川に打ち捨てられた。
魔族は人間の隣人では無い。
だから分かり合えないし、救わない。
王都では奴隷として使役しているし、長い歴史の中で一度たりとも支配では無く和解の道を辿った事は無い存在。
そして人間は総合力では魔族に優位を取れるが、個体の強さでは魔族の方が遥かに優れている。
故に人間にとって魔族とは恐怖の対象、危険な敵以外の何者でも無い、筈なのだが・・・。
「なンだぁお前ら、アタシが怖く無いってのか、奇妙だな・・・怯えた気配を誰一人漏らさねぇなんて、こんなの初めてだ」
だが俺も、クロも、メリーさんも、意外な事に誰一人と、彼女に怯えた様子は見せなかった。
普通なら悲鳴をあげ、奥歯ガタガタさせながら震えたり、怖くなって川に飛び込むとか、そういうリアクションが普通なのだろう、だけど俺たちは誰もそう言った怯えを出さない。
それは確かに異常な事だった。
だから俺は怯える演技をするべきなのだが、発言を禁止されているし、それ以上に彼女の瞳から目を離せない。
もしかしたら【魅惑】とか【幻惑】のスキルにかかっているのかもしれない、でもそんな事が気にならなくなるくらい、俺は彼女に夢中になっていた。
「うにゅ、おねーさんの剣かっこいいのん、しかも二本もあるのん、どっちも業物なのん、これも貸して欲しいのん」
クロは惚けている俺を見限って女を丸腰にする作戦にしたのか、女の腰に帯刀している二本の刀にも手を伸ばした。
「うわっ、やめ、これは妖刀だから、ガキが持つと呪われるから、やめろって」
今なら女の顔面に一撃必殺の臭い玉を当てる隙があるし、【逃亡者】持ちのクロを囮にして逃げる手だってある。
だけど俺は女に見蕩れていたが為に、女に臭い玉を当てる事さえも失念していた。
目の前にいる女の姿を目に焼き付けたいと、この瞬間に別の価値を見出してしまったから。
そんな俺を見かねたのか、メリーさんは俺を背負ってその場から走り出した。
相手が魔族なら理由など問わずに逃げる事に疑問を持たれない。
だからメリーさんは【勇者】の詰問を有耶無耶にする為に、魔族から逃げるという体でその場から離脱する事にしたのだろう。
「あ、おい待て!」
女は逃げる二人を追いかけようとするが、クロがそれを阻んだ。
「やった、刀ゲットなのん、これがあれば『女王』とも戦えるのん、しばらく借りるのん」
「え!?、あ、おい、アタシのマントと刀返せって、て、え?、早・・・」
女は二人とは反対方向に走り出したクロを追いかけようとするが、【逃亡者】スキルに加え煙玉まで使われては流石に追い切れない、女は一人、半裸で取り残された。
「畜生、意味わかんねぇ、なんだってんだよ!!!」
そしてその迂闊な叫びは周囲の魔物を呼び寄せて、女は更に足止めを食らうのであった。
一度だけ村の近くに縄張りを作った狂犬病化した魔物、シャドウウルフの群れを退治するという高難易度の仕事もあったが。
俺がモンクとして棍棒を振り回して戦ってるフリだけしてる間に、超有能プリーストであるメリーさんが光魔法で殲滅してくれた。
クロも【軍師】として同行していたものの、一人で前衛をしていた俺にはクロが何をしていたのか確認する余裕が無かった。
そしてその討伐のおかげで、クロはレベル1から養殖で一気に7まであげていたから、恐らく俺も今は同じだけの経験値を得てレベルが多少上がっているはずだ。
はっきりと言えないのは、【モンク】の偽装ライセンスは作ったが【勇者】の正規のライセンスは作っていない為に数値の更新をしていない為だ。
レベルを上げたクロが【頑丈C】とか【鼓舞B】みたいなスキルを手に入れていた事から、俺にも何かしらのスキルを手に入れている可能性もあるのだが、だからと言ってそれを使おうとするとモンクで無い事がバレる危険性があるので、メリーさんに当たり障りの無い【信心D】【神の加護E】みたいな恩恵が分かりにくいものを偽装ライセンスに表記して貰った。
そしてあれ以来クロはレベルを上げる楽しみを覚えたようで、村の外に罠を作ったり、三英傑に養殖して貰ったりして、近場に縄張り作っている魔物を片っ端から狩りまくっているそうだ。
おかげで俺とメリーさんが魔物の討伐という役目に駆り出される事もなく、そして俺はメリーさんが超優秀なおかげで、僅かばかり存在するまともな作業である事務や力仕事どころか、トイレ掃除や再診のお知らせみたいな雑用すらメリーさんに任せ切りにして何もしないを毎日する生活だ。
適当に昼前に出勤し、メリーさんにセクハラ(言葉の)して一緒にお茶を飲んで一人で隠れて昼寝するという、変わり映えも無く成長も無い自堕落な怠け者の生活がすっかり板について来た次第である、我ながら社会不適合者の極みだった。
「たーのもー!、更新に来たのん!」
俺が適当に素振りの練習をしてる体で空想上のメリーさんのスカートを風圧で捲る練習していると。
毎日のように閉業ギリギリの時間にクロがライセンスの更新をする為にやって来た。
この2週間でクロはレベルを7から27まで上げるという驚異的な成長を遂げている。
下級職のレベル上限は50で、上級職は99で頭打ちとなり、転職する事が出来るようになるが、レベルを上限まで上げるのは下級職で平均して4~5年かかるのが普通であり、上級職ならもっと長い年月を必要とする。
だからクロのこの短期間での成長は驚異的なものであるし、その背景には成長期の子供だけが稀に獲得出来るレアスキル【超学習】によるもので、まぁつまりクロが幼女だからこそ、この短期間での成長が実現したのだ。
ちなみに昨日見せてもらったクロのステータスはレベル27で体力C-、魔力C、筋力D+、敏捷D、賢さD、運A+と、メリーさん曰くレベルを上げればオールAも夢では無い天才形の高ステータスであり。
所持スキルもランクアップした【頑丈B】【鼓舞A】【超学習】に加え、レアスキルである【悪魔の誘惑】まで手に入れて、これに加えて更に三英傑からの指導により下級魔法も5種類覚えたそうだ。
だから【軍師】として見ればまだまだだが、冒険者としてギルドでパーティを組んだり、その他の仕事で面接を受ける分には、このライセンス一枚で採用にほとんど事足りるくらいには、短期間でクロは仕上がっていた。
「今日は朝にバトルマウスを調教したストライクキャットで狩りまくって、昼は隣村で道場破りして、午後は汗を流しつつ滝登りしたのん、帰りにデモンベアに襲われた時は死ぬかと思ったけど、なんとかかんとか逃げ切ってみせたのん、これは絶対レベル上がってるのん」
「は?、デモンベアから逃げ切るとか有り得んだろ・・・」
デモンベアはデビルベアのボス個体であり、ここら一帯の村では既に何人もの討伐隊員が返り討ちに遭い、犠牲となっているほどの存在で、村にとっての長年の悩み種でもあった。
そのあまりにもの強さから今は『女王』と呼ばれ、既にネームド化してる事から鑑みても、レベルカンストした上級パーティでようやく勝負になるような上級モンスター。
先日宣告を受けたばかりの幼女には逃げ切る事すら不可能な相手のはずなのだ。
「というかそもそも『女王』は気性は荒いですけど、前回の討伐で痛手を負って“殺戮の森”からは出てこないはず、・・・なのになんで」
仕事柄、教会は町医者を兼ねてる為に『女王』の被害者について一番詳しいのはメリーさんだった、故に青ざめていた。
「うにゅ、クロも“殺戮の森”には近づいてないのん、ただ近場の魔物が減ってきたから谷を挟んだ隣の“帰らずの林”でちょっとモンスターを物色していただけなのん、それと『女王』はまだ怪我は完治してなかったのん、だから多分『女王』は“殺戮の森”から追い出されて来たのん」
「『女王』が“殺戮の森”を・・・?、それって・・・」
考えられる理由としは新たなボス個体の誕生による排斥、『殺戮の森』の獲物の減少による縄張りの移動、もしくは人間への復讐、と言った所か。
とにかく、村の戦力では『女王』に太刀打ちする事は難しい、だから早急に対策を練る必要がある事だけは間違いない。
俺はメリーさんの指示を待たずに、メリーさんに告げた。
「取り敢えず村長と親父に話してみるので、メリーさんはクロのライセンスの更新しててください、終わったら戻ってきますんで」
そう言って俺はのろのろと立ち上がって村長の家へと歩き出した。
最悪、隣村との連携の為に伝令として遣わされるというか、多分そうなるので、村の中くらい省エネでいいだろう。
というか本当の最悪として、メリーさんが【勇者】の俺に討伐するように頼み込む可能性もゼロじゃない、今の俺の実力がどれだけのものかは分からないけど、【勇者】になったのならば最強になれるポテンシャルだけは間違いなくあるからだ。
そうならない為にも、近隣の村と連携し、『女王』をなんとか追い返さないといけない。
俺は先ず村の畑仕事に出ていた親父に事情を説明し、二人で村長の家に向かった。
「あれ、村長の家、いつの間にかすごく物々しい感じだな・・・」
魔物の頭蓋骨が小さいものから順に家の周りに並べられていた。
その数ざっと50は越えようかというくらい。
おそらくクロの狩った魔物の首なのだろうが、自宅を首塚にされても村長は気にしないのだろうか疑問だ。
それに骨の無いスライムや小物は含まれ無いのだとしたら、実際にこの2週間でクロが狩った魔物は100は優に超えるだろう。
討伐数1000~2000くらいがレベルカンストする基準と考えれば、クロはもうその10分の一、【超学習】による恩恵も含めればそれ以上の経験値を、たった2週間で稼いだ事になる。
そう考えるとクロの目覚ましい進歩は本当に常識を外れていた。
俺が庭に並べられた頭蓋骨に感慨深いものを感じていると親父が一番でかいヤツを指さして言った。
「へへ、あのボルケーノボア、昨日俺たちと一緒に狩った奴だな、こうして飾ってくれてるとなんか嬉しいぜ」
「ボルケーノボアって、親父たちでも手こずる相手だろ、それを養殖しながらでよく勝てたな」
ボルケーノボア、Bランクの魔物であり2メートルを越す巨体に300キロ近い体重を持つ大型の魔物であり、その突進は木を複数本薙ぎ倒しても止まらず、そしてその桁外れの肺から吹き出される息吹は空気砲となり、それだけで岩を吹き飛ばすほどの威力を持つ。
この村でボルケーノボアの相手になるのは親父たち三英傑くらいだろう。
「まぁ確かにクロっちは戦闘面では役に立たないけど【軍師】だからな、罠を張ったり敵を誘い込んだり指揮を取ったりで色々してくれるし、体力だって申し分無い、普通の養殖よりかは全然マシと言うか、むしろクロっちを入れて四英傑にしたいくらいだぜ」
「ふーん、やっぱり【軍師】ってすごいんだな、つーかだったらさっさと誘ってやれよ、あの調子でレベルカンストしていったら「俺より強い奴に会いにいく」とか言って村を出ていくかもしれないぞ」
「いや、それは無いだろ、まぁお前も村を出て行きたいと言うなら話は別だが」
「は、村の未来を担う俺が出ていく訳ないだろ、俺じゃなくてクロの話だよ」
「いや、だからクロっちが・・・」
「なんじゃお前ら、けったいに家の前でダベってからに」
と、用件を後回しに雑談していたら村長が家から出てきた。
「あっ、聞いてくださいよ村長、クロっちの話なんですけど『女王』に襲われたらしいっすよ」
「な、なにーーーーーーーーーッ!?」
村長は還暦過ぎの老齢とは思えない声量で叫びながら親父に掴みかかる。
「そ、それでクロは、クロは無事なのか、あいつがいなくなったらワシは、ワシはっ」
この村の村長、シマダ・カンベル、【悪代官】の守銭奴だが重度の子煩悩でもあり、時々権力を職権乱用してクロを我儘に育てた張本人である。
「どうどう、クロっちは無傷ッスよ、何せ我ら三英傑が鍛えてるんで、それより問題は『女王』の事ッス、クロっちの話だと“殺戮の森”を抜けて“帰らずの林”まで来てたとか、一応念の為に、村人に周知させて、ついでに隣村との連携も考えないと」
「う、うーむ、そうか、しかし、この村と隣村の戦力を足してもせいぜい女王と互角、討伐隊を組んでも確実性が無ければ損害は計り知れない、どうしたものか・・・」
この村にはいくつかの無視出来ない課題が存在するが、その中で一際深刻なのが『女王』だった、今までは資源が豊富な“殺戮の森”を縄張りとしている事で村人が襲われる事は稀だったが、そこから出てきたのだとすれば何か対策を打たなくては村が滅びるかもしれない。
しかし『女王』に対応できる手札が村には存在しないからこそ、対策は困難を極める。
「まぁ、村長、いざとなったら村長のへそくりでまた街から冒険者雇ってくればいいじゃないですか、また俺が値切りまくって交渉してくるんで」
親父は指で輪っかを作りながらそう言う。
「バカもん、ワシのへそくりはクロちゃんと旅行する時の為にあるんじゃ、クロちゃんに王都の凱旋門を見せたり絶景の塔に行ったりお土産いっぱい買ってあげたりする為に使うんじゃ、それにお前は安く値切ったとしても自分の懐に入れるだけじゃろがい、しかも呼んできた冒険者も三流で結局倒せず全滅してしまったじゃないか」
親父は前回依頼金を値切るために敢えてデモンベアについての不利な情報は与えず、かつ、死んでも良心が痛まないような、高慢で、無能で、だけど戦力としてはそれなりの者達を厳選してきた。
おかげで報酬は前金だけで済んだし、街のギルドからも厄介者がいなくなって感謝されてはいるものの、これが倫理的に正しい行いかと言われれば違う。
でもこの常に危険に晒されている村においては、間違いなく正しい判断だった。
「前回は小手調べのつもりで妥協が多かったからな、村長が300万デン用意してくれるのならば、今度はAランクの冒険者を雇って確実に仕留めに行くさ」
前回の報酬は前金の50万と後払いの150万の200万、【詐欺師】のスキルで値切ってこれなのだから、デモンベアを確実に討伐出来る冒険者を雇いたいのならば、300万でも心許ないくらいだ。
「むう、300万、か、次回の村長選挙の為には賄賂が必要なのじゃが・・・」
「なぁに、デモンベアの頭蓋骨を庭に飾っておけば、これからは賄賂が無くても推薦してくれるさ、それに金が足りなくなったらまた賭博で巻きあげればいいだろ」
村の数少ない娯楽、賭博、これは村長だけに賭場を開く権利があり、もちろん身内で内々に開く事も可能だが、競馬や競人、村人最強決定戦など大きな金が動くようなギャンブルは村長の権限でしか開けない。
なお、村の三英傑は全員村長の犬なので、これらのギャンブルは巧妙に八百長をして村長が勝つように作られている。
なので俺は八百長の可能性の低いチンチロくらいしか参加した事は無いが、初めてのチンチロで借金を背負わされて以降、ギャンブルには一切手を出していない。
「むぅ・・・、取り敢えず今夜に緊急会議だな、飯を食ってからでいいから夜に集まるように言ってくれ、わしは夜の準備をする」
村長はそう言うとさっさと家に入っていった。
「へへ、久しぶりの会議だな、ライア、お前ももう宣告されたんだし、参加してみるか?」
「いいよ、俺は三英傑継ぐつもりとかないし、てか、隣村への伝令はどうするんだ?」
「そうだな・・・、普通なら今すぐ伝令に行かせるのが筋かもしれないが、もう夕暮れだ、夜に出歩いて魔物に襲われるのもアレだしな、取り敢えず会議で方針決めて、それで明日報告すればいいだろう」
別に協定がある訳では無いが、『女王』についての情報なら、一刻も早く届けるべきものだろう、でなければ犠牲者が出るかもしれないのだから。
だがそれでもそうしないのは、恐らく親父が、願わくば隣村の住人が『女王』の犠牲になってその腹を満たし、少しでも時間を稼いで欲しいと思っているから。
不作為の罪は問われないのが普通だが、隣村の住人は、他人と呼べるか微妙な相手。
少なくとも隣村にも親戚はいるし、ンシャリ村から引っ越した人間も少なくない。
小競り合いやいざこざも耐えないが、それでも村同士、時に助け合い認め合い傷つけ合いながら、長く共生して来た切っても切れない相手だ。
それを親父みたいに一時とはいえ見捨てる事は、・・・俺には辛い。
そんな俺の感傷に気づいたのか、親父が俺の頭を撫でた。
「他人の為に思い悩めるお前はいいヤツだし、立派だよ、でも世の中はそれだけじゃ成り立たないから、俺みたいな悪い大人がいるってだけの話だ、だからまぁ、あんま気にすんな」
「・・・分かってるよ」
俺も親父も、プライドとか無いからお袋と喧嘩したら直ぐに頭を下げるし、汚れ仕事だって進んで引き受ける、だからこういうのも慣れっこだし理解している。
でももしこれで明日になって隣村が襲われていたらものすごく寝覚めが悪いんだろうなという不安だけは、拭いきれないものだった。
親父と一旦別れて、俺は教会に戻ってきた。
「おかえりなさいライアさん、お疲れ様でした」
「おかえりなのん、ぬふふ、聞いて驚くのんライア、とうとうレベル30に到達したのん!」
中に入るなりドヤ顔のクロに更新されたライセンスを見せつけられたが、気乗りしないので反応は適当にした。
そしてメリーさんに内容を報告する。
「取り敢えず今夜緊急集会するみたいです、それで方針決めてから明日隣村に報告するとか」
「明日、ですか・・・」
やはりメリーさんも明日というのは不安なようだった、伝令に行くのが明日なら、明日森に出かける人間は被害に遭うかもしれないのだから。
でも俺はメリーさんにかける言葉は既に用意してあった。
「メリーさん、もう遅い時間で、今から出かけると夜行性の魔物に襲われるかもしれません、そうなれば結局伝令に失敗するので同じ事です、だったら明日を待つのも今行くのも同じ事では無いでしょうか」
「・・・確かにそうですが、でも、私なら」
メリーさんは休眠期間が長かったとは言え、年季の入った超優秀なプリーストだ。
レベルはカンストしていないものの、逆に言えばカンストしなくても強くて優秀という事であり、この村で一番『女王』から逃げ切れる可能性が高い人間であるのは間違いない。
それにメリーさんは自殺願望を持っていた、だからこんな美味しい任務があるのならば、放ってはおけない筈だ。
それは使命とか義務では無く、今のメリーさんの本当にやりたい事だから。
それが感じとれたから俺は、メリーさんにこう言った。
「仕方ないですね、取り敢えず晩御飯食べてから、それから一緒に行きましょう、メリーさんを一人で行かせませんよ、約束なんで」
別に心中する訳じゃない、ただ協力者であるメリーさんの心を一度救いたいと思ったのは事実なので、ならば最後までその責任を果たしたいだけだ。
それに【勇者】としての俺の力も未知数、だからひょっとしたら、があるかもしれないし、足でまといにはならないだろう。
「・・・ありがとうございます、正直、以前の私なら、一人でこっそり行こうと考えたと思います、でも今は少しだけ、ライアさんが行くなと止めてくれるんじゃないかと期待している、昔の私がいました」
という事は、俺が引き止めていればメリーさんは断念していたのか、選択肢ミスった。
「・・・じゃあやっぱり行くの辞めましょう、罪とか責任とか全部俺が被るし、俺自身は1ミリも行きたいとか思ってないんで!」
「ふふ、だったら私一人で行っちゃいますよ、いいんですか、私一人で行かせても、止めても私の方が強いんで止められませんよ」
「・・・じゃ、じゃあ行きましょうか」
「はい」
・・・何故だろう、メリーさんの本心に行きたくない気持ちがあったのだとしたら、何故俺が行くと言った事で嬉しそうなのかが分からない。
まさか、今日まで昼行灯してた俺に勇者としての自覚が目覚めたように見えたから、とか?
だとしたら問題だが、今更訂正出来るものでも無いし、メリーさんには働いてないのに給料も貰ってるし、多少の義務感があるのも事実だから断れないが、それでも勇者として期待されるのだけは困る。
だけど口では嫌がっていたものの、この仕事をやり遂げたいと思っていた自分がいたのもまた嘘じゃなかった事に、俺は気づいていなかった。
それから晩御飯を食べてお袋に報告し、俺はメリーさんと隣村まで向かう事にした。
直線距離だと3キロ程度だが川を挟んでおり、広い平野にはスライムを筆頭とした野生の魔物が多く生息する為に、夜間に移動するのは推奨されない。
だから俺たちは足音を立てず、静かに行進していたが。
「てかクロ、なんでついて来たんだよ、幼女はもう寝る時間だろ」
「うにゅ、ライアのお守りをする為に決まってるのん、レベル30もあればこの辺の魔物なんてイチコロなのん」
「いやそうは言っても『女王』と遭遇したらどうにもならないだろ、俺はメリーさんの同僚として付き添っているだけで、お前がこんな危険を犯す必要なんて無いし、お前が死んだらみんな悲しむぞ」
「それはライアも同じなのん、それにクロは『女王』から逃げ切ったおかげで【逃亡者】のスキルも手に入れたのん、だからクロがいた方がライアが生還出来る確率は上がるのん」
【逃亡者】、大抵の魔物からは逃げられるという、敏捷さえ上げれば誰でも入手可能なスキルだが、その効力は本人にしか発揮されない。
だがまぁ、クロの安全が確保されているならいいか。
本音を言えばクロに伝令を頼みたい所だが、幼女に伝令が務まるわけないし、幼女にさせるのも心が痛むしな。
いや、宣告を受けたのなら村ではもう子供扱いはされないのだが。
「『女王』は血に飢えたケダモノで、力も素早さも普通にやったらとても太刀打ち出来ないのん、だからいざとなったらクロがうまく目くらましするから、二人はクロが隙を作ってる間に逃げて欲しいのん」
「お前、『女王』と一度対峙してる癖に、よく囮になるなんて言えるな・・・」
間違いなく勇気だけなら勇者になれる、いやポテンシャルもやる気も元気も全部勇者らしいし、是非とも勇者になって欲しいくらいだ。
幼女故の無鉄砲さとも言えるが、クロは昔から怖いもの知らずだったので、それもある意味才能なのだろう。
「まぁクロの事は切り札兼最終兵器とでも思ってくれればいいのん、それにもうちょっとレベルを上げれば『女王』にも勝てる気がするし、ここで勝負しない理由も無いのん」
命知らずの特攻幼女、なんとなく、クロに対してそんな二つ名が思い浮かんだ。
こいつがこのまま突き進んで英雄になるのか、途中で下手を踏んで死んでしまうのかは、五分五分といった所か。
それでも村にとっては心強い存在なのは間違いないな。
「本当にすごいですね・・・、自分より強い相手に恐れずに立ち向かっていけるなんて、普通は出来ない事なのに」
メリーさんは感心したようにそう呟いた。
「うにゅ、それは誰だって同じ事なのん、でも一度目を経験すれば、二度目は対策が出来てるのん。クロは自分より強い相手と遭遇してしまった時の対処法を30は用意してるのん、簡単なものだと目くらましに使う煙玉、辛子玉、匂い玉、他には目にしみる洗剤とか刺さったら痺れる毒矢とか、常に色々準備してるし、『女王』以外のネームド級の想定もきっちりしてるのん、だから不測の事態になってもなんとか出来るという自信があるから平気なのん」
「は?、宣告を受けてまだ2週間だろ、それでそこまでプロの冒険者みたいな心構えもってるとか有り得ないだろ、いつからそんな賢くなったんだよ」
【軍師】のジョブ補正で多少賢さが引き上げられたとしても、イタズラ好きで遊びたいざかりだった幼女がたった2週間でここまで大きな精神面での成長をしてるのは信じられない事だった。
「昔から三英傑に指導して貰ってたからなのん、ペテっち達も昔はドラゴンの巣穴に丸腰で飛び込む度胸試ししてたらしいのん、だからクロがこれくらいの度胸があっても普通なのん」
「いや、親父達の武勇伝はただの自殺行為だから、度胸試しと称して凶暴な魔物怒らせるのはただ後先考えてないバカなだけだから」
親父は過去の栄光を人に話すのが大好きなので、色んな人に昔の武勇伝を脚色して叙事詩風に語るのだが、だいたいその後始末をしていたのはお袋の親父(故人)である元村長だった。
ちなみに今は引退したが村長と元村長は兄弟で村の七英雄として勇名を轟かせており、親父たちはその弟子として三英傑を名乗っているのである。
「うにゅ、ペテっち達が馬鹿なのは知ってるのん、でも馬鹿から学ぶ事が無い訳でも無いのん、他山の石、反面教師なのん、ドラゴンに食べられそうになっておしっこ漏らしたら食べられずに済んだ話はとても参考になったのん」
「・・・まぁ俺がやって同じ効果があるかは知らんけど、普通は尿まみれの汚いおっさんを食いたいとかは思わないだろうからな」
ドラゴンも知性の高いものから低いものまでピンキリだが、雑食性ではあるものの美食家なのが常だ。
故に家畜の羊とか牛を狙われる危険性がある為に、牧場を持っている村においては天敵とされている。
ちなみにンシャリ村の家畜は鶏と農業で使う馬と牛が数頭程度なので、ドラゴンの被害に遭う事は無いが。
「うにゅ、ライアもいざとなったらうんこを漏らして体に塗りたくれば命は助かるかもしれないのん、だからこれあげるのん」
そう言ってクロは俺に卵の殻を布で密封した手製の煙玉をくれた。
「なんだこれ、臭い玉か?」
「うにゅ、その中には嗅いだだけで失神する、ビビッド・トードのオタマジャクシの死体を発酵させたものが入ってるのん、クロの切り札なのん、最悪それを自分の体に塗りたくれば、命だけは助かるのん」
「自殺になる可能性もゼロでは無いが・・・まぁ有難く貰っておくよ」
クロの切り札的な隠し道具なのだろうけど、既に【逃亡者】スキルを手に入れたクロには不要なのだろう、だから貰っておいて損は無い。
体に塗ると最悪匂いが落ちなくて村に入れて貰えなくなり飢え死にするかもしれないが、まぁそれでも普通に強力な道具である事は間違いない。
村に立ち寄った冒険者に人気の品である事も確かだ。
そんなこんなで他愛の無い雑談をしつつ、周囲の魔物を警戒しながら歩いていった。
ンシャリ村と隣村であるサマーディ村の中間に位置する川の所までやって来た。
橋はゴーレム製の石造りで頑丈に作られており、川が氾濫しても壊れないような100年耐えられるくらいのちゃんとした橋だ。
故にこの橋を利用する魔物も少なくないが、幸い今は橋を占領する魔物はいなかった。
なので俺たちは、橋の真ん中をゆっくりと渡る。
「──────────っ」
突如、悪寒。
いや、鋭角化させた神経がそのオーラを感じたのだろう。
辺りに薄らと薄霧が漂う。
フード付きのマントを羽織ったそれは、俺が今まで対峙してきたどの人間よりも凶悪な気配を感じさせた。
俺はいつでも川にとびこめるようにと二人に端に寄るように誘導する。
カツンカツンと、おそらく戦闘用の鉄板の入ったブーツが石畳を叩く音が響いた。
心臓を掴まれたような気分だった、こんな夜中に出歩く人間など、人斬りだったとしても不思議では無い、故に、気まぐれに殺される事も十分考えられる。
そう思い、対岸から渡ってきていた謎の人物の一挙手一投足に神経を集中させると、俺たちと同じ列で立ち止まり、言葉を発した。
「そう警戒するな、アタシはただの風来坊さ」
それは落ち着いた女の声だった、こちらを女子供と見て侮ったのだろう、がさつな物言いだが、声音は少し優しかった。
ここは俺が返事したかった所だが、年長者にして上級者であるメリーさんを差し置いて会話する事は、モンクを演じている俺の分を過ぎる、だから何も言わずにメリーさんに答えてもらった。
「そうですか、私はンシャリ村のプリーストをしている、メリーと申します」
「へぇ、プリーストね、まぁ格好を見りゃあ分かンだが、プリーストがこんな時間に出歩くって事は、大した用なんだろ、聞かせてもらってもいいかい」
「はい、近くの森に縄張りを作っていたデモンベアのネームド級、通称『女王』が、縄張りを離れて近くに出没した情報を、サマーディ村に伝える伝令として来ました」
「ふぅん、デモンベアのネームド級ね、確かに厄介な魔物だが、【勇者】にでも頼めばいいンじゃないのかい、まだ近くにいるンだろ」
─────────と、女はこちらの急所を突くような事を言った。
【勇者】の事は誰にも話していない、だけど予言や探知が出来る人間がいたとしてもおかしくは無い。
この世には【千里眼】や【未来予知】といったスキルだって存在するし、それによって位置や座標を特定されてても不思議では無いからだ。
「って、【勇者】がいるならわざわざ隣の村に報告する必要も無いか・・・、って事はもしかして、こっちの村に【勇者】がいて、その【勇者】に助けを求めに来た、って話か?」
しかし、選ばれた【勇者】がロクにレベル上げをしないどころかその存在を隠蔽してるとは思いもつかないのだろう、俺たちの行動を女はそんな風に解釈し、俺たちの中に【勇者】がいるなどとは考えもつかない様子だ。
俺はここでうまく誤魔化す為に発言する。
「あの、もしよろしければ我が村に雇われていただけませんか?、『女王』は強敵ではありますが、きちんと戦力を整えれば勝てない相手じゃない、今回はたまたま村の手練たちが徴兵でいなくなっていて、その為にサマーディ村に援軍を求めるって話だったんです。
あなたはとても腕の立つ冒険者に見えます、報酬はそれなりの額をお支払いしますので、お手伝い頂けませんでしょうか」
敢えて値段の話はせず、引き受けてもらった後に断りにくい雰囲気を作って安値で強引に引き受けさせるという作戦。
この女の強さは未知数だが、最低でもAランク冒険者以上のオーラは感じるので、うまく相打ちに持っていく事が出来れば、こちらとしては丸儲けだ。
「─────貴様」
と、そんな俺の薄汚い目論見を感じたのか、女は俺の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「男の癖に腕っ節よりも弁舌で成り上がろうとする、魂の腐ったハイエナのような匂いがするな、蛆虫が、二度とアタシに話しかけるな、潰すぞ」
俺は両手で口を塞ぎながら、大げさに頷いて見せて、女の機嫌を損なわないように息を潜めた。
そしてそのまま手を離されて落下し、尻もちをついてガクガクと震える演技までする。
ヒーローにやられる三下のチンピラの演技なんかは、変に存在感や威圧感を出す必要が無いので簡単だった。
「ライアさん!」
急に乱暴にされた俺を気遣うようにメリーさんが駆け寄るが、女は何事も無かったように訊ねた。
「なぁプリースト、あんたも宣告はしてるんだろ、【勇者】について、何か知ってる事は無いかい」
「え、えっと・・・知らない、です」
チラッと、俺を見ながらメリーさんはそう答える。
知っていたけどメリーさんは嘘が下手すぎだ、メリーさんに勇者について聞かれた時の受け答えの練習するべきだったと俺は後悔したが、俺は目でメリーさんを威嚇しながら、手で口を塞ぐジェスチャーをしながらぶんぶんと首を横に振る。
「なんだ、お前何か知ってるのか」
女は訝しむように俺を見下すが、俺は知らない体を貫き通そうと必死に首を横に振った。
「まぁいいや、お前みたいな蛆虫踏み潰してもアタシの良心は痛まないからな、正直に話せば許してやるが、だんまり、隠し事、無知は罪だ、そんときは潰す」
理不尽過ぎる、結局嘘でも何かは話さないと潰されるなら、何かしらは話すという目論見だろうか。
だとしても、ここで【勇者】が俺だと明かした所で殺されるのがオチだ、俺みたいな奴が【勇者】だと知れば嫌悪感から衝動的に殺すかもしれない、そんな危険さを彼女からは感じらさせられた、だからどちらにしても死ぬしかない、万事休す。
ここに来て俺はクロからもらった臭い玉の使用のリスクとリターンについてそろばんを弾いてみるが、この場で使えば全員が気絶し、誰が最初に目覚めるかの勝負になるし、気絶しているうちに魔物に襲われないとも限らない。
それに女はマントを着ている為に、臭い玉の効果をマントで弾く可能性もある。
だから臭い玉を使うのならば、女のマントを脱がせて至近距離で使うのが絶対条件か。
俺自身には女を出し抜く手立てが無い、そう悟った俺は、川に飛び込むしかないと腹を括るが。
「わー、お姉ちゃんのマントかっこいいのん、色んな加護がついててすごいのん、見せて欲しいのん、貸して欲しいのん」
突如、俺の思惑を読んだのか、クロが女のマントを剥ぎ取ろうと強引に飛びつく。
「うわ、よせ、やめろ、どこを触ってる、んあぁ」
流石に強引過ぎる絡み方だったが、打開策はそれしか無かっただろう。
女がキレてクロがぶっ飛ばされるのでは無いかと心配したが、女も幼女に対しては甘いのか、俺の時とは違い乱暴はしなかった。
「分かった分かった、貸してやるから、だから離せ」
「わーい、やったのんやったのん、マントかっこいいのん」
しかも驚いた事に女は、クロの要求を受け入れてマントを脱いだ。
もしかしたらこれはクロが持っている謎スキル【悪魔の誘惑】によるものかもしれないが、単純に女が子供に甘いだけかもしれないので真実は分からないか。
だがこれで臭い玉を使用する条件を満たした。
そう思ったが、しかし。
────────マントを脱いだ女の姿に、俺は惹き付けられた。
薄霧がその輪郭を暈しているが、しなやかだが力強いと思わせる、女性的で中性的なその肉体は、露出度の高い軽装の鎧でのみ覆われており、鍛え上げられた太ももや腹筋、二の腕と言った部位は見せつけるように晒されている。
そしてそんな暴力を芸術にしたような肉体の上に、戦女神とでも言うような苛烈で鮮烈な美貌を持つ相貌に煌めく二つの眼が、俺を蛆虫を見るように睨んでいた。
薄い月明かりの中だったが、彼女が俺が今まで出会ってきた人間の中で一番危険で、そして美しい生き物だと、一目で理解した。
だから俺は、その瞳に吸い込まれるように固まった。
────────彼女の頭には、人間には無いモノが生えている。
その事実など無かったかのように。
「ま、魔族・・・」
メリーさんがぽつりと呟いた。
魔族は目下戦争中の相手であり、殺し合い支配する事でしか分かり合えなかった存在。
普通ならば子供の魔族がいれば迫害されて追い出され、大人の魔族ならば憎しみのはけ口にされて拷問されて衰弱死するのがオチだろう。
村にも一度落ち武者魔族が流れてきた事があったが、無慈悲にトドメをさされて川に打ち捨てられた。
魔族は人間の隣人では無い。
だから分かり合えないし、救わない。
王都では奴隷として使役しているし、長い歴史の中で一度たりとも支配では無く和解の道を辿った事は無い存在。
そして人間は総合力では魔族に優位を取れるが、個体の強さでは魔族の方が遥かに優れている。
故に人間にとって魔族とは恐怖の対象、危険な敵以外の何者でも無い、筈なのだが・・・。
「なンだぁお前ら、アタシが怖く無いってのか、奇妙だな・・・怯えた気配を誰一人漏らさねぇなんて、こんなの初めてだ」
だが俺も、クロも、メリーさんも、意外な事に誰一人と、彼女に怯えた様子は見せなかった。
普通なら悲鳴をあげ、奥歯ガタガタさせながら震えたり、怖くなって川に飛び込むとか、そういうリアクションが普通なのだろう、だけど俺たちは誰もそう言った怯えを出さない。
それは確かに異常な事だった。
だから俺は怯える演技をするべきなのだが、発言を禁止されているし、それ以上に彼女の瞳から目を離せない。
もしかしたら【魅惑】とか【幻惑】のスキルにかかっているのかもしれない、でもそんな事が気にならなくなるくらい、俺は彼女に夢中になっていた。
「うにゅ、おねーさんの剣かっこいいのん、しかも二本もあるのん、どっちも業物なのん、これも貸して欲しいのん」
クロは惚けている俺を見限って女を丸腰にする作戦にしたのか、女の腰に帯刀している二本の刀にも手を伸ばした。
「うわっ、やめ、これは妖刀だから、ガキが持つと呪われるから、やめろって」
今なら女の顔面に一撃必殺の臭い玉を当てる隙があるし、【逃亡者】持ちのクロを囮にして逃げる手だってある。
だけど俺は女に見蕩れていたが為に、女に臭い玉を当てる事さえも失念していた。
目の前にいる女の姿を目に焼き付けたいと、この瞬間に別の価値を見出してしまったから。
そんな俺を見かねたのか、メリーさんは俺を背負ってその場から走り出した。
相手が魔族なら理由など問わずに逃げる事に疑問を持たれない。
だからメリーさんは【勇者】の詰問を有耶無耶にする為に、魔族から逃げるという体でその場から離脱する事にしたのだろう。
「あ、おい待て!」
女は逃げる二人を追いかけようとするが、クロがそれを阻んだ。
「やった、刀ゲットなのん、これがあれば『女王』とも戦えるのん、しばらく借りるのん」
「え!?、あ、おい、アタシのマントと刀返せって、て、え?、早・・・」
女は二人とは反対方向に走り出したクロを追いかけようとするが、【逃亡者】スキルに加え煙玉まで使われては流石に追い切れない、女は一人、半裸で取り残された。
「畜生、意味わかんねぇ、なんだってんだよ!!!」
そしてその迂闊な叫びは周囲の魔物を呼び寄せて、女は更に足止めを食らうのであった。
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