【勇者】が働かない乱世で平和な異世界のお話

aruna

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第2章 〇い〇く〇りん〇ックス

第14話 クロvsシェーン

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「ライアのバカバカバカ!!、クロの剣を返すのん!!シェーンから貰ったクロの剣を返すのん!!」

 2回戦第二試合を前に自身の獲物を失ったクロに、俺は闘技場の上で詰め寄られていた。

「わ、悪かったよ、ほらこれ、激レアカード「深淵の騎士・モードレッド」やるから、な!」

 妖刀は「呪い」を全開放した事により消滅した、それ故にクロはシェーンとのバトルを前に武器を失い、それで俺はクロに泣きながら糾弾されていたのである。

 カードを渡すとクロは嬉しさで泣き止むが、それでも剣が無い事に対する怒りは収まらないのか、結構痛い強さで俺の胸をボコボコと殴るのは辞めなかった。

「うぅ・・・、剣が無いとシェーンには勝てないのん、シェーンに勝つには剣がいるのん、このままじゃ素手で戦うしかないのん」

 クロが俺を殴りながらそう呟くと、控え室から出てきたシェーンが語りかけた。

「クロ、これ、やるよ」

「・・・これは?」

 それはシェーンが打った手製の刀だった。

「黒龍の爪から作った刀だ、アタシのとは姉妹刀になる訳だが、まぁ餞別の品だ、・・・お前はまだまだ強くなる、だから必要になると思ってな、まぁ妖刀がぶっ壊れるのは予想外だったが」

「シェーンとお揃いの刀・・・、わざわざクロの為に・・・」

 クロはそこまでして貰うような義理は無いと、戸惑っているのだろう、シェーンがそこまでの厚意をしてくれる事に戸惑っていた。

「・・・まぁ、小さな老婆心と、世話になった礼、いや、礼にはなってねぇか、だったらこれはアタシの100%の好意だな、お前はアタシと同じくらい強くなれる、だからその日の「約束」を込めて餞別に渡そうと思ってた訳だが、今日、アタシとそれを使って全力で戦ってくれるかい?」

 小さな老婆心、それが何か俺には予測として思い当たるものがあるが、きっと、シェーンとクロには惹かれ合う縁がある筈だから、それは言葉にする必要の無いものなのだろう。

 クロは素直に刀を受け取ると、シェーンに答えた。

「ありがとうなのシェーン、そして、全力でお相手いたすのん!!」






「では2回戦第二試合、シェーン選手対クローディア選手、おそらくこの試合の勝者が優勝する事になります、皆さん、これが最後の試合だと思って精一杯応援しましょう、では勝負、はじめ!!」



「いくのん!!」

「来い!!!」



「いけークロちゃーん!!」

「頑張れー!クロー!」

「負けるなー!クロっちー!!」




「へ、完全アウェーだな、でも、簡単に負けてやるつもりは無いぜ」

「クロもシェーンに勝ちたいのん、・・・だから、本気出すのん!!」

 二人は試合開始と同時に数度刃をきり結んだ後に、挨拶はそれで十分だと判断してか、クローディアは角を隠す為のツインテールを解くと、それを後ろに縛って鬱陶しい横髪を纏めて、自身に大号令を付与して完全なる【魔王】モードへと変身する。

「なんつープレッシャーだよ、このプレッシャー、魔王オジキ並じゃねぇか、たった数週間でここまで鍛え上げるなんて、やっぱ血統の力か、でも!!」

 そこでシェーンもリミッター解除を発動し、魔力を力に変換してクローディアに対抗する。

 二本の黒刀の撃ち合いは、大砲と大砲がぶつかる様な激しいものだったが、お互い最初から全力全開で、一切の忖度無しの本気で互いを切り合う。





「ミュトス様の時に見せたさっきの斬撃もすごかったが、今のクロはそれよりも更にとんでもないな、吹っ切れたからか」

「むう、余が相手の時は本気では無かったという事か、つまらん、つまらんぞ、余もあの中に混ざりたいぞ勇者よ」

「ミュトス様、ミュトス様が本当に戦いたいのは未熟な童二人ですか、有象無象の下郎ですか、違うでしょう、ミュトス様が本当に戦いたくて、そして打ち勝ちたいのは、ユリシーズ様一人のはず、ならばそれまでは、欲しがってはいけません、贅沢は人を堕落させます、余分な二心を持つなど、君主として恥ずべきものですから」

「手厳しいな勇者よ、だがその童相手に角を折られたのは余の不覚故に、今はその忠告を聞き入れよう、しかし見ているだけとはなんと歯がゆい、体が疼いて辛抱ならん」

「・・・ではミュトス様、わたくしめがミュトス様のお体に御奉仕いたしますので、どうかそれでお体をお鎮めください」

 そう言って俺は肩を揉みつつリラックスするツボを刺激して、ミュトスの闘争心を鎮めた。




 二人の戦いは終始互角のまま、千日手とでもいうように数刻に渡って繰り広げられる。
 その間ずっと目まぐるしく切り結ぶ二人を見ていた観客は静寂の中で呼吸を忘れる程であり、二人が一息つくのに合わせて呼吸するほどに、観客もその戦いに熱中していた。

 そして限界を超えた二人の戦いは早々にスタミナ切れとなり、最後は意地と意地のぶつかり合い、根性勝負となった。

「はぁはぁはぁ、手がしびれて刀が重いのん、そろそろ限界なのん」

「はぁはぁはぁ、・・・ありがとうよ、ここまで付き合ってくれて、こっちも限界だ、次でシメェにするか」

 お互いに限界を悟った為か、次の一太刀に全てを込めてそれぞれ構える。



 クローディアにとってそれは、感謝の一太刀。
 自分を助け導いてくれたシェーンの存在は、師であり姉であり、そして、どこか母のような安らぎを感じる相手だった。

 だからクローディアはこの一太刀に全てを込めて、シェーンに勝とうと願いを掛ける。


 シェーンにとってそれは、餞別の一太刀。
 初めて会った時からクローディアを他人だとは思えなかったシェーンは、自分に懐くクローディアに自然と心を許し、そしてクローディアに温もりを植え付けた。
 それはクローディアの出生に気づいたシェーンのささやかな老婆心であり、クローディアがこの先も一人で生きていけるようにという親心に似た優しさだった。

 そしてここに師として教える事は何も無いと悟ったシェーンは、別れの言葉をこの一太刀に込めて、最後の力を振り絞るのであった。





 勝負は一瞬の事、一太刀きり結んだ後に、クローディアの大号令は失効し、シェーンのリミッター解除は時間切れとなり、両者地面に倒れた。




「おおっとここで、両者共倒れか!!、地面に突っ伏したまま動けない、10カウントをして、両者立ち上がれなかった場合、その時点で引き分けとなり、ウチのバカ息子のライアの優勝が決定します、さぁこの勝負どうなるか、皆さん二人を応援してください!!」




「クロちゃーん、立ってーお願ーい!」

「クローー!!、頑張れーー!!」

「クロっちーー!!がんばえーーー!!!」



 その瞬間、全ての村人が心を一つにしてクローディアを応援する。

 当然だ、ほぼ全ての村人が大金をクロに賭けていて、ここで負ければ主催者の一人勝ちとなる為だ。

 この10カウントで両者敗北となるルールも、言ってみればルーレットの0の目のようなものであり、主催者側の策略なのである。

 だから観客は心を一つに、声を一つにしてクローディアを応援したのだった。



「「「クーロ、クーロ、クーロ!!!」」」


 そしてその応援はクローディアに力と勇気を与え、既に肉体は限界を迎えていたが、クローディアに再び立ち上がる気力を与えた。


「うっ・・・、はぁはぁ、・・・勝ちたい、・・・勝ちたいのん・・・!!」

 クローディアは少しずつ起き上がろうともがく。

 それに応じて観客の声も勢いを増した。




「「「クーロ、クーロ、クーロ!!!」」」




 そして、その声に逆らう男が一人・・・。




「クロ、お前はよくやった!!、もう十分だ、こんなすごい勝負した後に俺と決闘するなんて晩節を汚すような蛇足だろ、だからここで休んどけ、ここで無理せずに素直に引き分けで終わっとけ、そしたらこの100万は下らない超激レア「伝説の勇者・ミッキィ」やるから!!!後5秒、抗わずにそのままでいるだけで「伝説の勇者・ミッキィ」が手に入るんだ、だったらロクに賞金も出ない大会で優勝するより何倍もお得だろ!!!!」




 俺は勝機はここにありと、街で大枚叩いて手に入れた、最強の切り札を取り出して掲げる。
 そしてそれを見たクロは、俺の言葉を聞いて緊張の糸が切れたのか、体からふっと力が抜けていった。




 ここに来てクローディアの中に燻っていた「時空の魔剣士・プロメテウス」を貰う機会を損失というトラウマが、この瞬間にフラッシュバックした為だ。
 クローディアは世界最強の【魔王】である前に本質は幼女だ、故にその損得のトラウマはクローディアの持つ世界最強の闘争本能すらも凌駕する。



「・・・みんな、ごめんなのん、ミッキィの誘惑に体が抗えないのん、本当にごめんなのん、体が動かないのん・・・!!!」

 そしてそれで緊張感とアドレナリンが切れたクローディアは、泣きながら謝罪をしながらマリア(ライアの母)の10カウントを聞き流し、勝負は引き分けとなったのであった。



「10・・・!!!!、なんということでしょう、クローディア選手とシェーン選手、両者一歩も動けず、そして二人がここで脱落したということは、本年度の闘技祭、優勝は・・・・・・、ウチのバカ息子のライア!!!!、信じられません、村長、ウチのバカ息子のライアが、とても人に自慢出来ない手を使って、奇跡の優勝をしました、村長、この結果をどう思いますか?」

 観客は「ふざけんな!」「金返せ!」と暴動が起きそうなレベルでキレていたが、村長は目を¥にして満足気に答えた。

「・・見事!!、という他ないな、ライアはこの展開を見越してクロに対する切り札を用意し、それを効果的に使用しただけの話、この結果に文句がある人間は、だったらお前が闘技祭に参加してライアを蹴落とせば良かっただけの話、ライアは汚い手を使えど正当に選手として大会のルールを守り戦いそして勝った、それを否定するのであれば、まずそ奴が大会に参加して優勝しろっていう話では無いのかな」

 村長の目は¥になっていたが、しかし村長のその言葉を否定出来るものは誰もいなかった。
 何故なら参加者はライアが序盤のレースを真面目に走っていた姿を知っているし、スザクとの予想に反して真面目に戦った激闘も知っている。

 それが全部が全部ライアの実力では無かったとしても、今日一日の過酷な闘技祭をあの手この手で戦い抜いたライアの頑張りを否定出来るものなど、この場には存在しなかったからだ。



「では、本日の闘技祭、優勝はウチのバカ息子のライア!!!ライア、前へ!!」

 俺は母さんの案内でヒーローインタビューの如く控え室から舞台に降りる。

 観客は石を投げたそうに一触即発の雰囲気だが、何故か一緒に控え室で試合を観戦していたフエメも一緒に出てきたので、石を投げたりブーイングしたりは無かった。

 もしかしたらプログラムの中にフエメが表彰する段取りが入っているのかもしれないと思ったが、そこで村長も俺の隣にならんで、観客席に向けて発言する。


「えー、ここで重大なお知らせじゃが、まぁもう広まっている話かも知れんが、あらためて言わせてもらうと、ワシはクロの保護という役割を終えた事で、村長の職も降りると決めた、その上で次の村長を、この闘技祭で優勝したものにしようとしておったのだが、大方の予想に反してライアが優勝する事になった、よって、次期村長はノストラダムス家の長男、ライアとする、異論のあるものはおるか」

 村長の言葉に皆が不満げだが、やはり表だって批難できる者はいないのだろう、皆が苦虫をかみ潰した顔で俯いた。
 ンシャリ村は武断派で成り立つ力が全ての村、だから大会で優勝した俺を否定出来るものは誰もいないのである。

 そして俺はその言葉を聞いて、俺の努力が実を結んだ事に喜びの絶頂を感じて、成し遂げたという充実感を噛み締めていた。

 だが村長の言葉はそれで終わらなかった、俺はそこで衝撃的な告白を聞かされた。

「思えば村長になって10年、長いようで短い10年じゃった、皆も知っておる事だろうが、ンシャリ村は怠け者の村じゃ、故に貧しい、政府に支払う税金を払えば、後は最低限の食料を買う金しか残らんくらいにな、だから儂は村長になってからずっと、村がいつか飢饉に見舞われた時の備えとして脱税をしていたし、先代も先々代も先先々代も皆、脱税をしておった、しかし、その脱税は政府に知られており、そして、その補填をサマーディ村が長年肩代わりしておったのだ、これがどういう事か、皆分かるか?」

 と、ここで村長は本来は明かすべきでは無いようなンシャリ村の暗部、驚愕の真実を皆に明かした。

 ンシャリ村の人にとっては寝耳に水の話だし、サマーディ村の人にとっては怒りを抱いても仕方の無い話だった。

 故に村人達はみな驚きや困惑で一触即発の雰囲気に浮き足立っていた。

 そしてそんなみんなの反応を見てから村長は言葉を繋げた。

「・・・今回のギャンブルで儂らが儲けた分1億2000万、この金を全部儂はフエメ様にしようと思う、儂らが脱税で儲けた金に比べれば微々たるものだし、その金は全部村の発展や防衛などに使って残ってはおらん、だからこんな金でしか補填出来んが、フエメ様、どうかこの金で、ンシャリ村が今までサマーディ村にかけた迷惑の分を、水に流してもらう事は出来ないだろうか」

 ・・・つまり、政治的パフォーマンスだった訳だ。
 このシナリオを考えたのはおそらくフエメであり、クロと俺、どちらが村長になる事を見越していたのかは分からないが、このパフォーマンスによって、サマーディ村の怨念は完全に精算される事になるだろう。
 恐らくギャンブルに注ぎ込まれた大金の半分以上はフエメの金だろう、そうでなければおかしいくらい桁が多いのだから。
 フエメは黄金山地の利権により完全なる支配者として君臨している、故に今のフエメに逆らえる人間は村には一人も存在しない、故にフエメは今が好機として清算のシナリオを描いたのだろう。



「・・・分かったわ、ンシャリ村が脱税したり強奪したサマーディ村の財産の被害額は少なく見積もっても10億は下らないだろうけど、でも、50年前の被害を遡って請求するのもナンセンスだろうし、1億だって村にとっては十分に大きな資産よね、だからこれでンシャリ村とサマーディ村の対立の時代はおしまい、これからは新村長と共に、新しい時代を共に作り上げていきましょう、それでいいわよね、新村長」

 と、そこでフエメは俺に握手を求めてきた。
 俺はこの展開は自分のシナリオに想定していなかった事態なので、どういう事かと必死で頭を働かせる。
 
 ・・・少なくとも、親父が俺に徴兵を回避する為に闘技祭の出場を促した時点で、全てはフエメの手のひらの上だったと考えるべきか。
 村長はおそらく、引退してもサマーディ村に引越しして元老院に天下りするとかで説得し。
 そして俺とクロ、どっちを村長にする目的だったかは分からないが、クロを村長にするメリットはフエメには無い筈なので、最初から俺に村長をさせる目的だった可能性が高いか。

 そして、俺は自分の利益や保身の為に頑張っているようで、まんまとフエメの手のひらの上に転がされていたという訳だ。

 これは文句を言うべき結果なのか、それとも礼を言うべき結果なのか、俺は判断がつかなかった。

 だからフエメに訊いた。

「・・・なぁ、全部お前が仕組んだ事なのか?、俺に村長をさせて、それで二つの村の架け橋にするって・・・」

「だって、こうでもしないとあなたは一生働かないでしょう、あなたは人を扇動したり虚偽の演説で大衆を操作する能力「だけ」は並以上にある訳だし、それを腐らせておく理由は、私の作る世界には存在しないから」

「・・・つまり、全部お前の手のひらの上だって事か・・・」

「あら、あなたにとって不利益は無い筈でしょう、それとも徴兵を避ける為に夜逃げした方がよかったとでも?」

「・・・いいや、ただ方法が少し回りくどいと思ってな、別に、俺を村長にしたいだけなら、俺を手駒にするなり黄金山地奪還の英雄として祭り上げるなりしてお前が推薦すれば良かっただけだ、わざわざサマーディ村と合同で闘技祭を開催して賭場を拡大する事で脱税を返済するパフォーマンスまで付け加えるのは、俺の想像の遥か上過ぎて理解が及ばない、本当にここまでする必要がある話なのか」

「そうね、それは正解、あなたを村長にして働かせるだけなら私が推薦すれば済む話、でも、私は見たかったのよ」

「見たいって、・・・何をだよ」



「─────黒龍を撃退したあなたの実力」


 ぎくり、と背筋に冷や汗が流れる。
 スザクとの一騎打ちは少々俺にしては出来すぎたというか、真面目に戦い過ぎたきらいがあった。
 スザクが【勇者】の捜索をしているという予想の上で、卑劣な戦いぶりで俺への疑いを晴らす目的があったのだが、それで【勇者】としての底力を発揮し過ぎたのは俺としても誤算だったのだ。
 あれを見たらフエメならきっと俺の正体に気付いているだろう。
 
「・・・どうだったんだよ」

 俺は務めてポーカーフェイスを維持して訊ねる、フエメが俺の正体に気付いているのはこの際仕方ない、でも暴露するようならば、俺は全裸で公開オナ〇ーをする奇行に走ってでも、それが原因で村長を弾劾されて徴兵されてでも、それを阻止しなければならない。

 俺の質問にフエメは見透かしたように薄く笑みを浮かべ、観客に言い聞かせるように答えた。

「そうね、貴方が黒龍を撃退したなんていうのは真っ赤な嘘、魔族ならともかく人間が黒龍に敵う筈が無いもの、それは戦いぶりを見てよく分かったわ、だからあなたの実力は大したこと無いし、戦力では無く純粋な扇動者、詐欺師として、私はあなたを評価してるわ」

 フエメがそう言うと、観客もだろうなと納得した風に頷く。

 そして俺もフエメのその解答にフエメの意図を理解して、フエメの握手に応じたのであった。
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