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第一部
ズレ始めた二人 1
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呼びかけに答えないまま、目の前の身体が深呼吸を何度か繰り返す。呼吸に乗せてまるで何かを吐き捨てているようなそんな深くて長い呼吸だった。それが同時に嗚咽を堪えているようにも感じられ。
「レフラ」
ギガイがもう一度呼びかけた。
泣く事を耐えさせたくなかった。傍らで癒せるならば寄り添いたかった。
そんな思いからの呼びかけだった。
「……失礼、しました」
だが、一度目の呼びかけを蔑ろにした状況を咎められたと思ったのか、レフラがのろのろと身体を起こし、ギガイの方へと向き直る。
揃えた指先に額を押し当てるような叩頭に、レフラの綺麗な旋毛が見えた。
「初めてお目に掛かります。跳び族の長レグシスの長子、レフラと申します。この度は黒族の長ギガイ様の御饌として召し上げて頂き、恐れ多くも嫁いで参りました」
その姿はこれまでも、これからも数多の者から向けられる姿だ。
だが、いま欲しかったのは、伏せられてしまった顔に浮かぶ表情で、こんな形式的な儀礼をレフラに求めたりなどはしていない。
「そんな事はどうでも良い。顔を上げろ」
ピクリと揺れた身体が一瞬の間を開けて、低頭を解いていく。
あわせて伏せられていた視線も上がり、ギガイの視線と絡まり合った。
陵辱の中で散らした涙によって眦は赤く腫れていて、頬も濡れた跡が幾筋もあった。だけど、その目に浮かぶ涙はもう存在はしていなかった。
一瞬だけ、その目の奥に何かが過った気がした。
だが、それが何なのかギガイが判断する前に、レフラの凜とした眼差しにかき消されていく。
「……これで…これでこんな身体でも、子を成せる胎があると、確認して頂けましたか?」
まるで手続きの一つとでも言うような口振りにギガイがわずかに眉を寄せた。
「あぁ、確かに。花が咲いていたのも確認は致したからな」
「それならば、合格という事でもよろしいでしょうか?」
「合格?」
「……やはり、この身体で嫁ぐ訳にはいきませんか?」
どことなく強ばったレフラの顔に、ようやく懸念していた事を理解する。
「いや、それは問題ない」
ギガイだけの御饌として、あの日からずっと求めていたのはレフラなのだ。今さら他の誰でも良い訳ではない。
「寛大なお心に感謝いたします」
雰囲気が一瞬だけ解けるも、ギガイが何か言葉を加える前に、深々と頭が下げられた。
再び見える事のない表情。その他一同の者から向けられる態度と何も変わらない姿に、ギガイの心が波立っていく。
レフラはギガイにとって特別な存在だった。
そして唯一の存在として互いを癒やせるように、レフラ自身の特別な者にも成りたかった。
周りの者達と同様に畏怖や崇拝といったモノで、孤独を強いては欲しくなかった。
だが、再び交えた視線の中には、情らしきものは感じられない。
「子を成すべき御饌として、しっかりと勤めを果たさせていただきます」
自分の使命を見据えた眼差しなのか。感情の見えない凜とした瞳がギガイの方へ向けられていた。
「レフラ」
ギガイがもう一度呼びかけた。
泣く事を耐えさせたくなかった。傍らで癒せるならば寄り添いたかった。
そんな思いからの呼びかけだった。
「……失礼、しました」
だが、一度目の呼びかけを蔑ろにした状況を咎められたと思ったのか、レフラがのろのろと身体を起こし、ギガイの方へと向き直る。
揃えた指先に額を押し当てるような叩頭に、レフラの綺麗な旋毛が見えた。
「初めてお目に掛かります。跳び族の長レグシスの長子、レフラと申します。この度は黒族の長ギガイ様の御饌として召し上げて頂き、恐れ多くも嫁いで参りました」
その姿はこれまでも、これからも数多の者から向けられる姿だ。
だが、いま欲しかったのは、伏せられてしまった顔に浮かぶ表情で、こんな形式的な儀礼をレフラに求めたりなどはしていない。
「そんな事はどうでも良い。顔を上げろ」
ピクリと揺れた身体が一瞬の間を開けて、低頭を解いていく。
あわせて伏せられていた視線も上がり、ギガイの視線と絡まり合った。
陵辱の中で散らした涙によって眦は赤く腫れていて、頬も濡れた跡が幾筋もあった。だけど、その目に浮かぶ涙はもう存在はしていなかった。
一瞬だけ、その目の奥に何かが過った気がした。
だが、それが何なのかギガイが判断する前に、レフラの凜とした眼差しにかき消されていく。
「……これで…これでこんな身体でも、子を成せる胎があると、確認して頂けましたか?」
まるで手続きの一つとでも言うような口振りにギガイがわずかに眉を寄せた。
「あぁ、確かに。花が咲いていたのも確認は致したからな」
「それならば、合格という事でもよろしいでしょうか?」
「合格?」
「……やはり、この身体で嫁ぐ訳にはいきませんか?」
どことなく強ばったレフラの顔に、ようやく懸念していた事を理解する。
「いや、それは問題ない」
ギガイだけの御饌として、あの日からずっと求めていたのはレフラなのだ。今さら他の誰でも良い訳ではない。
「寛大なお心に感謝いたします」
雰囲気が一瞬だけ解けるも、ギガイが何か言葉を加える前に、深々と頭が下げられた。
再び見える事のない表情。その他一同の者から向けられる態度と何も変わらない姿に、ギガイの心が波立っていく。
レフラはギガイにとって特別な存在だった。
そして唯一の存在として互いを癒やせるように、レフラ自身の特別な者にも成りたかった。
周りの者達と同様に畏怖や崇拝といったモノで、孤独を強いては欲しくなかった。
だが、再び交えた視線の中には、情らしきものは感じられない。
「子を成すべき御饌として、しっかりと勤めを果たさせていただきます」
自分の使命を見据えた眼差しなのか。感情の見えない凜とした瞳がギガイの方へ向けられていた。
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