15 / 17
束の間の休息⑵
しおりを挟む
円形の霊園の9時の位置にある自動扉を潜ると、木材を使った内装の部屋に出た。中央に敷かれたカーペットの上にローテーブルとソファが置かれている。左側には登り階段、右側にはテラスに続くフルオープンの窓がある。
「うわあ」
ライトの抱っこから解放されたシルクはすかさず窓の方へ駆けて行き、感嘆の声をあげた。
「ここは山の中なの?」
眼下に広がる木々の緑にシルクが興奮して尋ねると、ライトは首を横に振った。
「山の中にいるように見えているだけで、ここは山の中じゃない」
シルクはもう一度窓の外を見た。高所から見下ろすように広がる景色はやはり、山の中でのものだ。自身の目に映る風景とライトの言葉の違いにシルクは首を傾げていた。
そんなシルクの様子にライトは優しく笑みを溢すと、答えを明かした。
「ここはコトンレージの近郊にある自然公園なんだ」
「えっ?」
シルクは空中に地図を出した。
「本当だ!」
「この自然公園はじいちゃんが爵位を得た時に賜った土地に作ったものなんだ。貴族制度の廃止時に【ネティア】に押収されそうになったけど、自治体に寄付することを条件にシュウェーヴ家の使用が認められた。まあ、元々、シュウェーヴ家以外の人も利用していた場所だから以前とあまり状況は変わらないんだけど」
ライトの話を聞きながらシルクは地図を消した。
「じゃあ、なんで霊園の場所はシュウェーヴ家の人しか知らないの?」
シルクはライトの話を聞けば聞くほど、この場所が誰にも見つかっていないことが不思議だった。
「それは、じいちゃんが作った3つの仕組みのおかげだ」
「3つの仕組み?」
シルクが聞き返すと、ライトが頷いた。
「1つ目は立地。四方八方どこから見てもこの建物は見つけられない場所に立っている。2つ目は建物。撮影されても映らないように、建物にカモフラージュ機能がついている。そして3つ目。この施設の管理人……」
〈俺たち『墓守』の存在〉
突如、男の声が聞こえた。
「誰……?」
シルクは辺りを見渡し、声の主を探す。けれど、誰の姿も確認できない。
不思議そうにしているシルクの肩を叩き、ライトは監視カメラを指差した。
よくよく見ると、さまざまな場所にカメラが隠されている。シルクが驚いていると、スピーカーからさらに声が聞こえてきた。
〈驚かせてごめんね、キュートなお嬢さん。初めまして。ライン君の再従兄、シアン・シュウェーヴです。よろしくね〉
「初めまして。シルクです」
シルクはどのカメラに向けばいいのか分からず、くるくると回っている。
そんなシルクを見て微笑んでいるのだろうか、シアンのふふっと笑う声が聞こえる。
〈いや~。ライト君がこんな可愛い彼女を連れてくるなんて。ライト君から連絡を受けた母さんは連れがいるなんて言ってなかったし、びっくりするだろうね~。……よっこいしょ〉
シアンが立ち上がったのだろうか。椅子のギシッという音が室内のスピーカーから聞こえた。
「まさかっ……!」
すううと息を吸う音。
ライトは嫌な予感がした。
「やめっ……」
ライトが静止の言葉をかけようとした瞬間、スピーカーから大音量が聞こえた。
〈……母さぁぁぁん! ライト君が彼女連れてきてるぅぅぅ!〉
間に合わなかったと言わんばかりに、ライトは額に手を当てる。
シルクは両手で顔を覆い、ライトの横で顔を赤らめていた。
〈な~んてねっ! 母さんは今、買い物に行ってるからいないよ♪〉
「シアン兄さん……!」
こちらから顔が見えていないことをいいことににやけているであろうシアンの声を聞き、ライトがぎろりとカメラを睨むと、シアンは「ごめんね」と呟いた。
椅子の軋む音がする。シアンが腰を下ろしたのだろう。
〈まあ、俺たちはシルクちゃんの正体を知ってるんだけど〉
急に真面目な声音が聞こえ、ライトとシルクは正面にあるカメラを見上げた。そんな2人にシアンが話し続ける。
〈そもそも、霊園は侵入不可領域だ。何人たりとも墓守の許可なしに踏み入ることはできない。でも、ライト君たちは霊園に入ることができた。なんでだと思う?〉
シアンの問いに、ライトは答えた。
「……俺が電波人形を使ってここに来ることを知っていたから、侵入阻害システムが俺に反応しないように設定していた、とか?」
ライトの答えにシアンが笑う。
〈流石だね、ライト君〉
そういうと、シアンはことの経緯を細かく説明し始めた。
〈シュウェーブ家の本家および四分家の中で南部に住む俺たちは研究所への関わりがほとんどなかった。そのため、南のシュウェーヴ家の人々は誰も【ネティア】の処刑対象者リストに載らなかった。つまり、この自然公園および霊園のA Iを開発した俺のじい様は処刑を免れたってわけ。大叔父は捕まる前、じい様に会いにきた。そしてじい様は、ラインさんの話を元に霊園のA Iを改良し、俺たちはそのA Iから電波人形の存在と『電波の泉』の出口について説明された。だから今回のことにも対応できたってわけ〉
「なるほどな」
ライトはシアンの説明に納得した。
目が覚めた時、シルクと共にシュウェーヴ霊園にいたことが不思議で仕方なかった。霊園は東西南北に分かれる分家の一つ、南のシュウェーヴ家が『墓守』として管理している。いくら『電波の泉』経由で侵入できたとしても霊園内のシステムが作動して追い出されたはずだ。だが、あらかじめこの状況がわかっていたのなら話は別だ。今の状態にも納得できる。
ライトが考えていると、シアンが声をかけた。
〈いつまでもここにいても仕方ないし、まあ、とりあえず、ここから外への経路を案内しますか〉
「それなら、センブルに着くようにしてほしい。シルクと買い物する予定なんだ」
ライトはシアンに行き先をリクエストした。
センブルはコトンレージ東部に位置する繁華街である。若者向けのモールや娯楽施設がある。かなり人通りも多い所だが、シアンはライトの要望を快く引き受けた。
〈りょーかい。シルクちゃん、遠慮なくライト君に欲しい物をねだるんだよ〉
部屋の配置が変わる。左側にあった登り階段が正面に移動し、下り階段になる。
シルクはこの部屋がカラクリ部屋であったことに興奮した。
「すごい、すごいっ!」
そんなシルクにライトがこの仕組みの意味を教える。
「これも、この場所が外部に漏れないための対策の一つなんだ。墓守は俺たちが一度通った道二度と通ることができないように管理している。そのため、A Iに指示して建物の構造、自然公園及びその地下にある通路を自在に変えることができる」
〈そうそう。もっと俺に感謝してもいいんだよ? ライト君〉
「シアン兄さんたちはA Iが決めたルートを案内するだけだろ」
ライトがあしらうとシアンはむくれた。
〈もう、そういうところが可愛くないんだよ。君は〉
「本当のことだろ」
「でも、ライト。シアンさんたちがいなかったらお墓参りできないんでしょ? それに、ライトたちが生活している間もここを守ってくれてるから、『ありがとう』って伝えなきゃ」
まさかのシルクからの擁護にシアンが感激する。
〈シルクちゃん、まじで天使……! ほらあ、ライト君〉
ライトもシルクの言葉に思ところがあったのか、シアンに感謝を伝えた。
「……ありがとう。シアン兄さん」
〈へへっ。どういたしまして。あっそうだ、シルクちゃん〉
「はい」
上機嫌になったシアンに名前を呼ばれ、シルクが返事をすると、屋根が開き、天井から機械のアームが出てきた。その上には黒いスニーカーがある。
「これは?」
シルクが手に取ると、アームが戻り、天井が閉まる。
〈壊れかけで申し訳ないんだけど、昔俺が使ってたスニカー、よかったら使って。この先結構歩くし、土の上とかもあるから裸足よりはマシだと思う〉
「ありがとうございます。でも、いいの?」
シアンが壊れかけと言ったスニカーは少し汚れがあるだけでまだまだ使える物だった。そんなものを貰ってもいいのかと気が引ける。
〈数年前のもので小さくて俺はもう履けないし、ライト君に新しい靴買ってもらったら捨てちゃっていいよ〉
シルクを気遣ってくれるシアンの気持ちを無碍にできるわけがなく、シルクは言葉に甘えることにした。
「ありがとう。使わせてもらうね」
「シアン兄さん、ありがとう」
ずっと裸足であるシルクのことを気にしていたライトも素直に礼を言った。
〈いいってことよ。センブルに着いたらちゃんとした靴買ってあげろよ〉
「はいはい」
〈じゃあ、行こうか。まずは正面の階段を下りて〉
ライトとシルクはシアンの道案内に従った。
「うわあ」
ライトの抱っこから解放されたシルクはすかさず窓の方へ駆けて行き、感嘆の声をあげた。
「ここは山の中なの?」
眼下に広がる木々の緑にシルクが興奮して尋ねると、ライトは首を横に振った。
「山の中にいるように見えているだけで、ここは山の中じゃない」
シルクはもう一度窓の外を見た。高所から見下ろすように広がる景色はやはり、山の中でのものだ。自身の目に映る風景とライトの言葉の違いにシルクは首を傾げていた。
そんなシルクの様子にライトは優しく笑みを溢すと、答えを明かした。
「ここはコトンレージの近郊にある自然公園なんだ」
「えっ?」
シルクは空中に地図を出した。
「本当だ!」
「この自然公園はじいちゃんが爵位を得た時に賜った土地に作ったものなんだ。貴族制度の廃止時に【ネティア】に押収されそうになったけど、自治体に寄付することを条件にシュウェーヴ家の使用が認められた。まあ、元々、シュウェーヴ家以外の人も利用していた場所だから以前とあまり状況は変わらないんだけど」
ライトの話を聞きながらシルクは地図を消した。
「じゃあ、なんで霊園の場所はシュウェーヴ家の人しか知らないの?」
シルクはライトの話を聞けば聞くほど、この場所が誰にも見つかっていないことが不思議だった。
「それは、じいちゃんが作った3つの仕組みのおかげだ」
「3つの仕組み?」
シルクが聞き返すと、ライトが頷いた。
「1つ目は立地。四方八方どこから見てもこの建物は見つけられない場所に立っている。2つ目は建物。撮影されても映らないように、建物にカモフラージュ機能がついている。そして3つ目。この施設の管理人……」
〈俺たち『墓守』の存在〉
突如、男の声が聞こえた。
「誰……?」
シルクは辺りを見渡し、声の主を探す。けれど、誰の姿も確認できない。
不思議そうにしているシルクの肩を叩き、ライトは監視カメラを指差した。
よくよく見ると、さまざまな場所にカメラが隠されている。シルクが驚いていると、スピーカーからさらに声が聞こえてきた。
〈驚かせてごめんね、キュートなお嬢さん。初めまして。ライン君の再従兄、シアン・シュウェーヴです。よろしくね〉
「初めまして。シルクです」
シルクはどのカメラに向けばいいのか分からず、くるくると回っている。
そんなシルクを見て微笑んでいるのだろうか、シアンのふふっと笑う声が聞こえる。
〈いや~。ライト君がこんな可愛い彼女を連れてくるなんて。ライト君から連絡を受けた母さんは連れがいるなんて言ってなかったし、びっくりするだろうね~。……よっこいしょ〉
シアンが立ち上がったのだろうか。椅子のギシッという音が室内のスピーカーから聞こえた。
「まさかっ……!」
すううと息を吸う音。
ライトは嫌な予感がした。
「やめっ……」
ライトが静止の言葉をかけようとした瞬間、スピーカーから大音量が聞こえた。
〈……母さぁぁぁん! ライト君が彼女連れてきてるぅぅぅ!〉
間に合わなかったと言わんばかりに、ライトは額に手を当てる。
シルクは両手で顔を覆い、ライトの横で顔を赤らめていた。
〈な~んてねっ! 母さんは今、買い物に行ってるからいないよ♪〉
「シアン兄さん……!」
こちらから顔が見えていないことをいいことににやけているであろうシアンの声を聞き、ライトがぎろりとカメラを睨むと、シアンは「ごめんね」と呟いた。
椅子の軋む音がする。シアンが腰を下ろしたのだろう。
〈まあ、俺たちはシルクちゃんの正体を知ってるんだけど〉
急に真面目な声音が聞こえ、ライトとシルクは正面にあるカメラを見上げた。そんな2人にシアンが話し続ける。
〈そもそも、霊園は侵入不可領域だ。何人たりとも墓守の許可なしに踏み入ることはできない。でも、ライト君たちは霊園に入ることができた。なんでだと思う?〉
シアンの問いに、ライトは答えた。
「……俺が電波人形を使ってここに来ることを知っていたから、侵入阻害システムが俺に反応しないように設定していた、とか?」
ライトの答えにシアンが笑う。
〈流石だね、ライト君〉
そういうと、シアンはことの経緯を細かく説明し始めた。
〈シュウェーブ家の本家および四分家の中で南部に住む俺たちは研究所への関わりがほとんどなかった。そのため、南のシュウェーヴ家の人々は誰も【ネティア】の処刑対象者リストに載らなかった。つまり、この自然公園および霊園のA Iを開発した俺のじい様は処刑を免れたってわけ。大叔父は捕まる前、じい様に会いにきた。そしてじい様は、ラインさんの話を元に霊園のA Iを改良し、俺たちはそのA Iから電波人形の存在と『電波の泉』の出口について説明された。だから今回のことにも対応できたってわけ〉
「なるほどな」
ライトはシアンの説明に納得した。
目が覚めた時、シルクと共にシュウェーヴ霊園にいたことが不思議で仕方なかった。霊園は東西南北に分かれる分家の一つ、南のシュウェーヴ家が『墓守』として管理している。いくら『電波の泉』経由で侵入できたとしても霊園内のシステムが作動して追い出されたはずだ。だが、あらかじめこの状況がわかっていたのなら話は別だ。今の状態にも納得できる。
ライトが考えていると、シアンが声をかけた。
〈いつまでもここにいても仕方ないし、まあ、とりあえず、ここから外への経路を案内しますか〉
「それなら、センブルに着くようにしてほしい。シルクと買い物する予定なんだ」
ライトはシアンに行き先をリクエストした。
センブルはコトンレージ東部に位置する繁華街である。若者向けのモールや娯楽施設がある。かなり人通りも多い所だが、シアンはライトの要望を快く引き受けた。
〈りょーかい。シルクちゃん、遠慮なくライト君に欲しい物をねだるんだよ〉
部屋の配置が変わる。左側にあった登り階段が正面に移動し、下り階段になる。
シルクはこの部屋がカラクリ部屋であったことに興奮した。
「すごい、すごいっ!」
そんなシルクにライトがこの仕組みの意味を教える。
「これも、この場所が外部に漏れないための対策の一つなんだ。墓守は俺たちが一度通った道二度と通ることができないように管理している。そのため、A Iに指示して建物の構造、自然公園及びその地下にある通路を自在に変えることができる」
〈そうそう。もっと俺に感謝してもいいんだよ? ライト君〉
「シアン兄さんたちはA Iが決めたルートを案内するだけだろ」
ライトがあしらうとシアンはむくれた。
〈もう、そういうところが可愛くないんだよ。君は〉
「本当のことだろ」
「でも、ライト。シアンさんたちがいなかったらお墓参りできないんでしょ? それに、ライトたちが生活している間もここを守ってくれてるから、『ありがとう』って伝えなきゃ」
まさかのシルクからの擁護にシアンが感激する。
〈シルクちゃん、まじで天使……! ほらあ、ライト君〉
ライトもシルクの言葉に思ところがあったのか、シアンに感謝を伝えた。
「……ありがとう。シアン兄さん」
〈へへっ。どういたしまして。あっそうだ、シルクちゃん〉
「はい」
上機嫌になったシアンに名前を呼ばれ、シルクが返事をすると、屋根が開き、天井から機械のアームが出てきた。その上には黒いスニーカーがある。
「これは?」
シルクが手に取ると、アームが戻り、天井が閉まる。
〈壊れかけで申し訳ないんだけど、昔俺が使ってたスニカー、よかったら使って。この先結構歩くし、土の上とかもあるから裸足よりはマシだと思う〉
「ありがとうございます。でも、いいの?」
シアンが壊れかけと言ったスニカーは少し汚れがあるだけでまだまだ使える物だった。そんなものを貰ってもいいのかと気が引ける。
〈数年前のもので小さくて俺はもう履けないし、ライト君に新しい靴買ってもらったら捨てちゃっていいよ〉
シルクを気遣ってくれるシアンの気持ちを無碍にできるわけがなく、シルクは言葉に甘えることにした。
「ありがとう。使わせてもらうね」
「シアン兄さん、ありがとう」
ずっと裸足であるシルクのことを気にしていたライトも素直に礼を言った。
〈いいってことよ。センブルに着いたらちゃんとした靴買ってあげろよ〉
「はいはい」
〈じゃあ、行こうか。まずは正面の階段を下りて〉
ライトとシルクはシアンの道案内に従った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる