魔力槽の冒険者～運だって実力です～

1章 幼少期

6話 兄の気持ち

　　　　　━━━廊下━━━



　汗で濡れた服を着替えたカイトとエルラーイは、メイドに連れられてダイニングルームへ向かっていた。


「で？聴きたいことというのはなんだ？」


　カイトはエルラーイが一瞬何を言っているいるのか分からなかったが、庭に行った1番の理由を思い出した。


「ああ！お兄しゃまは何故、俺とあしょんでくれじゅに勉強や、剣術ばかりやっているんでしゅか？」

「もしかして……俺の事嫌いだから俺と会わないようにわじゃとシュケジュールをいっぱいにしてるんでしゅか？」


　カイトは言い切って俯いてしまった。


　ドンッ


　エルラーイは拳で壁を殴るとカイトの方に顔を向けた。


「すまない。そんな風に考えているとは思っていなかった。僕が勉強や、剣術ばかりやっているのは家のためなんだ。決してカイトの事が嫌いなわけじゃないよ。」


　そういうエルラーイの瞳には深い慈しみの感情が浮かんでいた。


　それを見たカイトは、安堵の表情を浮かべると「こっちこしょ、変なこと聴いてごめんなしゃい…」と謝った。


　そこから２人の間には気まずい空気が漂う。


　　━━━ダイニングルーム━━━



　ダイニングルームにはすでにフェクダとカメーリエが座っていて、２人が来るのを待っていたようだった。


「あら、２人揃ってなんて珍しいわね～。何かあったの～？」

「そうだな。珍しいこともあるものだ」

「えっと先生と修行してた時にカイトが来たんだ。そしたら先生がカイトも教え子に加えるって言い出して…」

「お兄しゃまと一緒に修行してきたんでしゅ」

「なるほどね～。で、修行終わりに一緒に来たと。でも２人共なんだか気まずそうね～」


　ビクッ


　怒られているわけでは無いのに背中に寒気が走る２人。


「何とは言わないけど、２人共気にしすぎだと思うけどな～。子供なんだからもっと気楽に考えないと～」

「「はい……」」


　具体的に何か言ったわけでは無いのに息子達の変化に気づいたカメーリエだった。


（母親の勘って鋭すぎる!?でも、そのおかげでちょっと気が楽になった…かな？）

「さ、２人共席について、私もうお腹ペコペコ～」

「ハハハ、私もだよ」

「うん」

「はい！」

「では皆様お揃いのようですので」


　執事のセバスチャンがそう言ってハンドベルを鳴らすと、キッチンの扉が開いて料理長と料理人が料理を運んで来る。


「わあ！おいししょう!!」

（でも、量も多い…）

「さあ、食べようか」


　フェクダの言葉で食べ始める一同。


　すると、いつもは朝食でしゃべらないエルラーイがカイトに話かけてきた。


「僕は表現自体があまり得意ではない…だから、勘違いさせることも多いかもしれない。でも何があっても僕はずっとカイトの味方でいるから」


　エルラーイの精一杯の思いやりの言葉を聞いてカイトは目に涙が浮かぶのを感じた。


　朝起きてからの数時間だが、かなり濃い時間を過ごして自分の人生の充実感を感じたカイトだった。