【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少

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第18話 騎士たちの希望

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 馬車の中にいたソフィアは、外の様子を窓から眺めていた。
 エルネストの荒々しい姿を見てほしくないシトリーは一度止めたのだが、騎士が――というよりもエルネストがどんな働きをしているのかが気になったソフィアに圧し負ける形でこっそり見学することになっていた。

(ソフィア様がエルネスト様に興味を持たれるのは良いことです。……引かれなければ良いのですが)

 エルネストが懸想していると勘違いしたままのシトリーは、これが興味を持つきっかけになればと折れたのだ。
 敵のみならず、部下にまで『魔王』と呼ばれるエルネスト。
 その冷徹さと苛烈さにソフィアが引いてしまわないかはシトリーにとって一種の賭けだった。はらはらしながら外の様子を窺っていると、あっという間に二人の団員を木剣で打ち据えたエルネストから雷が落ちた。

「この程度でどっちが強いかを争うなど、たるんでいるな……このまま全員意識が途切れるまで鍛えてやる」

 静かだがよく通る声で宣言するエルネスト。
 そんなことをしてしまえばデートの時間が終わってしまうのは目に見えていた。

「もちろん、止められなかった団員全員も連帯責任だな」

(若様……アツくなっておられますね)

 本来ならばデートのためにさっさと片付けるはずだったのだが、目的を忘れてしまっているのだろう。あるいはデートを邪魔された怒りで我を忘れているか。
 どちらにしろ本末転倒だ。

(先ほど、騎士が怒りに我を忘れるとは、なんて仰ってませんでしたか)

 シトリーは溜息を吐きながら箱馬車の扉を開けた。
 ステップ用の小さな台を取り出すと自らが降り、ソフィアにも降りるよう促す。降りてきたソフィアに面食らったのはエルネストだ。
 我に返った、先ほどまでとは別人かのような表情でソフィアを見つめた。

「ソフィア……降りてきちゃ駄目じゃないか」
「ご迷惑でしたか?」
「いや、そんなことはない。荒事を見て気分が悪くなったりはしていないか?」

 大丈夫です、と告げるソフィアにエルネストは頷いた。

(よし。狙い通りですね)

 ソフィアを使ってエルネストの怒りを鎮める狙いだが、予想通りというか予想以上というか。
 効果てきめんすぎてシトリー自身がエルネストはこのままで良いんだろうか、と心配になるほどである。

「さて、俺はデートに戻る。二人は喧嘩の罰としてトイレ掃除を一週間。他の者は不問とするが、気を抜かないように」

 先ほどまでとは打って変わって優しく軽い沙汰を言い渡したエルネストに、全員の視線が集まっていた。
 多くの者が浮かべている表情は困惑である。

「え、エルネスト団長……つかぬことをお伺いしますが」
「何だ」
「横にいらっしゃるご令嬢は……?」
「婚約者候補のソフィア嬢だ」

 断言され、周囲がどよめいた。
 視線だけで人をも殺せると噂される『魔王』に春が来たとなれば当然である。
 今回の件に無関係なシトリーですら頷きたくなるが、当の『魔王』から重い罰が下ると考えていた団員たちは思わずソフィアに祈りを捧げていた。

「……団長をお鎮め下さってありがとうございます」
「女神だ……! 魔王を浄化する女神が遣わされたんだ!」
「くぅ……俺も団長くらいかっこよければあんな素敵な女性を……!」
「団長は怖いし強いし怖いし恐ろしいし怖いけど本当は良い方なんです……団長をよろしくお願いします、怖いですけど」
「美男美女……お似合いすぎて眩しいぜチクショウ」
「救いだ! 我らの希望が現れたぞ!」

 好き勝手言い始めた団員にエルネストの視線が一段冷たくなるが、ざわめきの中にソフィアを褒める声があったことを耳聡く聞いていたために口を噤んだ。
 ましてや自分とソフィアがお似合い、とまで言われればエルネストとしては褒章を出してやりたい気分だった。

「俺はこれからソフィアとデートだ。邪魔をしないでくれると助かる」

 照れ隠しにぶっきらぼうな態度になりながらも告げれば、団員達が最敬礼をした。

「お二人のデートを邪魔する不届き者が出ないよう、巡回を5倍に増やします!」
「休暇の奴等も引っ張り出して街全体の治安向上に務めます!」
「怪しい奴は片っ端からとらえて尋問しますのでご安心ください!」
「団長はぜひソフィア嬢に素敵なひと時を!」
「そして俺たちにも優しさを!」

 調子のいいことを言いながらも警邏けいらを増やすための部隊割り振りをしていく部下たち。
 エルネストはやや小言を言いたそうにしていたものの、部下たちの士気が上がるのは悪い子とではないし、何よりもソフィアを待たせているので切り上げて馬車に戻った。
 窓の外を見て微笑むソフィアに、ややばつの悪そうな視線を向ける。
 どこか窺うような視線は、自らが怖がられたり嫌われていないかを不安がっているのだろう。

(若様……もう少し自信をもってください)

 シトリーとしてもフォローし辛いものなので無言を貫いているが、ソフィアはどちらかと言えば上機嫌に見えた。

「何か楽しかったかい……?」
「ええ。とっても! 騎士団の方って良い人たちばかりなんですね」

 にっこり返されれば、ほっとしたようにエルネストも自らの部下を褒め始める。エルネスト自身が編成した騎士団は、平民出身者や貴族の中でも次男坊以下で放っておけば貴族でなくなる者が多い。
 やや拗ねた感じの人間が多いのは間違いないが、実力で選び、自らが鍛えた部下たちはエルネストの誇りでもあった。

「ああ。あいつらは単純だがまっすぐで良い奴らなんだよ。さっき喧嘩してた二人だけど――」

 目を輝かせて話すエルネストに、ソフィアは今日一番の笑みを浮かべた。
 

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