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Sideノノ
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マリアベルお嬢様が気を失ったので、向きを変えて背負う。
……軽い。
仮にも私と同い年——一四歳とは思えないほどに軽い。お嬢様が受けてきた仕打ちを思うと、はらわたが煮えくり返る。
「……ブレナバン王国のゴミどもが……!」
お嬢様は覚えていないだろうが、私が初めてお会いしたのは簡易牢ではなく、孤児院とは名ばかりの人身売買施設から売られ、前線に向かう馬車に乗せられていた時だ。
警戒網を潜り抜けた魔物たちが、補給物資と戦う術を持たない孤児たちを襲った。
前線やベースキャンプから多くの人が駆け付けて魔物と戦ってくれたが、その中にお嬢様もいたのだ。
多くの兵士が馬で移動する中、お嬢様は半分引きずられるように、紐で引っ張られながら走っていた。
当時からろくなものを食べていなかったのだろう、お嬢様はヒュウヒュウとおかしな呼吸音をさせ、真っ青な顔をしながらも倒れることなく魔法を使ってくださった。
魔物に両足を食いちぎられて死の瀬戸際にいた私をあっという間に回復してくださり、傷ついた兵士や逃げ遅れた他の孤児たちも次々に治していた。
魔力切れで倒れたお嬢様は現場を取り仕切る部隊長に蹴られ、引きずられながら連れていかれてしまったのでお礼すら言えなかったが、文字通り自らの命を削るようにして人々を癒す姿はまさに聖女だった。
死の瀬戸際から舞い戻った私の目に映ったお嬢様は、どこまでも儚くも美しかった。思わず見惚れてしまってお礼すら言えなかったことをずっと後悔していたのだ。
だからお嬢様が濡れ衣を着せられて、すぐに食事を持っていこうと画策した。
……すぐに見つかって、死ぬほど殴られたが。
最前線に向かったことのある者で、お嬢様のお世話にならなかった者などいるはずがない。だというのに、恥知らずの集まりである。
ナノマシンと融合して一命を取り留めることになるとは思わなかったが、孤児である私も、ナノマシンである私も思考は一致していた。
——お嬢様の役に立ちたい。
そのためにできることならば何でもするつもりだ。
幸いなことに、ナノマシンと適合した私の体は強度的には高位の冒険者にも引けを取らない。
まだ慣れてはいないが、ナノマシンの持っていた武術に関してもインストールしたので訓練すれば通常の一〇〇倍以上の速度で上達するはずだ。
どこかで武器を入手すれば、お身体が弱くていらっしゃるお嬢様を守り、支えるのに申し分ないだろう。
食事に関してもさまざまな料理の知識がナノマシンから手に入ったし、道具や食材がそろえばいくらでも作れる。食は細いが、美味しいものを頬張った時のお嬢様は本当に幸せそうに微笑んでくださる。
あの笑顔を見るためならば、入手が困難な食材も難しい調理手順も苦ではない。
「惜しむらくは空気中のナノマシンと接続できなくなってしまったことですか……」
私の体に適合する過程で、全世界に散らばるナノマシンとの接続は失われてしまった。
「接続さえ残っていれば、あらゆる食材の情報をリアルタイムで入手できたというのに……!」
私が憤ると、背中ですぅすぅと寝息を立てていたお嬢様が身じろぎした。
起こしてしまったか、と様子を伺えば、
「ふふっ……ノノ……そんなに食べきれない……よ」
微かな笑いとともに寝言を呟かれていた。
……お嬢様の夢に私が出演!? しかも私の存在に笑ってくださっているッ!
興奮と嬉しさで鼻血が出るが、今はお嬢様を支えているので押さえることも拭うこともできない。いえ、別に鼻血の一〇リットルや二〇リットルはどうでも良いのです。
大切なのはお嬢様が幸福を感じてくださっているということ……!
「いくらでも……どんなものでも、お嬢様が望むならばご用意致しますからね」
私の呟きに、すぅ、と穏やかな寝息が返ってきた。
……軽い。
仮にも私と同い年——一四歳とは思えないほどに軽い。お嬢様が受けてきた仕打ちを思うと、はらわたが煮えくり返る。
「……ブレナバン王国のゴミどもが……!」
お嬢様は覚えていないだろうが、私が初めてお会いしたのは簡易牢ではなく、孤児院とは名ばかりの人身売買施設から売られ、前線に向かう馬車に乗せられていた時だ。
警戒網を潜り抜けた魔物たちが、補給物資と戦う術を持たない孤児たちを襲った。
前線やベースキャンプから多くの人が駆け付けて魔物と戦ってくれたが、その中にお嬢様もいたのだ。
多くの兵士が馬で移動する中、お嬢様は半分引きずられるように、紐で引っ張られながら走っていた。
当時からろくなものを食べていなかったのだろう、お嬢様はヒュウヒュウとおかしな呼吸音をさせ、真っ青な顔をしながらも倒れることなく魔法を使ってくださった。
魔物に両足を食いちぎられて死の瀬戸際にいた私をあっという間に回復してくださり、傷ついた兵士や逃げ遅れた他の孤児たちも次々に治していた。
魔力切れで倒れたお嬢様は現場を取り仕切る部隊長に蹴られ、引きずられながら連れていかれてしまったのでお礼すら言えなかったが、文字通り自らの命を削るようにして人々を癒す姿はまさに聖女だった。
死の瀬戸際から舞い戻った私の目に映ったお嬢様は、どこまでも儚くも美しかった。思わず見惚れてしまってお礼すら言えなかったことをずっと後悔していたのだ。
だからお嬢様が濡れ衣を着せられて、すぐに食事を持っていこうと画策した。
……すぐに見つかって、死ぬほど殴られたが。
最前線に向かったことのある者で、お嬢様のお世話にならなかった者などいるはずがない。だというのに、恥知らずの集まりである。
ナノマシンと融合して一命を取り留めることになるとは思わなかったが、孤児である私も、ナノマシンである私も思考は一致していた。
——お嬢様の役に立ちたい。
そのためにできることならば何でもするつもりだ。
幸いなことに、ナノマシンと適合した私の体は強度的には高位の冒険者にも引けを取らない。
まだ慣れてはいないが、ナノマシンの持っていた武術に関してもインストールしたので訓練すれば通常の一〇〇倍以上の速度で上達するはずだ。
どこかで武器を入手すれば、お身体が弱くていらっしゃるお嬢様を守り、支えるのに申し分ないだろう。
食事に関してもさまざまな料理の知識がナノマシンから手に入ったし、道具や食材がそろえばいくらでも作れる。食は細いが、美味しいものを頬張った時のお嬢様は本当に幸せそうに微笑んでくださる。
あの笑顔を見るためならば、入手が困難な食材も難しい調理手順も苦ではない。
「惜しむらくは空気中のナノマシンと接続できなくなってしまったことですか……」
私の体に適合する過程で、全世界に散らばるナノマシンとの接続は失われてしまった。
「接続さえ残っていれば、あらゆる食材の情報をリアルタイムで入手できたというのに……!」
私が憤ると、背中ですぅすぅと寝息を立てていたお嬢様が身じろぎした。
起こしてしまったか、と様子を伺えば、
「ふふっ……ノノ……そんなに食べきれない……よ」
微かな笑いとともに寝言を呟かれていた。
……お嬢様の夢に私が出演!? しかも私の存在に笑ってくださっているッ!
興奮と嬉しさで鼻血が出るが、今はお嬢様を支えているので押さえることも拭うこともできない。いえ、別に鼻血の一〇リットルや二〇リットルはどうでも良いのです。
大切なのはお嬢様が幸福を感じてくださっているということ……!
「いくらでも……どんなものでも、お嬢様が望むならばご用意致しますからね」
私の呟きに、すぅ、と穏やかな寝息が返ってきた。
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