88 / 95
捕縛
しおりを挟む
「はははっ! 愚鈍で使い物にならぬと思っていたが、一応は王族だったということか!」
何を勘違いしたのか、マーカスは小一時間でやってきた。
マリアベルたちが隠れているとも知らずにつかつかと入ってくると、玉座から退いたジグルドを小ばかにしたように見据えて鼻を鳴らした。
「それで? 第三王子殿下は何を望む? 国を放り出した罪の帳消しか? それとも爵位か? 公爵位をくれてやっても良いぞ」
「望むものか……そうだな」
演技を始めたジグルドだが、すぐそばに控えていたマーカスの側近トムソンが激高した。
「おい。言葉に気を付けろ。貴様の前にいるのは弟ではない! この国を統べる国王陛下であらせられるぞ!」
「ふふん、言ってやるなトムソン。玉座を望まず私に渡す程度の知恵はあるんだ。自らの立場も理解しているだろう」
「寛大なる陛下に感謝するんだな!」
出来の悪い茶番にしか見えないやりとり。
ジグルドは小さく笑い、それから自らの願いを口にした。
「俺は国を捨てた身だ。今更、価値のあるものを求めたりはしない」
だから。
「お前の首で良い。銅貨一枚の価値もない、空っぽな頭が乗ってるだけだからな」
槍を振るう。
迷うことなく胴と頭を切り離す一撃を繰り出したジグルドだが、その切っ先はトムソンによって弾かれる。
「ふん、欲に目が眩んだか」
「ばぁか。一緒にすんな」
ジグルドが敵対者であることを理解した兵士たちが、マーカスを守るように展開する。が、
「スタンフラッシュ」
どこからか放たれた魔法で目と耳を無力化された。
同時に飛び込んできたのは男女の冒険者。モンスター相手に鍛え抜き、練り上げた肉体はしなやかな動きで、しかし寸分の狂いもなく脚や腕を切り裂いていく。
悲鳴が上がる。
ものの一分もしないうちに第四王子側の兵士たちが無力化され、縛り上げられた。
「こいつらちょっと弱すぎねぇか……?」
「そう? こんなもんだと思うけど」
「おそらくですが、戦争で疲弊していたのでしょう……部下を労い管理できるような者たちが上に立っていれば別でしょうが」
ロンドの言葉にうなずいたジグルドは大臣以下主要人物を牢につないでおくように命じた。
同時に玉座背後に掛けられた絨毯——本来ならば有事に備えて近衛兵たちが隠れている場所からマリアベル達が姿を現す。
「ふん」
侍女のノノが不快そうに放り出したのは先に捕まえ、さるぐつわを噛ました状態で縛り上げた第二王子だった。
「……どうするつもりだ? 何の後ろ盾もなく、政治にも疎い第三王子が国を統べられるとでも思っているのか!? 手を貸す者など——グガッ」
縛られ、這いつくばったまま怒声を放ったマーカスだが、最後まで言い終えることなく言葉を遮られた。
ノノのつま先がみぞおちにめり込んだのだ。
「お嬢様の前で不快な鳴き声をまき散らすなケダモノが!」
「なっ、ぐっ………ま、アリアベル……? なぜ貴様がここに!」
「俺が呼んだ。愚か者のせいで滅ぼうとしている国を救ってもらうために」
「そ、そうか! 聖女を生贄に儀式をグガッ!?」
「貴様が散々弄び傷つけた方に、これ以上なにを求めている」
「ぐぐぐっ……マリアベル、何をしている……はやく私を癒せ……!」
「どこまであさましい人間なんだ貴様は!」
いきり立ったジグルドが槍を構えた。
謝罪の一つもさせたうえで、民衆の前で首を刎ねる算段だった。首謀者であり、権力の象徴でもある王族を処刑することで戦の終わりを大々的に宣言するつもりだったのだ。
だが、生かしておくことで国を救おうとしてくれた聖女に負担が掛かるというのならば話は別だった。
「もう良い。愚かさを悔いる暇もやらん……死ね」
槍が繰り出された。
何を勘違いしたのか、マーカスは小一時間でやってきた。
マリアベルたちが隠れているとも知らずにつかつかと入ってくると、玉座から退いたジグルドを小ばかにしたように見据えて鼻を鳴らした。
「それで? 第三王子殿下は何を望む? 国を放り出した罪の帳消しか? それとも爵位か? 公爵位をくれてやっても良いぞ」
「望むものか……そうだな」
演技を始めたジグルドだが、すぐそばに控えていたマーカスの側近トムソンが激高した。
「おい。言葉に気を付けろ。貴様の前にいるのは弟ではない! この国を統べる国王陛下であらせられるぞ!」
「ふふん、言ってやるなトムソン。玉座を望まず私に渡す程度の知恵はあるんだ。自らの立場も理解しているだろう」
「寛大なる陛下に感謝するんだな!」
出来の悪い茶番にしか見えないやりとり。
ジグルドは小さく笑い、それから自らの願いを口にした。
「俺は国を捨てた身だ。今更、価値のあるものを求めたりはしない」
だから。
「お前の首で良い。銅貨一枚の価値もない、空っぽな頭が乗ってるだけだからな」
槍を振るう。
迷うことなく胴と頭を切り離す一撃を繰り出したジグルドだが、その切っ先はトムソンによって弾かれる。
「ふん、欲に目が眩んだか」
「ばぁか。一緒にすんな」
ジグルドが敵対者であることを理解した兵士たちが、マーカスを守るように展開する。が、
「スタンフラッシュ」
どこからか放たれた魔法で目と耳を無力化された。
同時に飛び込んできたのは男女の冒険者。モンスター相手に鍛え抜き、練り上げた肉体はしなやかな動きで、しかし寸分の狂いもなく脚や腕を切り裂いていく。
悲鳴が上がる。
ものの一分もしないうちに第四王子側の兵士たちが無力化され、縛り上げられた。
「こいつらちょっと弱すぎねぇか……?」
「そう? こんなもんだと思うけど」
「おそらくですが、戦争で疲弊していたのでしょう……部下を労い管理できるような者たちが上に立っていれば別でしょうが」
ロンドの言葉にうなずいたジグルドは大臣以下主要人物を牢につないでおくように命じた。
同時に玉座背後に掛けられた絨毯——本来ならば有事に備えて近衛兵たちが隠れている場所からマリアベル達が姿を現す。
「ふん」
侍女のノノが不快そうに放り出したのは先に捕まえ、さるぐつわを噛ました状態で縛り上げた第二王子だった。
「……どうするつもりだ? 何の後ろ盾もなく、政治にも疎い第三王子が国を統べられるとでも思っているのか!? 手を貸す者など——グガッ」
縛られ、這いつくばったまま怒声を放ったマーカスだが、最後まで言い終えることなく言葉を遮られた。
ノノのつま先がみぞおちにめり込んだのだ。
「お嬢様の前で不快な鳴き声をまき散らすなケダモノが!」
「なっ、ぐっ………ま、アリアベル……? なぜ貴様がここに!」
「俺が呼んだ。愚か者のせいで滅ぼうとしている国を救ってもらうために」
「そ、そうか! 聖女を生贄に儀式をグガッ!?」
「貴様が散々弄び傷つけた方に、これ以上なにを求めている」
「ぐぐぐっ……マリアベル、何をしている……はやく私を癒せ……!」
「どこまであさましい人間なんだ貴様は!」
いきり立ったジグルドが槍を構えた。
謝罪の一つもさせたうえで、民衆の前で首を刎ねる算段だった。首謀者であり、権力の象徴でもある王族を処刑することで戦の終わりを大々的に宣言するつもりだったのだ。
だが、生かしておくことで国を救おうとしてくれた聖女に負担が掛かるというのならば話は別だった。
「もう良い。愚かさを悔いる暇もやらん……死ね」
槍が繰り出された。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる