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捕縛

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「はははっ! 愚鈍で使い物にならぬと思っていたが、一応は王族だったということか!」

 何を勘違いしたのか、マーカスは小一時間でやってきた。
 マリアベルたちが隠れているとも知らずにつかつかと入ってくると、玉座から退いたジグルドを小ばかにしたように見据えて鼻を鳴らした。

「それで? 第三王子殿下は何を望む? 国を放り出した罪の帳消しか? それとも爵位か? 公爵位をくれてやっても良いぞ」
「望むものか……そうだな」

 演技を始めたジグルドだが、すぐそばに控えていたマーカスの側近トムソンが激高した。

「おい。言葉に気を付けろ。貴様の前にいるのは弟ではない! この国を統べる国王陛下であらせられるぞ!」
「ふふん、言ってやるなトムソン。玉座を望まず私に渡す程度の知恵はあるんだ。自らの立場も理解しているだろう」
「寛大なる陛下に感謝するんだな!」

 出来の悪い茶番にしか見えないやりとり。
 ジグルドは小さく笑い、それから自らの願いを口にした。

「俺は国を捨てた身だ。今更、価値のあるものを求めたりはしない」

 だから。

「お前の首で良い。銅貨一枚の価値もない、空っぽな頭が乗ってるだけだからな」

 槍を振るう。
 迷うことなく胴と頭を切り離す一撃を繰り出したジグルドだが、その切っ先はトムソンによって弾かれる。

「ふん、欲に目が眩んだか」
「ばぁか。一緒にすんな」

 ジグルドが敵対者であることを理解した兵士たちが、マーカスを守るように展開する。が、

「スタンフラッシュ」

 どこからか放たれた魔法で目と耳を無力化された。
 同時に飛び込んできたのは男女の冒険者。モンスター相手に鍛え抜き、練り上げた肉体はしなやかな動きで、しかし寸分の狂いもなく脚や腕を切り裂いていく。
 悲鳴が上がる。

 ものの一分もしないうちに第四王子側の兵士たちが無力化され、縛り上げられた。

「こいつらちょっと弱すぎねぇか……?」
「そう? こんなもんだと思うけど」
「おそらくですが、戦争で疲弊していたのでしょう……部下を労い管理できるような者たちが上に立っていれば別でしょうが」

 ロンドの言葉にうなずいたジグルドは大臣以下主要人物を牢につないでおくように命じた。
 同時に玉座背後に掛けられた絨毯——本来ならば有事に備えて近衛兵たちが隠れている場所からマリアベル達が姿を現す。

「ふん」

 侍女のノノが不快そうに放り出したのは先に捕まえ、さるぐつわを噛ました状態で縛り上げた第二王子だった。

「……どうするつもりだ? 何の後ろ盾もなく、政治にも疎い第三王子きさまが国を統べられるとでも思っているのか!? 手を貸す者など——グガッ」

 縛られ、這いつくばったまま怒声を放ったマーカスだが、最後まで言い終えることなく言葉を遮られた。
 ノノのつま先がみぞおちにめり込んだのだ。

「お嬢様の前で不快な鳴き声をまき散らすなケダモノが!」
「なっ、ぐっ………ま、アリアベル……? なぜ貴様がここに!」
「俺が呼んだ。愚か者のせいで滅ぼうとしている国を救ってもらうために」
「そ、そうか! 聖女を生贄に儀式をグガッ!?」
「貴様が散々弄び傷つけた方に、これ以上なにを求めている」
「ぐぐぐっ……マリアベル、何をしている……はやく私を癒せ……!」
「どこまであさましい人間なんだ貴様は!」

 いきり立ったジグルドが槍を構えた。
 謝罪の一つもさせたうえで、民衆の前で首をねる算段だった。首謀者であり、権力の象徴でもある王族を処刑することで戦の終わりを大々的に宣言するつもりだったのだ。
 だが、生かしておくことで国を救おうとしてくれた聖女に負担が掛かるというのならば話は別だった。

「もう良い。愚かさを悔いる暇もやらん……死ね」

 槍が繰り出された。
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