愛する人のためにできること。

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 目が覚めれば目の前にレイがいた。体を起こし周りを見渡せば自分の部屋のベットの上で眠っていることがわかる、サリーが人を呼んで運んでくれたのだろう
 ジッとレイの顔を見つめていれば、彼はどこかに向けていた視線を私へ移し、目があった

「起きたんだ、大丈夫か?」

「…はい。今日はずっと頭痛がしていたのですが、治ったみたいです」

「それはよかった。…君、階段の手前で突然倒れたんだって?バラデュール嬢が心配されていたよ」

「そうですか、会えた時にお詫びを申し上げなくてはいけないですね…」

 バラデュール嬢とはマーシャのことだ。
 きっと知らせを聞いて心配してくれているけど、今日の放課後はとても大事な用があると言っていたので来られないのだろう
 目覚めたばかりでまだはっきりとしていない意識で、マーシャに会ったら何と言おうかと考えているとレイが再び話し始めた

「…どうして突然倒れたんだ?」

「頭痛が激しくなってしまい耐えきれなくて倒れてしまいました」

「…違うだろ」

「…」

 私は嘘はついていない、だが、本当のことというわけでもない。レイが言えと言っているのは本当のことなのだろう
 私が黙り込んでいるとレイが言葉を続けた

「確かに僕は君と関わってからたったの数ヶ月しか経ってない。でもそれが本当のことでないことはなんとなくだけど、わかるよ」

 私の目を見つめ、真剣に言ってくる
 ここでもし私が、どうしても言いたくないのだと言い張れば彼はきっと了承してくれるだろう
 でも、彼は本当に私のことを心配して言ってくれている。彼が私が本当のことを言っていないことに気づいたように、私も彼と関係を持ってから少ししか経っていないがわかる
 だから私はそれに応えなければいけないのだろう、と考える

「…聞いて楽しくなるような話ではありませんよ?」

「気を失うようなことなのに楽しくなる方がおかしいだろ?」

「そうでしたね」

 私はフッと笑い、簡単に説明しようと口を開いた

「私は殿下の婚約者であることは知っていますね?私は、婚約者である殿下のことを愛しています、昔からずっと。
でも夏の長期休みの終わりごろ、私は夢を見ました。殿下と貴族の令嬢が愛し合い、私と婚約破棄する未来を。その夢はただの夢ではありません、絶対に訪れる未来なのです。
だから私は決めました、殿下とその方の恋を影ながら応援しようと、邪魔は絶対にしないと。

でも私はそう決めたのに、殿下を取られたくないと思ってしまうのです。2人が一緒におられるところを見れば胸が締め付けられて息をするのが難しくなってしまう。

そして今日、私の不注意でリアトリス様を階段から落としてしまいました。それは夢で見た必ず訪れる未来の一つでした。
謝ろうと駆け寄ろうとしました。でも体は金縛りにあったように動かず、気がつけば私は倒れていました」

 私はレイを見て微笑む。これが私が倒れた要因だ、という意味を含めて

「…どうして、その夢は絶対に来ると断言できる?」

「説明をしろと言われると…正直できません。納得できないでしょうが、絶対に来るのです」

 あの未来は絶対だ。作られた物語、この世界はその物語の中だ。だとすれば、それはこの世界の絶対的な法則と言っても過言ではないだろう

「…でも私は今、夢の中で過去を見ました。殿下と過ごしてきた今までのことをです」

 私が再び話始めても黙って聞いてくれている。こういうところが彼の長所なのだろうなと思いながら、私は言葉を続けた

「夢の中でいくつもの過去を見ました、大切な宝物のような思い出を。
でも、最後に見た過去だけは他と違いました」

 私は少し考える

 何故最後の夢だけ他と違う気がしたのか最後まで見てようやくわかった
 それは至極単純な話で、この記憶だけ私の中から完全に抜けてしまっていたからだった
 あのときの言葉も、喜びも約束も、全て知ってしまった物語による哀しみで全て塗り替えられ、消えてしまっていた

「その過去だけ、完全に頭の中から消されてしまっていました。私がずっと望んでいた言葉を言ってくださったのに、大切な約束をしたのに、忘れられるはずのない記憶を私は消してしまっていました」

 私は自分の両手をぎゅっと握る。今の私では何が正しいのかわからない
 殿下を信じればいいのに、あの物語がそれを否定するかのように頭によぎる。

「殿下との約束を思い出し、私は何が正しいのかわからなくなってしまいました。
殿下は私に自分を信じて欲しいとおっしゃいました、だから殿下を信じています。いや、信じたいが正しいかもしれない。
でも、それと同時に夢のことを思い出してしまって何を信じれば、何が正しいのかわからない…」

 殿下の隣に立つ私以外の女性、私に向ける冷たい視線。思い出すたびに、全身から血の気が引いて上手く呼吸ができなくなる

「…あの夢は絶対なのです。でも、私は殿下の言葉を信じたい。私は…私は、何が正しいのでしょうか」

 質問をしたのはレイなのに、私は彼に問いかける。
 殿下の言葉を信じれば良いに決まっているのに、それと同時に襲いかかってくる不安。違うと否定しても拭いきることができない
 私はジッとレイを見つめ、次の言葉を待った

「…そうだな、俺は…」

「お話中すまない、失礼するよ」

 レイが何かを言いかけたところで突然ノック音がしたと思えば、その人物はそのまますぐに部屋に入ってきた
 顔を見るまでもなく、すぐに誰だかわかった

 彼が入ってきたドアへ視線を移せば私の予想した通りの人物、ジーク殿下が何を考えているのかわからない顔でそこに立っていた
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