上等だ

吉田利都

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下駄箱

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「おはよ~」

みな当たり前のように学校に来て笑顔で会話をする。

僕にはそれができない。

いつものように窓から空を眺めることしか。

「おい。黒沢。」

美咲。

わざわざ隣のクラスから来ている。

「どうしたの?」

「今日は昼飯一緒に食べるぞ」

「えぇ。ほんとに?」

「おう。理科室の非常階段な。そこなら文句ねぇだろ。」

「分かった。」

僕はいつも昼飯を食べるときそこで食べている。

誰からも見られない唯一の隠れ家。

前に美咲に聞かれたことがある。

便所飯なのか?と

そんなわけがない。

便所なんて頭が悪い。場所だってすぐばれる。

美咲と僕は友達なのだけど昼飯は一緒に食べたことがない。

彼女はいつもどこで食べているんだろう。


チャイムが鳴る。

「よーし席に着けー」

朝のホームルームは非常に眠くなる。


夏の空はなんだかまぶしくて直視できなかった。

いつか僕も太陽みたいになれる日が来るだろうか。

授業そっちのけでひたすら窓を見ていた。

四時間目体育。

今日からは秋の体育祭に向けての練習が始まる。

いじめられっこの僕にはとってもつらい地獄の時間である。

しかし僕は負けない。

やっとの思いでなんとか一時間乗り切った。

急いで着替えなきゃ。美咲が待っているだろう。

僕は誰よりも早く着替えて美咲の待つ理科室へと向かった。

ここからだと10分もかからない。

走ると目立つから早歩きだ。

なんでそんなに急ぐ必要があるのかわからないけど。

「ごめん、おくれ・・・」

そこには美咲はもちろんだが酒井さんがいた。

「おう。遅かったな。今から食べようとしてたところ」

僕がポカーンとしていると

「あのさっき美咲さんに誘われて・・・」

「一緒にいいかな?」

美咲め、最初からこれを狙っていたな。

「たまたまそこで会ってさ。せっかくだしいいよな?」

「ああ、もちろん。」

何を企んでいるんだ?

二人っきりにさせられないだけましだけど。

「酒井さん凄いね弁当。美味そう」

興味津々に見ている美咲。

「作りすぎちゃったから少し食べる?」

「え、これ酒井さんの手作り!?食べる食べる!」

卵焼きをあーんしてもらう姿にみとれていると

「良かったら黒沢君も食べる?」

「え、僕は」

「もらっとけよマジでうまいぞ!」

「こんな機会一生ないかもしれないしさ」

またバカにしやがって。

「じゃ、じゃあもらうよ。」

「はい。」

酒井さんが卵焼きを箸に差してこちらに向けてくる。

ってこれ美咲と間接キスになるんじゃ。

箸に口が付かないように歯で取った。

「わ、美味しい」

「な?言っただろ?」

これはほんとにおせじじゃなく美味しかった。

いつも卵焼きは塩で味付けしてあるものしか食べてなかったから

この甘さは癖になる。

「黒沢君にそう言ってもらえると嬉しい。」

なんだその明らかに僕を意識したセリフは。

「ま、とりあえず食べようぜ。」

「そうだね。」

腰を掛けてよく考えてみると。

異様な三人だ。

一人はいじめられっ子に一人は学校一ほどの強さをもった女。

そして、天然お花畑女。

なんで僕はこんな人たちと一緒にいられるんだ?

「美咲」

変な考えはやめて会話をしよう。

「なんだよ」

「美咲はいつもどこで食べてるの?」

「あーあたし昼は食べないんだよね。」

「え。そうなの?」

コンビニのパンと牛乳を持っているのが不自然なのはそういうことか。

「いつも屋上で寝てるんだよねー。」

いつも校舎で見かけないのは屋上で寝ていたからか。

「じゃあ今日はなんで?」

「三人で食べる昼もいいんじゃないかなってふと思っただけ。」

「ふ~ん」

「美咲さんって意外と友達思いなのね」

「意外ってなんだよ酒井さん。」

案外二人も普通に会話している。

「フフフ、なんだかもっと怖い人だと思ってたからおかしくって。」

「ひでぇ女だ。」

「ははは」

最初こそぎこちなかったが食べ終わるころには僕もすっかり打ち解けていた。

「なあ、今度三人でどっか遊びに行こうぜ。」

「あ、いいね私もそれ考えてたの!」

「どっかってどこ?」

「う~ん。それは放課後決めようぜ」

「放課後?」

「てことで放課後は三人で仲良く歩いて帰りましょう。」

美咲の提案にはいつも驚かされる。

「わあ嬉しい私も一緒に帰っていいの?」

「おう。もちろんいいよな?黒沢」

「うん。そうだね」

「じゃ、またあとでな。」

そういって僕たちはそれぞれの教室に戻った。

酒井さんとは同じクラスなのでちょっと緊張したけど

何気ない会話でのりきった。


放課後。

午後のホームルームが終わると僕と酒井さんは美咲のクラスへ向かった。

「あれ、いない」

「美咲さんいないの?」

「うん。」

「先に降りたのかも。いってみよう」

下駄箱まで行ってみてもいない。

「一緒に帰る約束したよね?どこ行っちゃったんだろう」


通りがけの生徒たちの会話が耳に入った。

「ねえ、あれやばいよね。」

「あの女の子血出てたよ。」

血?

「黒沢君あの話・・・」

「まって!その話どこで?」

僕は生徒たちに問う。

「え、どこって体育館裏で少し見たの。」

「あれ、ちょっとやばいよね。行かないほうがいいよ。」

それだけ聞くと一目散に走りだした。

「ちょっと黒沢君!」

「あ、あなた達ありがとう!」

後を追いかける酒井さんがみえなくなるほど早く。なるべく早く。

絶対美咲だ。

血?何が・・・
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