カプチーノに微笑みを

吉田利都

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カプチーノ

秋の終わりはよくわからない。

高校三年の秋、俺は行きつけの店でカプチーノを飲みながら考えていた。

大好きな季節であるのにもかかわらず俺は秋のことを何も知らない。
そんな気持ちにさせられる。

一体、秋と冬の境はどこなんだろう。

「あの」

突然の声掛けに言葉に詰まる。

「な、なんですか?」

振り返ると、明らかに切りすぎたであろう前髪をした
女性がこちらを見ていた。

「隣の席いいですか?」

「あ、はい。どうぞ。」

窓から海が眺められるこの席はよくカップルが座っているため
俺は変に緊張してしまった。

それに、彼女の手には俺と同じカプチーノ。

こんなシチュエーション珍しくもないが
声をかけられたことで少しばかりの運命とやらを感じていた。

思わず彼女の横顔をちらっと覗いてみた。

彼女はカプチーノを眺めているようだった。

外で冷えたであろう赤くなった鼻にふわふわと湯気が吸い込まれていく。

「いい匂い」

彼女はそうつぶやくとフーっと一息吹き、カプチーノを飲んだ。

その横顔はとても美しくみえた。
普段飲んでいるものとは同じように見えない。

少し冷めているが
俺も同じようにフーっと息を吹き、飲んでみる。

「あ」

思わず声に出てしまった。

何故かわからなかったが
いつもの何倍もの美味さを増して口に溶け込んでいった。

「どうかされましたか?」

「あ、いやなんでもないです。すいません」
恥ずかしくなり意味もないのに携帯を見る。

「ここから見える海ってなんだか泣いているように見えませんか?」

「え?」
突拍子もないその言葉に心臓だけが動いていた。

「毎日ずっと、海はゆらゆらと地球を旅しているように感じる時があって

その度に思うんです。
この海はきっと誰かを探していて悲しみの中泣いているんじゃないかって。」

この言葉に対して適当なことは言ってはいけないと思った。

顔を上げ彼女のほうを見る。

「きっと悲しみの涙じゃなくて再会の涙じゃないでしょうか。
俺達と違って海は、遠く離れた海に会うため長い時間をかけてゆらゆらと流れています。

だから、出会えた時の感動は何よりも大きい。」

いつもなら言えないこんなセリフも彼女なら笑わないで聞いてくれる気がした。

「そうね、きっと海もこの世で悲しみに明け暮れる日々ではないものね。

辛いこともあればその分幸福もいつかは訪れるもの。」

クスっと笑う彼女を見て、俺も少し微笑んだ。


秋の終わりはまだ俺にはわからないけど

彼女のカプチーノの湯気はハッキリと冬の始まりを告げ、微笑んでくれた。

「それじゃあ、俺そろそろ帰ります。」

「ええ、こんな初めて会った人の話を聞いてくれてありがとうね。」

「いえ、とても楽しかったです。」

「それじゃ。またどこかで。」
そういうと彼女は海を眺めどこか寂し気な表情。

そして、鼻は赤みを増しているように見えた。

これ以来彼女に会うことはなかったが
4年たった今でも忘れられずにいる。

そして、今日も行きつけの店でカプチーノを飲んでいた。


「あの、隣いいですか?」

「はい、どうぞ。」

もう驚きはしなかった。 

今度は春の始まりを話そう。
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