氷河期ホームレスの異世界転生 ~俺が失ったものを取り戻すまで~

おひとりキャラバン隊

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真実に触れる頃

テキル星(1)御使いの降臨

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「この船は、3分後に光速航行から通常航行に入ります」
 というアナウンスが聞こえた。

 夕食後、みんなは荷物をまとめる為に自室に戻った。
 俺も自室に戻り、船内の書店で購入した100冊の本をキャリートレーに積んだりと下船準備をしておいた。

 その後はシャワーを浴びてベッドで睡眠誘導装置に導かれるままに眠っていたのだが、つい5分ほど前に睡眠誘導装置の目覚まし機能が起動し、目覚めた俺の耳に最初に飛び込んで来たのがそのアナウンスだった。

 起き上がった俺は、景色でも見てみようとモニターを点けた。

 モニターはまだ青白い光を放っており、俺は眩しさに目を細めてモニターから目をらした。

「通常航行に入ります」
 というアナウンスが聞こえ、モニターが放つ青白い光が黄色い光に変わってゆき、やがて少しずつ光が消えていくのが、目をらしていても分かった。

「テキル星開拓団、宇宙基地への到着は、残り29分45秒後です」
 というアナウンスが聞こえ、俺はモニターの景色を見てみた。

そこは広大な宇宙空間で、星々が薄いベールの様にひしめき合っている。

「おお・・・」
 と思わず声が出た。

 リビングの壁面全体がモニターの為、モニターの前に立っていると、まるで宇宙空間を浮遊しているような錯覚さっかくおちいって、少し怖くなる。

 しばらくそうして宇宙空間に目を奪われていると、進行方向から眩しく光る恒星の姿が見えてきた。
 俺は、目を細めてその恒星を見て、情報津波を試してみた。

 軽く頭が痺れる感覚があり、ほんの少しの情報が得られた。

 恒星名:シン
 種別:巨星
 光度階級:4

 それだけだ。
 しかも種別や光度階級などは基準が分からないので、名前以外は役に立たない情報だ。

 これが地球の基準なら、巨星は「太陽の10倍以上の大きさなんだろうな」とか、光度階級4は「太陽の10倍以上明るい恒星なんだろな」などと目安にできるかも知れないが、どこの星を基準に種別や階級が決まっているかが分からな今は、これらの情報は何の役にも立ちゃしない。

 クレア星でもそうだったが、宇宙や惑星、銀河や恒星の事など、星々について情報津波で得られる事は、本当に少ない。

(俺に情報を与えてくれる誰かさんが、宇宙について詳しくないって事なのかもな・・・)

 そんな事を考えていると、恒星の姿を俺の目から隠す様に、大きな惑星が目の前に現れた。

 その姿は、この星の太陽「シン」の影になっていてよく見えないが、わずかに見える星の輪郭りんかくが白い氷に覆われていて、赤道らしき部分には緑の大地が見えている。

「テキル星だ」

 俺はそう声に出して言い、「とうとう来たんだな」と心の中でつぶやいた。

「テキル星開拓団、宇宙基地へのドッキングを開始します。ドッキング完了まで、残り8分24秒です」

 テキル星開拓団の宇宙基地の姿はモニターからは見えないが、テキル星には地上へ繋がるエレベーターなどは無いらしいから、俺たちは宇宙基地から小型艇か何かで地上に降りるという事なのだろうな。

 そうしているうちに、モニターの端に宇宙基地らしき姿が見えてきた。
 モニターから見えるテキル星の姿は固定されているのだが、宇宙基地が徐々に迫って来る景色と、シンやその他の星々がモニター上で流れていく方向がバラバラで少し目が回りそうになる。

 これは、テキル星の自転に合わせて宇宙基地も移動しており、その移動速度に合わせてアリア号も動いているから、アリア号から見ると、テキル星だけが止まって見えて、あとの景色はテキル星の自転と反対方向に動いて見える訳だ。

 ちなみに、宇宙基地がテキル星のどこを軸に「停止している」のかというと、プレデス星人直系子孫が統治する国「バティカ」だそうだ。

 デバイスを装備した人間しか宇宙基地とは交信ができないし、デバイスは現地人は装備していないので、宇宙基地もバティカ上空以外に移動する意味を感じていないという事なんだろうな。

 俺たちも最初はバティカに行く事になるだろうから、詳しい事は地上に降りてから確認するのがいいだろう。

「これが宇宙基地か・・・」
 と、俺はモニターから見える景色が、巨大な宇宙船で埋まるのを見届け、モニターの電源を切った。

 その時、少しだけ船内が振動したような感じがした。

「宇宙基地へのドッキングが完了しました。乗客の皆様は、デバイスの誘導に従い、120分以内に下船願います」

 アナウンスが終わるや否や、デバイスから下船誘導の通知が来た。

 俺はキャリートレーに荷物を載せ、靴を履いて部屋を出る事にした。

 扉が開くと、目の前でティアの部屋の扉が開くのが見えた。

 丁度ティアも部屋を出るところだったようで、俺は
「よう、ティア。よく眠れたか?」
 と声を掛けた。ティアは微笑んで頷き、
「ショーエンも眠れた?」
 と訊いた。俺も頷いて返し、
「他のみんなを待っててやるか」
 と言って俺とティアは廊下の端に寄り、他の降船客に通路をゆずった。

 他の乗客が、次々と部屋を出て廊下を商店街の方に歩いていく。
 しばらくすると、シーナの部屋の扉が開き、キャリートレーに通信中継器を載せたシーナが出てきた。
「ショーエン、お待たせなの」
 
「ああ、シーナはよく眠れたか?」
 
「ショーエンと一緒じゃないと、よく眠れた気がしないのです」
 とシーナは首を横に振りながら言った。

 俺はハハっと笑い、
「テキル星に降りればゆっくり出来るはずだ。もう少しの辛抱だぞ」
 と言ってシーナの頭を撫でてやった。
 シーナは頭を撫でられて少しくすぐったそうにしていた。

 その時、廊下の奥からイクスとミリカもやってきて、キャリートレーを廊下の端に寄せて、
「おはようございます。とうとう到着しましたね」
 とミリカが声を掛けてきた。
 
「おはよう、ミリカ」
 と俺も挨拶を返してミリカを見ると、ちょうどミリカの背後でメルスの部屋の扉が開き、メルスとライドが一緒に出てくるところだった。

「お待たせしました。皆さんもうお揃いだったんですね」
 とメルスが言い、ライドが申し訳なさそうに
「お待たせしてすみませんでした」
 と言って頭を搔いていた。

「よし、ちょうど人の流れも疎《まば》らになってきたし、俺たちも行こうぜ」
 と俺はみんなを促して、ちょうど他の乗客の行列に隙間ができたところに滑り込んで商店街への扉に向かって歩き出した。

 商店街の中央通路を通り抜けると、重力調整室のハッチが左右に並んでいる空間までやってきた。乗船時は、ここで無重力から人工重力空間へと調整した訳だから、今度はこの中で無重力になって出ていく事になるんだろう。

 俺たちの順番はすぐに来て、右側のハッチが開いた時に、7人全員で中に入った。

「重力を解除します」

 とアナウンスが流れ、俺たちの身体は無重力になってゆっくりと浮かびだした。

 キャリートレーの荷物はきちんと縛ってあったから良かったが、乗せてるだけだと荷物がプカプカ宙を舞って、大変な事になっただろうな。

 前面のハッチが開くと、乗組員が俺たちの手を引いて前方へと押しやってくれた。

 その先は乗組員の居住空間のある廊下で、乗船時には「どうしてこんな所に乗組員の居住空間があるのか」と不思議に思っていたが、「乗組員がここに住むのは、この為か」と今は妙に納得できる気がする。

 そんな事を考えている内に、乗船時にも見た体育館の様な空間まで来た。

 デバイスによると、ここからは小型艇に乗り換えて宇宙基地に移動するらしい。

 が、他の乗客はそのままプカプカと体育館の様な空間を通り過ぎて、出口通路の方に進んで行く。

「あれ? 俺たちは他の乗客とは別行動なのかな?」
 と俺が言うと、ライドが
「僕たちは小型艇に乗る様に誘導されてますよね」
 と言っているので、俺のデバイスがおかしい訳では無さそうだ。

 すると、デバイスから再び誘導通知が来て、壁際にある一番左端の小型艇まで移動する様に指示が来ている。

「一番左端の小型艇に乗るようですね」
 とイクスも言っているから、やっぱみんな俺と同じ通知を受けているみたいだな。

「よし、じゃあ小型艇まで移動しようぜ」
 と俺たちは、デバイスでキャリートレーを操作しながら、キャリートレーに引かれる形で小型艇の元までやってきた。

 小型艇と言っても20人は乗れそうだ。
 俺たちが近付くと、ハッチが開いて、デバイスから「乗船せよ」と通知が来ている。
 誘導されるままに小型艇に乗り込むと、中は2列シートが両サイドに5つ並んでおり、やはり20人分の座席がある様だった。

 俺たちはキャリートレーを客室の後ろの方に移動させて固定し、俺たちはそれぞれ座席に座る事にした。

 ライドとメルスは一番前の右側に二人で座り、斜め後ろの左側2列目にイクスとミリカが座っている。

 シーナが3列目の一番左に座って
「ショーエンはここに座るのです」
 と隣の席をポンポンと手で叩いている。
 俺はティアの顔を見て苦笑し、シーナの隣に座った。ティアは3列目の通路を挟んで反対側に座り、左手で俺の右手を掴んでいた。

「ハッチが閉まります」
 とアナウンスが聞こえ、プシューという音と共に、小型艇のハッチが閉まる音がした。
「この小型艇は、宇宙基地艦橋に向かいます。1分17秒後に出発します。シートベルトをお締め下さい」
 とアナウンスが鳴り、俺たちはシートベルトを締めた。

 座席の横には窓があり、窓の外には下船する他の客の姿が見える。

 今見えている大人達が最後のグループらしく、彼らが体育館の様なこの空間を出ていった矢先に、出入口の扉が閉まり、俺たちの乗った小型艇が振動を始めた。

「10秒後に出発します」
 と言っているうちに10秒が経過し、小型艇は体育館の様な空間でふわっと宙に浮いて上昇を始めた。

 しばらく上昇すると、体育館の様な空間の天井が近付いてくる。
 すると、天井の一部がハッチになっているらしく、小型艇が近付くにつれてハッチが大きく開いた。

 小型艇はそのまま開いたハッチを通り抜け、前方に見える通路に向かって前進を始めた。

 通路の幅と高さは10メートルはありそうだ。

 小型艇は通路を進んでゆき、行き止まりまでの数百メートルを移動して、床面に着地した。

「艦橋に到着しました。ハッチを開きます。下船してください」

 とアナウンスが鳴り、俺たちはシートベルトを外してキャリートレーを縛っていたベルトを解き、下船を始めた。

 不思議な事に、重力を感じた。

 とはいえ、ずいぶんと重力は弱い。
 おそらく、テキル星の重力と同じレベルになっているのだろう。
 クレア星と比べると6割くらいの重力だったはずだから、他のみんなもこの星では怪力人間って事になりそうだな。

 小型艇を降りると、目の前には2メートル四方くらいのハッチがあり、そのハッチには「殺菌室」と書いてあった。

 俺たちはみんなでハッチを潜り、殺菌室の中に入った。

 俺たちが部屋に入ると、背後でハッチが閉じる音がして、部屋全体が青紫に光りだした。

 部屋の中は何もない10メートル四方の部屋で、天井は鏡になっているようで天井を見上げる俺たちの姿が映っていた。

「殺菌を始めます。目を閉じてください」
 とアナウンスがあり、俺たちは目を閉じた。

 壁面の青紫の光が強くなり、目を閉じていても強い光に照らされているのが分かる。
 気圧が徐々に上昇してくるのが分かり、耳が少し痛くなった。

 ああ、巨大なオートクレーブみたいなものかな?
 と俺は思った。

 30秒ほど目をつむっていると、徐々に気圧が低くなり、光が弱くなっていくのを感じる。

 気圧が下がる時は、耳が少しキーンとした。

「殺菌が完了しました」

 とアナウンスが聞こえ、部屋の正面のハッチが開いた。

 デバイスはそのハッチを潜る様に誘導している。

 俺たちがハッチを潜ると、どうやらそこが宇宙基地の内部の様だった。

 そこは6つのテーブルと長椅子が並んだ学校の教室くらいの広さの部屋で、背後には殺菌室のハッチがあり、前方には金属の扉があった。

「とりあえず、座って待ってるしか無さそうだな」
 と俺が言うと、ティアも
「そうね」
 と言って、一番近くの長椅子を指し、「ショーエン、一緒に座ろ?」
 と言って俺の手を引いた。

「ああ」
 と俺はティアに引かれるまま長椅子に座ると、ティアは俺の右側に座って俺の腕に自分の左腕を絡めた。
 するとシーナも俺の左側に座り、俺の左腕に自分の右腕を絡めてきた。

「みんなも座って待ってようぜ」
 と俺が言うと、ライド達も近くの長椅子に腰かけて、
「次は何があるんでしょうね」
 と少し不安そうにしている。

 5分くらい待っただろうか。

 金属製の扉が突然開いたかと思うと、プレデス星人らしきローブを着た男が2人俺たちが居る部屋に入ってきた。

 一人は銀髪を短くカットした男でもう一人は金髪を肩まで伸ばした男だ。

 二人は部屋の中に入ると、扉を開けたまま扉の左右に分かれて立った。

 何だ?

 と思って見ていると、扉の奥から、薄いピンクの髪を腰あたりまで伸ばした細身の年老いた女が歩いてきて、部屋の中に入ると俺たちに話しかけた。

「みなさん。ようこそテキル星開拓団、宇宙基地へ」
 と年老いた女は言い「私はテキル星開拓団の団長、クラオ・カームと申します」
 と名乗った。

 俺たちはその場で立ち上がり、俺は右手を胸に当てて
「私は惑星開拓団研修学園から参りました、特別研修生のリーダー、ショーエン・ヨシュアと申します」
 と名乗った。次いでティアが
「同じく特別研修生のティア・エレートと申します」
 と少し会釈をし、次にシーナが俺の真似をして右手を胸に当て
「同じく特別研修生のシーナ・カレンなのです」
 と挨拶をした。
 続いてメルスが右手を胸に当てて
「同じく特別研修生のメルス・ディエンです」
 と挨拶をすると、ライドは少し緊張気味に
「お、同じく特別研修生の、ライド・エアリスです」
 と言った。

 イクスはミリカと同時に会釈をすると
「同じく特別研修生のイクス・イエティと申します。そしてこちらが私の妻で特別研修生の、ミリカ・イエティです」
 と紹介した。

 そうか、結婚したから家名をイクスに合わせたんだな。

 と俺は、今更そんな事を考えていた。

 団長のクラオはゆっくりと頷き、
「あなた達の事は、クレアの学園長から通信を受けています。皆さん、とても優秀なんですってね?」
 と俺の方を見て言った。俺はクラオに向かって笑顔を見せ
「学業の評価は頂けたものと自負しますが、私たちには経験が足りません。今回の研修で、時間の許す限りの経験を積ませて頂き、新たな学びの場とさせて頂ければと考えております」
 と俺は、なんとか嚙まずに言えた。

 クラオ団長は頷き、ゆっくりと身体を反転させると、
「付いて来なさい」
 と言って部屋を出た。

 俺たちはキャリートレーごと、ぞろぞろと部屋を出て、クラオ団長の後に付いて行った。

 部屋を出ると、3層吹き抜けの広い空間に出た。

 俺たちは吹き抜けの3階部分の壁面に沿う様に続く廊下を歩いていた。
 廊下が吹き抜けの丁度真ん中あたりでテラスの様に広がっていて、手すりの縁から吹き抜けの下の空間が見渡せた。

 吹き抜けの下には沢山のモニターといくつかのテーブルがあり、そのうちの一つのテーブルで、4人のプレデス人がモニターを見ながら何かを話し合っている。

 後ろを振り返ると、さっきの扉の両サイドに居た二人の男たちも付いて来ていた。

 クラオ団長は廊下がテラスの様に広がったところで壁際にある扉を開けて、一度俺たちの方を見た。

「この中にお入りなさい」
 とクラオ団長は言い、そのまま部屋の中に入って行った。

 俺たちもクラオ団長が入って行った扉を潜った。

 すると扉の奥は、円柱形の部屋だった。

 直径10メートル位の部屋で、天井高さは5メートル位あるだろうか。

 部屋の奥にあるモニターでクラオ団長が何かの操作をしたかと思うと、部屋が突然暗くなり、程なくして薄明りが点いた。

「ここは、テキル星の疑似体験施設です。これから2時間ほどかけて、あなた達にはテキル星を疑似体験して頂きます」
 と言って空中に現れたパネルを操作しだした。

 すると部屋全体が、どこかの教会の中のような空間になった。
 クレア星でも経験したが、ここの疑似体験も、風や匂いを感じる。

 教会の中は薄暗く、少しほこりの匂いがして咳込みそうになる。

 教会の祭壇には、龍の石像がまつられている。

「これは、テキル星で信仰の対象となっている龍の石像です」
 とクラオ団長が説明してくれる。

 そして、周囲はどこかの森の中の景色になった。
 川の流れる音がして、風も心地いい。

「これは、5千年前のテキル星の姿です」
 と話を続けた。

 クラオ団長の話はこうだった。

 テキル星の開拓から6千年を経て、様々な生命の創造を行ってきたらしい。
 やがて人間の生存に適した環境になったのが約5千年前で、初めての開拓チームとして、10人のプレデス星人を地上に降ろして現場での開拓を始めたそうな。

 で、現地に生息する動物の遺伝子を改変し、実験を重ねて「人類」と呼べる知的生命体を生み出し、男女の「人類」を繁殖させて、人間を増やしていったんだそうだ。

 で、地上に研究所を作って、増えた人間が生存する為に食料となる様々な生物を創造し、当時の開拓団長が、現地人にそれらの活用方法を説いて回ったんだそうな。

 現地人にはデバイスが無いので、まずは言語を教え、狩猟を教え、田畑の育て方を教え、それぞれが助け合う事の尊さを教えていったという事だ。

 あとは現地人が自ら学び、勝手に進化するに任せていく事を原則として、見守っていたそうな。

 ところが、狩猟がうまくいかなかったり農業がうまく出来なかったりと色々なトラブルがある度に人類は暴力的な行動に出る様になり、やがては食料庫がある研究所を襲撃してきたりもしたらしい。

 そこで、開拓団は研究所を守る為の城壁を作り、城壁の内側に城を建て、人類を統治する為の法を作った訳だ。

 さらに、法の象徴となる王を据え、彼らを統治する為の人材をクレア星から呼び寄せた。

 そうしてできた国が現在のバティカ国。

 バティカ国には王族と貴族の序列を作り、それぞれの役割を与えた。

 その役割とは、現地人の人類を地域ごとに統治する事と、あとはプレデス星人の遺伝子と現地人のハーフを繁殖していく事で、現地人が持つ野蛮な遺伝子を薄めていく計画を実践していったんだそうな。

 つまり、現地人と結婚して子供をいっぱい作って、プレデス星人と現地人の遺伝子を掛け合わせる事で、上品な子供が育つ事を狙った訳だ。

 ところが、生まれてきた子供は知能は高くなったが野蛮な面は相変わらずで、余計にややこしい事件が起こる様になっちまったと。

 で、定期的に「現地人の遺伝子を薄める為の要員」として、クレア星から「移住者グループ」のプレデス人を呼び寄せ、バティカ王国に送り込み、教育を施した上で地方領主として機能させようとしてきたのが、ここ500年位の出来事らしい。


 途中まではそれで何とかうまくいったみたいだが、100年くらい前に、プレデスの血が薄くなった現地人が統治する国の王が、よりによって、人類の始祖たるバティカ国に戦争を仕掛けたんだそうな。

 貧しい国の王が、豊な国を攻めるのは傲慢と強欲の成せるわざ

 これに対抗し得るは「恐怖」しか無いという事で、100年前にクラオ団長がテキル星の開拓を引き継いだという事だ。

 ふうん、なるほどね。

「クラオ団長は、どの様にして現地人に恐怖を与えたのですか?」
 と俺が訊くと、クラオ団長は、モニターを操作し始めた。

 すると周囲は広い草原になり、そこに大きな龍の姿を映し出した。

 そう、龍だ。

 ワニの様な頭に角が生えてて堅そうな鱗に包まれた身体は蛇の様に長く、しかし2本の手と2本の脚も生えている伝説上の生物。

 クラオ団長は、遺伝子操作で龍を生み出し、龍を操り、バティカ国をおびやかす野蛮人達を、龍によって殲滅せんめつさせたらしい。

 俺たちの目の前には龍の背にまたがったクラオ団長の姿が見えている。

 そして、龍の力に恐怖した現地の人間たちは、龍の恐怖から逃れる為、龍を神としてまつり、怒りを鎮める為に代わる代わる誰かが慈悲を乞いに来て、ついでに平和を祈っていくらしい。

 すげーな。クラオ団長って。

 龍を作れるし操れるんだな。

 俺たちがクレア星の疑似体験で見た教会で龍が奉ってあったのはそういう事だったのか。

 でも、俺が夢で見たのとはちょっと違うんだよな。

 俺が夢で見たのは「龍」では無くて「竜」だからな。
 つまりは、西洋風のドラゴンだ。

 しかも、ドラゴンの耳元で話していた奴も、クラオ団長の様な女性では無かったしな。

 とそこまで聞いて、「おや?」と思った。

 龍を操る? そして、クラオ団長の名前「クラオ・カーム」って言ったか?

 前世で京都に旅行に行った時に貴船神社で祀られてたのが「クラオカミノカミ」だったはずだ。
 しかも、龍神を奉っている神社だ。
 俺は、どうしても気になって、クラオ団長に訊いてしまった。

「クラオ団長は、ガイア星をご存じですか?」

 周囲は広い草原で目の前に龍が居て、クラオ団長が龍に跨っている映像のその足元に、本物のクラオ団長が立っている。

 クラオ団長は俺の質問を聞き、少し時間をおいてから答えた。

「はい。私が最初に開拓団として派遣された惑星が、ガイア星でした」

 やはりそうだったのか。
 もう疑いの余地はない。

 ガイアとは地球の事だ。
 神様とは開拓団員の事だ。
 そして、貴船神社に奉られる龍神クラオカミノカミとは、クラオ・カームの事だ。

「私達は、正式に惑星開拓団に入団した後、ガイア星への派遣を希望する所存です。もし、テキル星でお望みの成果を果たせたならば、ガイアについて、ご教示きょうじ頂く事は叶いますでしょうか?」

 おかしな話だ。と自分でも思う。

 クラオ団長は、まだ俺達にテキル星で何をさせたいのか、何も話していない。

 にもかかわらず、相手の要望を聞く前から俺は自分勝手な要望をクラオ団長に押し付けている。

「ふふふ・・・ あなたは強欲なのですね」
 とクラオ団長は俺に言った。

 しまった! やり過ぎだったか?
 と俺は内心はヒヤヒヤだった。

「しかし、ここはテキル星。強欲をとがめはしませんよ」
 とクラオ団長はそう言い、「あなたがここで、私の望む結果を成し得たならば、ガイアについて語りましょう」
 と続けた。

 良かった!

 俺は心の中でほっと息をついて
深甚感謝しんじんかんしゃの至りに存じます。クラオ団長の望みをお聞かせ下さい」
 と言って、右手を胸に当てたまま頭を下げた。

 おれの その姿を見て、ティアやシーナも同じ様に頭を下げる。
 他のみんなもそれに続いた。

 いつしか、周囲の景色は円柱状の部屋に戻っていた。

 頭を下げたままの俺達の正面に、クラオ団長がこちらを向いて立っている。

 そして、クラオ団長は口を開いた。

「私がここに来る前にテキル星を統治した者は、テキル星で創造した人類の遺伝子に欠陥があると記録しています。その遺伝子の欠陥が、人類を野蛮にしているというのです」
 とクラオ団長は語りだして、モニターにテキル星の人類の遺伝子情報を表示した。

「そこで、クレア星よりプレデスの優性遺伝子を持つ人間を派遣させ、定期的に交配をさせる事で、遺伝子の安定を図ってきました」

 と、モニターには交配された遺伝子を持つ子孫たちの分布図が表示される。

「しかし、人類の野蛮さは強欲に変化し、更には傲慢にも、我々プレデスの直系子孫たちの築いた平安の国を破壊しようとしています」

 クラオ団長はそう言って俺を見た。

「私の望みは一つだけ。共存の世界が平和的に継続される事」
 とクラオ団長は言い、両手を広げて続けた。

「ショーエン・ヨシュアよ。あなたなら、この望みを、どのようにして成し得るのですか?」

 なんてこった。老婆とは思えない威圧感だな。

 でも、前世の地球で虐げられ続けた中でも希望を捨てなかった俺だから分かる事もある。

「それは・・・」
 と俺は口を開いた。

「それは、人類に自尊心が不足している事が原因と推察します」
 と俺は言った。

「じそんしん?」
 とクラオが訊く。

「はい。人間が幸福に生きる為に必要な事は、自尊心を満たす為の仕組作りです」
 と俺は言い、「その仕組み作りを、私達が地上に降りて各地を巡る事で、きっと成し得る事でしょう」
 と俺は、背筋を伸ばし、クラオ団長の顔を見据えて言った。

「ふふふ・・・、聞いた事の無い言葉を使うのね。ジソンシンですか・・・」
 とクラオは右手を胸に当てて、「そのジソンシンとやらが何なのかは、敢えて聞かないでおきましょう」
 と言って呼吸を整えた。

「いいでしょう。あなたの思う様にしてごらんなさい」
 とクラオ団長は言った。

「有難う御座います。良いご報告が出来る様に努めます」
 と俺は再度頭を下げた。そして、
「そこで実は、一つお願いがございます」
 と俺は切り出した。

「何かしら?」
 とクラオ団長は俺の顔を見た。

「私は、ここに居るティアとシーナの二人を妻にめとるつもりです。もし不可能でなければ、ここで承認を頂きたいのです」
 と俺は大真面目に言った。

 クラオ団長はティアとシーナの姿を見ながら、おそらくデバイス情報を確認しているのだろう。

 しばらくして、クラオ団長の顔が少し微笑んだように見えた。
「良いでしょう。クラオ・カームの名の下に承認します」
 とクラオ団長が言うと、デバイスを通じて、ティアとシーナが俺の妻として承認されたことが通知された。
 さらに承認者の欄には「クラオ・カーム」の名が表示されている。

 ティアとシーナは頭を下げたまま震えている。

 ティアとシーナの元にもデバイス通知は届いている事だろう。

 これは特別な結婚だ。

 教会や神殿で結婚するのとは違う。

 この星の神に直接承認された結婚なんだ。

「有難う御座います。クラオ団長」
 と俺は深々と頭を下げた後、
「それでは、地上へ参ります」
 と告げ、俺はみんなの方を振り向いた。

「みんな、俺達はこの星の神、クラオ・カームの御使いとして地上に降り、商人として世界を巡り、我々プレデスの民と人類との平和的な共生を成し得る為に旅をする。みんなの力を貸してくれ」
 と俺はみんなの顔を見ながら言った。
「はい!」
 とみんなの声が揃った。
 ティアとシーナは泣いていたが、その目は決意を胸にした目だった。

△△△△△△△△△△△△

 バティカ王国歴4777年7の月7の日。バティカ王国の王城に隣接する龍の神殿に朝日が当たる頃、天からまばゆい光の筒が降り、7人の御使いが降臨された。
 白の衣に身を包み、空を駆ける船を手に持ちて地に降り立った。

 --龍神の奇跡 第18章 御使いの降臨--

△△△△△△△△△△△△

「いやー、着いたー! 凄かったなー!」
 と俺は無事に地に足が着いてからそう言った。

「もう!私もう、どうなっちゃうのかって怖くてたまらなかったのに!」
 とティアはまだ泣きながら俺の右腕にすがりつくようにして座り込んだ。
 シーナに至っては、放心したように宙を見つめて言葉も出ないようだ。

 クラオ団長の前では気丈に振舞っていたティア達だったが、いざ小型艇に乗って宇宙基地を出発した頃には、気が抜けたのか大泣きしてしまった。
 シーナも子供の様にわんわん泣いて、「怖かったのです~」とか「ショーエンと結婚できたのです~」とか、もう滅茶苦茶だった。

 メルスもライドも気を失いそうなほどに緊張していたらしいが、小型艇に乗ってからは脱力した様にグッタリして目を閉じていた。

 イクスとミリカは震えながらも二人抱き合って何とか持ちこたえていた様だった。
 やっぱ、愛し合う二人が一緒に居るのは心強いんだろうな。

 そして、小型艇が大気圏に入って神殿の上空まで来た時、地上までは重力制御装置で地上に降りるんだとかで、小型艇の床が全開になった時にはみんなで悲鳴を上げていた。

 勿論、俺もな。

 で、よく分からないままに自分のキャリートレーを捕まえて、みんなが自分のキャリートレーにしがみ付いてたら、いつの間にか重力制御で降下速度はゆっくりになっていて、なんだか分からないうちに地上に着いてたんだよな。

「みんな無事か?」
 と俺はみんなにもう一度安否確認をすると、
「ぶ、無事です」
 とみんなも大丈夫そうだ。

「よーし、無事で何よりだ。こんな体験、疑似体験じゃお目にかかれなかったからな。今日の出来事は思い出として、ちゃんとデバイスに記録しておけよ」
 と言ってから、「じゃ、今から街に行こうぜ!」
 と言って、ティアとシーナを小脇に抱えて歩き出した。

「ええ?この国の王に会っていかないんですか?」
 とライドが驚いた様に言ったが、俺はハハっ笑い、
「だってほら、まだ朝が早い時間ぽいだろ? まだ寝てる時間だと思ってさ」
 と俺が言うと、
「それはそうかも知れませんが・・・」
 と、何か言いたげだ。

 ティアはショーエンに抱えられながら、
「もう大丈夫だから降ろして、ショーエン」
 と言って立ち上がり、「ほんと、ショーエンの言う通り、疑似体験じゃ得られない経験だもんね」
 とティアは辺りを見回した。

 西洋風の大きなお城。神々しい神殿。
 ネオンなどどこにも見当たらず、昼は日の光で照らされ、夜は全てが闇の中に溶ける。
 風が木々の葉を鳴らし、風の音さえ聞こえてくる世界。

 そんな世界があったのだ。
 疑似体験とは違うんだ。

 ティアはシーナを見て、
「シーナ、ここは異世界。私たちは、異世界に来たのよ」
 と言った。
 俺はシーナを降ろし、シーナは少しふらついたが、すぐに体勢を立て直して周囲を見回した。
「異世界・・・なのです」
 とシーナも口にした。

 そう。俺にとっては正に異世界。

 この世界の全てが異世界だ。

 だけど、異世界は宇宙を挟んで自分の世界と繋がっている。

 ティア達も同じ気持ちだろう。宇宙を挟んでこれまで生きてきた世界がある。

 でも、ここは自分の足で歩かなければならない世界だ。
 どこまで歩いたって学園には辿り着かない。

「ショーエン、この異世界で、一緒に旅をしたいのです」

 その言葉に、みんなが同意した。

 俺も同じ気持ちだ。

「そうだな。この異世界で、俺もお前たちと旅をしたいぜ」
 と言って両手を突き上げ、「ようし、改めて言うぜ! 今日がこの異世界での旅の始まりだ! みんなしっかりついて来いよ!」
 と俺は声を張り上げた。

 みんなはビシっと整列し、
「はい!」
 と言った声は、神殿や城壁に跳ね返り、かすかなエコーとなって反響したのだった。
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