氷河期ホームレスの異世界転生 ~俺が失ったものを取り戻すまで~

おひとりキャラバン隊

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真実に触れる頃

テキル星(13)農業都市

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「じゃあ、行きますよ!」
 とライドが声を上げた。

 俺達が乗った飛行機がぐんぐんと加速し、ライドの操舵でスムーズに離陸する。
 途端に地面からの振動が無くなり、車体に設置された高効率プロペラが回る、かすかな回転音と翼が風邪を切る音だけが聞こえて来る。

 今度はメルスとイクスがペダル当番で、ライドが操縦を担当している様だ。

 飛行機は山脈を右手に見ながら離陸し、上昇と共に山脈側へと舵を切る。

 やがて山の斜面を眼下に見下ろす高さまで上昇すると、山脈から吹き下ろす風が冷えて来るのが分かった。

 飛行機は更に上昇を続け、高度1000メートル位で安定飛行に入った。

 山脈には2000メートルを裕に超える山もあるが、それらを風よけにして飛行すれば、強風に煽られずに飛行を続けられそうだ。

「ここまで高く飛ぶと、こんなにも空気が冷たくなるのね」
 と、少し冷えて来た風で乱れる髪を両手で治しながらティアが言った。

「防寒用にこんなものもありますよ」
 とそれを聞いたミリカが何かの動物の毛で作ったと思われる、肩に掛けるショールの様なものを荷台から出してきた。

 ティアはそれを受け取り、
「ありがとう、助かるわ」
 と言って肩に掛けたが、思ったよりもサイズが大きかったので、シーナと共に身体を寄せ合って一つのショールを使っている。

 ミリカは同じものをイクスの肩にも掛け、ティア達と同じ様に前列の男3人の肩にもショールを巻き付けた。

 俺にはネックガードの様なものが渡され、
「ショーエンさんのは、特別に作成しておきましたよ」
 とミリカは言いながら「ティア達と一緒の方が良かったですか?」
 と少し悪戯っぽい顔でフフッと笑った。

 (ハハッ、ミリカにお姉さんっぽい余裕が出る様になって来たな)

 イクスと相思相愛のスキンシップに慣れて、余裕が出てきたのだろう。

「ありがとうな」
 と俺はネックウォーマーを頭から被り、空からの景色に目を向けた。

 山間やまあいの風は少し冷たく、眼下に広がる景色は緑に包まれた山脈と川。
 所々に水たまりの様な湖が見え、湖畔こはんには木々が伐採された跡が残り、人の手が加えられた事が分かる。

 よく見ると、比較的なだらかな山の斜面には人が作った道の様なものがあり、それは先に進むにつれて広くなっていき、やがて石畳で舗装された道になっていった。

「あれは、道路を作ってる跡のようだな」
 と俺が言うと、ティアとシーナも俺の視線を追ってその道を見た。

「そうね。バティカに向かって道を伸ばそうとしているみたいね」
 とティアが言うと、シーナも
「道が行き止まってる所の先も、何だか木が低い様に見えるのです」
 と言った。

「木が低い?」
 と俺はシーナの言った言葉の意味を確かめようと、道路工事が行き止まっている所の先をよく見てみた。

 確かに、行き止まった先の木が成長しきっていない様に見える。
 それはずっと先まで続いていて、まるで道路の延長線を引くかの様に、山肌に沿ってうねりながら、確かにバティカの方へと続いていた。

「本当だ・・・」
 とティアが言い、「もしかしたら、100年前の戦争に使われた道だったのかも知れないね」
 と続けた。

「ああ、おそらくそうだろうな」
 と俺は頷いた。

「でも、また道路を作ってるって事は、またバティカに攻め入ろうとしてるって事なんでしょうか?」
 とペダルを漕ぎながら俺達の話を聞いていたメルスが訊いてきた。

「でも、龍神の怒りに触れて全滅した歴史があるのに、そんな事するでしょうか?」
 とライドが不思議そうに言った。

「そうですね。でも、100年前の話ですから、事実を目撃した人はもう居ないでしょうし、もしかしたら歴史を繰り返すつもりなのかも知れませんね」
 とイクスも感想を口にする。

「歴史を繰り返す・・・か・・・」
 と俺は呟き、前世の地球でも、2000年以上に渡る戦争の歴史が続いていた事を思い出した。

「でも、あの道路がバティカと繋がれば、僕達の商売がやりやすくなりそうですね」
 とメルスが言った。

「ああ、そうだな。そうあって欲しいぜ」
 と俺は努めて明るく言いながら、「そろそろ山脈も終わりそうだな!」
 と進行方向に目を向け、山脈の向こう側へと視線を移した。

 そこに見えるのは広い草原と農場で、農場の周りには水路が敷かれている。
 水路の水は、山脈から流れる川の水を引いている様で、所々に小さな水門を作って、水の流れを調節しているのが分かる。
 農場には10人位だろうか、畑を歩く人の姿も見え、その光景はどこにでもある様な、平和でのどかな農村地帯の風景だった。

 イクスは眼下に迫る農場を見ながら
「あれはいい農場ですね。色々な野菜が育てられそうです」
 とペダルをゆっくり漕ぎながら言い、「ショーエンさん、少し農場を見学してもいいですか?」
 と訊いてきた。

「ああ、いいぜ。夜まではまだ時間もあるし、商売のタネがあるかも知れないからな」
 と俺が言うと「了解です」とライドが操縦桿そうじゅうかんを操作して、飛行機をゆっくり下降させ始めた。

「バティカがあった山脈の西側は広大な森が続いていたけど、こちら側は随分と空気が乾いていますね」
 とイクスは言いながら深呼吸をしている。「野菜を作るには、とてもいい空気ですよ」
 と続けた。

 (なるほどな。)

 この星の自転の影響だろうが、基本的な気流は西から東に吹いている。

 なので、重たい湿度のある空気は山脈に阻まれてバティカ側に溜まり、こちら側は山脈によって浄化された空気が届くといったところか。

 湿度が高いバティカ側は、山脈の麓に広大な森が育ち、野菜なんかも根菜等が多くなりがちだ。
 しかしこちら側は、山脈で適度に冷やされた空気が流れてくるので、葉物野菜も育てやすそうだし、他にも色々な農作物の育成に適した環境になっている様だな。

 この星は地軸の傾きが無いから四季も無い。北極と南極はいつも冷え切って凍っているし、赤道直下は毎日が夏だ。

 ここは北緯30度くらいだと思うが、温暖な季節が毎日続いている、過ごしやすいエリアだ。

「あそこの草原に着陸しますね」
 とライドは、農場からは少し離れた草原地帯を目指して着陸準備を始めた。

 徐々に地面が近付いて、やがてドドンという音が鳴って車輪が回りだす。
 ライドが上手に翼を制御し、徐々に速度も落ちていく。
 やがて飛行機はピタリと停止し、俺達は隣国の大地に降り立った。

「じゃあ、自動車モードにするので少し待っていて下さいね」
 とライドとメルスが翼を折りたたみながら、屋根の無い飛行機を屋根付きの自動車へと変化させていく。

 (ほんと、スゲー構造だな。)

 前世で子供の頃に見たロボットアニメで、色々なメカがあり得ない変形や合体をするのを見て子供心に「カッコイイー!」と思って見ていたが、大人になると「物理的にそんな変形はあり得ない」と知り、だんだんと夢を忘れていく様になったんだよな。

 でも、今目の前では「そんな変形、物理的に可能なの?」と思える様な変形作業を、メルスとライドが実際に行っている。

 強度や重量はどうしてるんだろうとか色々思うところはあるが、事実こうやって空を飛んできたし、これからは自動車モードで地面を走るんだから、あいつらを信じるしか無い。

 ただ、子供時代に置き忘れてきた「少年の心」を取り戻せそうな、ワクワクした気持ちがあるのは確かだな。

 やがて、自動車モードへの変形が終わった様で、運転手もメルスに交代する様だ。

 俺達も座席に座ると
「じゃ、出発しましょう」
 とイクスとライドがペダルを漕ぎ始めた。

 草原を走っていると、徐々に前方の景色が農地に変わってゆく。

 農地を右手に見ながら草原を進んでいくと、しばらくして車が走れそうな道に出る事が出来た。

 メルスは道を東に向かって走り始め、やがて道の両側に農地が広がっていくのを見ながら、どんどんと前進して行った。

 畑には色々な野菜が育てられていた。

 瓜の様な野菜もあり、赤く染まったトマトもある。
 大豆の様なものを育てている畑もあり、本当に色々な野菜を育てている様だ。

 畑の中を歩く人たちは、俺達の車が走り抜けていくのを不思議そうに見ていた。

 俺達は構わず走り続け、広大な農業地帯をどこまでも真っすぐに進んで行った。

 やがて農場の色合いが変わってきた。

 人間の腰位の高さに育った緑色の穂先がギッシリと生えそろう麦畑があった。

 育てる時期を変えているのだろう、俺達が進むにつれて麦畑の色は緑から黄色へと変わっていき、その先は麦が刈り取られて裸になった畑が続いていた。

「だんだんと道が広くなってきましたね」
 とメルスは言い、「ほら、あそこに住居の様な建物が見えますよ」
 と前方にちらほらと建っている農家らしき家を指さした。

 メルスの言う通り、道はだんだんと広くなっている。
 さっきまでは3メートルくらいの幅だったのが、今は5メートルくらいになって、自動車がギリギリすれ違えるくらいの幅になってきた。

 前方にはどうやら農村があるのだろう、ぽつりぽつりと建っていた住居が、進むにつれて多くなっていき、今では100メートル毎に1軒位の間隔で農家らしき住居がある。

 そんな中、比較的道路に近い場所に建っている庭つきの農家があったので、その家の前で車を停める事にした。

「せっかくだから、誰か居ないか見てみよう」
 と言って俺は車を降り、農家の庭に足を踏み入れた。

 庭には農機具や荷車等が置かれていて、住居の窓には人の気配もする。
 建物の裏手には窯でもあるのか、黒い煙がうっすらと空に向かって伸びていた。

 玄関らしき扉の前に俺が立つと、すぐ横にある窓が開いて、若い男が顔を出した。
「誰だい?」
 と窓から俺に声を掛ける。

 俺は男の方を見て、
「やあ、こんにちは」
 と挨拶をしてみた。

 男は俺の姿を上から下までまじまじと舐める様に見て、
「あ、あんた・・・ 神殿の人か?」
 と訊いてきた。

 今は制服を着ているだけなんだが、この男には神殿の関係者に見えるらしい。

 俺は首を横に振り、
「いえ、我々は旅の商人です」
 と言って営業スマイルを作り「この国には初めて来たので、少しお話を聞きたくて立ち寄りました」
 と言った。

 男は眉を上げて
「商人?」
 と言っていったん窓を閉めて、ドタドタと玄関の方へ向かっている様だ。
 すると玄関扉がバタンと開き、
「商人って、あの商人か!?」
 と、少し興奮気味に大声で言う。

 すると、家の奥の方から
「大声で何だい、アンタ?」
 と、この男の妻らしいふっくらした体つきの女が現れた。

 女は茶色いワンピースを腰紐で縛っただけの簡単な衣服を着ていて、俺の姿を見て目を見張った。

「あ、アンタ・・・、商人って、あの商人の事かい?」
 と男の妻らしい女も同じ反応をしている。

 俺は苦笑をしながら、
「失礼ですが、っていうのは、何の事ですか?」
 と訊いてみた。

 すると男と妻らしき女は同時に俺を見て、
「ええ? 街で噂になってる旅の商人じゃないのかい?」
 と女が訊いてきた。

「いえいえ、我々はさっきここに来たばかりで、街にはまだ行った事が無いのですが・・・」
 と俺が言うと、

「そうなのかい?」
 と女は言いながら俺の姿をマジマジと見て、「変わった格好をしているから、てっきり街で噂になってる商人かと思ったよ」

「そうでしたか、残念ながら我々は街で噂になっている商人ではありませんが、もし宜しければ、私達の商品を見ていきませんか?」
 と俺は、せっかくなので商売の感覚を掴む為にとそう言ってみた。

 すると夫婦は顔を見合わせ、
「いやぁ・・・、俺達は商人から物を買えるほどの金を持ってないから・・・」
 と男の方が申し訳無さそうな顔で言った。

「なあに、見るだけならタダですし、ここで会ったのも何かの縁。見るだけ見てって下さいよ」
 と俺は言って、みんながこちらを見ながら待っている車の方を見て、
「おーい、ミリカ! この麗しいご婦人に似合いそうな服を見繕ってくれ!」
 と言った。

 すると、ミリカが立ち上がって、色々な衣装を詰めた袋を持ってきた。

「はい、ショーエンさん。こちらのご婦人だけじゃなく、こちらの紳士にもお似合いの衣装がありますよ?」
 とミリカもなかなかの接客上手だ。

 あのコミュ障だったミリカが、やはりイクスとの度重なる接触で、コミュニケーションの幅が広がっているんだと感じる。

「ちょっとお部屋に入らせて頂きますよ」
 と言ってミリカは夫婦の返事も聞かずに荷物を持って入り込み、部屋にあったテーブルに、デザインの違うメイド服と紳士服を2着ずつ並べた。

 それを見ていた夫婦は
「おお・・・!」
 と目を輝かせ、仕立ての良いそれらの衣装をマジマジと近くで見ていた。

「ご主人、ご婦人。もし、街の商人のお話を詳しく聞かせて頂けるなら、こちらの衣装は無料で差し上げる事も出来ますが、いかがですか?」
 と俺は言った。

 夫婦は「ええ!?」と振り返り、
「こ・・・、こんな立派な服をタダで貰えるんで?」
 と男は目を丸くして驚いている。

「いえ、タダではありません。街の商人について知っている事をお聞かせ頂く事が衣装代の代わりでいいというお話です」
 と俺は夫婦の認識を正しておいた。

 夫婦はまた顔を見合わせ、
「あ、あの・・・、どうぞ部屋に入って下さい」
 と女の方が俺とミリカを部屋に案内してくれた。

 俺はデバイスを通じてティア達に車で待機しているように告げ、部屋に入ると促されるままに席に着いた。

 夫婦も席に着いて俺達と向き合い、服をじっと見つめている妻を横目に男の方が話し出した。
「ここから10キロほど道を進むと、塀に囲まれた街が見えてきます」

 男の話はこうだ。

 ここから10キロ先にある街は、「エイムの街」と呼ばれる人口5万人くらいの街らしく、この国「メチル国」の中では最西端にある農業都市なんだそうな。

 なるほど。この国、メチル国っていうのか。
 バティカ以外の国の名前、初めて聞いたぜ。

 で、この国には農業都市が2つあって、比較的乾燥した環境で育つ農作物を作っているのが「西のエイム」で、湿度の高い環境で育つ農作物を作っているのが「南のサウージ」らしい。

 毎日収穫がある度にエイムの街まで収穫物を運び、卸問屋の倉庫まで運んで買い取って貰うという事だ。
 そこからの流通経路は分からないが、街中の店でここで創られた農作物が売られているし、この地域でしか収穫できない野菜なんかは他の街にも大きな馬車を何台も並べて運搬する事があるんだとか。

 で、最近エイムの街に旅の商人が現れて、世にも珍しい物を売ってて噂になってるって事だ。

 で、世にも珍しい物ってのが「一瞬で火が付く魔法の小枝」だそうで、その小枝をシュッと振るだけで、小枝の先に火が灯るという物らしい。

 (ふうん。マッチみたいな物かな?)

 その商人は変わった服装をしていて、1人の女と行商をしているんだとか。

 (なんだそのリア充商人は。俺もだけど。)

「なるほど・・・」
 と俺は頷き、夫婦の顔を見た。

 夫婦は、今の話で目の前の服を貰えるものかと気にしている様だ。

「ミリカ、今の話を聞いてどう思う?」
 と俺はミリカの反応を見てみる事にした。

 ミリカは、しばらく考えると
「そうですね、この国の文化レベルの良い指標になったと思います」
 と答えた。

 (なるほど、確かに。)

「ありがとうご主人。なかなかに興味深いお話でした。お礼にこの衣装を差し上げるのに充分な内容でしたよ」
 と俺は言い、ミリカに
「ミリカ、この服をこのご夫婦に着せてやってくれるか」
 と言った。

 夫婦は「ありがとうございます!」と言って立ち上がり、夫婦は抱き合って喜んでいた。

「じゃあミリカ、俺は先に車に戻るから、後は任せたぞ」
 と言って立ち上がった。

「はい、お任せを」
 とミリカも立ち上がり、「さあ、では早速着替えてみましょうか」
 と夫婦を促し、奥の部屋へと消えていった。

 玄関扉を開けて車の方を見ると、車の周りに2人の農夫らしい男が立っていた。

 俺が車まで歩いて行くと、二人の男は俺を見て
「あ、あんた達はいったいどこから来たんで?」
 と訊いてきた。

「あなた達はこの辺りにお住まいの方ですか?」
 と俺が訊くと、
「ああ、そうだ。この先に住んでるエドってもんだ」
「オレはあっちの家に住んでるユグルってもんだ」
 と二人が自己紹介してくれた。

「ところでこりゃあ、一体なんて乗り物だい?」
 とどうやら自動車に興味があって近付いてきたらしい。

「ああ、これは我々が作った自動車という乗り物ですよ」
 と俺は言った。

 まあ、本当は足漕ぎなので、自転車ってのが正しい表現なのだろうが、いずれはティアに電力駆動できるようにしてもらうつもりだから、自動車と呼んでも差支えは無いだろう。

「へぇ~! 馬も無しに走る乗り物たぁ、えらいもんだな~!」
 と男の一人が驚いている。

「で、あんちゃんはザックさん家で何をしてたんだい?」
 とユグルと名乗った男が俺に訊いた。

「ああ、街で噂の商人の事を聞きたくて、お話を伺ってました」
 と俺が答えると、

「あ~、あれも凄かったな~」
 とユグルは言い、「こう、シュッってやるだけで火が付くっていう小さな棒を売ってたな~」
 と言った。

「雨の日は火を起こすのが大変だから、あれがあったらそりゃあ便利だろうけど、銀貨1枚ってのは俺たちゃ払えねぇからよぉ?」
 とエドの方も話は知っている様だ。

「そうですか、いやいや貴重な話を有難うございます」
 と俺は、イクスの方を見て
「イクス、この人達に干し肉を上げてくれ」
 と言った。

「分かりました」
 とイクスは荷台から干し肉の塊を二つ出して、男たちに手渡した。

「これは?」
 と言う男たちに、
「いい話を聞かせてもらったお礼ですよ」
 と俺は言い、「みんなで食べて下さい」
 と言ってほほ笑んだ。

 男たちは
「いや~、なんか儲かっちまったな~」
 と言いながら、ペコペコしながら去って行った。

 しばらくすると、ミリカが夫婦の家から出てきた。

「お待たせしました」
 と言って戻って来るミリカの後ろから、
「有難うございました~!」
 と声を張り上げる、紳士服とメイド服を着た夫婦の姿があった。

 俺は夫婦に手を振って応え、車に乗り込んだ。

「よし、このまま10キロ進めば街があるらしい。あと1時間もすれば日が暮れちまうだろうから、ちょっと急いで街に向かうぞ」
 と俺が言うと、
「了解しました」
 とライドとイクスがペダルを漕ぎ始めた。

 空が赤く染まって来た。夕方になろうとしている。
 車は時速40キロくらいで走れている。
 15分もすれば街に着くはずだ。

「この国はメチルっていう国で、今から向かう街はエイムって街だそうだ」
 と俺が言うと、
「メチル国のエイムの街ですね」
 とメルスが短くまとめる。

「街に着いたら、まずは宿探しをするぞ」
 と俺は言い、「部屋は3部屋でいいよな?」
 と念のため確認しておいた。

「ええ、それでいいかと」
 とライドとメルスも言っている。

「そうか」
 と俺は言ったが、バティカでたんまり金を貰っているので、ぶっちゃけライドやメルスには一人部屋でもいいと思っていた。

 (まぁ、ライド達がいいのなら、別にいいけどな。)

 そんな事を考えながら、窓からの景色を見ていると、確かにだんだんと農地が消えていき、やがて草原になった。

 所々に小さな林はあるが、広々とした草原には膝丈くらいの緑の雑草が茂っていて、ここで子供が隠れんぼなどしようものなら、おそらく一生見つけられないのではと思えるほどだった。

 正面には地平線に重なる様に長い塀が見えており、その向こう側にはいくつかの塔や建物が見えている。
 住居や商店などは、きっと塀よりも低い建物しか無いのだろうな。

 しかし、地平線までの距離はせいぜい5キロくらいだとしても、5キロの距離の間がずっと草原ってのはものすごい光景だ。

 いつしか道幅も10メートルくらいまで広がっているし、ここまでに1台だけ荷馬車とすれ違ったが、速度を落とす必要も無かったほどに広い道だ。

 やがて街の塀が眼前に迫って来た。
 どうやら街の塀には門があり、そこで門番の許可が無いと入れない様だ。

 門には他に人は無く、もしかしたら、農家の人たちは朝にしか街には行かないのかも知れない。

 槍を持った門番が俺達の車が近付くのを見て、門の前に立ちふさがった。

「何者か!」
 と門番は少し警戒している様だ。

 俺は車から降りて門番の元に歩いていき
「こんにちは、我々は旅の商人です。今夜はこの街で宿を取りたいのですが」
 と声を掛けた。
 門番は
「なんだ、商人か」
 と言ってほっとした様だが、
「西門から来るなんて、いったいどこの国から来たんだ?」
 と訊いてきた。

 俺は
「バティカから来ました」
 と言った。

 兵士は
「ほほう、それは遠いところからよく来たな」
 と言って、車の方を見て「ところでその荷車は・・・、いや、そもそも何だこれは?」
 と訊いてきた。

「これは自動車という乗り物ですよ。馬が無くても走る車です」
 と俺は言い、「これのおかげでバティカからここまで来れましたから」
 と言っておいた。

 別に嘘じゃない。
 空を飛べるとはだ。

「おお、そうか。数年に一度、バティカから移住してくる者が居るが、こんな乗り物は初めて見たものでな」
 と門番はそう言い、「この門を潜って真っすぐ行くと、神殿に突き当たる。神殿の周りには数軒の宿があるから、そこまで行くといいぞ」
 と親切に教えてくた。

 もう一人の門番が車の荷台を見ていたが、ミリカが作った衣装とイクスの持ってきた調味料や食材以外は意味の分からないものばかりだろう。ましてや、立てかけてあるキャリートレーなど、ただの板にしか見えない筈だ。

 やがて、ゴソゴソと荷台を見ていた門番も
「こんな高価そうな衣装は、街の商会かお貴族様しか買えないだろうな。神殿の周りはお貴族様もよく来るから、そこで露店を開くといいぞ」
 と教えてくれた。「あ、露店を開くなら、商会に届けをする様にな!」
 とこちらも親切な門番だ。

「どうも有難う御座います」
 と俺は言い、「じゃあ、街に入ってもいいですか?」
 と念のため門番に訊いた。

「ああ、通っていいぞ」
 と門番は道を開けてくれたのだった。

 △△△△△△△△△△△△

 街に入ると、一気に空が暗くなったように感じた。

 おそらく、高い塀に囲まれているせいで、シンの光が遮られてしまうせいだろう。

 街に入ってすぐのところは住居区画らしく、道で子供達が遊んでいたりする。

 俺達の車は子供達を轢かない様にと気を付けながらゆっくり進んで行く。

 子供達の遊びを見ていると、道に沢山の円を描いて、ケンケンパみたいに円から円を飛んでいたり、道端の石ころを円の中に投げ入れていたりと、前世の子供の頃の遊びと大差が無いのを感じていた。

 子どもってのは、何でも遊びにするもんだ。
 特にモノを与える必要なんて無い。
 そこにある物全て遊びの道具になるのだ。

 まあ、2010年を過ぎた辺りから、ゲームが無いと遊べない子供が増えていた気もするが。
 昭和50年生まれの俺の子供時代は、空き地でも廃屋でも、そこに何かがあれば、それだけでそこは遊び場所になったもんだ。

 子供達は俺達の車が通ると、ピタリと遊ぶのを止めて、俺達の方を珍しそうにじっと見ている。

 そりゃそうだ。

 この世界には無い乗り物が走っているんだ。

 子ども達の興味を引かない筈はない。

 この街に、荷台を着けた自転車なんて作ったら一気に普及するかも知れないな。

 そうしてゆっくりと進んで行くと、やがて正面に神殿らしき建物が見えてきた。
 神殿は道がロータリーの様になっているところの中心に建っていて、そのロータリーの外周部に宿屋や飲食店や色々な店舗が並んでいる様だった。

 俺達の車がようやくロータリーに着いた頃には、空はだいぶ薄暗くなっていた。

「よし、ここが宿屋みたいだな。この裏に車を停められそうな場所もあるし、今日の宿はここにしよう」
 と俺は言って車を降り、ティアとシーナも降りてきて、宿屋のエントランスを入って手続きカウンターの方へと歩いて行った。

 宿屋のエントランスの中は、宿屋の受付ロビーしか無く、酒場はどうやら2階にある様だ。
 1階部分は馬屋があるので、酒場のスペースが作れなかったんだろうな。

 宿屋のカウンターに行くと、宿屋の主人らしい男が座っている。
 俺が近付くと、
「いらっしゃい」
 と主人が声を掛けてきた。

「7人居るんだが、3部屋程空きはあるかい?」
 と俺が訊くと、
「そうだねぇ、あるにはあるが、どういう割り振りにするんだい?」
 と訊いてきた。
「俺とこの二人は夫婦だ。同じ部屋がいい。他は二人ずつで2部屋あればいい」
 と俺は答えた。

「はいよ」
 と主人は部屋の鍵を3つ取り出し、「3人部屋は5階だ。2人部屋は4階だよ」
 と言って鍵をカウンターに置いた。そして、
「1泊なら銀貨3枚と銅貨30枚。2泊なら銀貨6枚と銅貨60枚だ」
 と言った。

 2泊って訳にもいかんだろうな。
 この街を知るには1週間は泊まりたいところだぜ。

「俺達は旅の商人だ。明日は商会に行き、しばらくここで商売をしたい。とりあえず1週間泊まらせて欲しいんだが」
 と俺が言うと、
「それなら・・・」
 と頭の中で計算をしている様だが、なかなか答えが出てこないらしい。
「銀貨23枚と銅貨10枚になると思うが、違うか?」
 と俺が代わりに計算をして言った。

 銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚。
 日本円にすれば、銅貨1枚が10円くらいの価値だから、銀貨1枚は千円くらいの価値だ。
 2人部屋が一泊千円で、3人部屋が1泊1300円ってところか。

 さすが農業都市だけあって、ずいぶん安い。
 遠くから農作物を売りに来る商人の為に安くしてるのかも知れないな。

「ああ、そうか、そうだな!」
 と宿の主人は計算出来て無さそうな顔をしているが、俺が銀貨24枚をカウンターに置くと、きちんとお釣りを返してくれた。

「荷車を裏に停めたいが、いいか?」
 と俺が訊くと、主人はにこやかに
「どうぞどうぞ!」
 と言って銀貨を大事そうに引き出しに仕舞った。

 俺は一旦エントランスを出てメルス達に、車を裏手に移動して、荷物はキャリートレーに乗せて、4階と5階の窓から入れる様に指示をした。

 大切な商材を盗まれでもしたら大変だからな。

 まずはイクスとミリカが4階の部屋に入り、部屋の窓から俺達に声をかけてもらった。
 そして、辺りに人が居ないタイミングでキャリートレーを操作して、全員分の荷物をいったんイクス達の部屋に入れておいた。

 そして俺達も各自の客室に入り、デバイスでキャリートレーを呼び寄せ、窓から俺達の荷物も運び入れたのだった。

 俺達が窓を閉めると、部屋は真っ暗になる。

 部屋にはろうそくがあり、火種は廊下の先にある様だ。

 ま、面倒だし、ここで火を着けちまうけどな。

 俺は、簡易ライターで蝋燭ろうそくに火を着けた。
 部屋にある蝋燭《ろうそく》全てに火を灯すと、それなりに部屋が明るくなった。

「なんだか、優しい明りね」
 とティアが言う。
「心が落ち着く感じがするのです」
 とシーナも満足気だ。

「ああ、俺もこういうの好きなんだよな」
 と俺は言いながら、上着を脱いで、靴を脱いだ。
 部屋の中を一通り見て回ると、ちゃんとバスルームがあった。
 水が張られた浴槽と、その下に薪を燃やす窯《かま》がある。

「ティア、シーナ。覚えてるか? 疑似体験でも見た風呂と同じ様な浴室があるぞ」
 と俺は言った。

「さっそく湯を沸かすか」
 と俺は簡易ライターで小枝や木くずを束ねた物に火を着け、窯の中に放り込んだ。
 すると、少しずつまきに火が燃え移り、やがてパチパチと薪が燃えだした。

 湯が沸くにはしばらく時間がかかりそうだが、バティカでは毎日広い風呂に入ってたから、旅の初日に泊まった宿でも風呂があるのはありがたい。

「ティア、シーナ。この先は風呂がある宿なんて期待できないかも知れないから、風呂がある時はちゃんと入っておけよ」
 と俺は言った。

「でも、こんなに狭いと一緒には入れないね」
 とティアが少し残念そうにしている。

「あり得ないのです・・・」
 とシーナはもっと残念そうにしていた。

「さてと、とりあえず今日から1週間はここで泊まるから、明日からは街の散策と商会への届け出だな」
 と俺は言い、「夕食まではゆっくり過ごそうぜ」
 と言いながらベッドのマットレスに乗った。

 3人部屋というだけあって、ベッドはバティカの王城と同じくらい大きい。

 さすが「一夫多妻制」が認められた星だ。
 こういうサイズも一般的なんだろうな。

 そんな事を考えながら寝ころんだ俺の隣に、ティアとシーナがいつも通りに抱き着いてくる。

「なんかすごいね!」
 とティアが言った。「こんな旅に出るなんて、生まれて初めてですごくワクワクする!」
 と少し興奮している様だ。シーナも同じ様に感じている様で、
「途中の草原で食べた昼食が美味しかったのです」
 と、ピクニックが出来たのが特に気に入った様だ。

「ああ、これからは宿屋に泊まれない事だってあるかも知れないしな。色々な体験をして、色々な学びを得ような!」
 と俺は二人にそう言い、両腕に力を込めてぎゅっと抱きしめたのだった。

 こいつらは本当に最高の妻であり、最高の仲間だ。
 遺伝子がどうのこうのといった理屈抜きに、みんないい奴だしな。

 でも、ここまで来る途中で出会った人々も、とても暖かい人達だった。

 一体何が「野蛮」だってんだ?
 戦争をさせない為なら「恐怖」じゃなくて「友好」って手段もあるはずだ。

 なのにそれをしないクラオ団長の考えってのも良く分からないんだよな。

 プレデス星人の考え方か・・・

 そもそも、俺達が存在する理由さえ分からないのが現状だ・・・

 その答えが見つかるのは何時《いつ》なんだろうな。

 そしての事も・・・

 
 部屋の中には、浴室から聞こえるまきがパチパチと燃える音だけが響いていたのだった・・・
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