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真実に触れる頃
テキル星(19)勇者
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「ただいま」
と俺は宿屋の部屋の扉を開けて中に入った。
ティアとシーナが「おかえり!」と言って飛びついてくる。
「無事で良かったのです」
とシーナが俺の左腕に顔をぐりぐりと押し付けている。
ティアも俺の右腕に絡みついて
「デバイスで事情を聞いて驚いたわ」
と言って俺の顔を見て「まさかあの二人を仲間にしちゃうなんてね」
と言った。
そうなのだ。
俺はデバイスでみんなに「ガイアとテラを仲間にする事にした」と伝えておいたのだ。
「ああ、あいつらは、イスラ王国にも詳しいし、アルコールと灯油の精製が出来るらしいから、俺が作れる物の幅も広がるしな」
と俺は言ってベッドの縁に座り、
「それにあいつら兄妹は、話してみれば悪い奴らでは無かったよ」
と言った。
「あの男、ガイアって名乗ってたよね」
とティアが言う。
「ああ、なんて偶然だろうとは思うが、あいつらもガイア星を目指してるみたいでな。ガイアの食事について詳しいのもそういう事だったみたいだ」
と俺が言うと、商会でガイアが「スパゲッティ」と言っていた事についてティアとシーナも納得した様だった。
「さて、商会にも話は通したし、例のお貴族様との約束も果たさねばならんだろうな」
と俺が言うと、ティアが
「魔王退治ってショーエンが言ってたやつね?」
と言った。
「ああ、そうだ。 レプト星から来た罪人達が作り上げた国とやらがどんな国かは分からんが、この国を豊かにする準備が整ったら、次は東の大陸とやらの様子を見に行きたい」
と俺はティアとシーナの顔を交互に見ながら言った。
「何か、他に武器を作る必要はある?」
とティアが訊いた。
「そうだなぁ・・・」
と俺は腕を組んでしばらく考えた。
ファンタジーの様な世界で「魔王退治」なんて言ってると、まるで剣と魔法で戦う様なイメージしか湧かないが、魔王の正体はレプト星から来たハイテク満載の罪人で、強欲で傲慢であるならば、兵器の一つや二つは作っていてもおかしくない。
訪れた商人に「魔境」と呼ばせるような国家の状況を想像するに、おそらく現地人には想像も出来ない兵器があって、それが「恐ろしい魔法」に見えているという事ではないだろうか。
ならば、こちらもそれに対抗できる兵器があった方がいいかも知れない。
「ティア、シーナ。武器を作る必要はあるだろうが、どんな武器を作るかは、敵情を偵察をしてからの方がいいと思うんだが、二人はどう思う?」
と俺は質問で返した。
「その方が、何を作れば良いかが分かるのです」
とシーナは言い、ティアも頷いた。
「よし、ならばエギル伯爵の処へ行って、偵察隊を組織してもらおう。そして、偵察隊は、俺達3人で指揮をすればいいだろう」
と俺は言って立ち上がった。
「さあ、今日も神殿に貴族達が集まって来る。それまでに昼食を済ませておこう」
と俺が言うと、ティア達も「はい!」と言って立ち上がったのだった。
△△△△△△△△△△△△
「本日も、メチル王国を支える貴族の皆様が集いし事に感謝を申し上げます」
いつもの神殿の中の光景だ。
「おお! 龍神クラオ様の御心が今日も安らかなる事に感謝を!」
と神官が言うのに続き、貴族達も声を合わせて
「龍神クラオ様の心が今日も安らかなる事に感謝を!」
といつもの通りに言った。
神官はこちらを振り返り、
「本日は、これまでで最高に喜ばしい話がありますぞ!」
と言った。
そして神官は
「龍神の御使いが、東の魔境を統べる魔王の首を討ち取って下さるとのお告げがあったのです!」
と言って、両手を広げた。
すると貴族達に「おおおー-!!」といつもより大きな騒めきが起こった。
「その御使い様は、既にこの街に入られたとの話も聞こえております。天よりバティカの神殿に降り立ち、伝説の通り、空を飛んで来たのだという街の者もおりました」
と言って両手を天に向けて突き上げ
「我々の声が! 祈りが! 想いが! 龍神様に届いたのです!」
と言って、神官は咽び泣き出した。
(おいおい・・・ あれって俺達の事だよな?)
エギル伯爵から伝わった話なのだろうが、ちょっと話が大袈裟になってやしないか?
それにあの神官の演技みたいに大袈裟な身振り。
まるで演劇を見せられてる気分だぜ。
「そして御使い様は、近いうちにこちらの神殿にも姿を現し、皆様にも御使い様の姿を拝顔頂く事となるでしょう!」
と神官は涙ながらに語り、いつもの様にお辞儀をして
「では、皆様の心ばかりのご寄付を・・・」
と言って賽銭箱の横に控えた。
貴族達が立ち上がり、1列になって賽銭箱に金貨を入れてそのまま出口へと向かっていく。
俺とティアとシーナも列の最後尾に並び、今日は金貨2枚を入れて神殿を出た。
すると、人混みの中からエギル伯爵がやってきて
「ショーエン様! 本日も神殿にお越しになっていたとは!」
と言って頭を下げた。
「エギル伯爵、今日の神官の話を聞くに、随分と情報が早いと思って驚いたぞ」
と俺は、商人ではなく御使いとして接する事にした。
「勿論でございます。希望に溢れたお話は、出来るだけ早く皆に伝えなければなりません。でなければ、他の貴族がショーエン様に近寄って甘言で惑わすなどの危険も御座いますからな」
と、尤《もっと》もらしい事は言っているが、要は「嬉しくて我慢できませんでした」って事だろう。
子供か、こいつは。
別にもう、広まっちゃったんなら仕方ないけどな。
「まあ、ここで会えたのは丁度良かった。エギル伯爵に頼みたい事があってな」
と俺が言うと、
「何なりと」
とエギル伯爵が返す。
「今朝、商会に行っていくつかの商材をこの街で広めてもらう契約を行ってきたんだ。そのサポートを伯爵に頼みたい」
と俺は言った。
「サポートと言いますと?」
とエギルは首を傾げる。
「細かい事はサルバ商会長に訊いてくれ。 殆どが世界中に広める商材で、当然バティカにも売り込むから、貴族の連携は必要だ。土地の管理を貴族がしてるんだから、工房の拡充をするのも貴族の協力があった方が捗る」
と俺は説明した。
「なるほど、承知しました」
とエギル伯爵は言って、頭を下げた。
「あ、そうだ」
と俺は閃《ひらめ》いた事があって声を出した。
「せっかくだから、明日は神殿で、俺達が皆に姿を見せてやるとしよう」
と俺は言った。
すると、エギル伯爵はみるみる顔を輝かせ、
「それは素晴らしい! ならば今から神官長に私から話を通しておきますぞ!」
と言った。
俺は「いいだろう」と頷き、
「では、明日は俺達は9人で現れる事にする。神官長にはそう伝えておくがいい」
と言った。
「承知しました!」
とエギル伯爵は、そのまま神殿の中へと戻っていくのだった。
ほんと、ここの貴族は勤勉だね。
クラオ団長が言う様な、強欲や傲慢な態度は見られないし、野蛮な遺伝子だなどと、この街に来てから思った事は一度も無い。
しかし、東の大陸にあるという魔境とやらにはそういう連中がゴロゴロしているかも知れない。
もしそいつらがその元凶なら、俺が叩き潰すまでだ。
「よし、俺達は宿に帰ろうか」
と俺はティア達と共に宿屋に帰ったのだった。
△△△△△△△△△△△△
俺はガイア達にも事の事情を話しておき、明日の神殿で壇上に立つ事の承諾を得た。
メルスやイクス達には、ティアとシーナが事情を説明してくれ、皆が一様に賛同してくれた。
特にミリカは
「ならばバティカで作った特製の衣装で壇上に上がりましょう!」
と、例の特別な衣装をみんなに着る様に言い、「ガイアさんとテラさんの分を今から作りますね!」
と言うので、ガイア達のおおまかな体形の情報をデバイスで送信しておいた。
ティアとシーナは何やら武器を作るんだとかで、発電機を持ってメルス達に何かを依頼しに行った。
「ふうっ」
と俺は息を吐いてベッドに寝転がった。
これでこの街の商業や流通は、あとは商会と貴族に任せておけばいいだろう。
メルスやライドにしか作れない物はあるが、街の工房には材料の作り方は伝授したらしいので、技術者を育成してやればあとはこの街も発展していくだろう。
最もバティカと近い位置にあるメチル王国を中心に、イスラ王国、ノシア王国、オスラ王国とももっと交易出来るようになれば、いずれバティカとの交易も盛んになるだろう。
そうなれば、貴族達の「遺伝子争奪戦」など必要が無くなるし、この大陸全土にその豊かな経済が巡ってゆく事になるだろう。
豊かな経済は人々の心も豊かにしていくものだ。
やりがいのある仕事は、その人の自尊心を高めるものだ。
そうして社会の歯車が回りだし、やがてこの世界は、皆が満足できる一生を送れる様になってゆくのだろう。
しかし、今ある懸念が「東の大陸の魔王」の存在だ。
それも自ら「レプト」と名乗っているというのだから、レプト星からの脱走者だと名乗っている様なものだ。
しかも、それの意味が解るのは、俺達の様な移住者だけだ。
つまり、誘っているのだろう。
プレデス星で純粋培養された人間を。
技術力が高く、しかしコミュ力が低い「従順なカモ」を。
「ハハッ、そうはいくかっての」
と俺は声に出して言い、
「魔王とやらが何を企んでいるのかは知らねーが、俺はそう簡単にやられねーぞ」
と独り言を言った。
俺達がこの星の秩序を正し、そして俺は、地球に行ってこれまで感じていた謎を全て解いてやるんだ。
そして地球で起こっていた事を知り、地球で今も生きているだろう人間達を救いたい。
(そうだ。この旅は、そういう旅なんだ。)
俺はそんな事を考えながら、いつしか眠っていたのだった。
△△△△△△△△△△△△
翌朝、目が覚めるとベッドにはティアとシーナがパジャマ姿で眠っていた。
俺もいつの間にかパジャマ姿になってるあたり、ティア達が着替えさせてくれたのかも知れない。
なんだ、全然気付かなかったな。
ティア達はまだ眠っているので、俺はガイア達にデバイスで「昼食をこちらの宿屋で一緒に取ろう」と送っておいた。
ほどなくしてガイア達から「了解」と返信があった。
俺は服を脱いで風呂に入る事にした。
昨日はいつの間にか眠っていたから、風呂に入れてなくて、少し身体が汗ばんでいたしな。
俺が風呂から出ると、ティア達が目覚めたところで
「おはよう、ショーエン」
と言ってティアが俺を見ている。
「ああ、おはよう、ティア」
と俺は返し、シーナにも「おはよう、シーナ」
と言った。
「おはようなのです」
と寝ぐせを付けてまだ眠そうにしながらシーナは起き上がり、「昨日は頑張ってショーエンの武器を作ったのです」
と言った。
「おお、何を作ってくれたんだ?」
と俺がシーナの髪の寝ぐせを指で直してやりながら訊くと、
「これなのです」
と、シーナは肩をすぼめて少しくすぐったそうにしながら言い、キャリートレーに乗っていた1メートル位の長さの筒を持ち上げた。
「それは?」
「特別なレールガンを作ったの」
とティアが得意げに答えた。
ティアとシーナの説明によると、これまでのレールガンの様に磁力で弾丸を飛ばすのではなく、レーザー光を飛ばして対象物を焼き切る能力を持つ武器だそうで、
「ビームライフルかよ」
と俺がつい言ってしまうような代物だった。
使い方はデバイスで操作するタイプのもので、レールガンと変わりは無い。
エネルギーは電力だが、ティアが作った発電機が近くにあれば、非接触でも充電が出来て、無限にビームが打てるらしい。
すげーな。
まるでロボットアニメの世界に出てきそうな武器だ。
これをこの世界の人間が見たら、「神の杖」やら「神の光」やら、また勝手に名付けるんだろうな。
「いい武器だな! さすがティアとシーナだ。 お前達は最高だ!」
と俺は二人に強めのハグをした。
二人はそれですっかり目覚めた様子で、
「良かった! じゃあ今日は昼から神殿に行かなきゃだし、早目に昼食にしようね!」
とティアなどは早速着替えを始めていた。
「ああ、ガイア達も昼食に呼んだから、あいつらと合流しよう」
と俺が言うと、こちらも着替えを済ませたシーナが、
「なので、ショーエンも早く服を着るのです」
と、まだ全裸の俺を見てそう言ったのだった。
△△△△△△△△△△△△
「皆様! こちらに居られる皆様が龍神の御使いの皆様ですぞ!」
と神官が俺達を壇上に立たせてそう言った。
「おおおー!!!!」
と貴族達から盛大な拍手が起こる。
俺達はミリカが作った特製衣装を身に纏い、ガイア達と合流してから昼食をとり、貴族達が集まる前に神殿に入った。
神殿には既にエギル伯爵が到着していて、神官達と色々打合せをして、既に段取りは済ませていた様だった。
そして貴族達が集まりだして、いつもの演説が始まったかと思うと、俺達は壇上に誘導されて現在に至るという訳だ。
「今回、東の大陸を魔境にせしめた魔王の首を取るべく、龍神クラオ様が遣わして下さった御使いの方々です!」
と神官は言い、神官が何か言う度に貴族達が湧く。
「御使い様方の主人がこの方、ショーエン・ヨシュア様でございます!」
と俺を紹介すると、また貴族達が湧く。
「そして、ショーエン様の従者の皆様です!」
と言ってティア達を並ばせ、
「ティア・ヨシュア様、シーナ・ヨシュア様、メルス・ディエン様、ライド・エアリス様、イクス・イエティ様、ミリカ・イエティ様」
とそこで一旦置いて、
「皆様が既にご存じのランタンを創造された、商人の姿で我々に接して下さった方も御使い様でございました」
と言って一呼吸置き、
「ガイア・サザリー様、テラ・サザリー様でございます!」
と言った。
「御使い様方は、この街とこの国の発展に寄与すべく、商会長を通じて様々な技術をご提供くださいました。誠に、感謝の念に堪えません」
と神官は続けた。
「よってここに、ショーエン様を、魔王の首を討ち取る龍神の伝説になぞらえ、伝説の勇者様と呼んで皆で称えようではありませぬか!」
と神官が言うと、これまでで一番の歓声と拍手が沸き起こった。
おいおい、伝説の勇者って・・・
これじゃまるで、本当にファンタジー漫画の世界になったみたいじゃねーか。
「ゆ・う・しゃ! ゆ・う・しゃ!」
と勇者コールが起きている。
神官は俺に「何かコメントしてほしい」といった顔で俺に目配せをしている。
はあ・・・、仕方がねーか。
と俺は壇上に上がって右手を上げ、皆の恥ずかしい勇者コールを制した。
途端に皆は静まり返り、シーンという音が聞こえて来る様だった。
俺は貴族達を見回し、口を開いた。
「皆の者! 龍神は皆の平和と安寧を願い、自らの力で発展する事を望んでおられる」
と俺は前置きし、
「しかし! 東に巣食う魔王とやらが、龍神の望まぬ事をしているというではないか?」
と俺は両手を上げた。
「そして竜神クラオは我々を地上に送り、この星を正せと仰せになった」
と俺は両手を拳に変え、
「ならば正そう。それが龍神の願いならば!」
と俺は締めくくり、両手を天井に向けて突き上げ、皆の顔を見た。
すると、一瞬の静寂があったかと思うと、神殿の中に割れんばかりの歓声が沸き起こり、再び場内から勇者コールが始まった。
俺はそんな貴族達の姿を見ながら、
「ほんと、みんなピュアだねぇ・・・」
と小声で呟いていたのだった。
と俺は宿屋の部屋の扉を開けて中に入った。
ティアとシーナが「おかえり!」と言って飛びついてくる。
「無事で良かったのです」
とシーナが俺の左腕に顔をぐりぐりと押し付けている。
ティアも俺の右腕に絡みついて
「デバイスで事情を聞いて驚いたわ」
と言って俺の顔を見て「まさかあの二人を仲間にしちゃうなんてね」
と言った。
そうなのだ。
俺はデバイスでみんなに「ガイアとテラを仲間にする事にした」と伝えておいたのだ。
「ああ、あいつらは、イスラ王国にも詳しいし、アルコールと灯油の精製が出来るらしいから、俺が作れる物の幅も広がるしな」
と俺は言ってベッドの縁に座り、
「それにあいつら兄妹は、話してみれば悪い奴らでは無かったよ」
と言った。
「あの男、ガイアって名乗ってたよね」
とティアが言う。
「ああ、なんて偶然だろうとは思うが、あいつらもガイア星を目指してるみたいでな。ガイアの食事について詳しいのもそういう事だったみたいだ」
と俺が言うと、商会でガイアが「スパゲッティ」と言っていた事についてティアとシーナも納得した様だった。
「さて、商会にも話は通したし、例のお貴族様との約束も果たさねばならんだろうな」
と俺が言うと、ティアが
「魔王退治ってショーエンが言ってたやつね?」
と言った。
「ああ、そうだ。 レプト星から来た罪人達が作り上げた国とやらがどんな国かは分からんが、この国を豊かにする準備が整ったら、次は東の大陸とやらの様子を見に行きたい」
と俺はティアとシーナの顔を交互に見ながら言った。
「何か、他に武器を作る必要はある?」
とティアが訊いた。
「そうだなぁ・・・」
と俺は腕を組んでしばらく考えた。
ファンタジーの様な世界で「魔王退治」なんて言ってると、まるで剣と魔法で戦う様なイメージしか湧かないが、魔王の正体はレプト星から来たハイテク満載の罪人で、強欲で傲慢であるならば、兵器の一つや二つは作っていてもおかしくない。
訪れた商人に「魔境」と呼ばせるような国家の状況を想像するに、おそらく現地人には想像も出来ない兵器があって、それが「恐ろしい魔法」に見えているという事ではないだろうか。
ならば、こちらもそれに対抗できる兵器があった方がいいかも知れない。
「ティア、シーナ。武器を作る必要はあるだろうが、どんな武器を作るかは、敵情を偵察をしてからの方がいいと思うんだが、二人はどう思う?」
と俺は質問で返した。
「その方が、何を作れば良いかが分かるのです」
とシーナは言い、ティアも頷いた。
「よし、ならばエギル伯爵の処へ行って、偵察隊を組織してもらおう。そして、偵察隊は、俺達3人で指揮をすればいいだろう」
と俺は言って立ち上がった。
「さあ、今日も神殿に貴族達が集まって来る。それまでに昼食を済ませておこう」
と俺が言うと、ティア達も「はい!」と言って立ち上がったのだった。
△△△△△△△△△△△△
「本日も、メチル王国を支える貴族の皆様が集いし事に感謝を申し上げます」
いつもの神殿の中の光景だ。
「おお! 龍神クラオ様の御心が今日も安らかなる事に感謝を!」
と神官が言うのに続き、貴族達も声を合わせて
「龍神クラオ様の心が今日も安らかなる事に感謝を!」
といつもの通りに言った。
神官はこちらを振り返り、
「本日は、これまでで最高に喜ばしい話がありますぞ!」
と言った。
そして神官は
「龍神の御使いが、東の魔境を統べる魔王の首を討ち取って下さるとのお告げがあったのです!」
と言って、両手を広げた。
すると貴族達に「おおおー-!!」といつもより大きな騒めきが起こった。
「その御使い様は、既にこの街に入られたとの話も聞こえております。天よりバティカの神殿に降り立ち、伝説の通り、空を飛んで来たのだという街の者もおりました」
と言って両手を天に向けて突き上げ
「我々の声が! 祈りが! 想いが! 龍神様に届いたのです!」
と言って、神官は咽び泣き出した。
(おいおい・・・ あれって俺達の事だよな?)
エギル伯爵から伝わった話なのだろうが、ちょっと話が大袈裟になってやしないか?
それにあの神官の演技みたいに大袈裟な身振り。
まるで演劇を見せられてる気分だぜ。
「そして御使い様は、近いうちにこちらの神殿にも姿を現し、皆様にも御使い様の姿を拝顔頂く事となるでしょう!」
と神官は涙ながらに語り、いつもの様にお辞儀をして
「では、皆様の心ばかりのご寄付を・・・」
と言って賽銭箱の横に控えた。
貴族達が立ち上がり、1列になって賽銭箱に金貨を入れてそのまま出口へと向かっていく。
俺とティアとシーナも列の最後尾に並び、今日は金貨2枚を入れて神殿を出た。
すると、人混みの中からエギル伯爵がやってきて
「ショーエン様! 本日も神殿にお越しになっていたとは!」
と言って頭を下げた。
「エギル伯爵、今日の神官の話を聞くに、随分と情報が早いと思って驚いたぞ」
と俺は、商人ではなく御使いとして接する事にした。
「勿論でございます。希望に溢れたお話は、出来るだけ早く皆に伝えなければなりません。でなければ、他の貴族がショーエン様に近寄って甘言で惑わすなどの危険も御座いますからな」
と、尤《もっと》もらしい事は言っているが、要は「嬉しくて我慢できませんでした」って事だろう。
子供か、こいつは。
別にもう、広まっちゃったんなら仕方ないけどな。
「まあ、ここで会えたのは丁度良かった。エギル伯爵に頼みたい事があってな」
と俺が言うと、
「何なりと」
とエギル伯爵が返す。
「今朝、商会に行っていくつかの商材をこの街で広めてもらう契約を行ってきたんだ。そのサポートを伯爵に頼みたい」
と俺は言った。
「サポートと言いますと?」
とエギルは首を傾げる。
「細かい事はサルバ商会長に訊いてくれ。 殆どが世界中に広める商材で、当然バティカにも売り込むから、貴族の連携は必要だ。土地の管理を貴族がしてるんだから、工房の拡充をするのも貴族の協力があった方が捗る」
と俺は説明した。
「なるほど、承知しました」
とエギル伯爵は言って、頭を下げた。
「あ、そうだ」
と俺は閃《ひらめ》いた事があって声を出した。
「せっかくだから、明日は神殿で、俺達が皆に姿を見せてやるとしよう」
と俺は言った。
すると、エギル伯爵はみるみる顔を輝かせ、
「それは素晴らしい! ならば今から神官長に私から話を通しておきますぞ!」
と言った。
俺は「いいだろう」と頷き、
「では、明日は俺達は9人で現れる事にする。神官長にはそう伝えておくがいい」
と言った。
「承知しました!」
とエギル伯爵は、そのまま神殿の中へと戻っていくのだった。
ほんと、ここの貴族は勤勉だね。
クラオ団長が言う様な、強欲や傲慢な態度は見られないし、野蛮な遺伝子だなどと、この街に来てから思った事は一度も無い。
しかし、東の大陸にあるという魔境とやらにはそういう連中がゴロゴロしているかも知れない。
もしそいつらがその元凶なら、俺が叩き潰すまでだ。
「よし、俺達は宿に帰ろうか」
と俺はティア達と共に宿屋に帰ったのだった。
△△△△△△△△△△△△
俺はガイア達にも事の事情を話しておき、明日の神殿で壇上に立つ事の承諾を得た。
メルスやイクス達には、ティアとシーナが事情を説明してくれ、皆が一様に賛同してくれた。
特にミリカは
「ならばバティカで作った特製の衣装で壇上に上がりましょう!」
と、例の特別な衣装をみんなに着る様に言い、「ガイアさんとテラさんの分を今から作りますね!」
と言うので、ガイア達のおおまかな体形の情報をデバイスで送信しておいた。
ティアとシーナは何やら武器を作るんだとかで、発電機を持ってメルス達に何かを依頼しに行った。
「ふうっ」
と俺は息を吐いてベッドに寝転がった。
これでこの街の商業や流通は、あとは商会と貴族に任せておけばいいだろう。
メルスやライドにしか作れない物はあるが、街の工房には材料の作り方は伝授したらしいので、技術者を育成してやればあとはこの街も発展していくだろう。
最もバティカと近い位置にあるメチル王国を中心に、イスラ王国、ノシア王国、オスラ王国とももっと交易出来るようになれば、いずれバティカとの交易も盛んになるだろう。
そうなれば、貴族達の「遺伝子争奪戦」など必要が無くなるし、この大陸全土にその豊かな経済が巡ってゆく事になるだろう。
豊かな経済は人々の心も豊かにしていくものだ。
やりがいのある仕事は、その人の自尊心を高めるものだ。
そうして社会の歯車が回りだし、やがてこの世界は、皆が満足できる一生を送れる様になってゆくのだろう。
しかし、今ある懸念が「東の大陸の魔王」の存在だ。
それも自ら「レプト」と名乗っているというのだから、レプト星からの脱走者だと名乗っている様なものだ。
しかも、それの意味が解るのは、俺達の様な移住者だけだ。
つまり、誘っているのだろう。
プレデス星で純粋培養された人間を。
技術力が高く、しかしコミュ力が低い「従順なカモ」を。
「ハハッ、そうはいくかっての」
と俺は声に出して言い、
「魔王とやらが何を企んでいるのかは知らねーが、俺はそう簡単にやられねーぞ」
と独り言を言った。
俺達がこの星の秩序を正し、そして俺は、地球に行ってこれまで感じていた謎を全て解いてやるんだ。
そして地球で起こっていた事を知り、地球で今も生きているだろう人間達を救いたい。
(そうだ。この旅は、そういう旅なんだ。)
俺はそんな事を考えながら、いつしか眠っていたのだった。
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翌朝、目が覚めるとベッドにはティアとシーナがパジャマ姿で眠っていた。
俺もいつの間にかパジャマ姿になってるあたり、ティア達が着替えさせてくれたのかも知れない。
なんだ、全然気付かなかったな。
ティア達はまだ眠っているので、俺はガイア達にデバイスで「昼食をこちらの宿屋で一緒に取ろう」と送っておいた。
ほどなくしてガイア達から「了解」と返信があった。
俺は服を脱いで風呂に入る事にした。
昨日はいつの間にか眠っていたから、風呂に入れてなくて、少し身体が汗ばんでいたしな。
俺が風呂から出ると、ティア達が目覚めたところで
「おはよう、ショーエン」
と言ってティアが俺を見ている。
「ああ、おはよう、ティア」
と俺は返し、シーナにも「おはよう、シーナ」
と言った。
「おはようなのです」
と寝ぐせを付けてまだ眠そうにしながらシーナは起き上がり、「昨日は頑張ってショーエンの武器を作ったのです」
と言った。
「おお、何を作ってくれたんだ?」
と俺がシーナの髪の寝ぐせを指で直してやりながら訊くと、
「これなのです」
と、シーナは肩をすぼめて少しくすぐったそうにしながら言い、キャリートレーに乗っていた1メートル位の長さの筒を持ち上げた。
「それは?」
「特別なレールガンを作ったの」
とティアが得意げに答えた。
ティアとシーナの説明によると、これまでのレールガンの様に磁力で弾丸を飛ばすのではなく、レーザー光を飛ばして対象物を焼き切る能力を持つ武器だそうで、
「ビームライフルかよ」
と俺がつい言ってしまうような代物だった。
使い方はデバイスで操作するタイプのもので、レールガンと変わりは無い。
エネルギーは電力だが、ティアが作った発電機が近くにあれば、非接触でも充電が出来て、無限にビームが打てるらしい。
すげーな。
まるでロボットアニメの世界に出てきそうな武器だ。
これをこの世界の人間が見たら、「神の杖」やら「神の光」やら、また勝手に名付けるんだろうな。
「いい武器だな! さすがティアとシーナだ。 お前達は最高だ!」
と俺は二人に強めのハグをした。
二人はそれですっかり目覚めた様子で、
「良かった! じゃあ今日は昼から神殿に行かなきゃだし、早目に昼食にしようね!」
とティアなどは早速着替えを始めていた。
「ああ、ガイア達も昼食に呼んだから、あいつらと合流しよう」
と俺が言うと、こちらも着替えを済ませたシーナが、
「なので、ショーエンも早く服を着るのです」
と、まだ全裸の俺を見てそう言ったのだった。
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「皆様! こちらに居られる皆様が龍神の御使いの皆様ですぞ!」
と神官が俺達を壇上に立たせてそう言った。
「おおおー!!!!」
と貴族達から盛大な拍手が起こる。
俺達はミリカが作った特製衣装を身に纏い、ガイア達と合流してから昼食をとり、貴族達が集まる前に神殿に入った。
神殿には既にエギル伯爵が到着していて、神官達と色々打合せをして、既に段取りは済ませていた様だった。
そして貴族達が集まりだして、いつもの演説が始まったかと思うと、俺達は壇上に誘導されて現在に至るという訳だ。
「今回、東の大陸を魔境にせしめた魔王の首を取るべく、龍神クラオ様が遣わして下さった御使いの方々です!」
と神官は言い、神官が何か言う度に貴族達が湧く。
「御使い様方の主人がこの方、ショーエン・ヨシュア様でございます!」
と俺を紹介すると、また貴族達が湧く。
「そして、ショーエン様の従者の皆様です!」
と言ってティア達を並ばせ、
「ティア・ヨシュア様、シーナ・ヨシュア様、メルス・ディエン様、ライド・エアリス様、イクス・イエティ様、ミリカ・イエティ様」
とそこで一旦置いて、
「皆様が既にご存じのランタンを創造された、商人の姿で我々に接して下さった方も御使い様でございました」
と言って一呼吸置き、
「ガイア・サザリー様、テラ・サザリー様でございます!」
と言った。
「御使い様方は、この街とこの国の発展に寄与すべく、商会長を通じて様々な技術をご提供くださいました。誠に、感謝の念に堪えません」
と神官は続けた。
「よってここに、ショーエン様を、魔王の首を討ち取る龍神の伝説になぞらえ、伝説の勇者様と呼んで皆で称えようではありませぬか!」
と神官が言うと、これまでで一番の歓声と拍手が沸き起こった。
おいおい、伝説の勇者って・・・
これじゃまるで、本当にファンタジー漫画の世界になったみたいじゃねーか。
「ゆ・う・しゃ! ゆ・う・しゃ!」
と勇者コールが起きている。
神官は俺に「何かコメントしてほしい」といった顔で俺に目配せをしている。
はあ・・・、仕方がねーか。
と俺は壇上に上がって右手を上げ、皆の恥ずかしい勇者コールを制した。
途端に皆は静まり返り、シーンという音が聞こえて来る様だった。
俺は貴族達を見回し、口を開いた。
「皆の者! 龍神は皆の平和と安寧を願い、自らの力で発展する事を望んでおられる」
と俺は前置きし、
「しかし! 東に巣食う魔王とやらが、龍神の望まぬ事をしているというではないか?」
と俺は両手を上げた。
「そして竜神クラオは我々を地上に送り、この星を正せと仰せになった」
と俺は両手を拳に変え、
「ならば正そう。それが龍神の願いならば!」
と俺は締めくくり、両手を天井に向けて突き上げ、皆の顔を見た。
すると、一瞬の静寂があったかと思うと、神殿の中に割れんばかりの歓声が沸き起こり、再び場内から勇者コールが始まった。
俺はそんな貴族達の姿を見ながら、
「ほんと、みんなピュアだねぇ・・・」
と小声で呟いていたのだった。
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