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真実に触れる頃
テキル星(21)ドラゴンの巣
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「今、丁度0時を回ったな」
と俺が言うと、俺の右後ろに座っているティアが
「そうね」
と答えて伸びをした。
食事を終えた俺達は、3人ずつのグループを作って交代制で見張りをし、残りの6人がテントで睡眠をとる事にしていた。
イクスとミリカとテラのチーム。ライドとメルスとガイアのチーム。
そして俺とティアとシーナのチームだ。
睡眠は3時間交代という事にしたが、俺達は22時から見張りをしていて、丁度2時間が経過したところだった。
あと1時間が経てば、今度はライド達のチームと見張りを交代し、最後にイクス達のチームが見張りを行う事にしている。
テントの横には自動車を留めていて、8個のランタンを周囲に20メートル間隔位で半径30メートル位の円形に配置している。
俺達は背中合わせで座って、全方向を視認出来る様にしていた。
背中に二人の体温が伝わり、二人は俺の背中に体重を預けている。
ランタンの光は周囲5メートルくらいしか照らさないので、ランタンを設置している20メートルの間の10メートルは薄暗闇に包まれているが、もし何かが通っても気配を感じる事は出来るだろう。
もし俺達を襲う獣が現れても、30メートル以上離れた場所で視認できる筈だから、手元にあるレールガンで攻撃すれば、充分に迎撃出来るだろう。
上空を見ると、星々の光が無数に見える。
こうしていると、ここの景色も地球と何も変わらない。
敢えて違いがあるとするなら、月が無い事くらいか。
テキル星が属するシン星系も、巨大な星雲の一部に属するせいか、空の端には天の川の様な星雲の筋が見えている。
夕方に周囲を探索した感じでは危険な感じはしなかったが、しかしその時に感じた一抹の不安を今も抱えていた。
自分でも不安の正体が解らない。
見落としは無いはずなのだが、どうにも落ち着かないのだ。
「なあ、シーナ」
と俺はシーナに頼ってみる事にした。
「俺は夕方位から、この広場に嫌な感じがしてるんだが、シーナがこの広場に感じる不自然さみたいなものがあれば教えてくれないか?」
と俺が前方の森があるであろう暗闇を見ながら言うと、シーナは頷いたのか、背中の左側に微かなシーナの挙動が感じられた。
「不自然さですか…」
と言いながら辺りを見回している様だ。
「敢えて言うなら、この広場の形が正円では無いのです」
と言った。
「それがどうして不自然なの?」
とシーナの言葉にティアが反応した。
シーナは「う~ん」と少し考えてから
「自然に出来た広場なら、日光と風の流れに影響された形になる筈ですが、ここはそうでは無いのです。逆に人工的なら、もっと正円に近い形で作る筈なのです」
と言って、「ショーエンは、昔この近くに住んでた人の集会場だろうと言っていたのです。だけどこの広場は正円ではなくて、傘が開いていないキノコみたいな形をしているのです」
と続けた。
なるほど、確かにそうだ。
俺が無意識に感じていたのはそういう事かも知れない。
丸い円形の広場ではあるが、森を歩いていて、それが正円で無い事は分かっていた。
「確かにそうね。歩いてる時は全然気にならなかったけど…」
とティアは言いながら辺りを何度も見回している様だ。
「ダメね。暗すぎて目視は無理ね」
と言いながら「サーモセンサーの距離計測機能を使えば、形が把握できるかも知れないわね」
とデバイスでキャリートレーを呼び出し、荷物の中からサーモセンサーを取り出した。
ティアは立ちあがってサーモセンサーを起動し、水平にレーザーを照射しながらその場でグルリと一回転して見せた。
するとサーモセンサーに取り付けられた小さなモニターに「表面温度:17.82度。気温:18.46度」という表示と共に、レーザーを照射した対象物までの距離が図になって表れた。
そこに現れた図の形状は、例えるなら、早く抜きすぎた松茸の断面の様でもあり、角を丸く削った前方後円墳の様でもあった。
「何だろう・・・、まるで、巨人が自分の周囲と川までの森を焼き払ったかの様な形ね」
とティアが言ったのを聞いて、俺は身がすくむ気がした。
(巨人? 焼き払った? 木の根も残さずに?)
「もしティアの言う通りなら、一体どれだけ巨大な火炎放射器を使ったんだろうな」
と俺は冗談めかして言い、「まるで龍神がフレアブレスで焼き払ったみたいに、木の根まで焼き尽くせる兵器が・・・」
と俺はそこまで言って口をつぐんだ。
(・・・フレアブレス?)
何もフレアブレスは龍神だけの専売特許って訳では無いんじゃないか?
俺が夢で見たドラゴンだって、同じ事ができやしないか?
「ティア! もう一度さっきの図を見せてくれ!」
と俺は少し大きな声を出していたようだ。
ティアはビクッと驚いた様に俺を見て、
「ど、どうしたのショーエン?」
と言いながらサーモセンサーのモニターを俺に見せた。
この形・・・
もしもドラゴンが川の方を向いたまま、首だけを動かして自分の周囲を焼き払ったとしたら、こんな形になるんじゃないか?
人間を一瞬で蒸発させるだけの高温のブレスだ。木の根も残さずに、焼き払う位の事は出来るんじゃないか?
だとしたら、ここはドラゴンの住処なんじゃないのか?
「ティア、シーナ。これは可能性の一つだが・・・」
と俺はティアとシーナを見ながら「もしかしたらここは、ドラゴンの巣かも知れない」
と言った。
二人は「ええ?」と言って驚いたが、シーナはすぐに
「魔境にはレプト星から来た罪人が居るかも知れないのですから、遺伝子操作が得意な人が居てもおかしくは無いのです。その可能性は考えておくべきなのです」
と言って辺りを見回した。
「今は放棄された巣かも知れませんが、遺伝子操作されたドラゴンという動物が居た場合、この場所は獲物も多いし、きっと住むには良い場所なのです」
とシーナは続けた。
その通りだ。
今まで何故気付けなかったのだろう。
人間サイズを基準にした視点でしか考えていなかったなんて。
俺達が龍神の使いとして行動していて、龍が敵になるだなんて考えもしなかったからか。
どちらにしろ、俺達が油断していた事は確かな様だ。
「さすがシーナだぜ。俺もうっかり油断をしていた様だ。俺達が手も足も出ない敵が出るかも知れない事を想定し忘れるだなんて、俺も傲慢になったもんだな」
と俺はそう言った。
「今夜だけでも無事に過ごせればいいんだが・・・」
と俺は呟きながら周囲を何度も見回した。
大体こういう悪い予感ってのに限って当たるものだと思ったが、空に異変は感じられない。
とその時、背後でガサガサと音が鳴り、俺はハッとして音がした方を振り向いた。
するとそこには
「あ、おはようございます」
と言いながらテントから出てくるライドの姿があり、「まだ20分前ですが、目が覚めてしまったので、僕もここに居ますね」
と立ち上がって、その場で両手をあげて伸びをした。
「メルスとガイアは?」
と俺が訊くと、ライドは肩をすくめて
「メルスはもう起きてますよ。今、ガイアさんを起こしてるところだと思いますので、10分以内には起きてくると思います」
と言った。
そうか。
「ところでショーエンさん」
とライドが声を掛けてきた。「ガイアさんとテラさんも、ガイア星を目指しているんですよね?」
と言うライドに、
「ああ、そうらしいな。何の偶然かは知らないが、あいつらの名前もガイアとテラだ。ガイアが惑星で、テラってのはガイアの衛星の名前だぜ」
と俺が言うと、
「そうなんですね・・・」
と言って少し間を置き、「ガイアさんもテラさんも、僕と同じクレア星の出身だと聞いて、僕も色々ガイアさんと話してみたんですけど、彼らはとても変わっています」
と言った。
ああ、そうかもな。
「何が変わってるんだ?」
と念のため俺は訊いてみた。
「そうですね・・・、ガイアさん達の知識が、ガイア星に偏り過ぎているというか・・・」
と言いながら手を顎に充てて、「ガイアの知識は、エネルギー資源に関する情報も化石燃料の情報ばかりで、その他の化学知識は平凡です」
と言い出した。
「学園をDクラスで卒業したという事でしたが、それにしてはガイア星についての話はものすごく詳しくしてくれるんです」
と続けるライドに、俺の隣で一緒に聞いていたシーナが
「作り話という事は無いのですか?」
とライドに訊いた。
ライドは首を横に振って
「分かりません・・・、でも、聞けば聞くほどにリアリティがあって、まるで目の前に情景を思い浮かべられる程なので、とても作り話には思えないんです」
と言った。
同じく俺の隣にいたティアが
「テキル星の惑星疑似体験施設を使ってたみたいだから、そこでの情報を分析したって事じゃないのかな」
と言ってライドを見たが、ライドは少し頷いただけで
「そうかも知れませんが、疑似体験で得られる情報だけでは、食べ物や飲み物の味までを語る事は出来ないと思うんです」
と言った。
ああ、まあそうだな。ライドの感想はごもっともだ。
まったくガイア達め。
余計な事をしゃべるなって言っておいたのに、結局は守秘義務の重さを知らない子供という事か。
友達から聞いた秘密を「絶対に誰にも言っちゃだめだよ」と言いながら次々と他の人に話してしまうアレと同じ感覚なんだろうな。
社会人になると、守秘義務を侵せば色々とペナルティがあるから、恐ろしくて誰にも話せない情報なんてものは沢山あった。
俺も前世の若い時に派遣社員で働いていた会社で、秘密を守る為の誓約書を書かされたりしたもんな。それを破ったら損害賠償を求められる様な内容だったし、たかが派遣社員にそんな責任負える訳が無いのに、だけど怖かったから、確かに秘密は守ったんだよな。
「ショーエンはどう思う?」
とティアが俺に訊いた。
「ガイア達の事か?」
と俺が訊き返すと、ティアは「うん」と頷いて俺を見る。
「あいつらは、少し特別なんだよ」
と俺は言い、ティアやシーナ、そしてライドの顔を見まわした。
「俺がガイア星を目指すのは、ガイア星が特別な星だからだ」
と俺は言った。「そして、その特別さに偶然気付いた事がきっかけで、俺は猛勉強をしてガイア星に詳しくなった」
と、これこそ作り話なのだが、デバイスに記録した作り話の設定をそのまま語る事にする。
「この星に来る前にもお前らに話したと思うが、レプト星を脱走した罪人達は、ガイア星を蝕んでいる」
と俺は語りだした。
ガイア星は人類の楽園ともいえる惑星なのに、それを独占しようとする強欲な連中がいて、俺はガイア星を奴らから取り戻したいと考えている事。
ガイアやテラも、俺と同じ事を考えている事。
ガイア星の知識に詳しいのは俺も同じで、詳しくなる為のきっかけは「ただの偶然」だった事。
ただ、ガイアとテラの目的は「ガイア星に移住する事」であって、俺の目的は「ガイア星を救う事」という違いがあるという事。
なので、ガイア星に移住する予定者であるガイアとテラは、俺の「保護下にある住民」なのだという事。
「だからあいつらを俺達の仲間にしようと考えたという訳だ」
と俺は言った。
「さすがショーエン、やっぱりすごいのです」
とシーナは頷き、「既に統治を実演レベルで出来ているのが、特に凄いのです」
と言って俺の左腕に抱き着いた。
そうしているうちに、テントがガサガサと音を立て、
「おはようございます」
とメルスが出てきて立ち上がった。
「ガイアは?」
と俺が言うと、メルスは首を横に振り、
「ちっとも起きてくれません。どうしましょうか?」
と言うので、俺はため息をつきながら
「しょーがねーなぁ」
と言ってテントの中を覗き、ムニャムニャと言いながら寝ているガイアの上に中腰で跨り、両手でガイアの左右の頬を、バチン!と強めに挟む様に叩いてやった。
「ハッ! な、何!?」
とガイアは飛び起き、キョロキョロと見回して俺の顔を見て目を丸くしている。
「おい、起きろ。見張りの交代時間だ」
と俺が言いながら身体をどけると、
「あ、ああ・・・、ごめん。すぐ起きるよ」
と言って四つん這いになり、隣で寝ているテラの方を確認して、ほっとした様に息を吐くと、少し屈んでテラのおでこにチュっとキスをしてからテントの外に出てきた。
「よし、交代要員が揃ったな」
と俺は言い、「俺達が見張りをしている間に異常は無かったが、お前達には注意して欲しい事がある」
と3人の顔を見渡してから、ティアの方を見て
「ティア、説明できるか?」
と訊いてみた。
ティアは頷きながら俺の隣に並び、ライド達3人の顔を見渡した。
「ショーエンが言った通り今のところ異常は無いけど、ちょっと気になる事ができたから、今から言う事をよく聞いて欲しいの」
と前置きをし、
「まだ未確定の情報だけど、この場所は、ドラゴンの巣かも知れない」
とティアは言った。
ティアは森の中に不自然に存在するこの平原とその形状について語り、クラオ団長以外にも遺伝子操作で龍に似た生物を創造した者が居るかも知れない事。
更にショーエンの考えでは、この規模の平原を木の根も残さずに焼き尽くせるのは「ドラゴンによるフレアブレス」くらいだろうという事。
「そしてそのドラゴンが、私達の味方とは限らないという事よ」
とティアは言って息を吐き、「だから周囲はもちろん、空にも注意を払って欲しいのと、仮にドラゴンが出た場合は、ショーエンを司令官として統率をしてもらうから、絶対に手出しをしないで、私たちを起こして欲しいって事ね」
「分かりました」
とライドとメルスは声を揃えて言い、
「本当にドラゴンなんて居るの?」
とガイアが言った。
ティアはため息をつき、
「未確定の情報だと言ったはずよ? それに、テキル星開拓団のクラオ団長は龍を創造してこの星に放った事は事実なんだから、魔王というのが同じ事が出来ないなんて考える方が甘いわよ」
と、少し強い口調でそう言った。
ティアはまるで、「バカを相手にするのは億劫《おっくう》だ」とでも言いたげな感じだな。
シーナも肩をすくめてガイアを見て、
「ショーエンがあなた達を保護すると言って無かったら、ここに放置して置き去りにしたい位のバカなのです」
とこちらは容赦の無い言葉を投げかける。
ガイアは「ええ?」と声を上げてから俺の顔を見て
「あ、あの・・・、こんな所に放置なんてしないですよね?」
と心配そうに訊いてきた。
「お前達がガイア星を目指しているなら、目的地は俺達と同じだから放置はしないさ」
と俺が言うと、ガイアは少しほっとした様だったが、「ただ、俺達のチームワークを乱す様なら、仲間では無くて荷物として扱うので、そのつもりで居ろよ」
と俺が言うと、
「え・・・」
と一瞬固まっていたが、ティアやシーナ達に睨まれてるのを感じて
「は、はい!」
とガイアは背筋を伸ばし、軍隊の様な敬礼をした。
「宜しい」
と俺はガイアを見て、「ガイアもテラも、恐らく自分が死ぬかも知れないなんて考えた事も無いだろうが、人間の命など、油断をすれば簡単に消し飛ぶぞ」
と言った。
「事実、ショーエンさんはバティカで2人を処刑していますからね」
とメルスが横から口を挟む。
それを聞いたガイアは驚いて
「え・・・、本当に?」
と俺とメルスの顔を交互に見てから、まだ信じられないのか、他のみんなの顔を見渡した。
そしてみんなが「あれは仕方が無いよね」と頷いているのと、シーナが
「ショーエンの質問にちゃんと答えなかったあいつが悪いのです」
と言っているのを見て、
「あ、あの・・・、これからはちゃんとしますので・・・」
とガイアは俺を見て懇願するようにそう言ったのだった。
と俺が言うと、俺の右後ろに座っているティアが
「そうね」
と答えて伸びをした。
食事を終えた俺達は、3人ずつのグループを作って交代制で見張りをし、残りの6人がテントで睡眠をとる事にしていた。
イクスとミリカとテラのチーム。ライドとメルスとガイアのチーム。
そして俺とティアとシーナのチームだ。
睡眠は3時間交代という事にしたが、俺達は22時から見張りをしていて、丁度2時間が経過したところだった。
あと1時間が経てば、今度はライド達のチームと見張りを交代し、最後にイクス達のチームが見張りを行う事にしている。
テントの横には自動車を留めていて、8個のランタンを周囲に20メートル間隔位で半径30メートル位の円形に配置している。
俺達は背中合わせで座って、全方向を視認出来る様にしていた。
背中に二人の体温が伝わり、二人は俺の背中に体重を預けている。
ランタンの光は周囲5メートルくらいしか照らさないので、ランタンを設置している20メートルの間の10メートルは薄暗闇に包まれているが、もし何かが通っても気配を感じる事は出来るだろう。
もし俺達を襲う獣が現れても、30メートル以上離れた場所で視認できる筈だから、手元にあるレールガンで攻撃すれば、充分に迎撃出来るだろう。
上空を見ると、星々の光が無数に見える。
こうしていると、ここの景色も地球と何も変わらない。
敢えて違いがあるとするなら、月が無い事くらいか。
テキル星が属するシン星系も、巨大な星雲の一部に属するせいか、空の端には天の川の様な星雲の筋が見えている。
夕方に周囲を探索した感じでは危険な感じはしなかったが、しかしその時に感じた一抹の不安を今も抱えていた。
自分でも不安の正体が解らない。
見落としは無いはずなのだが、どうにも落ち着かないのだ。
「なあ、シーナ」
と俺はシーナに頼ってみる事にした。
「俺は夕方位から、この広場に嫌な感じがしてるんだが、シーナがこの広場に感じる不自然さみたいなものがあれば教えてくれないか?」
と俺が前方の森があるであろう暗闇を見ながら言うと、シーナは頷いたのか、背中の左側に微かなシーナの挙動が感じられた。
「不自然さですか…」
と言いながら辺りを見回している様だ。
「敢えて言うなら、この広場の形が正円では無いのです」
と言った。
「それがどうして不自然なの?」
とシーナの言葉にティアが反応した。
シーナは「う~ん」と少し考えてから
「自然に出来た広場なら、日光と風の流れに影響された形になる筈ですが、ここはそうでは無いのです。逆に人工的なら、もっと正円に近い形で作る筈なのです」
と言って、「ショーエンは、昔この近くに住んでた人の集会場だろうと言っていたのです。だけどこの広場は正円ではなくて、傘が開いていないキノコみたいな形をしているのです」
と続けた。
なるほど、確かにそうだ。
俺が無意識に感じていたのはそういう事かも知れない。
丸い円形の広場ではあるが、森を歩いていて、それが正円で無い事は分かっていた。
「確かにそうね。歩いてる時は全然気にならなかったけど…」
とティアは言いながら辺りを何度も見回している様だ。
「ダメね。暗すぎて目視は無理ね」
と言いながら「サーモセンサーの距離計測機能を使えば、形が把握できるかも知れないわね」
とデバイスでキャリートレーを呼び出し、荷物の中からサーモセンサーを取り出した。
ティアは立ちあがってサーモセンサーを起動し、水平にレーザーを照射しながらその場でグルリと一回転して見せた。
するとサーモセンサーに取り付けられた小さなモニターに「表面温度:17.82度。気温:18.46度」という表示と共に、レーザーを照射した対象物までの距離が図になって表れた。
そこに現れた図の形状は、例えるなら、早く抜きすぎた松茸の断面の様でもあり、角を丸く削った前方後円墳の様でもあった。
「何だろう・・・、まるで、巨人が自分の周囲と川までの森を焼き払ったかの様な形ね」
とティアが言ったのを聞いて、俺は身がすくむ気がした。
(巨人? 焼き払った? 木の根も残さずに?)
「もしティアの言う通りなら、一体どれだけ巨大な火炎放射器を使ったんだろうな」
と俺は冗談めかして言い、「まるで龍神がフレアブレスで焼き払ったみたいに、木の根まで焼き尽くせる兵器が・・・」
と俺はそこまで言って口をつぐんだ。
(・・・フレアブレス?)
何もフレアブレスは龍神だけの専売特許って訳では無いんじゃないか?
俺が夢で見たドラゴンだって、同じ事ができやしないか?
「ティア! もう一度さっきの図を見せてくれ!」
と俺は少し大きな声を出していたようだ。
ティアはビクッと驚いた様に俺を見て、
「ど、どうしたのショーエン?」
と言いながらサーモセンサーのモニターを俺に見せた。
この形・・・
もしもドラゴンが川の方を向いたまま、首だけを動かして自分の周囲を焼き払ったとしたら、こんな形になるんじゃないか?
人間を一瞬で蒸発させるだけの高温のブレスだ。木の根も残さずに、焼き払う位の事は出来るんじゃないか?
だとしたら、ここはドラゴンの住処なんじゃないのか?
「ティア、シーナ。これは可能性の一つだが・・・」
と俺はティアとシーナを見ながら「もしかしたらここは、ドラゴンの巣かも知れない」
と言った。
二人は「ええ?」と言って驚いたが、シーナはすぐに
「魔境にはレプト星から来た罪人が居るかも知れないのですから、遺伝子操作が得意な人が居てもおかしくは無いのです。その可能性は考えておくべきなのです」
と言って辺りを見回した。
「今は放棄された巣かも知れませんが、遺伝子操作されたドラゴンという動物が居た場合、この場所は獲物も多いし、きっと住むには良い場所なのです」
とシーナは続けた。
その通りだ。
今まで何故気付けなかったのだろう。
人間サイズを基準にした視点でしか考えていなかったなんて。
俺達が龍神の使いとして行動していて、龍が敵になるだなんて考えもしなかったからか。
どちらにしろ、俺達が油断していた事は確かな様だ。
「さすがシーナだぜ。俺もうっかり油断をしていた様だ。俺達が手も足も出ない敵が出るかも知れない事を想定し忘れるだなんて、俺も傲慢になったもんだな」
と俺はそう言った。
「今夜だけでも無事に過ごせればいいんだが・・・」
と俺は呟きながら周囲を何度も見回した。
大体こういう悪い予感ってのに限って当たるものだと思ったが、空に異変は感じられない。
とその時、背後でガサガサと音が鳴り、俺はハッとして音がした方を振り向いた。
するとそこには
「あ、おはようございます」
と言いながらテントから出てくるライドの姿があり、「まだ20分前ですが、目が覚めてしまったので、僕もここに居ますね」
と立ち上がって、その場で両手をあげて伸びをした。
「メルスとガイアは?」
と俺が訊くと、ライドは肩をすくめて
「メルスはもう起きてますよ。今、ガイアさんを起こしてるところだと思いますので、10分以内には起きてくると思います」
と言った。
そうか。
「ところでショーエンさん」
とライドが声を掛けてきた。「ガイアさんとテラさんも、ガイア星を目指しているんですよね?」
と言うライドに、
「ああ、そうらしいな。何の偶然かは知らないが、あいつらの名前もガイアとテラだ。ガイアが惑星で、テラってのはガイアの衛星の名前だぜ」
と俺が言うと、
「そうなんですね・・・」
と言って少し間を置き、「ガイアさんもテラさんも、僕と同じクレア星の出身だと聞いて、僕も色々ガイアさんと話してみたんですけど、彼らはとても変わっています」
と言った。
ああ、そうかもな。
「何が変わってるんだ?」
と念のため俺は訊いてみた。
「そうですね・・・、ガイアさん達の知識が、ガイア星に偏り過ぎているというか・・・」
と言いながら手を顎に充てて、「ガイアの知識は、エネルギー資源に関する情報も化石燃料の情報ばかりで、その他の化学知識は平凡です」
と言い出した。
「学園をDクラスで卒業したという事でしたが、それにしてはガイア星についての話はものすごく詳しくしてくれるんです」
と続けるライドに、俺の隣で一緒に聞いていたシーナが
「作り話という事は無いのですか?」
とライドに訊いた。
ライドは首を横に振って
「分かりません・・・、でも、聞けば聞くほどにリアリティがあって、まるで目の前に情景を思い浮かべられる程なので、とても作り話には思えないんです」
と言った。
同じく俺の隣にいたティアが
「テキル星の惑星疑似体験施設を使ってたみたいだから、そこでの情報を分析したって事じゃないのかな」
と言ってライドを見たが、ライドは少し頷いただけで
「そうかも知れませんが、疑似体験で得られる情報だけでは、食べ物や飲み物の味までを語る事は出来ないと思うんです」
と言った。
ああ、まあそうだな。ライドの感想はごもっともだ。
まったくガイア達め。
余計な事をしゃべるなって言っておいたのに、結局は守秘義務の重さを知らない子供という事か。
友達から聞いた秘密を「絶対に誰にも言っちゃだめだよ」と言いながら次々と他の人に話してしまうアレと同じ感覚なんだろうな。
社会人になると、守秘義務を侵せば色々とペナルティがあるから、恐ろしくて誰にも話せない情報なんてものは沢山あった。
俺も前世の若い時に派遣社員で働いていた会社で、秘密を守る為の誓約書を書かされたりしたもんな。それを破ったら損害賠償を求められる様な内容だったし、たかが派遣社員にそんな責任負える訳が無いのに、だけど怖かったから、確かに秘密は守ったんだよな。
「ショーエンはどう思う?」
とティアが俺に訊いた。
「ガイア達の事か?」
と俺が訊き返すと、ティアは「うん」と頷いて俺を見る。
「あいつらは、少し特別なんだよ」
と俺は言い、ティアやシーナ、そしてライドの顔を見まわした。
「俺がガイア星を目指すのは、ガイア星が特別な星だからだ」
と俺は言った。「そして、その特別さに偶然気付いた事がきっかけで、俺は猛勉強をしてガイア星に詳しくなった」
と、これこそ作り話なのだが、デバイスに記録した作り話の設定をそのまま語る事にする。
「この星に来る前にもお前らに話したと思うが、レプト星を脱走した罪人達は、ガイア星を蝕んでいる」
と俺は語りだした。
ガイア星は人類の楽園ともいえる惑星なのに、それを独占しようとする強欲な連中がいて、俺はガイア星を奴らから取り戻したいと考えている事。
ガイアやテラも、俺と同じ事を考えている事。
ガイア星の知識に詳しいのは俺も同じで、詳しくなる為のきっかけは「ただの偶然」だった事。
ただ、ガイアとテラの目的は「ガイア星に移住する事」であって、俺の目的は「ガイア星を救う事」という違いがあるという事。
なので、ガイア星に移住する予定者であるガイアとテラは、俺の「保護下にある住民」なのだという事。
「だからあいつらを俺達の仲間にしようと考えたという訳だ」
と俺は言った。
「さすがショーエン、やっぱりすごいのです」
とシーナは頷き、「既に統治を実演レベルで出来ているのが、特に凄いのです」
と言って俺の左腕に抱き着いた。
そうしているうちに、テントがガサガサと音を立て、
「おはようございます」
とメルスが出てきて立ち上がった。
「ガイアは?」
と俺が言うと、メルスは首を横に振り、
「ちっとも起きてくれません。どうしましょうか?」
と言うので、俺はため息をつきながら
「しょーがねーなぁ」
と言ってテントの中を覗き、ムニャムニャと言いながら寝ているガイアの上に中腰で跨り、両手でガイアの左右の頬を、バチン!と強めに挟む様に叩いてやった。
「ハッ! な、何!?」
とガイアは飛び起き、キョロキョロと見回して俺の顔を見て目を丸くしている。
「おい、起きろ。見張りの交代時間だ」
と俺が言いながら身体をどけると、
「あ、ああ・・・、ごめん。すぐ起きるよ」
と言って四つん這いになり、隣で寝ているテラの方を確認して、ほっとした様に息を吐くと、少し屈んでテラのおでこにチュっとキスをしてからテントの外に出てきた。
「よし、交代要員が揃ったな」
と俺は言い、「俺達が見張りをしている間に異常は無かったが、お前達には注意して欲しい事がある」
と3人の顔を見渡してから、ティアの方を見て
「ティア、説明できるか?」
と訊いてみた。
ティアは頷きながら俺の隣に並び、ライド達3人の顔を見渡した。
「ショーエンが言った通り今のところ異常は無いけど、ちょっと気になる事ができたから、今から言う事をよく聞いて欲しいの」
と前置きをし、
「まだ未確定の情報だけど、この場所は、ドラゴンの巣かも知れない」
とティアは言った。
ティアは森の中に不自然に存在するこの平原とその形状について語り、クラオ団長以外にも遺伝子操作で龍に似た生物を創造した者が居るかも知れない事。
更にショーエンの考えでは、この規模の平原を木の根も残さずに焼き尽くせるのは「ドラゴンによるフレアブレス」くらいだろうという事。
「そしてそのドラゴンが、私達の味方とは限らないという事よ」
とティアは言って息を吐き、「だから周囲はもちろん、空にも注意を払って欲しいのと、仮にドラゴンが出た場合は、ショーエンを司令官として統率をしてもらうから、絶対に手出しをしないで、私たちを起こして欲しいって事ね」
「分かりました」
とライドとメルスは声を揃えて言い、
「本当にドラゴンなんて居るの?」
とガイアが言った。
ティアはため息をつき、
「未確定の情報だと言ったはずよ? それに、テキル星開拓団のクラオ団長は龍を創造してこの星に放った事は事実なんだから、魔王というのが同じ事が出来ないなんて考える方が甘いわよ」
と、少し強い口調でそう言った。
ティアはまるで、「バカを相手にするのは億劫《おっくう》だ」とでも言いたげな感じだな。
シーナも肩をすくめてガイアを見て、
「ショーエンがあなた達を保護すると言って無かったら、ここに放置して置き去りにしたい位のバカなのです」
とこちらは容赦の無い言葉を投げかける。
ガイアは「ええ?」と声を上げてから俺の顔を見て
「あ、あの・・・、こんな所に放置なんてしないですよね?」
と心配そうに訊いてきた。
「お前達がガイア星を目指しているなら、目的地は俺達と同じだから放置はしないさ」
と俺が言うと、ガイアは少しほっとした様だったが、「ただ、俺達のチームワークを乱す様なら、仲間では無くて荷物として扱うので、そのつもりで居ろよ」
と俺が言うと、
「え・・・」
と一瞬固まっていたが、ティアやシーナ達に睨まれてるのを感じて
「は、はい!」
とガイアは背筋を伸ばし、軍隊の様な敬礼をした。
「宜しい」
と俺はガイアを見て、「ガイアもテラも、恐らく自分が死ぬかも知れないなんて考えた事も無いだろうが、人間の命など、油断をすれば簡単に消し飛ぶぞ」
と言った。
「事実、ショーエンさんはバティカで2人を処刑していますからね」
とメルスが横から口を挟む。
それを聞いたガイアは驚いて
「え・・・、本当に?」
と俺とメルスの顔を交互に見てから、まだ信じられないのか、他のみんなの顔を見渡した。
そしてみんなが「あれは仕方が無いよね」と頷いているのと、シーナが
「ショーエンの質問にちゃんと答えなかったあいつが悪いのです」
と言っているのを見て、
「あ、あの・・・、これからはちゃんとしますので・・・」
とガイアは俺を見て懇願するようにそう言ったのだった。
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それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記
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辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
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つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
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+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
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チートを貰い転生した。
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※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
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2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
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転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
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