氷河期ホームレスの異世界転生 ~俺が失ったものを取り戻すまで~

おひとりキャラバン隊

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真実を背負う頃

地球(1)青い星が見えた日

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 俺達が惑星開拓団から貸与された宇宙船は、随分と小型だった。

 ボディの大きさは、前世の地球でよく見る国際線の旅客機くらいだろうか。

 翼が無い分、随分と小ぶりに見える。

 だけどこれでも光速航行は出来るらしいし、座席スペースの他に、2部屋だけだが一応居住スペースもある。

 あとは倉庫がある位で、とても質素で無機質な内装の空間だ。

 船内全体が無重力空間になっており、俺達が思う様に船内を移動出来るまでに3日を要した。

 コクピットには惑星開拓団の操縦士が二人居て、あまり俺達と接する事は無いが、俺達をテラまで無事に運ぶ任務を受けているらしいので、優秀な彼らなら心配はいらないだろう。

「これほど食事が難しいとは思いませんでしたよ」
 とイクスが言う通り、無重力での食事というのはとても難しい。

 船内に積まれていた食料は、塩で味付けされた餅の様なパンと水だけで、つまりは味気ないものしか無かった。

 光速航行でもテラまでは3か月半かかるらしく、現実世界では3年近く経過してしまうらしい。

 おかげで俺達がテラに到着する頃には、みんな21歳になってしまう訳だ。

 随分と幼い21歳だな。

 俺はシーナの姿を見ながらそう思っていた。

 シーナはそんな俺を見て、
「どうしましたか?」
 と訊いて来たが、俺は
「お前はいつ見ても可愛いな」
 と言っておいた。

 シーナは嬉しそうにムフフと照れ笑いしながら俺の左腕に抱き着いてきたが、無重力のせいで身体が浮いてしまう。

 俺は浮いてしまうシーナの身体を抱き寄せて、シートベルトで固定している俺の身体に近づけた。

 今日で出航から1週間。

 俺達の間には、食事への不満が蓄積していて、無重力のせいで満足な運動もできず、空間も狭くて特にする事が無いせいで、何となくみんなストレスを溜め込んでいる気がしてならない。

 特にイクスとミリカは、2つある個室の内の一つを夫婦部屋にしようと目論んでいた様だが、無重力のせいで性の営みが思うように出来なかった様で、3か月半もの禁欲生活をしなければならない事に不満そうだ。

 口には出さないが、ティアとシーナも同じ気持ちなのかも知れない。

 何か手を打たないと、テラに着く前に一波乱ありそうな気がするぜ。

 となると、やっぱアレだな。

 肉体的な満足感を得られないのなら、食欲を満足させるのがいいよな。

 つまりは、旨い宇宙食を作らねばって事だな。

 しかし、この船には調理用の施設なんて無いし、出来る事は限られている。

 更に無重力のせいで、できる作業も相当に限られてくる状況だ。

「さて、どうしたものかな」
 と俺が呟くと、シーナ俺を見ながら
「何かしたい事があるのですか?」
 と訊いて来た。

「ああ、この1週間ロクなものを食べてないだろ? 何か旨い物をこの船で作ることが出来ないかと思ってな」

「なら、ホットケーキがいいのです」
 とシーナは即答した。

 なるほど、加熱調理が出来れば言い訳だから、持参している小麦粉と砂糖と豆乳で出来ない事は無さそうだ。

 小麦粉が中空にバラ撒かれると大変ではあるが、何か袋の中で生地を作れば何とかなりそうだ。

 ただ、生地を焼く方法が無さそうなのだが・・・

「この船に加熱調理できそうな物はあるか?」
 と俺が誰とも無しにそう訊くと、シーナが得意げに倉庫の方を指さし、
「倉庫にある材料で、電磁波を使った加熱器くらいは作れる筈なのです」
 と言った。

 なるほど!
 電子レンジか!

「さすがシーナだ! よし、じゃあイクスにレシピを伝えるから、電磁調理器の準備を頼めるか?」
 と俺が言うとシーナはヒョイと起き上がり、

「了解なのです!」
 と床を蹴って倉庫の方へと向かった。

 座席でミリカと何やら楽し気に話していたイクスがハッと顔を上げて俺を見たあたり、シーナからホットケーキの調理についてデバイスでメッセージでも送られたのだろう。

 俺はイクスに向かってホットケーキのレシピを伝えると、イクスは
「了解」
 と短くデバイスで返信して、すぐにシーナの後を追う様に倉庫の方へと向かって行ったのだった。

△△△△△△△△△△△△

 2時間は経過しただろうか。

 シーナはあり合わせの材料を使って四角い箱型の電子レンジを作って来た。

 電源は宇宙船からいくらでも供給されている。

 発電は宇宙船に装備された日光吸収パネルを使っているらしく、特に光速航行中は宇宙船の周囲の空間の光だけで瞬時に充電できるらしい。

 確かに、光速航行中の船外って、眩しい光に包まれてるもんな。

 光速航行してれば半永久的に発電できるって事だ。

 随分と身近に永久機関の存在があったもんだ。

 宇宙ってすげーな。

 前世の地球で頻繁に行われていたエネルギー争奪戦争がバカバカしく感じる技術だぜ。

「シーナは凄いな。もう完成したのか」

 俺が感心してそう言うと、シーナはドヤ顔で
「当然なのです」
 と誇らしげだ。

「何なに? シーナは何を造ったの?」
 とティアが話しかけてきたが、それがホットケーキを作る為の電子レンジだと解ると、文字通りその場で浮き上がって喜んでいた。

 ミリカやライド、メルスやガイア、テラまでが「ホットケーキ」という言葉に反応し、未知の食べ物に期待感を膨らませているのが分かる。

 そうなんだよな。

 ホットケーキを食べた事があるのって、俺とティアとシーナだけなんだよな。

 まあ、ガイアとテラは地球で食べた事があるだろうけど。

「ショーエンさん、ホットケーキが食べられるって本当ですか?」
 とガイアが俺の元にやってきて目を輝かせながらそう訊いた。

「ああ、イクスにレシピは送ったから、イクスに作ってもらうといいぞ」
 と俺が言うと、
「了解!」
 と即座に壁を蹴ってイクスの元へと飛んで行った。

 俺達はそうして食事の改善を図りながら、退屈な宇宙船の中での生活を、少しでも豊かにしようと過ごしていたのだった。

 そうして出発から3か月半が経過した頃、イクスの作る料理にすっかりハマっていた惑星開拓団の操縦士の一人がコクピットから出てきて俺達に言った。

「あと2時間で通常航行に移る。そこから1時間程度でテラに到着だ。テラに入る時には少し振動するからな。みんなシートでベルトを装着しておいてくれ」

「わかった、有難う」
 と俺は返し、「みんな、聞いた通りだ。あと3時間でテラに到着だ。そこからが俺達の冒険の始まりだ。はしゃいだりしてこんなところでケガをしない様、ちゃんとシートでおとなしくしていろよ」

「はい!」

 みんなは元気よく返事をして、各自シートに移動してベルトで身体を固定した。

 俺はみんなにああ言ったものの、心の中は飛び跳ねたい程に浮き立っていた。

 おとなしくしていろというのは、俺自身に向けて言ったセリフでもあった。

 もうすぐ地球が見れる!

 あんなに苦しくて、いつ死んでもいいとさえ思ったあの地球での生活。

 だけど俺にとっての心の故郷は、やっぱり地球だ。

 そして、日本での生活!

 しかも今回の俺は、虐げられるだけの庶民じゃない。

 地球の民から見れば「神」にも等しい存在だ。

 今の地球がどんな時代になっているのかは分からない。

 だけど、どんなに時代が進んでいたとしても、レプト星の連中にとっての聖地であり、プレデス星人にとってのユートピアがテラだと云われているのなら、俺達にとっても楽園である筈だ。

 それに、俺が死んだ記録なんかも探してみたい。

 前世の俺がどういう死に方をしたのか、俺は知らない。

 ネカフェで眠った事までは覚えているが、その後の事が分からない。

 おそらくネカフェで死んだという事なんだろうが、何故死んだんだ?

 病気なんて無かったし、自殺した訳でも無い。

 これまであまり気にして来なかったが、俺が今こうしてショーエン・ヨシュアとして生きている事も謎でしか無いんだ。

 俺は知りたい。

 あの時の地球で、いったい何が起こっていたのか。

 そして、は一体何だったのかを。

 俺は隣に座るティアの手を握り、通路を挟んだ席に座るシーナの手を握った。

「もうすぐ、俺が目指した星が見られるぞ」
 と俺が言うと、ティアとシーナが俺を見て微笑みながら頷いた。

 それは俺への祝福の笑みなのか、それとも俺と一緒に目的地に来れた喜びの笑みなのか。

 どちらでもいい。

 俺はみんなと地球に行ける。

 それだけで、俺の人生が相当に面白い人生になった事は確かだ。

 だけどまだ終わっていない。

 これから始めるんだ。

 俺とみんなの楽園生活を!

△△△△△△△△△△△△

「まさか、月の裏側がこうなってたとはな」
 と俺は、宇宙船が通常航行になってからモニター越しで見える月と地球の姿を見ながら言った。

 俺が特に驚いたのは、地球の手前に見えている月の裏側の姿だった。

 太陽が俺達の背後にあるおかげで、地球が青い星として見えていて、その手前には月の裏側が太陽に照らされて見えていた。

 その姿を見たガイアが

「驚いたな。これじゃぁまるで・・・」
 と言いながらもその姿を表現する言葉が思いつかないのか、そのまま黙ってしまった。

「まるで都市があるみたいね」
 とテラがガイアの代わりにそう続けた。

 本当にそうだ。

 前世の俺は、月は地球の衛星で、自転と公転の周期が同じ為に、地球にはずっと同じ面を見せていると教えられてきた。

 しかし、俺達がテキル星でクラオ団長から聞いた話だと、そもそも月は巨大な人工衛星だという。

 俺はその話を半信半疑で聞いていたが、今目の前にある月の裏側の姿を見ていると、その話を信じてしまいそうになる。

「テラの内部は巨大な都市になっていてな。ガイア星に向いている面は、ガイアから資源を吸収する為の受け皿になっているんだ」
 と宇宙船の操縦士が教えてくれた。

「いったい、何の資源を吸収しているんだ?」
 と俺が訊くと、操縦士は肩をすくめ、

「さあな、熱エネルギーだと聞かされているが、本当のところは我々もよく知らないんだ。そういうのは、テラに住むエリートだけが知らされる情報だからな」

「そうか・・・、テラに行けば分かるのかな」

 俺はそう問い返したが、操縦士は肩をすくめるだけで何も言わなかった。

「さあ、間もなくテラのドックに入るぞ」
 と操縦士はそう言って、コクピットの方へと戻って行った。

 俺は近づいてくる月の姿から目が離せずにいた。

 そこにあるのは明らかに人工的な都市の姿で、高層建築が立ち並ぶその姿は、まるでプレデス星の都市の様だった。

 しかし、地表で人々が生活している様な気配は無く、恐らくは地下に都市を築いているのだろう。

 そりゃそうだ。

 そもそも、月には大気が無い。

 地表で人間が生活するなんて無茶な話だ。

 しかし、月が本当に人工衛星なのだとしたら、その内部は一体どんな構造なのだろうか?

 あの巨大な構造物を、しかも宇宙空間に、本当に人間が作れるものなのだろうか?

 俺がそんな事を考えている内に、モニターから見える景色が月で埋められていた。

 そして高層ビルが立ち並ぶ都市の様に見える付近を通り過ぎ、地表の一部にポッカリと開いた丸い穴に向かって宇宙船が進んでいくのが分かった。

 穴の奥は広い通路が続いていて、宇宙船はその中を真っ直ぐに進んでいる。

 やがてひときわ広い空間に出たかと思うと、宇宙船はその中心部にあるドックへと接続される様だった。

 ズンッ、と大きな振動があり、身体がシートから飛び出そうになるのを、シートベルトがギュッと身体を締め付けてホールドする。

 その反動で頭がシートの背もたれに跳ね返り、後頭部が背もたれのクッションに当たって危うく舌を噛みそうになった。

 そして宇宙船の動きが完全に停止したかと思うと、モーターが稼働するような音が聞こえ、宇宙船の壁面に何かが接続されたのか、ゴゴン、ガシャン、という音が遠くから聞こえて来た。

「さあ、着いたぞ」

 と、いつの間にか客室に顔を覗かせていた操縦士が言った。

「お前達の事はテラの団長に伝わっている筈だ。あとの事は、ここの団長から情報を得るといい」
 と言って、宇宙船のハッチを解放した。
「お前達のあれ、ホットケーキだっけ? あれは美味しかったよ。またクレア星に戻った時にでも、どこかで食べてみたいもんだ」
 と言って操縦士はほほ笑み、「さあ、お前達がどんな成果をあげるのか、楽しみにしているぞ、優等生達!」
 と言ってコクピットの方へと戻って行った。

 俺はシートベルトを外して立ち上がり、
「よし、みんな行くぞ」
 と言ってみんなの顔を見渡した。

「はい!」
 というみんなの返事を聞きながら、俺は荷物を取り出す為に倉庫の方へと向かったのだった。

△△△△△△△△△△△△

「よく来ましたね、優等生諸君」

 俺達が宇宙船を降りて案内された部屋は、家具など何も無い、金属質の壁と天井に囲まれた10メートル四方の四角い部屋で、俺達が部屋の中央に集まると、壁の一つがモニターになり、そこにテラの団長と思しき老いた男の姿が映っていた。

「私はテラの管理者、アルティミシアです。あなた達の事は、クラオから聞いていますよ」

 俺はモニター越しのアルティミシアの姿に、何か悲壮感の様なものを感じていた。

「お目にかかれて光栄です、アルティミシア団長。俺達は惑星開拓団の特別な計らいで、ガイア星調査団としてやってきました」
 と俺は少し頭を下げて軽いお辞儀をし、「俺がリーダーのショーエン・ヨシュアです」
 と名乗りながら顔を上げた。

「同じく、ティア・ヨシュアです」
「同じく、シーナ・ヨシュアなのです」
 とティア達が名乗りだしたところで、

「ああ、自己紹介は無用です。あなた達の事は、クレア星から情報を得ていますから」

 次に名乗ろうとしていたイクスが吸った息を吐きながら口を閉ざし、ミリカの手を握ってアルティミシアの姿を見た。

「あなた達はとても優秀だと聞いています。学業においては学園史上最高の秀才だとも。更に、私の先輩であるクラオ・カームからも、あなた達がどれほど優秀で野心的かを聞いていますよ」

「そうでしたか。そんな俺達を受け入れて頂き、有難う御座います」

「受け入れた訳ではありませんよ」
 とアルティミシアが言った。

「と言いますと?」
 と俺は訊いた。

「あなた達は、ガイア星を独自行動する為に新たな組織を作ったのでしょう。ならば、テラに留まる予定が無いあなた達を、我々は受け入れる予定はありません」

「つまり、すぐにガイア星に行けと?」

「そうは言っていません。あなた達は、惑星開拓団のルールの外に居るのです。今回ここに集まってもらったのは、惑星開拓団があなた達に協力するのはだと伝える為です」

「・・・なるほど」

 つまり、学園長が言っていた「テラまでの渡航費は学園が負担する」というのは、今この時点までの事を言っていたという事か。

「では、ここからは我々独自の判断で行動をし、その報告は誰にもする必要が無いという理解で宜しいですか?」
 と俺は、念の為に訊いておこうと思った。

「その通りです。ここからは、あなた達と我々は対等の立場となります。我々はガイア星から資源エネルギーを収集してマーズへ運搬するという義務を果たす。そしてあなた達は、私達の害にならない範囲ならばどのような活動をしても構いません」
 とアルティミシアは言い、「ただ、その行動範囲がガイア星に限られるというだけの事です」
 と付け加えた。

 つまり、俺達がひとたび地球に降りたなら、あとは資源エネルギー収集の邪魔さえしなければ何でも好きな事をしていいって事だよな?

「一つ確認をさせて頂きたい」
 と俺はアルティミシアを見ながら口を開いた。

「現在、ガイア星を統治しているのは誰ですか?」

 俺の言葉にアルティミシアは少し首を傾げた。

「ガイア星を誰が統治するのかは、地上に住む人類が決める事です。我々は、ただ資源エネルギーを収集しているだけ。クラオが居た頃は、地上に調査団を送って人類の行く末を見守ろうという動きもあった様ですが、我々は人類がガイア星を滅ぼす様な愚行をしない限りは介入する事はありませんよ」

 なるほど・・・

 つまり、地球に住む人間達の自由にさせているという事か。

 だけどもう一つ気になる事がある。

「ならばもう一つ確認させて頂きたい。ガイア星には、レプト星人は居ますか?」

 俺がそう言った時、アルティミシアの表情が少し曇った様に見えた。

 アルティミシアは少しの間無言で俺を見つめ、そして口を開いた。

「レプト星人が居るかどうかは我々の関知する事ではありません。しかし、もし居たならば、我々にとってあまり良い事ではありませんね」

 ふむ・・・

 元々は、竜族であるレプト星人の故郷である筈の地球に、レプト星人が居ては困るという事か?

 確かに俺もその意見には同意するが、理由は何だ?

「では、もしレプト星人が居た場合、俺達がそれらを排除しても問題はありませんか?」

 と俺は続けて質問を投げかけた。
 アルティミシアが何かを隠している様に思えたからだ。

 アルティミシアは目を瞑って首を横に振り、
「なるほど、確かにあなた達は優秀な者達の様ですね」
 と言って目を開けて俺を見た。

「先ほども言った通り、ガイア星にレプト星人が居るかどうかは、我々は関知するところではありません。あなた達が地上でレプト星人と何かがあったとしても、その責はあなた達に帰属します」

 そういう事か。

 つまり、レプト星人とプレデス星人の間では、祖先の契約によって問題は起こせない。
 けれどプレデス星人にとってレプト星人は邪魔な存在で、自分達では手が出せないから、俺達に何とかして欲しいと。

 そして自分達の責任になるのは嫌だから、俺達に責任をなすり付けたいという訳か。

 何ともセコい話だな。

 でも、おかげ理解できた。

 地球にレプト星人は存在するし、地球を再び征服しようとしている竜人達はプレデス星人にとっては邪魔な存在で、それを俺達が排除してくれれば都合がいいけど、その責任は自分達では負いたくないという訳だな。

 いいだろう、その責任とやらがどれほどのものかは分からないが、楽園を得る為にはリスクが伴うって事だろ?

 元々ノーリスクで楽園が手に入るとは思っちゃいないんだ。

 ならばお前達の策にまんまとハマってやろうじゃないの。

「分かりました。ならば一つお願いがあります」
 と俺は切り出した。

「ガイア星の地上に降りる為の宇宙船を一つ、俺達に譲ってください」

 アルティミシアは少しほっとした様に俺を見て、

「いいでしょう。小型の飛行艇を1台お譲りしましょう」

 と言って、画面の向こうで誰かに指示をしている様だ。

「16番ゲートに飛行艇を用意させました。その飛行艇を自由に使うと良いでしょう」
 とアルティミシアは言い「ただし、飛行艇は、地上の人類には見つからない様にして下さい。彼らは強欲です。飛行艇が見つかれば、必ず我々にとっての災いとなるでしょう」
 と続けた。

「分かりました」
 と俺は返答し、「では、貴重な情報を頂けた事に感謝を」
 と言って踵を返し、部屋を出て16番ゲートに向かう事にしたのだった。

△△△△△△△△△△△△

「アルティミシア様から話は聞いています。こちらの飛行艇をお使い下さい」
 とその男は言った。

 プレデス星人らしく、白いローブに身を包んだ青い髪の男だった。

「ガイア星の地上でこの飛行艇を隠すなら、火山の火口か海底をお勧めします」
 とその男は言ったが、火口に隠しても俺達が燃えてしまいそうだし、海底だと俺達の身体が水圧で潰されてしまいそうだと思った。

「そんな所から、どうやって俺達は地上に出ればいいんだ?」
 と俺が訊くと、その男は表情を崩さないまま

「地上に降りてから、リモート操作で飛行艇を隠すんですよ?」
 とそう言った。

 なんだよ、それならそうと早く言ってくれよ。

 まるで俺が何も知らない田舎者みたいじゃないか。

「ああ、そういう事ね。了解した」
 と俺は応え、「じゃ、飛行艇は頂いていくぜ」
 と言って、16番ゲートを潜って飛行艇が繋がれているデッキへと向かった。

「おお・・・」

 と俺は声を出してしまった。

「これは・・・」
 とガイアやテラも声を漏らしている。

 目の前に現れた飛行艇の姿が、前世の地球で御馴染みの、円盤型のUFOそのものだったからだ。

 大きさは直径20メートルくらいだろうか。

 高さは5メートルくらいはある。

 壁面には丸い小さな窓が並んでおり、底辺にはいくつかの丸い装置が付いていて、どうやらあれが重力制御装置らしい。

「ショーエンさん! UFOですよねコレ!」
 とガイアが大はしゃぎでそう言った。

「ああ、その様だ。まさかUFOに乗る日が来るとはな」
 と俺が言うと、

「ゆーふぉー?」
 とティアが不思議そうな顔で俺達を見ていた。

「ああ、ガイア星の人類は、この飛行艇の事をUFOと呼んでるんだよ」
 と俺はティアに説明し、「地上の人類にとっては未確認飛行物体って意味でな。だから地上の人類を刺激しない為にも、人類に見つからない様に隠しておかなくちゃならないって訳だ」
 とアルティミシアから聞いた注意事項の理由を知らせておいた。

「よし、じゃあ乗り込むぞ!」
 と俺が声を上げると
「はい!」
 とみんなが付いてくる。

 UFOの入口は壁面にあり、俺達が近づくとデバイスに反応して自動で開いた。

 UFOの中は円形の何もない空間で、唯一部屋の中心に太い円柱計の柱があるだけだった。

 操縦桿そうじゅうかんなども見当たらず、しかしデバイスがUFOの装備を知らせてくれている辺り、全てデバイスで操作できるという事の様だった。

 俺はみんながUFOに乗り込んだのを確認し、デバイスでハッチを閉め、地球への進路を確認した。

 デバイスにはいくつかの着陸候補地が表示されており、その中の4か所が日本にあった。

「なあガイア。俺は日本に着陸したいんだが、構わないか?」
 と俺が訊くと、ガイアとテラは笑顔で頷いて

「いいね! 僕達いつか日本に行って見たいと思ってたんだよ!」
 とむしろ喜んでいる様だった。

 (驚いたな・・・)

 アメリカ人って、もっと愛国心があって郷土愛に満ちているもんだと思っていたが、せっかく地球に行けるっていうのに、真っ先に自分の故郷を見たいとは思わないもんなのかね。

 俺の表情を見たガイアが何かを察した様で、

「気にしないでよ。僕達のリーダーはショーエンさんだからね。僕は地球が見れるだけでも大満足なんだ。地上に降りてしまえば、アメリカなんていつでも行けるでしょ?」
 と言って笑いかけてくれた。

「そうか。ありがとうな」

 と俺は笑顔で返し、

「じゃ、出発するぞ」
 と言ってデバイスで日本の富士山付近の候補地を選択した。

 UFOの中は人工重力でピタリと床面に足が着いている。

 けれど窓から見えるのは、徐々にデッキから離れていく景色だった。

 振動も無く、移動にかかるGも無い。

 これまでに乗って来た宇宙船もそうだったが、このUFOも本当に不思議な乗り物だ。

 乗り心地を語るなら、「窓が無ければ動いている事に気付かない」と語ることだろう。

 それほどに体感として動いている感じは全く無く、UFOは静かに月の内部の通路を通り、その速度はものすごい加速を見せていた。

 やがて窓の外が宇宙空間になり、ふと横にある窓の外には、見覚えのある青い星の姿があった。

「みんな、あれがガイア星だ」
 と俺は言ったが、ガイア星なんて呼び名はまどろっこしいと思い「これから、あの星の事を、俺達は地球と呼ぶ事にするぞ!」
 と言ったのだった。

「ちきゅう・・・」
 とみんなは口々に呟き、俺がそう呼ぶ青い星の姿を見ながら、
「地球・・・、本当に綺麗な星ね」
 と言うティアの言葉に、その場にいる誰もが頷いた。

 とうとうここまで来たぞ!

 間もなく地球に到着だ!

 俺ははやる気持ちをみんなに悟られない様に口をつぐんでいたが、どうしても口元がにやけてしまうのを止める事は出来ないのだった。
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