22 / 34
乗務22 運転手:ヨル・バーン③
しおりを挟む俺の名は『ヨル・バーン』。
『氾濫』数日前に働いていたら、魔王様に絡まれている『職業:運転手』のそこそこベテランだ。
いや、まあ、魔王様は旧知の間柄だから"絡まれてる"は間違いか…と言うか嘘だ。
「ヨル…少し時間を作れ」
「絶賛仕事中なんですけど?」
「少しくらい良かろう?飲み物くらいは奢ってやる」
「………まったく…」
魔王様の命令?提案?に了承して直ぐ、闘技場に到着する。
俺は『はざーどらんぷ』を点滅させて車を停め、メーターを操作。
「とりあえずここで精算な…。魔王様、王族料金だからな」
「ふっ、分かっておる」
料金を貰い、領収書を発行して手渡す。
俺は続けて『スーパーサイン』を回送にして、メーター下部中央の休憩と書かれているボタンを押す。
ついでに無線も切っておこう、と通称『羽子板』も操作する。
「よし、コレでオーケー…と。んじゃ、行くか」
「ふっ、すまんな」
俺たちは車を降り、俺は車を送還する。
さて…飲み物だけじゃなくて食い物も奢ってもらおうかな。
闘技場周辺には『氾濫』に対する騎士団や冒険者たちの準備だけではなく、多くの商人たちもやって来ている。
『商業ギルド』だけでなく、魔法薬を取り扱う『錬金ギルド』や普通の薬や包帯などを扱う『薬師ギルド』、武器防具の販売と修理を請け負う『鍛冶師ギルド』など、それぞれに所属する商人やら職人やらがこぞって集まって来るのだ。
騎士団などは国の支援が充実していそうなものだが、食事など配給だけでは騎士には足りないのだろう、多くの騎士たちが食べ物を扱う屋台を利用している。
そのためか、『氾濫』時は儲かる!と『氾濫』は回を重ねる毎に、その周辺に屋台が増えていき、今では大きなお祭り状態である。
商人たちとしてはこの機会を逃すか!と躍起になり、国としても経済が回るからなぁ…と黙認。
本来なら『氾濫』は非常に危険なんだがなぁ…。
「昔と比べると本当に『氾濫』は変わったな…。下手な祭りより大きい祭りではないか」
「モグモグ…だな。昔はもう少しモグモグ…静かだったよな」
俺は魔王様に奢ってもらった串焼きにかぶりつきながら応える。…美味いなコレ。
「あ、アレもモグモグ…美味そうだな」
「他人の奢りだと思って遠慮せんなお前は…」
「気にするな」
「お前はもっと気にせい…」
いくつか屋台を周り、食べ物と飲み物を買った俺たち(金を出したのは魔王様だけだが)は、公園としても機能している闘技場周りの長椅子に腰掛けた。
「…で、ヨルよ…お前は『氾濫』には参戦せんのか?」
「…しねえよ。引退してもう何年も経っているしな…」
「ふむ…怪我で引退、というのはどうせ嘘だろう?」
「何だよ、引退したの知ってるじゃねえか…。…ああ、嘘だよ」
だけどブランクもあるし当然衰えもある。今戦えたとしても果たして全盛期の何割"力"が出せるか…。
「お前ほどの強者が…もったいないのう」
「止してくれ。どちらにしても今じゃあ大して戦えん」
「引退も粗方、何処かの貴族とでも揉めたのだろう?」
「まあな。親子揃って舐めた真似してくれた馬鹿貴族でな。屋敷ごと吹き飛ばして泣かしたんだが…そうしたら寄親が出てきてなあ…」
違法の奴隷売買に密輸、賭博と悪事が出るわ出るわで…寄親の侯爵が出てきたと思ったら、その派閥全部が敵に回りやがったんだよなぁ。
「…で、貴族派閥ごと殲滅してやったんだよ」
「………その話、聞いたことがあるな。お前が原因だったのか…」
「幸い王族も冒険者ギルドもこっちの味方だったから良かったが…」
「下手をすれば国とギルドと全面戦争だったワケか…」
さすがに国やらギルドやらを相手取るのは非常に面倒くさい。騎士団や国軍、多数の冒険者を相手になどしていられない。
「まあ、そんなことになっていたら、トップをぶん殴って魔王様のところに転がりこんだりしていたかもな」
「お前な…。ふっ、しかしソレはソレで面白かったかもしれんな…」
「「………ぷっ」」
「くっくっくっ…」と二人で声を殺して笑い合う。さすがに大声を張り上げて笑うほど若くない。
「…で、毎度毎度参戦して、こっそり高レベルの魔物を倒して回ってたのか…。安全のためとはいえよくやるな…」
「今、我が穏やかに過ごせるのは、人類が…特に人種が頑張っているお陰でもあるからな」
人族至上主義…未だ残ってはいるものの、ソレもごく一部だけ。
大半は過去に召喚された異世界の勇者に潰されている。
「くっくっくっ…『汚物は消毒だぁっ!!』と言いながら、彼奴は楽しそうに貴族や教会の奴らを潰して回っていたな…」
「ソレは…ちょっと楽しそうだな」
「だろう?」
本来は世界の危機に喚ばれるべき勇者を、自身の利益のために喚んで潰されているんじゃ目も当てられないが…。
ま、自業自得だな。
「おっと…そろそろ休憩も終わりにしないと…」
「む…そうか、残念だ」
俺は魔王様に奢ってもらったすっかり冷めてしまったホットコーヒーを飲み干し…
「『氾濫』終わって直ぐに帰らなくても大丈夫なんだろう?」
「…そうだな。しばらくはストランドを回ろうと思っているが…」
「なら、冒険者ギルド:スモールシダー支部に連絡してくれ。休みにするから酒でも…な」
「っ!?………ふっ、ヨル、もちろん、お前の奢りであろう?」
「割り勘だっ、割り勘っ!」
「じゃあ、また今度な」俺はそう言い、闘技場周りの道に出て、タクシーを召喚。
メーターを操作し、スーパーサインを『空車』にしたところで、入れ替えだろうか直ぐにお客さんが乗り込んできた。
俺の名は『ヨル・バーン』。
魔王様と『氾濫』後に飲む約束をした、しがない『職業:運転手』だ。
だが今度飲む酒は美味そうだ。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
今回のネタ①:『はざーどらんぷ』=橙色の両側で光るアレ。
今回のネタ②:車を送還=路上駐車・駐車違反?知らない子ですね。
今回のネタ③:『汚物は消毒だぁっ!!』=テンプレ。
夜の公園のベンチでお話するオッサンのお話。
次回もよろしくお願いします。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました
チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。
完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。
【捕食】
それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。
ゴブリンを食べれば腕力を獲得。
魔物を食べれば新スキルを習得。
レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。
森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。
やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。
これは――
最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる