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乗務25 『氾濫』②
しおりを挟むスモールシダー北部のトードゥロ闘技場では、闘技場内外に冒険者や騎士団、商人たちが合わせて一万人に近い人数が集まっている。
…にも関わらず、闘技場周辺では異様な静けさが辺りを覆っていた。
そして…
『ピシリ…』
何かが罅割れるような音が周辺に響く。
『ピシッ………ピシピシッ…バリッ…』
その音が徐々に大きく響く毎に、闘技場の舞台中央の空間の亀裂も拡がっていく。
『バリバリバリバリッ…』
「………来る」
誰が呟いたのか、次の瞬間…
『バリィィィンッッ!!!』
一際大きな『割れる音』に合わせて、その空間には黒く大きな『靄』が存在していた。
いや…『靄』と言うには、ソレはあまりにも暗く、そして深い…。
ソレは言い換えるのならば『闇』そのもの。
そして、その『闇』は大量の魔物を内包し、これからソレを吐き出すのか、産み出すのか、それとも這い出てくるのか…。
『闇』は何も語らず、ただただ『ソコ』に在り、悪意を吐き出す…。
『氾濫』の開始である。
~~~~~~~~~~~~~~~~
舞台中央から大量に出現してくる魔物を見て、王都騎士団の団長:エムリス・"ナイト"・ストランディアが目を細める。
「…ゴブリン………だけでなく、メイジやソルジャー、アーチャーもいるな…」
エムリスはそう呟き、周りにいる騎士たちに「とりあえずはいつも通りに…」と伝え、闘技場内部から通路を通り足早に闘技場外部へと出て、騎士団のテントに入っていった。
「第一陣はゴブリン…ただし、上位種が交じっている編成だ…」
『ざわり…』
エムリスの言葉にテント内にいた他の団員たちがどよめく。
「少し厄介だな…」
「だな。ラストは特殊な個体が出そうだ…」
そう口にしたのは第一、第二騎士団の団長である二人。
「第一陣でオーガやトロールが出てくるよりはマシだろう?それに『氾濫』未経験者には丁度良い」
こちらは港湾都市ヨーハマから応援に来ている港湾騎士団陸戦部隊の部隊長。
そしてもう一人…。
「はぁぁぁ………面倒…」
この団長・隊長クラスが集まっているテントの中で、ため息と共にそう宣うのはカーク・キーン。
王都騎士団の"元" 副団長で現『運転手』のS級冒険者である。
~~~~~~~~~~~~~~~~
時を同じくして、高ランク冒険者が集まっているテントにも第一陣の報が入る。
「ゴブリンのパーティー編成か…。…面倒な」
やれやれ…という素振りを見せるのは冒険者ギルド:ギルドマスターのイゴール。
「ちょっと面倒だけど、殺り甲斐はありそうだな」
「だな。ドロップも良くなるしな」
さすが高ランクの冒険者か、既に脳内はドロップ品の良し悪しのことになっている。
そんな中…
「…魔王様は何でメニュー表見ているんですかね?」
魔王の脳内は既に『氾濫』後のことでいっぱいのようだ…。
~~~~~~~~~~~~~~~~
『氾濫』の第一陣、ゴブリンのパーティー編成による襲撃は、闘技場場内は騎士団が、場外は冒険者たちにより抑えられ、然程被害もなく終息していく。
場外にゴブリンが行くのは、場内ではなるべく上位種を倒し場外の負担を減らしつつ、騎士団の体力などを温存するためである。
また経験の少ない者に機会を回す意味も含んでいる。
少し出たという被害も、場外の経験の少ない冒険者で軽装の者だけである。
騎士団に関しては、プレートアーマーないしハーフプレートアーマーが支給(貸与)されているので、新人騎士でも怪我などは負っていない。
フルプレートアーマー装備の騎士は今回の『氾濫』には参戦していない。
闘技場場外に並んでいる屋台などは『氾濫』が始まっても絶賛営業中である。
美味しく調理された料理や各種ポーション類などは、この場ではある意味で一番守らなくてはいけないのだろう、商人たちが自前で護衛を雇わなくても冒険者たちは率先して守っていた。
ちなみに場外にいる新人騎士たちも、この辺りにいたりするのは仕方がないと黙認されていたりする。
さらにちなみに、怪我人や当番で入れ替わる者たちの輸送のために、待機中のタクシー運転手たちも食べ物の屋台の周りにいたりする。
『氾濫』が始まったばかりで今現在はとても暇らしい。
そして…。
串焼きの串を両手に三本ずつ持ち、片手を振るう度に三体のゴブリンを倒す『運転手』ヒル・バーンの姿が目撃されたとかなんとか…。
~~~~~~~~~~~~~~~~
上位種が加わっているとはいえ、魔物の中でも最弱の部類に入るただのゴブリンである。
迎撃する側の騎士団や冒険者たちの集団は戦力を温存したまま、この第一陣を殲滅するのに三十分と掛からなかった。
『氾濫』第二陣は最後のゴブリンを倒したのを確認してから一時間後。
それぞれが持ち場に戻り待機、あるいはドロップ品を拾い集め、あるいは屋台で食いに走る。
『氾濫』はまだ始まったばかりてある。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
今回のネタ①:港湾騎士団『陸戦』部隊=港湾だけに『海戦』部隊も存在。
今回のネタ②:魔王様=メニューを取り寄せて、お店を吟味中。
今回のネタ③:フルプレートアーマー=「だって重いし暑いし…」
今回のネタ④:両手に三本ずつ=ナイフやフォークではない。
次回もよろしくお願いします。
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