吉原の楼主

京月

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第三話

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 私はちよといいます。ここ吉原に身売りされてきました。
 でもあまり悲しくはありません。身売りされる前はご飯もろくに食べられない日が普通にありましたがここでは毎日ご飯が食べられるからです。
 
 私が働くことになる妓楼の楼主様はなんていうか不思議な人でした。お顔は整ってらっしゃるのですが近寄りがたい雰囲気で笑ったことなど一度も見たことがありません。かなり悪い噂もあるらしく少し不安です。
 一度楼主様とこの妓楼に来た時に話したことがあります。目の前に楼主様が座り、


「ちず、良き女郎になれ」


「は、はい!」


 その一言だけです。

 私は禿として女郎のしずさんの身の回りの事を手伝うようになりました。しずさんはとても綺麗な人で人当たりもよくお客さんからもかなり人気があります。一度名代(具合が悪い姉女郎の代わりに相手をすること、床入りなし)を勤めた時お客さんが話してくれました。


「しずはいい、こんな見てくれの俺でも嫌な顔一つしない。遊女の中にはある程度有名になると客を粗末に扱う女郎が出てくるが、しずは有名になっても変わらぬ対応で酌をしてくれる。今日は残念だがまた来るよ」


女郎のお仕事は本当に大変でよく姉女郎たちはお客の愚痴を漏らしています。だけどしずさんがお客さんの愚痴を言っているところを見たことがありません。本当に綺麗という言葉が似合う人です。

 そんなしずさんに身請けの話が来ました。相手は若い商人で計算が出来るしずさんをとても気に入り身請けを申し出たらしいのです。
 しずさんも相手のこと好いておりこの身請けを受けるそうです。


「良かったですねしずさん!私本当にうれしいです。しずさんが幸せになってくれて」


「ありがとうちよ、私もちよが幸せになることを願っているわ」


 それから数日してしずさんはこの妓楼からいなくなり、私は別の姉女郎の世話役として移りました。

 ある日姉女郎が唐突に私に言いました。


「そういえば聞いたかいちよ、しずの身請けの話無しになっていたらしいよ」


「えっ」


「なんでも楼主が身請けの話を断ってその後しずを格下の女郎屋に移したんだと。何考えているのかね、楼主は」


 私は訳が分からず頭の中が真っ白になりました。
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