嫌いな妹に婚約者をあげました

京月

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嫌いな妹に婚約者をあげてみた件

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 リーデンス公爵の屋敷。

 様々な調度品が取り揃えられ高級感が溢れたリビングに吊るされているシャンデリアが一際目を目を引く。

 その他にもリビングには座り心地にこだわられた最高級品のソファーが置いてあり一人の女性が読書をしながら座っている。

 彼女はリーデンス公爵の長女サルナ、容姿端麗で学問にも精通しており読書をする姿は芸術品そのもの、あまり口数が多くないことからミステリアスな高嶺の花と称されている。

 しかし実際の彼女はそんなミステリアス美人ではなかった。


 この本の作者、ゴミね。
 どうでもいい屋敷の内装の説明を入れて、特にシャンデリアなんてここからの話には一切関係しないのにあたかも重要と思わせるよう書いている、アホなのかしら?


 そう、サルナは口が物凄く悪い。
 喋ればボロが出てしまうので喋ってないだけなのだ。


 そんなサルナには嫌いな人間が2人いる。
 1人は目の前にいる妹のマーレだ。
 妹と言ってもマーレとサルナには血のつながりがない。
 しかしそれはサルナにとってはどうでもいいこと、問題なのは…


「サルナ姉さままた読書してらっしゃるのですか?陰気ですね~、たまには友達とお茶会でもしてみたらどうですか?あっ!すみません!姉さまには友達がいないのでしたねプププ」


 妹の性格だ。 
 
 なんなのかしらね、この愚妹の性格の悪さわ。一体誰に似たのかしら。
 こんな性格のくせに友人の前では猫被って仲良くやってるのがむかつく。
 こういう時は無視が一番。


 マーレはサルナが無視したことにより更に畳みかける。


「なんですか姉さま図星ですか?図星だから何も言えないのですか?まぁ皆からは孤高だとか高嶺の花とか評価されても結局無口なだけですからね~。結局この世の中は家柄と顔と成績だけが全て、とか姉さまなら本当に思ってそう。実際姉さまhそれだけで最高の婚約者を手に入れましたもの」


 うざい。読書が出来ない。
 いつまで私の前で皮肉を言えば気がすむのよ。
 というかこの子の存在自体がうざくなってきた…。
 どうしようかしら…殺る?でもそれだとバレた時私の首も飛ぶし…部屋に戻って考えましょう。


「あっ!何よ!!黙ってないで文句でも言ったらどうなの!?逃げんなーーー!!」


 部屋に戻ったサルナはベットにダイブし天井を見上げる。

 う~ん、100通りくらい殺る方法を考えたけどなんかしっくりこない。
 こういう時はよりいい方法がある時だから強行するべきでもないし、かと言って最善策が見つかるまで妹を放置していたらむかついてついやっちゃうかも。

 サルナが悩んでいると部屋の扉がノックされる。


「お嬢様、ダリウス様がお見えです」


 そうだすっかり忘れてた。
 はぁ…今日はなんて最悪な日なんだろう。

 サルナが屋敷に庭に出ると1人の男性が立っていた。
 その出来上がった容姿は物語の世界から出てきたのではと噂されるほど際立っているダリウス第三王子、サルナの婚約者だ。


「やぁ、サルナ。元気かい?」


 ダリウス、こいつこそ私が嫌いな人間の2人目に当たる人物だ。
 顔もいい、家柄もいい、文武両道、完璧という言葉が一番似合う人間だろう。
 なのに何が嫌かって?
 

「僕は元気ではないよ。君が僕を待たせた時間を思うともったいなくて涙が出そうだ。この僕が待ってやっているのだからすぐに来いウスノロ」


 ね。
 こういうこと。
 こいつも妹と同じで猫を被っているだけ、中身はとんでもなく自己中。
 今日だってまだ約束の時間ではないのに勝手に早く来てキレている。


「さあ、何か話せ。俺は退屈だ」


 唐突すぎる。
 何を話せと?


「はぁ~。相変わらず退屈な奴だ。こんな奴と結婚しなければならないと思うと嫌気すらさしてくる」


 あら意外と気が合うのかも、私もその考えには同感。


「それに比べてマーレはいい。彼女は友人との関係を大切にし様々な経験をしている。その話は決して俺を飽きさせたりしなかった。気立てもよくコロコロと変わる表情は男の養護心を刺激してくる」


 あれ?


「マーレは本当にいい女だ。婚約者、それも男爵という家柄の男に彼女を取られるのは不愉快で仕方がないな」


 あれあれ?これはもしかして…?


「ダリウス様は本当にマーレのことが好きなのですね」

「何を言っているんだ?当たり前だろう。お前との婚約を決められなければ確実にマーレに求婚していたさ」


 ごく当たり前に告白をするダリウス。
 サルナは視線を下に落とすと少しだけ口角を上げる。


 見えた。これが最善策の糸口。
 誰も殺ることなく嫌いな2人を同時に処理できる方法…つまり2人を結婚させればいいのだ。

 ダリウスが帰った後サルナは自分の部屋で何やら怪しげな作業を始めていた。

 この作戦の最終目標はマーレとダリウスを結婚させること。

 作戦が成功すれば私の人生は最良へと近づく…多少の犠牲は仕方がないな。

 
◇3ヶ月後◇

 王城の社交会
 この日は齢65になる現国王の誕生日パーティーと供に新しい国王の選定がなされる日である。

 会場に集まるのは王国の有数な貴族たち、中にはサルナとマーレの姿もあった。
 お互いに婚約者を同伴させている。

 様々な者がパーティーを楽しむ中ダリウスだけは苦虫を嚙み潰したような表情をしている。


「わざわざこんなパーティーをやらずとも国王には兄さんがなる、こんなのは茶番だ」

 
 パーティーですら悪態をつくダリウスの子供加減にサルナは表情に出さずとも内心思うところがる。

 相変わらずこいつは自己中ね。
 でも仕方ないか。マーレと結婚するには国王になって王妃にマーレを選ぶしかない。
 国王にさえなってしまえば誰も文句は言えないのだから。

 片手に持ったジュースで喉を潤しながら薄目で会場全体を把握するサルナ。
 その表情には謎の余裕が存在していた。

 パーティーは着々と進みついに新たな国王の発表を待つばかりとなった。
 皆が静観する中ステージに立つ国王が持った紙を広げ張れる限りの声を出す。


「新たな国王は…第三王子ダリウスとする。この決定を最上とし異論の余地を認めない」


 会場が騒然とする中誰よりも驚いたのはダリウスだった。


「ちょっと待てください!これはどういうことですか?俺が国王!?」
「ああ、ダリウス。お前が国王だ」
「兄さん達は?」
「辞退した」
「辞退!?」

 
 より一層騒がしくなる中1人だけこの事態を想定していた人物がいた。
 サルナである。
 サルナは慌てふためくダリウスの肩に手を添えると落ち着いてくださいと声をかける。


「いいではありませんか、国王になってしまえば」
「お前にはわからないかもしれないがな国王はそんな簡単に請け負っていい立場ではないのだ!」
「ごちゃごちゃうるさいな、早く即位しろよ」
「え?俺の聞き間違いか?今サルナからものすごく汚い言葉が…」
「聞き間違いです。それよりこの機会を逃してしまえば国王になるチャンスなどもう訪れないでしょう。国王になれば何でももできますよ。婚約のことも思いのまま」


 そこでその可能性に気が付いたダリウスがはっとした顔をする。


「そうか…その手があったか!!父上、いや国王様!!私ダリウスは国王になることをここに宣言します!!」
「おお、よくぞ言ってくれた。じゃあ儂隠居するからよろしく」

 
 何故か怯えながら最後に不吉なことを言った気がしたがダリウスはそんなの気にせず大勢の目の前で大声を出す。


「サルナ!!俺は国王になったぞ!!」
「おめでとうござます」
「早速だがサルナ、お前との婚約は破棄する!驚いただろうが…」
「いえ、さあ早く続きをどうぞ」
「ああ、そうか。ゴホン、お前との婚約を破棄しマーレ、俺と結婚してくれ!」


 突然のことに驚くマーレ、その目には大粒の涙が浮かんでいる。


「これからよろしくお願いしますダリウス様」


 二人は抱き合い、周りからは歓声が上がっている。

 早く終わらないかな。


「悪いわね姉さま、私ダリウス様と幸せになるわ」

 
 そうしてくれ。
 そうじゃないとここまでの私の努力が無駄になる。
 第1、第2王子を脅して辞退させ、国王には暴露されるだけで処刑されるレベルの悪事をネタにまた脅してさっさと隠居させた。
 これでこの国はダリウスの思うがまま。
 私との婚約も破棄されダリウスもマーレと結婚出来て皆ハッピーエンド。
 この国がどうなろうとどうでもいいよね。

 1人笑うサルナだった。
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