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5月25日(木)雨 『手紙』
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一昨日に続いて、今日この日記を書いている僕は激しい動揺の中にある。
……いや、客観的にみれば事態は一昨日とは比べものにならないほど深刻で、こうして文字を書いている指が震えないだけでも奇跡のように思える。
今日、起こったことをありのまま書く。
体育の授業のあと、いつものようにトイレに行き、掃除用具入れを開けると、そこに置いておいたはずの制服がなかった。
代わりにそこには一枚の手紙が残されていた。ふたつに折り畳まれたメモ用紙だ。震える手でそれを開いた僕は、そこに書かれていることを読んで、思わずその場に崩れ落ちそうになった。
『制服は預かっています。落ち着いた場所で話したいので、明日夜9時、中央公園の隣にある○○マンション7階のA702号室まで来るように。栗谷』
トイレでその手紙を読んでからどうやって予備ではない制服に着替えて教室まで戻ったのか、よく覚えていない。残りの授業の内容もまったく頭に入ってこなかった。
あのとき僕は体育館の更衣室に戻って……いや、この際そんなことはどうでもいい。
問題は僕の身体に起こっていることについて栗谷がどこまで把握し、金曜日の夜、僕をそのマンションに呼び寄せて何をしようとしているのかということだ。
ひとつ考えられるのは、栗谷が僕の女体化に気づいており、秘密をばらさない代わりに僕の身体を要求してくるというもの――それが最悪のケースだ。
……というより、そのケース以外に考えられない。午後9時は寮の門限で、週末は実家で過ごす者もいるから寮に帰らない分にはいい。だが寮に帰りたいのであれば午後9時までに門をくぐらなければならないのだ。
そのあたりの事情を、教師である栗谷が知らないはずはない。つまり栗谷は、最初から僕を泊まらせるつもりでそのマンションに呼び寄せているのである。
当然、栗谷もそのマンションに泊まるのだろう。そうなれば、手紙に書かれていた内容が意味することはひとつだ。
明日の夜、僕は栗谷を相手に性的な初体験を迎える――頭の中でそう確認してみてもまるで実感が湧かない。怖いとかおぞましいとか以前に、そうなる自分を想像することができないのだ。
だがいずれにしても、明日、栗谷の指示通りマンションに向かえば、僕はそこで処女を喪うことになるのだろう。
……感情がついてこないので何とも言えないが、それが女としての僕にとって酷く受け入れ難いものだということはわかる。
けれども僕の秘密を知る栗谷の言うことを無視してマンションに行かなければ、その先どんな事態がもたらされるのか見当もつかない。
明日の夜9時に僕がどこにいるかで、その先の僕の運命は決まる。
行くべきか、行かざるべきか……今はまだ決断できない。
その決断によっては、今夜が僕にとって処女の身体で過ごす最後の夜になる。
男だった頃を含め、生まれてこの方キスもしたことがない僕が、明日の夜にはあの『クリーチャー』と舌を絡め合わせ、膣内にはじめての男を迎え入れて破瓜の痛みにあえいでいる――
その事実をもう一度心に呼び戻して――だがなぜだろう、『求交配性情動』に苛まれているはずの僕の心には、それを待ち望む気持ちはこれっぽっちも湧いてこない。
……いや、客観的にみれば事態は一昨日とは比べものにならないほど深刻で、こうして文字を書いている指が震えないだけでも奇跡のように思える。
今日、起こったことをありのまま書く。
体育の授業のあと、いつものようにトイレに行き、掃除用具入れを開けると、そこに置いておいたはずの制服がなかった。
代わりにそこには一枚の手紙が残されていた。ふたつに折り畳まれたメモ用紙だ。震える手でそれを開いた僕は、そこに書かれていることを読んで、思わずその場に崩れ落ちそうになった。
『制服は預かっています。落ち着いた場所で話したいので、明日夜9時、中央公園の隣にある○○マンション7階のA702号室まで来るように。栗谷』
トイレでその手紙を読んでからどうやって予備ではない制服に着替えて教室まで戻ったのか、よく覚えていない。残りの授業の内容もまったく頭に入ってこなかった。
あのとき僕は体育館の更衣室に戻って……いや、この際そんなことはどうでもいい。
問題は僕の身体に起こっていることについて栗谷がどこまで把握し、金曜日の夜、僕をそのマンションに呼び寄せて何をしようとしているのかということだ。
ひとつ考えられるのは、栗谷が僕の女体化に気づいており、秘密をばらさない代わりに僕の身体を要求してくるというもの――それが最悪のケースだ。
……というより、そのケース以外に考えられない。午後9時は寮の門限で、週末は実家で過ごす者もいるから寮に帰らない分にはいい。だが寮に帰りたいのであれば午後9時までに門をくぐらなければならないのだ。
そのあたりの事情を、教師である栗谷が知らないはずはない。つまり栗谷は、最初から僕を泊まらせるつもりでそのマンションに呼び寄せているのである。
当然、栗谷もそのマンションに泊まるのだろう。そうなれば、手紙に書かれていた内容が意味することはひとつだ。
明日の夜、僕は栗谷を相手に性的な初体験を迎える――頭の中でそう確認してみてもまるで実感が湧かない。怖いとかおぞましいとか以前に、そうなる自分を想像することができないのだ。
だがいずれにしても、明日、栗谷の指示通りマンションに向かえば、僕はそこで処女を喪うことになるのだろう。
……感情がついてこないので何とも言えないが、それが女としての僕にとって酷く受け入れ難いものだということはわかる。
けれども僕の秘密を知る栗谷の言うことを無視してマンションに行かなければ、その先どんな事態がもたらされるのか見当もつかない。
明日の夜9時に僕がどこにいるかで、その先の僕の運命は決まる。
行くべきか、行かざるべきか……今はまだ決断できない。
その決断によっては、今夜が僕にとって処女の身体で過ごす最後の夜になる。
男だった頃を含め、生まれてこの方キスもしたことがない僕が、明日の夜にはあの『クリーチャー』と舌を絡め合わせ、膣内にはじめての男を迎え入れて破瓜の痛みにあえいでいる――
その事実をもう一度心に呼び戻して――だがなぜだろう、『求交配性情動』に苛まれているはずの僕の心には、それを待ち望む気持ちはこれっぽっちも湧いてこない。
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