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海底都市とーきょー
海と電線
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吾輩は鳥である。
しかしながら名前はある。
彼女が付けてくれた。「ケーブル」という妙ちくりんな名前である。
≪この線は途中で切れている。ここも直すのか?≫
「そうだよ。今日はこの子を『治し』に来たんだ」
青空の下で綱渡りをし、ふわりふわりと軽やかに切れた線の片方を持ちながら進んでいく。
彼女の声色はなんとも不思議な宙模様であった。
≪ビリビリが流れるぞ≫
「見てて。きっと上手にできるから」
両の羽を真っ直ぐに広げ、風を感じる少女。靡く頭の長い毛(トサカかも知れぬ)や、布切れが、かかしのように見えた。
その手に止まってみたいと思った。
「いってきます」
やがて、彼女はゆっくりと前に倒れ込んでいく。
危ない――鳥でもそう思った。
彼女は水面には落ちなかった。
ひっくり返って、吾輩の足のような両足で繋いだ線を握って、水面に落ちた切れた線へ手を伸ばした。
「あれ、届かないや」
≪貴公は自分の羽の長さを知らないのか。まったくもって届いていないぞ≫
「ごめんね。ケーブル、取ってくれるかな」
彼女の羽は先の方に広がりがあるが、飛べるような形をしていない。
時々彼女はそれを『手』と呼ぶ。飛べないのが手なのかと結論付けようとしたが、同胞の鳥の中には飛べないのがいるそうなので証明にはならなかった。
願い事をするとき、彼女は吾輩の名前を呼ぶので、仕方なく、羽を広げる。
「あなたは飛べていいなぁ」
ひっくり返ったまま、彼女は吾輩を羨んだ。
≪長く飛ぶのは疲れる。貴公の羽は足のように何でも掴めるから便利だ。羨ましい≫
吾輩は識者であるので、彼女たち4本脚鳥たちが褒められた際に褒め返すというやり取りをすることを知っている。そして真似することができる。
「ありがと。どう? 取れそう?」
≪線が水に触れている。ビリビリは危険だ≫
「そっか……。じゃあ、飛び込むしかないかな」
彼女が腕を組み頭を傾げる。
吾輩は知っている。彼女にとっても足以外で触れるビリビリは危険だ。
≪吾輩が取る。貴公はもう一本を放すな≫
「はーい」
水面に決して落ちぬよう、吾輩は羽ばたいた。
バチバチと嫌な音がするが、遠くの方からなんとか引き揚げて、彼女に近づいた。
「上手だね。ケーブル、ありがとう」
≪礼には及ばない。貴公は食事をくれるからな≫
「はいはい。今日はいつもの倍あげるから」
≪うむ≫
ビリビリの先をしばらく触っていたかと思うと、内側がベタベタする平らな紐で、切れた線をくっつける。
日が傾くほど時間をかけて、彼女はその二本を一本にした。
「よし。できた。これであっちのビルに電気が通ったと思う」
≪明るいあれか。水の中でもよく見える≫
「星が見えてきたし、潮が満ちて、この電線もじき沈んじゃうから。今日はそこで休ませてもらおう」
≪倍。忘れるでないぞ≫
「はいはい」
少女はくるりと器用に線の上に戻って、また綱渡りを始めるのだった。
しかしながら名前はある。
彼女が付けてくれた。「ケーブル」という妙ちくりんな名前である。
≪この線は途中で切れている。ここも直すのか?≫
「そうだよ。今日はこの子を『治し』に来たんだ」
青空の下で綱渡りをし、ふわりふわりと軽やかに切れた線の片方を持ちながら進んでいく。
彼女の声色はなんとも不思議な宙模様であった。
≪ビリビリが流れるぞ≫
「見てて。きっと上手にできるから」
両の羽を真っ直ぐに広げ、風を感じる少女。靡く頭の長い毛(トサカかも知れぬ)や、布切れが、かかしのように見えた。
その手に止まってみたいと思った。
「いってきます」
やがて、彼女はゆっくりと前に倒れ込んでいく。
危ない――鳥でもそう思った。
彼女は水面には落ちなかった。
ひっくり返って、吾輩の足のような両足で繋いだ線を握って、水面に落ちた切れた線へ手を伸ばした。
「あれ、届かないや」
≪貴公は自分の羽の長さを知らないのか。まったくもって届いていないぞ≫
「ごめんね。ケーブル、取ってくれるかな」
彼女の羽は先の方に広がりがあるが、飛べるような形をしていない。
時々彼女はそれを『手』と呼ぶ。飛べないのが手なのかと結論付けようとしたが、同胞の鳥の中には飛べないのがいるそうなので証明にはならなかった。
願い事をするとき、彼女は吾輩の名前を呼ぶので、仕方なく、羽を広げる。
「あなたは飛べていいなぁ」
ひっくり返ったまま、彼女は吾輩を羨んだ。
≪長く飛ぶのは疲れる。貴公の羽は足のように何でも掴めるから便利だ。羨ましい≫
吾輩は識者であるので、彼女たち4本脚鳥たちが褒められた際に褒め返すというやり取りをすることを知っている。そして真似することができる。
「ありがと。どう? 取れそう?」
≪線が水に触れている。ビリビリは危険だ≫
「そっか……。じゃあ、飛び込むしかないかな」
彼女が腕を組み頭を傾げる。
吾輩は知っている。彼女にとっても足以外で触れるビリビリは危険だ。
≪吾輩が取る。貴公はもう一本を放すな≫
「はーい」
水面に決して落ちぬよう、吾輩は羽ばたいた。
バチバチと嫌な音がするが、遠くの方からなんとか引き揚げて、彼女に近づいた。
「上手だね。ケーブル、ありがとう」
≪礼には及ばない。貴公は食事をくれるからな≫
「はいはい。今日はいつもの倍あげるから」
≪うむ≫
ビリビリの先をしばらく触っていたかと思うと、内側がベタベタする平らな紐で、切れた線をくっつける。
日が傾くほど時間をかけて、彼女はその二本を一本にした。
「よし。できた。これであっちのビルに電気が通ったと思う」
≪明るいあれか。水の中でもよく見える≫
「星が見えてきたし、潮が満ちて、この電線もじき沈んじゃうから。今日はそこで休ませてもらおう」
≪倍。忘れるでないぞ≫
「はいはい」
少女はくるりと器用に線の上に戻って、また綱渡りを始めるのだった。
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