見習い薬師は臆病者を抱いて眠る

XCX

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39.新婚なのにまさかのセックスレス 前編

 唐突だが、ティオの機嫌はあまり良くなかった。理由は単純明快、欲求不満だからだ。森に戻ってきてからというもの、なかなかザクセンとの二人きりの時間を取れないでいる。
 三日と置かずにイェゼロが遊びに来ては、日没まで何をするともなくだらだら過ごしていく。彼が一家の洞窟を業務から逃れるための避難所として使用しているのは明らかだった。師匠がいる間はタータのことを預けて、ザクセンと二人で抜け出そうとしたが、失敗に終わった。監視の目から解き放たれたイェゼロがタータを連れて森の探索に行こうとしていたのだ。危なっかしくて、師匠から目を離すわけにはいかなくなってしまった。
 夜、タータが寝静まる横で致そうとしたことがある。さすがに挿入を伴った行為は無理があるので、触り合いっこだけに留めようとした。

「…ん、ン…」

 寝転がったまま、互いに体を寄せて口づけを交わす。ザクセンの体の向こう、少し離れたところではタータが眠っている。起こさないように声を抑えて、出来るだけ物音を立てないように静かに進める。
 キスだけなら、隙を見てするようにしている。だが、甘い雰囲気の中でするキスは、それとは全く違う。全ての刺激が下腹部に直結して、より気持ちがいい。

「…ぁっ…」

 ザクセンの手が服の中に入ってきて、乳首を摘む。指先で押しつぶすように触られて、乳首がぴんと張る。指でも感じるのに、舌で舐めてもらえたら、どんなに気持ち良いだろう。

「…ザクセンさん、…声、でそ、ぅ…っ」
「ん…そうだな…」

 再び口づけられ、喘ぎ声ごと舌を食われてしまう。足の間の性器は痛いくらいに張りつめている。ティオはザクセンの下半身に手を伸ばした。彼のそれも硬くなっている。自分と同じく感じてくれているのがわかると、ますます興奮してしまう。

「んん…父ちゃん…?ティオぉ…?」

 突然聞こえてきた声に、一気に現実へと引き戻された。体がびくりと大きく震える。互いの体を弄っていた手をすぐさま引っこめた。

「タータ、起きたのか」
「んー…」

 体を起こすザクセンの肩越しに、目を擦るタータの姿が見える。お互いまだ服を着ていたままで良かった、とティオは心底そう思った。心臓が口から飛び出してしまうのではないかと思う程に、どくどくと大きく激しく拍動している。

「二人で、何してたの…」
「な、何もしてないよっ。少しお話してただけ」
「…ぅー…じゃあオイラもお話しするう…」

 自分も参加する、というタータの目はぴったりと閉じたままだ。寝ぼけているのがよく分かる。

「ちょうど終わったところだ」
「そうそう、もう寝るところだったんだよ。ザクセンさんも、俺も。ほら、タータ、みんなで一緒に寝ようね」
「うん…」

 子狸を間に挟むようにすれば、ころりと寝転がったタータが胸に擦り寄ってくる。衣服を小さな手で握りこんだかと思えば、すぐさま小さな寝息が聞こえてきた。ザクセンとティオは顔を見合わせて、苦笑いを浮かべるしかなかった。
 あくる日の夜中、二人はザクセンのお気に入りの場所である、小川に来ていた。外であれば、眠るタータを起こすことなく交尾ができると思ったからだ。体液や汗で汚れた体も小川で清めればいいし、一石二鳥だ。

「…んぁ、…ザクセン、さん…」

 久しぶりに大狐の肉棒を、お尻の中に受け入れたティオの口から熱い息が漏れる。熱く硬い存在が中に入っている。そう考えただけで、ティオは達しそうになってしまう。

「ティオ、そう締めつけるな…」
「…だって、久しぶりで…」

 自分の体が快楽に歓び、中に埋められたザクセンの陰茎をぎゅうぎゅうと締めつけているのを、ティオも感じていた。

「痛い…?」
「いや、気持ちが良い。ティオこそ、辛くないか」
「ううん、大丈夫。俺も…、きもちいい…」
「ゆっくり動くようにする」

 激しくしてくれてもいいのにな、とティオは思ったが、黙っていた。体を労わってくれるザクセンの気持ちが嬉しかった。

「…はぁ、…ん」

 ゆっくりと抜ける熱塊が、再び中へと押しこまれる。緩慢な動きのせいで、ザクセンの形や硬さ、太さや脈動がいつもよりも感じられた。体の奥からじわじわと官能が引きずり出される。
 月の光を受けて、ザクセンの白金の髪が不思議な色合いを放つ。翡翠の瞳は暗闇の中でも輝きを失っておらず、ついつい見惚れてしまう。まるで神聖な存在にも思える、この美しい獣が自分のものだと今でも信じられない気持ちだ。
 じっとザクセンの顔に見入っていたティオは、彼が眉をしかめて、動きを止めたことに気がついた。見逃してしまいそうな程に一瞬のことだったが、眉間にはまだわずかにシワが寄っている。

「ザクセンさ、…待って、ぁ…と、止まって…っ」
「っ…すまない。痛かったか?」

 ティオの訴えに、ザクセンは慌てて動きを止めた。焦る姿を可愛いと思ってしまう。彼を安心させようと、ティオは違う、と首を振り、ザクセンの頬を両手で包みこんだ。

「…ザクセンさん、タータ、起きちゃった?」

 頬に添えた手から、大狐がぎくりと強張るのが分かった。

「…いや、そんなことは」
「嘘。俺には分かるんだからな。タータ、起きたんだよね?」

 伴侶にじっと見つめられたザクセンは、観念したように息を吐いた。何故わかったのか、と言わんばかりの表情に、ティオはにっこりと笑みを浮かべて見せた。
 何のことはない。ザクセンは意外と嘘が下手だと気がついたのは最近のことだ。思っていることが、表情に出るのだ。狐は本来、騙すのが得意な生き物のはずだが、ザクセンは違うらしい。それか、四六時中一緒にいるから分かるようになったのかもしれない。

「…ああ。ティオと俺がいないことに気がついて、泣いている」
「それは大変…んンっ」

 流石は魔獣だ。人型でも獣姿の時と能力差はないらしい。ティオにはタータの泣き声など全く聞こえない。聞こえるのは、夜行性の鳥の鳴き声や風の音だけだ。
 ティオは肘をついて体を起こし、後ろに体をずらした。後孔から、ずるりとザクセンの屹立が抜ける。先程まで中を満たしていたものがなくなって、喪失感に見舞われる。

「ティオ…」

 眉を垂らした大狐が顔を覗きこんでくる。ザクセンがタータのことで言い淀んだ気持ちが十分理解できて、ティオは苦笑した。
 せっかく挿入まで至って、しかもこれからって時に、またもやおあずけなのだ。生殺しを超えて、もはや拷問に近い。ティオだって、可能であればこのまま交尾を続けたい。だが、タータが泣いていると知ってなお、行為に集中できるはずもない。自分の欲よりも、タータをあやす方が大事だ。
 ティオはザクセンに抱きつき、唇に口づけた。

「ザクセンさん、戻ろ。タータが俺たちを探して、出て行っちゃったら危ない」
「…そうだな」
「楽しみはもう少しおあずけだね」
「ああ」

 自分たちに言い聞かせるように、衣服の乱れを直しながら、二人は顔を見合わせて頷いた。互いの熱を名残惜しく思いながら、もう一度唇を合わせる。

「下半身に力入らないから、運んでもらってもいい?」
「もちろんだ」

 快く承諾したザクセンは、軽々と青年の体を抱き上げ、父親と母親と恋しがって泣く息子の待つ洞窟へと向かったのだった。
 そんなこんなで、二人は一ヶ月以上も禁欲を強いられていた。さすがに我慢も限界を迎えようとしている。ザクセンの姿を目にするだけで悶々とする始末で、ティオはなるべく彼と目を合わせないようにしていた。それは大狐も同じようで、近頃二人の間にはよそよそしい空気が流れている。

「父ちゃん、ティオ、ケンカしてるの?」

 焼いた芋を口いっぱいに頬張りながら、食事の席でタータが切り出す。子狸を間に、微妙な距離を取る親二人は取り繕った笑みを浮かべた。

「そ、そんなことないよ。あ、ザクセンさん、おかわりいる?」
「あ、ああ、もらおう。そうだぞ、タータ。俺達はいつも通りだ」

 だが、タータは慌てた様子で否定する二人の言葉に納得がいかない様子だった。

「ええー、うそだよ。オイラ、わかるもん!父ちゃんもティオも全然目を合わせないし、あんまり話もしてないし、変だよ!…もしかして、二人がおかしいのは、オイラのせい?」

 突然しゅんと元気のなくなったタータに、ティオとザクセンは顔を見合わせた。自分たちの都合なのに、タータにまで気を遣わせている状況に、罪悪感に苛まれてしまう。

「…タータ、ごめん。ケンカじゃないけど、ザクセンさんと俺が変なのは本当なんだ。ちょっと色々あって、話をしないといけないのにできてなくて…。あと、絶対にタータのせいじゃないから、それはわかってね」
「うん。じゃあ、オイラ、じいじのところに行ってる!だから父ちゃんとティオは、お話して仲直りして!」

 まさかの提案に、ティオは目を丸くした。

「タータ、いいのか?」
「うん。だって、二人が変なままだと嫌だもん。それにオイラ、じいじと遊ぶの楽しいから好き!」

 二人はタータの厚意に甘えることにした。朝食を食べ終えると、子狸は父親に連れられ、森の外にある屋敷へと出発した。元気に手を振る息子を見送るティオの胸中は、複雑だった。だが、せっかく子狸がくれた機会を無駄にするわけにはいかない。
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