11 / 24
イベント-5
しおりを挟む
朝からそんな驚く情報を入手しながらも屋台の準備は着々と進んでいた。
農と源助チームのメニューは『ナスの春巻き』に決めていた。屋台のため調理時間や食べやすさ、そして食べ応えを考慮してこのメニューになった。このような経験がない農にとっては源助の助言はとても大きかった。
そして、嫌でも農たちの目に入る隣の屋台で作業をしている洞爺と早生チームのメニューは『コロッケ』だった。
「あー、揚げ物真似しやがったな」
「真似してないよ。お互い情報交換してないでしょ」
「いちいちうるさい。黙って仕事しろ」
源助、洞爺、早生のコントが繰り広げられている中、後ろから聞き覚えのある声がした。
「おはよー。春巻きとコロッケ。食べたーい」
「私も食べたーい」
綾目 雪と山東 菜々だった。会社から各々の屋台に一人ずつ会計役をつけてくれることなっていた。農と源助チームには綾目雪、洞爺と早生チームには山東菜々がそれぞれ担当することとなっていた。
「綾目さん、今日はよろしくお願いします」
「やぎくん、よろしくね。あと雪でいいよ」
「では、雪さんさっそく揚げたてをどうぞ。菜々さんもどうぞ」
「あら、ありがとう」
農と源助チームの『ナスの春巻き』を雪と菜々に試食をしてもらった。
「春巻きの中にナスのグラタンが入ってるの?」
「ホワイトソースになすとレンコンを混ぜて春巻きの皮で巻いて揚げたんです」
「この食感はレンコンだったのね、おいしいわ」
菜々と雪には好評だった。まずは安堵して良いのだろう。
「僕にも食べさせてよ」
隣の屋台にいる洞爺と早生にも食べてもらうことになった。
「うん、いいね」
「うん」
悪くないという評価だと判断して良いはずだ。この二人からの『おいしい』は今回もおあずけのようだ。
「不味いと言われない限りは勝負できると思っていいぜ」
二人と付き合いが長いであろう源助の発言は嘘ではないだろう。農にとっては安堵できる発言であったが、源助からフォローされるということについては不気味に感じてしまうのだった。
今度は洞爺たちのコロッケを農たちが試食することになった。普通のコロッケではないと思っていたが、流石洞爺だなと農は思った。
半分に切ったジャガイモをくり抜いて、容器に使っていた。そこに潰したジャガイモとタマネギ、レンコンを混ぜたものを戻して衣をつけて揚げていた。ここで栽培された大きいジャガイモだからできる調理法だと農は感じた。
「あー、レンコン真似しやがったな」
「真似してないよ。お互い情報交換してないでしょ」
「いちいちうるさい。黙って仕事しろ」
源助、洞爺、早生のコントが再び繰り広げられた。
「相変わらず、仲良しねー」
雪と菜々は笑いながらこのコントの様子を眺めていた。源助が勝負できるというなら間違いはないのだろう。あとは、きちんと回せるかにかかっているはずだ。やるしかない。農に気合いが注入された。
「おはよう」
そろそろ客が来ると張り切っていると、屋台の試食をして回っていた味来が農たちの屋台にも来た。
「やぎくんのところは春巻きか。雪ちゃん、ひとつちょーだい」
近所のおじさんか、とツッコミたくなるくらい軽い言い方だった。
「はい、どうぞ。お金はくれるのかしら?」
「これは管理者としての試食だから」
これは『職権乱用』という言葉が当てはまるのだろう。
「菜々ちゃん、ひとつちょーだい」
今度は隣の屋台の洞爺たちのところへ職権を乱用しに行った。
「うん、やぎくんの春巻きも洞爺くんのコロッケもおいしいね。ただ、朝食を食べなかったとはいえ、これだけ食べるとお腹いっぱいだよ」
すべての屋台の試食をしてきたそうだ。確かに今日、味来は『Sugar』に朝食を食べに来なかった。その時、味来が来なかった理由は気にならなかったが、このためなのだと農は納得した。
イベントの開催時間となり想像以上に多くの人が集まってきた。天候も程良い日差しのイベント日和で、雰囲気はまさにお祭りのようだった。
まだ生産量が確保できないため、ほとんどの場合飲食店でしか食べることができない『さとう』の野菜。取扱店には『さとう』の名前が表示してあるため、食通の人たちにとっては名が知れているブランド野菜である。
そんな一般消費者にはほとんど流通しない農作物が販売されるということで、大反響となっていた。
屋台では販売されている農作物を使用しているため、希望者にはレシピを提供していた。屋台も農作物も売れるという相乗効果を狙っているのだろう。
その相乗効果は遺憾なく発揮されていると感じるほど、どこの屋台も大繁盛していた。
それは農たちのところも例外ではなく、慌ただしい時間を送っていた。当然、列を作るほど繁盛しているということもあるが、慌ただしい時間になっている要因のもう一つは綾目だった。
「二つください」
三人組に注文されると、
「三人なのに二つでいいの?」
と返す。そうすると、
「じゃあ、三つください」
となる話術を持ち合わせていた。そして、とても手際が良く回転がものすごく速い。というわけで、とてもありがたいことなのだが農たちは慌ただしい時間を過ごしていた。
無駄な動きのないデキる源助がいなければ、『客の待ち時間』が発生していただろう。源助たちとの会話はほとんどなかった。決して雰囲気が悪かったわけではなく、会話がなくても必要なタイミングで必要なことをやっていたため、農は言葉で伝える必要がなかっただけだった。
隣の洞爺たちの様子を気にする余裕はほとんどなかった。とはいっても、農はやはり気になりチラッと見てしまう。繁盛しているのはもちろんだが、そこには無駄な動きのないデキる早生がいた。そして、雪と同様に巧みな話術により売上げを伸ばしている菜々の会話が聞こえてきた。
農がそんなことを思ったときに思い出したことがあった。洞爺たちと売上げの勝負をしているのだと。正確には『源助と洞爺が勝負をしている』のだが、農も負けるつもりはなかった。
最強の助っ人と売り子がいるので、勝負の鍵を握るのは洞爺と農だろうと勝手に解釈をして志気を上げた。
農と源助チームのメニューは『ナスの春巻き』に決めていた。屋台のため調理時間や食べやすさ、そして食べ応えを考慮してこのメニューになった。このような経験がない農にとっては源助の助言はとても大きかった。
そして、嫌でも農たちの目に入る隣の屋台で作業をしている洞爺と早生チームのメニューは『コロッケ』だった。
「あー、揚げ物真似しやがったな」
「真似してないよ。お互い情報交換してないでしょ」
「いちいちうるさい。黙って仕事しろ」
源助、洞爺、早生のコントが繰り広げられている中、後ろから聞き覚えのある声がした。
「おはよー。春巻きとコロッケ。食べたーい」
「私も食べたーい」
綾目 雪と山東 菜々だった。会社から各々の屋台に一人ずつ会計役をつけてくれることなっていた。農と源助チームには綾目雪、洞爺と早生チームには山東菜々がそれぞれ担当することとなっていた。
「綾目さん、今日はよろしくお願いします」
「やぎくん、よろしくね。あと雪でいいよ」
「では、雪さんさっそく揚げたてをどうぞ。菜々さんもどうぞ」
「あら、ありがとう」
農と源助チームの『ナスの春巻き』を雪と菜々に試食をしてもらった。
「春巻きの中にナスのグラタンが入ってるの?」
「ホワイトソースになすとレンコンを混ぜて春巻きの皮で巻いて揚げたんです」
「この食感はレンコンだったのね、おいしいわ」
菜々と雪には好評だった。まずは安堵して良いのだろう。
「僕にも食べさせてよ」
隣の屋台にいる洞爺と早生にも食べてもらうことになった。
「うん、いいね」
「うん」
悪くないという評価だと判断して良いはずだ。この二人からの『おいしい』は今回もおあずけのようだ。
「不味いと言われない限りは勝負できると思っていいぜ」
二人と付き合いが長いであろう源助の発言は嘘ではないだろう。農にとっては安堵できる発言であったが、源助からフォローされるということについては不気味に感じてしまうのだった。
今度は洞爺たちのコロッケを農たちが試食することになった。普通のコロッケではないと思っていたが、流石洞爺だなと農は思った。
半分に切ったジャガイモをくり抜いて、容器に使っていた。そこに潰したジャガイモとタマネギ、レンコンを混ぜたものを戻して衣をつけて揚げていた。ここで栽培された大きいジャガイモだからできる調理法だと農は感じた。
「あー、レンコン真似しやがったな」
「真似してないよ。お互い情報交換してないでしょ」
「いちいちうるさい。黙って仕事しろ」
源助、洞爺、早生のコントが再び繰り広げられた。
「相変わらず、仲良しねー」
雪と菜々は笑いながらこのコントの様子を眺めていた。源助が勝負できるというなら間違いはないのだろう。あとは、きちんと回せるかにかかっているはずだ。やるしかない。農に気合いが注入された。
「おはよう」
そろそろ客が来ると張り切っていると、屋台の試食をして回っていた味来が農たちの屋台にも来た。
「やぎくんのところは春巻きか。雪ちゃん、ひとつちょーだい」
近所のおじさんか、とツッコミたくなるくらい軽い言い方だった。
「はい、どうぞ。お金はくれるのかしら?」
「これは管理者としての試食だから」
これは『職権乱用』という言葉が当てはまるのだろう。
「菜々ちゃん、ひとつちょーだい」
今度は隣の屋台の洞爺たちのところへ職権を乱用しに行った。
「うん、やぎくんの春巻きも洞爺くんのコロッケもおいしいね。ただ、朝食を食べなかったとはいえ、これだけ食べるとお腹いっぱいだよ」
すべての屋台の試食をしてきたそうだ。確かに今日、味来は『Sugar』に朝食を食べに来なかった。その時、味来が来なかった理由は気にならなかったが、このためなのだと農は納得した。
イベントの開催時間となり想像以上に多くの人が集まってきた。天候も程良い日差しのイベント日和で、雰囲気はまさにお祭りのようだった。
まだ生産量が確保できないため、ほとんどの場合飲食店でしか食べることができない『さとう』の野菜。取扱店には『さとう』の名前が表示してあるため、食通の人たちにとっては名が知れているブランド野菜である。
そんな一般消費者にはほとんど流通しない農作物が販売されるということで、大反響となっていた。
屋台では販売されている農作物を使用しているため、希望者にはレシピを提供していた。屋台も農作物も売れるという相乗効果を狙っているのだろう。
その相乗効果は遺憾なく発揮されていると感じるほど、どこの屋台も大繁盛していた。
それは農たちのところも例外ではなく、慌ただしい時間を送っていた。当然、列を作るほど繁盛しているということもあるが、慌ただしい時間になっている要因のもう一つは綾目だった。
「二つください」
三人組に注文されると、
「三人なのに二つでいいの?」
と返す。そうすると、
「じゃあ、三つください」
となる話術を持ち合わせていた。そして、とても手際が良く回転がものすごく速い。というわけで、とてもありがたいことなのだが農たちは慌ただしい時間を過ごしていた。
無駄な動きのないデキる源助がいなければ、『客の待ち時間』が発生していただろう。源助たちとの会話はほとんどなかった。決して雰囲気が悪かったわけではなく、会話がなくても必要なタイミングで必要なことをやっていたため、農は言葉で伝える必要がなかっただけだった。
隣の洞爺たちの様子を気にする余裕はほとんどなかった。とはいっても、農はやはり気になりチラッと見てしまう。繁盛しているのはもちろんだが、そこには無駄な動きのないデキる早生がいた。そして、雪と同様に巧みな話術により売上げを伸ばしている菜々の会話が聞こえてきた。
農がそんなことを思ったときに思い出したことがあった。洞爺たちと売上げの勝負をしているのだと。正確には『源助と洞爺が勝負をしている』のだが、農も負けるつもりはなかった。
最強の助っ人と売り子がいるので、勝負の鍵を握るのは洞爺と農だろうと勝手に解釈をして志気を上げた。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる