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収穫-3
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洞爺と早生との会話を増えていき、初めて店に来た時と比較すると早生の表情も和らいできたように見えた。
ある日、洞爺は早生に里芋コロッケを作って振る舞った。早生が店に来た日に喜んでいたコロッケだ。しかし、今回は早生の反応がイマイチだった。
当時の早生が空腹だったから喜んだだけなのだろうか。洞爺が反応を求めている顔をしていることに気づいた早生の口が開いた。
「使用している里芋はこの間と同じものですか?」
早生の質問に洞爺は思わず驚いてしまった。その洞爺の表情に早生も困惑してしまった。
「早生ちゃん、この違いがわかったのかい?他に何か気づいたことはある?」
「里芋の下茹で時間はもう少し短くて良いかも」
早生の指摘は的中していた。通常はほとんどが『株式会社さとう』で栽培された野菜を使用している。前回もそうだった。しかし、今回の里芋は他の農家からもらったものを使用した。品種も同じ里芋で違いはほとんどない。洞爺ですら違いはほとんどわからない。そのほとんどない違いが早生にはわかったことになる。
偶然かもしれない。そう思いながらも洞爺は試さずにはいられなかった。洞爺は楽しそうに早生に説明をして『早生の舌チェック』をさせてもらった。
『チェック』というより『テスト』に近かった。調味料や野菜の調理方法、肉や魚と野菜の組み合わせなど数日掛けて。洞爺が用意したテストの早生の正解率はほぼ満点だった。
始めは困惑していた早生だが、次第に早生も『早生の舌チェック』が楽しくなり、洞爺に意見をするようになっていった。感心するばかりの洞爺は、早生にあるお願いをした。
「早生ちゃん、今あるお店のレギュラーメニューをすべて試食して意見をくれないかい?」
「えっ?」
早生はこの『洞爺のお願い』には流石に躊躇した。数回断り、それ以上の回数お願いをされた。
「一緒にお店を良くしていこう」
これが口説き文句となった。さらに数日掛けてレギュラーメニューを早生に試食してもらった。早生からのいくつかの指摘やアドバイスは洞爺にとってとても有益なものだった。直接売上げに繋がるかはまた別の話だが。
「ありがとう」
それ以降、洞爺が新メニューを考案した際には早生のチェックを受けるようになった。今まで料理に興味を持ったり、こんなに味わって食べたり、これほどおいしいと思うものを食べたことがなかったという。早生の能力が開花した。
早生がシェアハウスで暮らすようになってから、『株式会社さとう』との交流が多くなった。次第に農業に興味を持つようにもなった。
『株式会社さとう』では、農業関係の知識を学ぶための支援を行っている。ただし、対象者は年に数人のため、倍率は数十倍から数百倍になるという。
支援する側が支援したいと思う人がいなかった場合は、その年の支援対象者はいないということもあるという。
早生は面接などを経て見事その対象者になった。よって、早生が通っている大学の学費は『株式会社さとう』が支払っている。その支援者の一人目が早生であり、五人目がひかりだった。
農は自分と生立ちが似ているなと感じた。それにしても、なぜ早生は農に突然こんな話をしたのだろうか。理由を問いかけた時には早生は農の視界から消えていた。
「私も早生さんからそんな話聞いたことないのに。嫉妬しちゃいますよ」
「そんなこと言われても。何であいつは急に俺にあんな話をしたんだ?」
「やぎさんだからですかね?」
「なんじゃそりゃ。答えになってない」
農の視界から消えた早生は、洞爺と共に酒と肉や野菜を頬張っていた。
「ところで、早生は酒癖が悪いの?」
「いつもはこんな風にはならないですよ。やぎさんがいるからですかね?」
「なんじゃそりゃ」
「帰りのバスで少し寝ればすぐに復活するので問題なしです」
「そういう問題なのか・・・・・・」
ひかりの説明に納得がいかない。意味がわからない。そういう問題ではない。
昼食のバーベキューも終わり、帰る組と午後も作業続行する組に分かれた。『Sugar』チームは帰りのバスに乗り込んだ。席に座ると早生はすぐに寝てしまった。ひかりは早生の保護者のように隣に座っていた。
「早生さんとやぎさんは仲がいいんですね?」
通路越しに座った農にひかりが不思議なことを言った。
「あれが仲がいいという風に見えるのかい?」
ひかりは『仲がいい』という言葉の意味を理解しているのだろうか?
「あんなに楽しそうに話してる早生さんを見るのは初めてだなと思って。大学では、早生さんが誰かと話しているところをあまり見たことがないんです」
今日、洞爺にも同じようなことを言われたことを農は思い出した。
「そんなに付き合いが長いというわけではないですけど、早生さんのことをよくは知らないんです。先ほど初めて聞いたこともたくさんありました」
「俺はまだ早生と出会って数日なんだけど」
「私、一人っ子なんです」
農の発言は無視され、ひかりも突然自分のことを話し始めた。
早生はたまにひかりの家に遊びに行き、大体はひかりの家に泊まるのだという。初めて早生がひかりの家に行ったとき、夕食を一緒に食べたという。そのときのメニューがコロッケで、早生はそのコロッケをおいしそうに、そしてとてもうれしそうに食べていたそうだ。コロッケを好んでいる理由は洞爺の影響だろう。
早生はひかりの母親を『お母さん』と呼び、ひかりの母親も娘がもう一人増えたみたいと喜んでいるそうだ。
「私もお姉ちゃんができたと勝手に思ってます」
「またなんで急に俺にそんな話を?」
「なんでですかね?なんとなくやぎさんに話したくなっちゃいました。早生さんと同じかもしれませんね」
『だーかーらー』と可愛らしく語気を強めに決めゼリフを言い放った。
「早生さんを悲しませるようなことしたら許さないから」
『泣かせる』ではなく『悲しませる』。農はまたなぜ自分に言うのだろう?と疑問に思った。
「改めて訊きますけど、本当に裸を見ただけなんですか?」
「改めて言うけど、正確には裸ではない。早生が部屋の鍵をちゃんと掛けていれば、こんなことにはなってないんだ」
「悪いのはやぎさんではなく、すべて早生さんが悪いと?」
「いや、俺が悪いです。ごめんさない」
流石、早生の妹というべきか。鋭い口撃をしてくる。
数分でバスが『株式会社さとう』に到着したと同時に早生が目覚めた。先ほどの酒癖の悪い酔っ払いとは別人と思えるほど、いつもの早生の振る舞いのようだった。
「もう酔いは覚めたのか?」
農は早生に確かめた。
「何言ってんの?酔ってるわけないじゃん。今からお店の仕事だよ」
いつもの早生に戻っていた。
「だから、バスで少し寝れば復活するって言ったじゃないですか。ちなみに酔っているときの記憶はほとんどありませんから」
ということは、早生が自分の生立ちについて農に話したことを覚えていないということになる。
これを話題にしたら、早生はまた変な難癖をつけてくるに違いない。これは触れてはいけない話題になったことを理解した。
ひかりは『早生の妹』いや『早生のトリセツ』だということを農は理解した。早生は『復活は早いが、ただの酒癖の悪い面倒くさいヤツ』ということになる。今後、早生の行動や言動に不明点があった場合はひかりに相談することにした。
その日の夜の営業はいつものように無事に終了した。
そして翌日の朝、農たちは収穫作業後の営業中に起こっていたであろう事件について知ることになる。
ある日、洞爺は早生に里芋コロッケを作って振る舞った。早生が店に来た日に喜んでいたコロッケだ。しかし、今回は早生の反応がイマイチだった。
当時の早生が空腹だったから喜んだだけなのだろうか。洞爺が反応を求めている顔をしていることに気づいた早生の口が開いた。
「使用している里芋はこの間と同じものですか?」
早生の質問に洞爺は思わず驚いてしまった。その洞爺の表情に早生も困惑してしまった。
「早生ちゃん、この違いがわかったのかい?他に何か気づいたことはある?」
「里芋の下茹で時間はもう少し短くて良いかも」
早生の指摘は的中していた。通常はほとんどが『株式会社さとう』で栽培された野菜を使用している。前回もそうだった。しかし、今回の里芋は他の農家からもらったものを使用した。品種も同じ里芋で違いはほとんどない。洞爺ですら違いはほとんどわからない。そのほとんどない違いが早生にはわかったことになる。
偶然かもしれない。そう思いながらも洞爺は試さずにはいられなかった。洞爺は楽しそうに早生に説明をして『早生の舌チェック』をさせてもらった。
『チェック』というより『テスト』に近かった。調味料や野菜の調理方法、肉や魚と野菜の組み合わせなど数日掛けて。洞爺が用意したテストの早生の正解率はほぼ満点だった。
始めは困惑していた早生だが、次第に早生も『早生の舌チェック』が楽しくなり、洞爺に意見をするようになっていった。感心するばかりの洞爺は、早生にあるお願いをした。
「早生ちゃん、今あるお店のレギュラーメニューをすべて試食して意見をくれないかい?」
「えっ?」
早生はこの『洞爺のお願い』には流石に躊躇した。数回断り、それ以上の回数お願いをされた。
「一緒にお店を良くしていこう」
これが口説き文句となった。さらに数日掛けてレギュラーメニューを早生に試食してもらった。早生からのいくつかの指摘やアドバイスは洞爺にとってとても有益なものだった。直接売上げに繋がるかはまた別の話だが。
「ありがとう」
それ以降、洞爺が新メニューを考案した際には早生のチェックを受けるようになった。今まで料理に興味を持ったり、こんなに味わって食べたり、これほどおいしいと思うものを食べたことがなかったという。早生の能力が開花した。
早生がシェアハウスで暮らすようになってから、『株式会社さとう』との交流が多くなった。次第に農業に興味を持つようにもなった。
『株式会社さとう』では、農業関係の知識を学ぶための支援を行っている。ただし、対象者は年に数人のため、倍率は数十倍から数百倍になるという。
支援する側が支援したいと思う人がいなかった場合は、その年の支援対象者はいないということもあるという。
早生は面接などを経て見事その対象者になった。よって、早生が通っている大学の学費は『株式会社さとう』が支払っている。その支援者の一人目が早生であり、五人目がひかりだった。
農は自分と生立ちが似ているなと感じた。それにしても、なぜ早生は農に突然こんな話をしたのだろうか。理由を問いかけた時には早生は農の視界から消えていた。
「私も早生さんからそんな話聞いたことないのに。嫉妬しちゃいますよ」
「そんなこと言われても。何であいつは急に俺にあんな話をしたんだ?」
「やぎさんだからですかね?」
「なんじゃそりゃ。答えになってない」
農の視界から消えた早生は、洞爺と共に酒と肉や野菜を頬張っていた。
「ところで、早生は酒癖が悪いの?」
「いつもはこんな風にはならないですよ。やぎさんがいるからですかね?」
「なんじゃそりゃ」
「帰りのバスで少し寝ればすぐに復活するので問題なしです」
「そういう問題なのか・・・・・・」
ひかりの説明に納得がいかない。意味がわからない。そういう問題ではない。
昼食のバーベキューも終わり、帰る組と午後も作業続行する組に分かれた。『Sugar』チームは帰りのバスに乗り込んだ。席に座ると早生はすぐに寝てしまった。ひかりは早生の保護者のように隣に座っていた。
「早生さんとやぎさんは仲がいいんですね?」
通路越しに座った農にひかりが不思議なことを言った。
「あれが仲がいいという風に見えるのかい?」
ひかりは『仲がいい』という言葉の意味を理解しているのだろうか?
「あんなに楽しそうに話してる早生さんを見るのは初めてだなと思って。大学では、早生さんが誰かと話しているところをあまり見たことがないんです」
今日、洞爺にも同じようなことを言われたことを農は思い出した。
「そんなに付き合いが長いというわけではないですけど、早生さんのことをよくは知らないんです。先ほど初めて聞いたこともたくさんありました」
「俺はまだ早生と出会って数日なんだけど」
「私、一人っ子なんです」
農の発言は無視され、ひかりも突然自分のことを話し始めた。
早生はたまにひかりの家に遊びに行き、大体はひかりの家に泊まるのだという。初めて早生がひかりの家に行ったとき、夕食を一緒に食べたという。そのときのメニューがコロッケで、早生はそのコロッケをおいしそうに、そしてとてもうれしそうに食べていたそうだ。コロッケを好んでいる理由は洞爺の影響だろう。
早生はひかりの母親を『お母さん』と呼び、ひかりの母親も娘がもう一人増えたみたいと喜んでいるそうだ。
「私もお姉ちゃんができたと勝手に思ってます」
「またなんで急に俺にそんな話を?」
「なんでですかね?なんとなくやぎさんに話したくなっちゃいました。早生さんと同じかもしれませんね」
『だーかーらー』と可愛らしく語気を強めに決めゼリフを言い放った。
「早生さんを悲しませるようなことしたら許さないから」
『泣かせる』ではなく『悲しませる』。農はまたなぜ自分に言うのだろう?と疑問に思った。
「改めて訊きますけど、本当に裸を見ただけなんですか?」
「改めて言うけど、正確には裸ではない。早生が部屋の鍵をちゃんと掛けていれば、こんなことにはなってないんだ」
「悪いのはやぎさんではなく、すべて早生さんが悪いと?」
「いや、俺が悪いです。ごめんさない」
流石、早生の妹というべきか。鋭い口撃をしてくる。
数分でバスが『株式会社さとう』に到着したと同時に早生が目覚めた。先ほどの酒癖の悪い酔っ払いとは別人と思えるほど、いつもの早生の振る舞いのようだった。
「もう酔いは覚めたのか?」
農は早生に確かめた。
「何言ってんの?酔ってるわけないじゃん。今からお店の仕事だよ」
いつもの早生に戻っていた。
「だから、バスで少し寝れば復活するって言ったじゃないですか。ちなみに酔っているときの記憶はほとんどありませんから」
ということは、早生が自分の生立ちについて農に話したことを覚えていないということになる。
これを話題にしたら、早生はまた変な難癖をつけてくるに違いない。これは触れてはいけない話題になったことを理解した。
ひかりは『早生の妹』いや『早生のトリセツ』だということを農は理解した。早生は『復活は早いが、ただの酒癖の悪い面倒くさいヤツ』ということになる。今後、早生の行動や言動に不明点があった場合はひかりに相談することにした。
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