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事件-2
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農場工場の普及の促進に伴い、ノウハウや技術に長けている『株式会社さとう』が大活躍をしていた。
『良いものは高くても売れる』が社訓のような『株式会社さとう』。この件でとても儲けているのだろうと思い、ある日農は味来に質問をしたことがあった。
「農場工場の普及で儲かっているんじゃないですか?特許料とか技術料とか?」
「この件で儲かっているということはないよ。以前も話した通り、僕たちはこれを早急に普及させなければならない理由がある。今回の件は、不幸な出来事だけど良い機会と捉えて動くしかない。これで儲けることを考えたら本末転倒だよ」
農はハッとした。以前、味来が話していたことを思い出した。『味来は未来からから来たこと』『未来で起こる災難を回避するためにこの時代で奮闘していること』を。いや、忘れかけていた。農自身も味来の話を信じ、協力すると言ったのに。
必要経費はもらっているが特許料や技術料などは徴収していないという。味来の言う通り、目的に向かって機会を逃さず動いている。
農は改めて自分のできることを精一杯やろうと決意した。
それからしばらくは平穏な日々が続いた。が、長くは続かなかった。農場工場を普及する大プロジェクトが進行中にまた大きな事件が起こるのだった。
ある朝、いつもの朝食に今度は菜々だけ現れなかった。
「今日、菜々ちゃんはトラブル対応のため早出出勤しているよ」
「何かあったんですか?」
「詳細は会社行ってから報告を受けることになっているけど、農場工場の農作物が枯れちゃったみたい」
いつものことなのだろうか。農の問いに味来は淡々と答えた。
「こういうことはたまにあるんですか?」
「こんなことは初めてだよ。僕が慌てたり取り乱したりするのも良くないでしょ?まずは現状把握でしょ」
確かにその通りだ。社長は堂々としていなくては。
「慌てるのは、これからだよ」
結局、慌てるらしい。
「ごちそうさま。いってきます」
味来はトラブル発生中の会社へ出社した。今回のトラブルの詳細についても後ほど本人たちから聞けるだろうと農たちは思った。
その日の閉店後に味来と菜々が『Sugar』に訪れた。二人はこの日もとても疲弊した表情だった。
「いやー、今日は大変だったね」
「大変なのは今日じゃなくて今日からですよ」
洞爺は味来と菜々にオムライスとコーンポタージュを用意した。このやりとりと風景は以前もあったような気がした。
『除草剤散布事件』の時と同じ展開だった。今回、洞爺はこの展開を予測して準備をしていたようだった。
その後、食後の紅茶を飲みながら今日のトラブルの詳細が味来から語られた。
農場工場の農作物が枯れていたことは朝食時に味来から聞いていた。部分的に移動式カメラがついている。
農作物の発育状況を定期的にモニタリングしており、その際に異変に気づいたという。詳しく状況を確認した結果、農作物が枯れていることが判明したのだという。
制御画面上は水分や栄養分の供給は正常に実施されていたようだ。ジェル状の水分や栄養分が根に付着している状態はモニタリングをしているため、異常が発生した場合は目視で確認できるはずだった。
ただし、実際の状況は水分や栄養分の供給は数日前から停止していたようだ。動作確認や制御室からの信号による動作も問題なかった。水分や栄養分の供給を強制的に停止しても制御画面では異常とならなかった。
さらに調査を進めると、農作物育成関連設備のシステムのみコンピューターウイルスに感染していたことがわかった。農作物に異常が発生するまで気づけないウイルスとはかなり厄介だ。そもそも、これだけ大規模な設備のシステムのコンピューターウイルス対策が万全でないわけがない。
「うちのシステムに侵入できるなんてただ者ではないね」
「エンジニアが責任を感じながらもとても悔しそうにしてましたよ」
「切磋琢磨してまたよいプログラムができるのかな?」
「『切磋琢磨』の使い方間違えてます。これは犯罪ですから。犯人と競い合いでもしているんですか?」
「ごめんなさい」
「不謹慎です」
「ごめんなさい」
こんな時に何を言っているんだ?と思いながらも味来らしいなとも思った。そして、菜々は相変わらずしっかりしているなと。
「うちの優秀なエンジニアが悔しがるほどの犯人。この能力をもっと別のところで活かしてほしいですね」
菜々の言うとおりだ。この件を解決し、さらなる改善をするためにエンジニアの統括者である伊豆次郎を筆頭に試行錯誤を重ねているそうだ。
今回の事件に関して伊豆は、『株式会社さとう』初期メンバーであり、伊豆の師匠であるエンジニアに相談をすることもあった。
この事件は『株式会社さとう』の各地工場及び他社工場でも同様の事態が発生しており、これについても事件化されてニュースとして報道された。
『除草散布事件』と同様に被害の規模が大きく、収穫前に被害にあった農場工場が多かった。今回の事件についても需要と供給に大きな影響を与えることとなり農作物の価格が急上昇した。
『除草剤散布事件』による価格の上昇が落ち着いてきた矢先の出来事だった。事件発生のタイミングは最悪だった。『除草剤散布事件』と同一犯であるかは不明だ。同一犯ではないとしても、意図的に実施したと考えたくなるタイミングだった。
この事件については、これを模倣とした事件は起こらなかった。今回は同じことをしようとするにしては高度すぎたため、模倣しようとする愚か者は現れなかったのだろう。
被害と被害者が多かった二つの事件により、『農場工場普及の加速』『農場工場のシステムの見直し』『ドローンの法整備の加速』がさらに大きく進んでいくことになった。皮肉なものだ。
そして、この二つの事件の犯人は未だ捕まってはいない。
ある日、農は味来に呼ばれて『株式会社さとう』の社長室に向かった。
「失礼します」
農は社長室に入ると、味来と談笑している一人の男の姿が眼に映った。
「やぎくん、忙しいところ悪いね。今日は、君に陸奥くんを紹介するために来てもらったんだ」
「陸奥くん?」
「彼は陸奥 陽光。農場に除草剤を散布したり、うちのシステムに侵入したりした。二つの事件のいわゆる『犯人』」
「・・・・・・は?・・・・・・何を・・・・・・言っている?」
『良いものは高くても売れる』が社訓のような『株式会社さとう』。この件でとても儲けているのだろうと思い、ある日農は味来に質問をしたことがあった。
「農場工場の普及で儲かっているんじゃないですか?特許料とか技術料とか?」
「この件で儲かっているということはないよ。以前も話した通り、僕たちはこれを早急に普及させなければならない理由がある。今回の件は、不幸な出来事だけど良い機会と捉えて動くしかない。これで儲けることを考えたら本末転倒だよ」
農はハッとした。以前、味来が話していたことを思い出した。『味来は未来からから来たこと』『未来で起こる災難を回避するためにこの時代で奮闘していること』を。いや、忘れかけていた。農自身も味来の話を信じ、協力すると言ったのに。
必要経費はもらっているが特許料や技術料などは徴収していないという。味来の言う通り、目的に向かって機会を逃さず動いている。
農は改めて自分のできることを精一杯やろうと決意した。
それからしばらくは平穏な日々が続いた。が、長くは続かなかった。農場工場を普及する大プロジェクトが進行中にまた大きな事件が起こるのだった。
ある朝、いつもの朝食に今度は菜々だけ現れなかった。
「今日、菜々ちゃんはトラブル対応のため早出出勤しているよ」
「何かあったんですか?」
「詳細は会社行ってから報告を受けることになっているけど、農場工場の農作物が枯れちゃったみたい」
いつものことなのだろうか。農の問いに味来は淡々と答えた。
「こういうことはたまにあるんですか?」
「こんなことは初めてだよ。僕が慌てたり取り乱したりするのも良くないでしょ?まずは現状把握でしょ」
確かにその通りだ。社長は堂々としていなくては。
「慌てるのは、これからだよ」
結局、慌てるらしい。
「ごちそうさま。いってきます」
味来はトラブル発生中の会社へ出社した。今回のトラブルの詳細についても後ほど本人たちから聞けるだろうと農たちは思った。
その日の閉店後に味来と菜々が『Sugar』に訪れた。二人はこの日もとても疲弊した表情だった。
「いやー、今日は大変だったね」
「大変なのは今日じゃなくて今日からですよ」
洞爺は味来と菜々にオムライスとコーンポタージュを用意した。このやりとりと風景は以前もあったような気がした。
『除草剤散布事件』の時と同じ展開だった。今回、洞爺はこの展開を予測して準備をしていたようだった。
その後、食後の紅茶を飲みながら今日のトラブルの詳細が味来から語られた。
農場工場の農作物が枯れていたことは朝食時に味来から聞いていた。部分的に移動式カメラがついている。
農作物の発育状況を定期的にモニタリングしており、その際に異変に気づいたという。詳しく状況を確認した結果、農作物が枯れていることが判明したのだという。
制御画面上は水分や栄養分の供給は正常に実施されていたようだ。ジェル状の水分や栄養分が根に付着している状態はモニタリングをしているため、異常が発生した場合は目視で確認できるはずだった。
ただし、実際の状況は水分や栄養分の供給は数日前から停止していたようだ。動作確認や制御室からの信号による動作も問題なかった。水分や栄養分の供給を強制的に停止しても制御画面では異常とならなかった。
さらに調査を進めると、農作物育成関連設備のシステムのみコンピューターウイルスに感染していたことがわかった。農作物に異常が発生するまで気づけないウイルスとはかなり厄介だ。そもそも、これだけ大規模な設備のシステムのコンピューターウイルス対策が万全でないわけがない。
「うちのシステムに侵入できるなんてただ者ではないね」
「エンジニアが責任を感じながらもとても悔しそうにしてましたよ」
「切磋琢磨してまたよいプログラムができるのかな?」
「『切磋琢磨』の使い方間違えてます。これは犯罪ですから。犯人と競い合いでもしているんですか?」
「ごめんなさい」
「不謹慎です」
「ごめんなさい」
こんな時に何を言っているんだ?と思いながらも味来らしいなとも思った。そして、菜々は相変わらずしっかりしているなと。
「うちの優秀なエンジニアが悔しがるほどの犯人。この能力をもっと別のところで活かしてほしいですね」
菜々の言うとおりだ。この件を解決し、さらなる改善をするためにエンジニアの統括者である伊豆次郎を筆頭に試行錯誤を重ねているそうだ。
今回の事件に関して伊豆は、『株式会社さとう』初期メンバーであり、伊豆の師匠であるエンジニアに相談をすることもあった。
この事件は『株式会社さとう』の各地工場及び他社工場でも同様の事態が発生しており、これについても事件化されてニュースとして報道された。
『除草散布事件』と同様に被害の規模が大きく、収穫前に被害にあった農場工場が多かった。今回の事件についても需要と供給に大きな影響を与えることとなり農作物の価格が急上昇した。
『除草剤散布事件』による価格の上昇が落ち着いてきた矢先の出来事だった。事件発生のタイミングは最悪だった。『除草剤散布事件』と同一犯であるかは不明だ。同一犯ではないとしても、意図的に実施したと考えたくなるタイミングだった。
この事件については、これを模倣とした事件は起こらなかった。今回は同じことをしようとするにしては高度すぎたため、模倣しようとする愚か者は現れなかったのだろう。
被害と被害者が多かった二つの事件により、『農場工場普及の加速』『農場工場のシステムの見直し』『ドローンの法整備の加速』がさらに大きく進んでいくことになった。皮肉なものだ。
そして、この二つの事件の犯人は未だ捕まってはいない。
ある日、農は味来に呼ばれて『株式会社さとう』の社長室に向かった。
「失礼します」
農は社長室に入ると、味来と談笑している一人の男の姿が眼に映った。
「やぎくん、忙しいところ悪いね。今日は、君に陸奥くんを紹介するために来てもらったんだ」
「陸奥くん?」
「彼は陸奥 陽光。農場に除草剤を散布したり、うちのシステムに侵入したりした。二つの事件のいわゆる『犯人』」
「・・・・・・は?・・・・・・何を・・・・・・言っている?」
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