不死鳥の灯火

こたつにみかん

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第一章 美しいくらいに残酷な世界

第一話 悲劇のプロローグ

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  いつもと変わらぬ風景、変わらない人の流れ、幸せな一時。そんなものを嘲笑うかのように打ち壊す。
 悟ったのは俺がまだ八歳の時だった。
 『この世界は美しいくらいに残酷だ。』 

 
 雲一つない晴天の日。
「セツナ、そろそろ用意しないと遅れるわよー。」
 テンザキ・セツナそれが俺の名前だ。母はヨウコ。
「うーん。」
 俺は適当に返事をし、そろそろ家を出ることにした。
 その日、学校が休みだった俺は昼から友達と遊ぶ予定だった。
 「日が暮れる前には帰ってくるんだぞ。」父のトウシロウだ。
 「わかってるって。」
  すると、三つ下の妹のナツミが出てきた。
「お兄ちゃん、ナツも行くー。」
 正直、かわいい妹と遊びたい気持ちもあったが、
「ごめんな、今日はだめなんだ。また今度遊んであげるから我慢してくれないか?」
「やだ、行くのー。」
 なかなか聞いてくれず困っていると父が助けてくれた。
「ナツ、今日はお父さんとお母さんが遊んであげよう。」
「ほんとに!やったー。」
 普段、忙しくてあまり遊んでくれない父が遊んでくれるということで妹は大喜びだった。
「お父さん、ありがとう。それじゃあ、行ってきます。」
「おう、行ってらっしゃい。」
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい。」

 俺はジャポルタ王国という国に父、母、妹とで四人で暮らしていた。
  
 夕方、友達と別れた俺はあと数分で家に着くというところまで帰ってきていた。

 バン、バン、バン

 急に大きな音が聞こえた。
(銃声!?)
 聞こえてきた方角を確認するとうちの家の方からだった。何か嫌な予感がした俺はすぐに走って家に向かった。走っている間も銃声が止まない。それに、どんどん音が大きくなっていく。
(あの角を曲がれば家が見える。)
 
 角の前には王族の荷車があった。だが、そんな事を気にしている場合じゃなかった俺は、急いで角を曲がった。

「あっ・・・」

 声が出なかった。
 角を曲がった俺の視界に飛び込んできたのは、血だらけで倒れている父と母と妹、それにそのすぐ近くで銃を持って笑っている男だった。すると、男がこっちを見た。はっきり見えたその男の顔を俺は知っていた。なぜならその男は、このジャポルタ王国の国王の息子、ケルタカ王子だったからだ。ケルタカ王子は第三王妃トミコの息子だ。そして、この王子は優しく温厚で知られている国王に対して、正反対の性格で、気性が荒く、わがままで有名であり、一部では狂っているという噂まであった。さらに、数年前から国王が病で倒れてからは、第三王妃の父でケルタカの祖父である現国軍大臣のコウザン・アキタカが政治の実権まで握るようになり、ますます酷くなってきていると聞く。幼い俺でもわかった。
(こいつはやばい!)
 ケルタカがこっちに気づいた。
「なんだこのガキは、こいつらの息子か?」
 ゆっくりと近づいてくる。距離は50メートル以上あるのに目の前の悲惨な状況に体が動かない。
 ケルタカがこっちに銃口を向けた。
「死ぬべき男の息子なら、はやく親に会わせてやるよ。あの世でな!」
 そして、引き金を引いた。
 もうだめだと思ったその時。

「避けろセツナ!」
  
 バン

「チッ、はずしたか。」

 いきなり聞こえてきた声につられて、かろうじて避けることができた。声のした方を見てみると、そこには血塗ちまみれで片膝をついている父がいた。
「お父さん!」
 すぐに俺は父のもとへ駆け寄ろうとしたがケルタカが邪魔で行けない。
「あの野郎まだ生きてやがったのか。まぁいい、このガキを殺してから止めを刺してやる。」
 そしてまた、俺に銃口を向けた。

「今度ははずさねえよ。」

 今度こそダメかと思った。しかし。
 
 カチッ

「クソッ、弾切れか⁉」

 ケルタカが弾を取りに荷車に行ってよそ見をしている間に父のもとへ行った。

「お父さん!お父さん!」
今にも死にそうな父を俺は泣きながら何度も呼んだ。
「セツナ…父さんを置いて…はやく逃げろ。」
「嫌だ‼」
「セツナ…父さんはもう…だめだ。幸い…奴は…自分の護衛も一緒に殺している。奴が…来る前にはやく…逃げるんた!」
 まわりを良く見渡すと少し離れて何人かが血を流して倒れている。
その後、父は何度も逃げるようにいうが俺は反抗した。そして、
「嫌だ!お父さんもお母さんもナツも死ぬなら俺も死ぬ!」そう俺が言った時だった。

バチン

 気付いたら俺は父に頬を叩かれていた。
「お…とお…さん。」
「セツナ!命を粗末にするな!ましてや自分から死ぬなんて二度と言うじゃない。」
 さっきまで消え入りそうな声で話していたとは思えない声で父は叱った。
「ごめん…な…さい。」
「叩いて悪かったな。分かってくれたら、それでいいんだ。お前まで死んでしまったらあの世で母さんとナツに会わせる顔がない。だからどうか頼むセツナ、お前だけは何としてでも生きてくれ!」
 父の真剣な眼差しに、俺はもうなにも言えなかった。
「それにな…前に言ったろ、父さんは本当はだったって。」
「でも、それはおと」
 俺が言いかけたその時、
「なんだ、まだそんな元気があったのか?」
 ケルタカが戻って来た。逃げられないと思っているケルタカはまた、ゆっくり近づいてきている。
 
 すると父は
「いいか、セツナ、良く聞け。父さんが奴を止めている間にお前は家に入って裏口へ行け。そしたら、お前は知らないだろうが裏口に敷いてある敷物をめくって床を強く三回叩くと地下倉庫に繋がる扉が出てくる。中に入ると青いリュックとその近くに長細い袋があるはずだ。それを持って裏口から逃げろ。うんと遠くへだ。」
 そして父は今にも倒れそうになりながら立って、俺を抱きしめた。
「セツナ、お前は父さんとは違う、賢くて優しい子だ。だから大丈夫。もお前ならきっと上手く使える。・・・・・・ごめんな、母さんとナツを助けられなくて。ごめんな、お前の傍に居てやれなくて。ごめんな、こんなダメな父親で。ごめんな‥‥ごめんな‥‥ごめんな‥‥」
 謝り続ける父に俺は
「お父さん、ありがとう。大丈夫。お父さんは俺の誇りだから。俺、頑張るから。何があっても生きるから。約束するから。だから‥‥だから‥‥」
 最後は泣いてはいけない。そう思った。だから俺は、笑顔で、
「行って来ます。」
すると父も笑顔で、
「行ってらっしゃい。」

 これが父との最後の言葉だった。

 父と離れた俺はそのまま家の中へと向かって走った。

「逃がすかよ。」
 ケルタカが俺の方へ銃口を向ける。だが、父がそれを止める。
「セツナは殺させない!」

「チッ、死に損ないののくせに、さっさと死にやがれ。」
バン、バン、
「グォ‥‥ハァ、ハァ。死に損ないだろうが罪人だろうが俺はセツナの父親だ。」
「クソッ。なんで死なないんだ。」
バン、バン、
「セツナは絶対に殺させない!」

 無事に家の中に入った俺はずっと銃声が聞こえていた。だが急にその音が消えた。
(お父さん?!)
何が起きているか気になったが絶対に戻らなかった。

ついに力尽きた父は倒れてしまった。
「チッ、やっと死にやがったぜ。手間かかせやがって。安心しな、すぐに息子も連れていってやるよ。」
 そう言って家に行こうとしたが何故か右足が動かない。下を見てみると
足が掴まれていた。
「チクショウ!離しやがれ!」
必死に離そうととしたが離れない。そう、死後硬直だ。父はもう死んでいたが、息子を思う執念か、はたまた偶然か、ケルタカの右足を掴んでいたのだ。

「やっと離れやがったぜ。素直に死にやがれ、糞が」
と、やっとこさ離れた足で父を蹴った。
「さて、これであのガキを殺しに行ける。」
と、言いながら足を踏み出した瞬間だった。
ズルン
「なっ」
 足を滑らしたのだ。そして

ゴンッ
 
ケルタカはそのまま勢い良く頭を打った。
「な、なんで?!」
意識が朦朧もうろうとするなか、滑った先を見ると、そこにあったのは父と母、妹が流した血だった。
 そしてそのまま目の前が真っ暗になった。


 やっと裏口に着いた俺は父に言われた通りに敷物をめくって強く3回叩いた。

ドン、ドン、ドン

 すると、急に床が扉に変わった。
 俺は驚きながらその扉を開け、中に入った。
 階段を下り、地下倉庫に入ると真っ暗だったが入って直ぐにランプがありつけて見ると、以外にも中は広く様々な物が置いてあった。そして、俺は青いリュックと長細い袋を見つけ、それを持って倉庫を出た。
 階段を上がり、裏口に戻った俺は、扉を強く三回叩いてみた。するとまた、何も無かったかのように元の床に戻った。

 そして俺は裏口から家を出た。何やら玄関の方が騒がしいと思い、こっそり覗いてみると、そこには国軍の兵がいた。見つかったら殺されると思った俺はその場から静かに離れ、走って逃げた。

 とにかく、逃げた、体力が続く限り遠くへ。少しでも、一歩でも遠くへ。

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