キューティーラビー  ~月と魔物と正義の味方~

角野総和

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希理子、対決する!

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今朝は10日ぶりの雨だった。どんより曇って、重く垂れさがった雲が圧し掛かるように空を埋め尽くしている。
まるで希理子の心情のように。

いや、いかんいかん。空に引きずられて落ちこむわけにはいかんのだ。昨夜、丑三つ時まで夜更かしして決意したんだから!ここは、気をしっかり持って、どすんと踏ん張らねば!

そう。昨夜希理子は悶々と、悶々と考え込んで、橙山圭紫と対決すると決めたのだ。

あんな失礼な態度を取られたままで、あんな失礼な暴言を吐かれたままで、極めつけに、乙女の貴重なファーストキスを奪ったままに、なんかさせて溜まるか!きっちり追及してやるぞ!と心にしっかり決めてきた。

「打倒、橙山!エイエイオー」



とは言っても、相手はクラスの違う学校のモテメン。気軽にうかうか呼び出せば、希理子が橙山ファンにお呼び出しを受けてしまう。

それはまずい。

故に、こっそりそろりと橙山を呼び出す必要がある。昔懐かし下駄箱レターなんて案が頭をよぎったけれど、さすがに無い。結構臭い下駄箱に物を入れるなんて考えたくない。

考えた末、希理子は真正面から挑む事にした。そう。橙山のクラスまで行って
「橙山君。昼休み、青村先生、の生物室で話があるそうです」
と、わざと教師の名前を大声で言って、お使いの振りで呼び出した。
もちろん、圭紫にも希理子の意図はわかったようで、面倒くさそうな顔をしながら頷いてくれた。



そうして今、しんとした特別室で2人、向かい合っている状態だ。ギャラリーは棚に並んだホルマリン漬けの蛇や蛙と理科室おなじみ筋肉君。あまり気持ちのいい場所じゃない。


「で?こんなとこに呼び出して何の用?」

先に口を開いたのは圭紫だった。口調は不機嫌丸出しで、希理子を睨む眼力も半端ない。でも、希理子だって怒っているのだ。それ位じゃ怯まない。

「用があるのはそっちでしょ。こないだといい昨日といい。時間がないからさくっと話を始めましょうよ。変質者さん」

思いっきり軽蔑したような口調で言ってやったら、圭紫はもちろん反応して。

「なっ。誰が変質者だよ。変質者はそっちだろ。あんな格好で魔物退治って、完全におかしいだろ。それにだな、こないだも言ったけど、お前みたいな弱っちぃ奴が魔物とやりあえるわけないじゃん。目障りなんだよ。引っ込んどけ」

「う……。衣装はそりゃ……。でもっ、こないだだって最終的に魔物をやっつけたのはあたしじゃない。あたしのスティックがあったから2人共無事でいられたんだから。そっちこそ、あたしがいなかったら魔物にやられてたんじゃないの」

「なっに~。生意気言ってんじゃねぇぞ」

「あら、本当の事でしょ。あぁ、それとも自分ひとりで魔物を元に戻らせてヒーロー気分でも味わいたいとか?嫌だ、今どき小学生でもそんな事思わないわよ」

「だっれがヒーローだよ。そんなもん、なりたいわけないだろうがっ!
大体なぁ、そっちが元々の原因だろ。お前ん所の爺がうちの爺を挑発するから俺がとばっちり食うんだよ。研究だか何だか知らんけど、俺は巻き込まれたんだ。迷惑してるんだよ」

「なっ、何よそれ。とばっちりはこっちだって~の。元はと言えば、あんたのじいちゃんが悪いんでしょ。ちょっかいかけてきたのはそっちが先じゃない」

「はぁ~。何こっちのせいにしてんだよ。そっちこそ、自分ちの責任を認めやがれ」

「何言ってんのよ。責任があるのはうちのばぁちゃんに横恋慕したあんたのじいちゃんでしょ。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られちゃうんだからっ」


腹を割った話し合いどころか感情のままにヒートアップした怒鳴り合いになってしまった。だが、希理子が祖父母と橙山右近との事を叫んだ途端、圭紫が動きを止めた。


「はぁ?――――――なんだ、そりゃ」

鳩が豆鉄砲を食らった顔、とでも言おうか。さっきまでの勢いは消え去り、きょとんとした顔で希理子を見る圭紫だった。

「って……えっと……もしかして、知らないの?」
「何をだよ」

憮然と聞いてくる圭紫は全く何の事だかわかっていないようで、希理子に説明を求めてくる。希理子だって説明するのは構わない。

が、口を開こうとして一瞬戸惑った。

圭紫が生まれているという事は。橙山右近は祖母に執着しながらも誰かほかの女性と結婚したという事だ。で、生まれたのが圭紫の父か母。つまり、希理子が言う事は「あなたの父親か母親、どちらかは愛の無い結婚でできた子供なんだよ」となる。
自分の親がそんな風に生まれたなど、知って気持ちいいいもんじゃない。

果たして、しゃべっていいのかどうか。

躊躇したが、いまさらなかった事にはできないから、希理子は精一杯言葉を選んで説明した。ま、どんなにオブラートに包んでも、言ってる内容は変わらないが。




すべてを聞き終えた圭紫は、見るからにへこんだ様子でがっくり肩を落としている。やはり衝撃が強すぎただろうか。

「あの……あのさ、橙山君?」

何か言いたいのに言葉がでない。

ぁちゃ~~~。やっちまったかな?これが原因で、彼の家族がもめたらどうしよう。いや、大丈夫。両親は大丈夫。問題は圭紫の父か母かわからないけど、そのどっちかと右近の親子仲だ。いや、待って。もしも右近の妻が存命なら、夫婦仲の問題か?
普通ならそんな昔の事は時効だが、さっきの話じゃ右近は今でも希理子の祖母を慕っているようだ。つまり、今現在進行形で横恋慕中。心の浮気中って事になる。
うわ、さ~い悪~~。


なす術なくなった希理子がおろおろしていると。圭紫がようやく顔をあげた。

「か~~~~~。何だよ、それ。って事はつまり、うちの爺が諸悪の根源って事かよ。ったく」

さっきまでのギスギスした感じがなくなった圭紫は、今度は怒りの矛先を自身の祖父に向けたようだ。ブツブツ文句を言っている。

「え、っと……橙山君?その……ごめんね。その…ご両親の、あ、いや……おばあ様に悪い事を言っちゃったかな……って思って、その……」

一応謝っておこう。別にあたしは何も悪くない。悪くないよ。でも、やっぱり何となくさ。

申し訳なさそうに謝る希理子と対照的に、吹っ切れたのか圭紫はサバサバしている。

「ああ、大丈夫だよ。うちのばぁちゃんはもうとっくの昔に死んじゃってるよ。それに、もし生きててもあの爺だぜ。とっとと愛想つかして追い出してるんじゃないかな。実際今も、両親と爺は疎遠だし」
「はぁ……」
「ってか、なんか俺の知らない事情があるみたいだから、爺に聞いてみるし俺も考えてみるわ。悪かったな」

ちょど予鈴もなったし、で、2人して特別室を後にした。





煙に巻かれた感で何となくすっきりしない希理子だったが、5限目が始まってすぐ、一番重大な事を思い出した。


あたしのファーストキスを奪った事を謝ってもらってないっ!!!


その途端、橙山家の家族仲の心配は頭から吹き飛び、小さくなっていた怒りの炎が再燃した。





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