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第6話

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第0.5章
「数年前、サン=エティエンヌ=ブルティノー自治領を旅行に行ったことがある。汽車で行くのではなく、徒歩で、背中にバッグを背負い、手には硬い棒を持ち、大人しく話の少ない仲間を傍らに置いて歩くのである。線路と伝信線に分断された景色しか見ることのできない旅は退屈からだ。」

「今でも幸せな気持ちで思い出せるのは、とある朝、礼拝しに訪ねたブルティーノ地方の村のことだ。通りには誰もおらず、家々は閑散としていて、数人のお年寄りが戸口の前で日向ぼっこをしているだけであった。しかし教会は混雑してあり、明るいロウソクがステンドグラスに美しく消え入りそうなバラの色合いを与えていた。緋色のロープを着た聖歌隊の子が、パン屋から火を借りに、香炉を手に捧いて、広場を素早く横切っていた…」

「おーい!何んで勝手に立ち読んでいるんだ!1リンジー20センも払えないのかよ」
「あばばばばっ!ごめんなさい!ん…その…アデレ・ブッフ初期作品選も一冊ください」

「にしても、新聞なのに、アデレ・ブッフのエッセイも載せていて、読みたくて貯まらないわ。ああ、また30リンジーが飛んじゃったわ」
少女が紙袋を持って、溜め息をしながら、ラ・ウネから出ました。

第1章
「そこのお嬢さん、足を止めていただけると幸いです。」
「へぇ?」
少女が駅舎を出た途端に呼び止められました。

少女がさっと向きを変えて見えたのは、丸いガラスがくっついた箱を掴んでいる男の人です。

「バリント・ヤーノスといいます。お嬢さんが買った新聞に所属する記者です。」
「新聞?ああ、ル・プティ…ル・プティ・ヴィラージュワ(Le Petit Villageois)新聞のヤーノスさんですか…」
「バリントは下の名前ですよ。というよりお嬢さん、これから付き合っていただけるのでしょうか。」
「ヤーノスさん、観光案内なら受付期間外ですわ」
「ご返事をお待ちしておりましたが、頂かなかったですので直接ド・ルプレイヌ=ド=メお嬢さんの所に伺いました。」
「魔王城の所蔵品は見せません!しつこかったらそこの写真乾板をぶっ壊してあげようかしら」
少女が思い出しました。4月下旬にル・プティ・ヴィラージュワ新聞社から手紙が送られましたが、自分が再購読のチラシ広告と勘違いして捨ててしまって、どの内容が書かれていたことをちっとも知る機会がありませんでした。

「そんなことはいつでもできますが、今回は別の用件です。にしても、この辺りにイッポモービル(hippomobile)がございませんか?」
「イッポモービル?りんご(pomme)?」
「それは、ラ・シテの道で手を揚げたら、行動機械が止まって運んでくれるサービスです。」
「りんごのような行動機械を使っているの?」
少女の目がキラキラしています。
「私の仕事を手伝ったら、ラ・シテまで連れさせてあげますよ」
「ごめん…私、バイトが入っているわ」

「堂々たる魔王の末裔なのに、哀れなことですね。ならば、5000リンジー差し上げましょうか」
「ん!」
「具体的には…」
「ポッポー」
「…ということです」
少女が逆光線と汽笛の原因で男の人の言ったことを聞き逃しました。

第1.5章
5月11日、が早く来るように、少女が幾度も寝返りをうち、5月10日の夜をつぶやきます。
「ノック・ノック」
「こんな時間に誰がくるのかしら」
少女がベッドから起き、階段を降りて、扉を開けると、目の前に、顔や四肢の至る所に赤い腫れが現れるシアナさんでした。
「翼っちが虫よけ効果あるから、一緒に寝させてー」
「こんな時間に起こされて、薬品扱いまでされてたまるかよ」
「ごめんってば、お詫びに昔ばなしでもしよう」

「…」
「…そして、勇者が魔王討伐をするために、山盛りのシュウマイを大食った」
「…シアナさん、どうしてこうやって寝るの?シアナさんの足が私の顔についてくるけど…」
「朝になったら分かってくるぞ」

朝になりました。
「おはよう、足のパイ(les pieds pies)」
シアナさんが足を動かして、パイの形にしています。
「殴るわ」
第2章
「じゃ、留守よろしくねー」
「いいぞ。お任せだ。お宝探しの時間だ。」
「ぐちゃぐちゃになったら、魔王の末裔の力でシアナさんをぐちゃぐちゃにするわ
「それはご丁寧に、魔王の女伯爵(La Comtesse)さま」
「魔族の呼び方とは違うわ。まあ、どうでもいいだけど…行ってくる」

「シアナさんに任せて大丈夫かしら…」
少女が躊躇しながらも、魔王城から出ました。

「魔王城のお主に一日密着取材?なにバカげなことしているのかしら?だれが読むの?」
少女がジュール・ラヴォー街道で出会わせたヤーノスさんを無視して駅にたどり着きました。
「サン・ゴーティエ・マルゴトン駅までの1枚ください、あ、学生価格で」
汽車が黒い煙を出して動きます。下等列車(Le Wagon de troisième classe)にシルクハットを被って立っている人を抜けて、少女が車両の真ん中にある窓際の席に向かいます。
「魔王の一族はどうしてここに?」
「仕方ないだろう、学生切符が下等列車限定だから」
少女が怒りを発散するとたん、となりが魔女であることを初めて気がつきました。
「魔王は全知全能であるべきで、情熱の美しさ、人生のすばらしさ、そしてあらゆるものの根本を理解するよう、我々を励みべきではないだろうか?しかしこの魔王のお嬢さんは何も教えず、何も知らず、何も期待しない。」
「私、結局魔王の末裔を名乗っているだけで…」

「おっと、おばあさん、行儀悪いですね。」
「ヤーノスさん?それ、私の財布じゃない?」
「ド・ルプレイヌ=ド=メお嬢さん、引っかかっていました?この時代に魔女が存在する確率がゼロに近いことですよ。それにその構文、わたくしが編集に手が掛かったことはあまり忘れられませんね。50冊くらいの本から凝った文ですよ。」
「…これぞル・プティ・ヴィラージュワ新聞の力なのか」
「残念ながらりんごは購読していません」
「…そのネタはもうやめて」

「ああ、次の駅でサン=エティエンヌ=ブエニ県に入るのだから、俺の管轄外だ。君たち勝手に押さえてきて」
上等列車の車両から駆けつけてきた憲兵が折り返して帰りました。

列車が「サン=エティエンヌ=ブエニ県へようこそ」という看板のそばに通り過ぎました。


幕間3

「サン=エティエンヌ=ブルティノー王国に栄光あれ!」
「帝国に屈服してたまるか!」
人々の怒りの感じる抗議の声を見計らって、暴徒になりそうな人には、帝国の兵士が払います。フィリップは枷にかけられて、兵士たちに押えられて、サン=エティエンヌ=ブルティノーの一番賑やかな大通りに通ります。

「魔王陛下、われたちが必ず復讐しますので、ご安心ください。」
フィリップの腹心の一人の男と思いますが、数え切れない刑を受けたフィリップでは、男の名前を思い出せませんでした。
「わしにとって死は怖くない。神々に感謝します。心の準備は最初からできている。」
フィリップは顔から垂らした汗と血の混合物を飲み込んでまた話します。
「王が死んでも、別の王がいる。死んだ王は新しい王に代われるからだ。(Si el rey muere, otro habrá, que a rey muerto, rey puesto.)わしが望むのは、奴隷と貴族が平等で生きる世だ。しかし、私たちはかつて強大な敵と戦争をしていた。彼らは無節操で、誰に対しても敬意を払わず、いつでもどこでも暴力と犯罪を振るう用意があった。」

「下がれ」
男の人は兵士に押し倒されました。

フィリップは処刑する兵士に言います。
「どうか私の子供たちに手を出さないで。彼らは純白である。どうか私一人に罪を背負わせて。」

男の人はロウソクが微光で照らした部屋で、万年筆で文字を書きます、
「…その短い恐怖を回想すると、私たちはぞっとし、悲しくなる。豪華な宮殿を持たない、金や宝石を身につけていない、民に心を尽くす人が悲惨なる結末を迎えたことだ。しかし、死者を蘇らせない。1つの墓地にもどの身分の死者の棺も納めることができる。帝国の王が夜眠れるのなら、処刑の執行人が眠れないわけがない。…」

「〇月△日夜 サン=エティエンヌ=ブルティノー王国」
男の人が万年筆で “王国” の文字を塗りつぶしました。
「…自治領にて」

第3章
「ド・ルプレイヌ=ド=メお嬢さん、起きてください。」
「あ、私、寝た?いまどこ?」
「サン・ゴーティエ・マルゴトン駅の前駅です。」
「ああ、よかった、私、汽車でこんな遠くまで来るのは初めてだから」
「ご用件はわかりませんが、“最初のクレープはいつも焦げている”。(La première crêpe est toujours ratée)」
「朝早く来たのに、冷まさないで…私のことを予習したら、ヤーノスさんも私がサン=エティエンヌ=ブエニ県に来る理由を分かっているはずだ。」

「ユニコーン号(La Licorne)のお宝目当てですか?」
「ぜんぜん違う!それに、ここに海ないもん」



Tchi Hauに、女の子たちが働いています。
「メイっち、チャパァクワイ(炸八块)ってなに?」
「マニアが来たわ…今日の仕入は…サリコルヌ(la salicorne)でも使おうか」
「『東部大陸語で』連邦の人間って鳥の内臓を食べるのか」
「『東部大陸語で』純粋なシノワ料理を提供したら、リピーターが居なくなるわ。シンカンちゃんも商売にちょっと頭で考えてほしいわ」
「ねぇねぇ、奇妙っち、このシュー・ド・プチ(Chou de petit)を生で食べてみて」
「これ?」
シアナさんがドヤ顔をしています。
シンカンさんが疑惑を感じながらもシュー・ド・プチを口に入れました。
「ブェ」
「はははっ…痛ってば」
「私の妹にからかわないで」

「『東部大陸語で』姉上、あたし、とうがらし持ってきたけど、どこにしまった?」
「『東部大陸語で』調理台の一番右上の棚だわ」
「つまらないなあ、お客さんを呼び込みでも行ってくるね」
「だーめよ、これからシアナに感謝祭が行われるわ」
「手を放してー」
「やられたらやり返せ(œil pour œil)」

第4章
「私、駅を降りた時から人々に睨まれているわ」
「隣接というものの、サン=エティエンヌとブルティノーってずいぶん雰囲気が違いますね」

「魔王様―」
ある建物4階におじいさんが少女の姿を見たら、大きく反応していますが、その部屋の窓がすぐにも駆け付けた家政婦に閉められました。


町の家並みが終わろうとするところに、少女が広がっている田畑を眺めて、ぽつんと一軒立っている木造小屋に留まりました。
「本当にここなの?」
「街はずれまできましたね」
「けどこの建物、事務所に使われたとしか見えないわ、ここに看板の跡も」
「邪魔してみましょう?もしもし?(Allô)」
ヤーノスさんが小屋のとびらを少し開けます。
「電話じゃないわ!」

「届かない…」
部屋の真ん中に、小さい女の子が天井の電球を取ろうと、飛び続いています。
「統括道路公園管理局 ロッテ・マルクーセン…」
少女が女の子の胸についている名札を無意識に読み上げてしまいました。
「お知り合いですか?」
「ああ…違うわ」
「ひぃぃ!どちら様?ああ、私もついに強盗事件に巻き込まれたのか、姫様に申し訳ないが、ロッテがここで殉じてしまうんだ…」

「ひとまず落ち着いてもらえるかしら?」

「つまりド・ルプレイヌ=ド=メのお嬢さんに密着取材しています」
「ヤーノスさんは悪くない人ですし、万が一の時にも男の人が居たら安心感がありますから、私たちが一緒に行動していますわ」

「お二人を不審者と誤認したことはすみませんでした!あ、申し遅れましたが私がロッテ・マルクーセンといいます。ご覧の通り、この表札のままに、道路公園管理局に勤めています」

第5章
「…いろいろあって、今月の半ばくらいから、私たち道路公園管理局の拠点がとなりのブルティノー=シェロン県に移します」
「電話が繋がらない原因はこうですか…」
「ド・ルプレイヌ=ド=メのお嬢さんも魔王城を守るために尽くしていますよね」
「…記者やらコラムニストやら、もっと華麗なる形容詞を使って欲しいわ」
「成果がないのに勝ち誇ったド・ルプレイヌ=ド=メのお嬢さんの顔を撮らせて頂きます」

「お二人とも私に聞いてください!あの…すごく気になりますから質問します。ド・ルプレイヌ=ド=メさんの背中についているのは宗教的な飾りですか?」
「…話聞いていました?魔王の末裔って言ったはずですわ」
「魔王?おとぎ話のようなことが言おうとしても…」
「マジですわ。あ、その電球、取ってあげましょうか」
少女が部屋の中で飛んでみました。すると、少女が天井とぶつかりました。
「痛っ」
「ド・ルプレイヌ=ド=メのお嬢さん、これはサーカスでしたら、チケット代金返金事案ですよ」
「扱いが酷いよ」
「本当にごめんなさい!家具類は予め搬出したので」
「△…しに行ってきます」
「耳が遠いわ」
「…あ、ド・ルプレイヌ=ド=メさん、私を抱き上げてみませんか」
「いい案ですわ、試してみましょう」

「いい匂いですわ、モチノキの花ですか…」
「もう少し、あ、もうちょっとド・ルプレイヌ=ド=メさんの7時方向で…うわわっ!嗅ぎないでください!」
「いい感じですわ、マルクーセンさんの左手がちょうど電球に届くところですの」
「取れました!」

「おろしますわ。ねぇ、モチノキの花の香水、どこで手に入れていますの?」
「それは…企業秘密です…黒い正装を着て、黒いメガネをかけて、彼女に白い棒光らせたい…」

「スツールを借りてきましたよ、あ、取ったんですね、戻してきます」

第6章
「もしも先に知ってたら、汽車に乗って尋ねてくることはないの…往復の汽車チケット代、学生価格とはいえ、高いだわ」
少女が嘆きながら歩いてます。
「1日中歩き回ってどっと疲れたことが分かっていますが、お嬢さん、なおいっそう大事なことをしに来たわけだとわたくしが思いますのね」
「言われてみれば…あーあ、元々は魔王城周りの土地に管理された元へ私の家族が過大に支払っていた税金を請求する件と交渉しに来たわ…」
「こんな時間ですもんし、また今度新しい事務所に行ってみましょう」
「言わなくても分かっているの!」

「今日はありがとう!(Merci pour aujourd'hui.)」
「その声、聞いたことがある…」
少女は街道のある建物から出て、建物の中に向かって手を振っている男の人に視線を移します。

「あ、ド・ルプレイヌ=ド=メさんちのお嬢さんじゃないですか?」
「電話交換手のペゲーロ兄さん!」
「もう交換手ではないですよ、だって女の子の声のほうが評判がいいですから」
ペゲーロさんが少女に近づき、少女の翼を触ります。
「ついに立派な翼を持つようになりましたか。」

「ゾクゾクして来ますの、痒いですの、やめてくださいよ…ところがペゲーロ兄さんが何故ここに居ますか」
「見ている通りに、今では電話機の訪問販売をしていますよ」
「へぇー、私としてはペゲーロ兄さんの声に惚れていますのに」
「それはどうも。ところで、お母さんの五月さんはお元気ですか?カラステングの一族が連邦に生活しづらいでしょう、僕が副業で開いた連邦語教室に彼女がよく来ましたよ…」
「その…あ、ヤーノスさん、これから私を連れてラ・シテへ取材しにいきますのね、急がないと汽車に間に合いませんよ」
「汽車はまだ…ああ、ですよね、急ぎましょう」

少女とヤーノスさんが小走りして去りました。

第6.5章
少女とヤーノスさんが列車に乗っています。
「ド・ルプレイヌ=ド=メのお嬢さん、なんかふわふわしていませんか?往路列車に座ったときに背もたれが硬い文句とかをぶつぶつ言ってきたのに、今では大人しいですね」
「…」
少女が進行中の列車の外側に注意が散漫していて、返事しませんでした。
「私は何者?(Qui suis-je ?)」
少女が独り言を言います。
すると、列車がカーブに入り、少女がバランスを崩して窓にぶつかりました。
「魔王とは何?」
列車が途中のある駅に止まりました。
「魔王城を守る…それが私の義務だ。(c'est mon devoir.)」
「最悪だ!また500リンジーを負けちゃった。あ、ラッキーじゃん」
列車がふたたび動きました。
「万能薬ではない…(ce n'est pas la panacée)」
「おじさん、不審な挙動は私の目が見逃さないんですよ」
「あ、ヤーノスさん、私の財布が…ごめんなさい」
「お嬢さんが悪くありませんよ、ですが、この調子ですと、また二人合わせて押さえる必要性が出てきますよね」

第7章
「教育の受けなかった者は、字が読めないゆえに人の言葉に騙される。教育の受けた者は、字が読めるあげく出版物に騙される。ストライキのこと、宣伝チラシを区内に配って、住人たちにも知らせました。」
会議室のような部屋に、ダノンさんと男の人がテーブルに向き合って座っています。

「そりゃいい発言だなダノンくん」
「僕たちゴードロー=レ・オーブレ学生連合会が憲兵のストライキ期間中に、一部民兵の機能を担いますが、期待はしないでください」
「さすがにラ・シテから軍隊なんか派遣しにこないだろう。こんな僻地に」
「常に細心の注意を払うのはいいことだ(Deux précautions valent mieux qu'une.)」
「ミミ、ピクピクしているよ。自信満々のようにしか見えないな」
「あ、失礼いたしました。」
「魔族と人間がこの土地に何千年も共生してきたか。あ、天上から俯瞰する視点に基づいて身にしみて感じてみたから、気にしないで」
「魔族は天の上に虚無としか認識していませんでした」
「ところが、君たち王、つまり魔王のこ、エイリアスあの翼っこ、最近リョネルくんと仲がいいらしいよ」
「あっ、そうですか。他人事ですからここに言う必要性を共感できません」
「ヤキモチでもやいた?」
「それって今の議題と関係あります?」
「ないが、私を食べ(mange-moi!)」
「議題に戻りましょうか?」
ミノさんがドアのノックして入りました。
「空き会議室を使ったら最初に伝言メモくらいしてくれませんか、電球の寿命時間をカウントしなければならないですから」
「(小さい声で)なんか五月ちゃんの匂いがする…」
「ああ、ユージェちゃんが残したせっけんですから、勝手に使っちゃいましたよ」

第8章
「あ、カギがかかった」
日が暮れた時間に、少女が魔王城の正門前に立っています。
「翼のある翼っちへ、この手紙を読んだら、お前のカギがうちにテラスのどこかに隠されたぞ。頑張ってその翼で飛んでみてこい。不滅のシアナより…悪ふざけでも程があるわ…」


「『東部大陸語で』つまりこの調味料入れは私のキャラクター?」
「『東部大陸語で』そうそう。そして今、シンカンちゃんがサイゴロを投げる番だよ」

「16点だ。うちの番だね。えっと、1匹のゴブリンが倒され、中生命力ポーションと銅貨1枚が落ちた。使う?カバンにしまる?」
「しまる。」
「『東部大陸語で』あのね、シンカンちゃん、今シンカンちゃんの生命力の数値が危ういだわ、ここでポーションを使ったほうが無難だわ。」
「『東部大陸語で』あら、そうだったら姉上に従うよ『連邦語で』ポッションを使う」
「ごめん、奇妙っち、メイっちの番だぞ」
「姫がフリーズ。次に回って」
「ポッションを使う」
「エルフがポッションを使った。今の生命力が40点中36点だ。」

翼のある少女が飛んできました。
「人っちのテラスに何をしているのかしら?」
「あらら、ユージェ姫じゃない?私が作ったラタトゥイユ(ratatouille)、食べてみない?」
「ユージェお姉さん、こんばんわ。」
「うんうん、その着陸…10点中8点だね。もうちょっと余計な翼の振りが要らないと思うぞ」
「あ、シアナさんありがとう…じゃない!完全に主客転倒だわ!…でもお腹がペコペコだから食糧確保が優先とするわ。」
「どうぞ。ね、ユージェ姫、綺麗ものは箸しかないけど、箸でいいかしら?」
「…フォークないの?」
「あるよ。」
シンメイさんがフォークをしゃぶります。
「『東部大陸語で』間接キスさせるつもり?」
「あ!」
「ふたりとも顔が赤くなったぞ。まさかここのオイルランプでやけどでもした?」
「したわけないじゃん!」
シンメイさんと少女が同時に言います。

第9章
「適当に魔王というキャラクターを作ったらどうだい?」
シアナさんがコップを少女の前に置きました。
「まあいいか…あと、最初から所持金が多いほうがいいわ」
「よし!所持金が金貨1000枚で、ただし魔王がユキダルマドレスをデフォルトで装着する。そしてユキダルマドレスが厚い所に行くと溶けるのだ」
「何でユキダルマドレスだよ」
「卵を割らずしてオムレツは作れないのだ。(On ne fait pas d'omelettes sans casser des œufs.)」
「『東部大陸語で』一時失敗しても別の折に取り返すという意味だ(失之东隅,收之桑榆)」
「うぉぉぉー」
少女がサイゴロを投げました。
「20点だ。魔王が姫とエルフのチームと遭遇した。どんな行動をする?」
「魔王が剣を持って自分の首に刺した。終わり。もう一回キャラクターを作るわ」
「姫の前に金貨1000枚とユキダルマドレスが落ちた。」
「ユキダルマドレスを捨てて、金貨1000枚を拾う」
「えぇぇーどうしてユキダルマドレスを拾ってくれないのか」
「実用性ないじゃない…今…」
シンメイさんが床に散らかしている地図ブックを拾い上げます。
「熱帯王国にいるじゃない?」
「エルフがフリーズ。『東部大陸語で』姉上、時間は大丈夫?明日の予定なんかどうだった?」
「シアナ…そろそろ片付けよう。明日また学校行くじゃない?」
「うちは大丈夫だぞ。パジャマと明日の教科書を持ってきた」

「私の家に居候するつもりかしら?」
「翼っちがうちにカギを渡すことはうちとのユーザー規約の内容に同意したと見なすのだ」
「まあいいだわ…もう昨日の顔を見たくもないわ…ップ」
「じゃ、私とシンカンちゃんが先に帰るわ、また明日ね」

第9.5章 (C)
惜しい。魔王城での生活が一瞬で終わった。今度はテーブルゲームセットを魔王城に置こうかな。そうしたらよく来られる。でも、こんな広い敷地で一人暮らししていたら、つらいのかも。そういえば、翼っちが何の用事で出かけたっけ?隣県に行ったらしいけど。ずるいよ。うちも旅行くらいはしたかった…
ああ、また東部大陸の料理屋の上で寝ないと行けなくなった。メイっちの料理がおいしいけど、油っぽい匂いが時々残るね。両親の不動産がいずれうちのものになる!って言い張りたいけど、うち、あまり父から恵まれていないのね。せめてメイっちの礼儀正しい義理の妹が女将になったらいいのに。ダメか。エルフとはいえうちたちより年下のだから。


第0章
ここは極東の国です。(p.s: 幕間1と異なるタイムラインです。)あるマンションの一室に、女の子が外出着を着たまま、電線を首にぐるっと巻いて、ベッドに寝そべっています。
机の上にサイズの異なる古びた紙が無理やり製本されたものが置いてあり、中に「古典魔法が現代への応用から考える考察」というタイトルのページが開いています。タイトルに「不採択」というスタンプが押されています。
壁カドに置かれている大きいラジオにニュース番組が流しています。
「今日は4月30日。△曜日です。」
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