本気と浮気

くにざゎゆぅ

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本気と浮気

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 高校3年のときのクラスメートが集まる飲み会へ、友人と出席することにした。
 女子の友人とは時々会っているけれど、男子と会うのは4年ぶり。

 大学生になってからすぐに付き合いはじめた彼とは、実は少し倦怠期気味だ。
 つい胸が躍るような出会いを期待してしまう。

「どう? 飲んでる?」

 席の一番隅にいた、わたしの隣に座った彼。
 なんて名前だったっけ?

 思いだせぬまま、あいまいにうなずく。

「もう卒業でしょ? 就職先は決まってる? いま、どんな感じよ?」

 矢継ぎ早に訊いてくる彼は、いかにも運動部に所属していましたというアクティブで爽やかな体育会系の笑顔。
 わたしの隣に並ぶ肩は、がっしりとしていて。
 なのに、襟もとからのぞく鎖骨が妙に色っぽい。

 そこから視線をはずして、一生懸命考える。

 こんな彼、3年のときにクラスでいたかしら?


 助けを求め、わたしは一緒に来た友人を目で探す。
 けれど、彼女はわたしのほうに気づかず、話が盛りあがっている様子。


 そのとき、彼が身体をかたむけ、場からわたしだけを切り離した。


「彼氏、いるの?」


 のどがカラカラで声がでない。
 手にしていたグラスで潤してから、やっと返事をした。

「大学に入ってから付き合いはじめた彼が……」

 少し目を見開いてから、彼は魅惑的な笑みを口もとへ浮かべた。

「そうか。いるんだ」

 うなずいた瞬間、彼はわたしの瞳をのぞきこんだ。

「残念。卒業するまでに告白していたら、その彼とじゃなく俺と付き合っていたかもしれないね」

 驚いたわたしは、彼の顔を見つめてしまう。
 真面目な表情で、彼はわたしの目を見返してきた。

 絡み合ってしまった視線が、そらせない。


「高校のころからきみが好きだった。4年間ずっと、いまも忘れられないほど本気」
「でも、わたし……」
「今日、こうして会えるのが怖いくらいに楽しみだった」
「でも、わたしには彼が……」

 そのとき。
 テーブルの上にあったわたしの手を、彼がつかんでテーブルの下へと引っ張りおろす。
 冷たくなっていたわたしの指先が、熱い彼の手の中でじんじんとしてくる。


 言葉がでないわたしの耳朶を、吐息で愛でるようにささやいてくる彼。


「本気できみが好きなんだ」


 名前も思いだせない彼なのに。
 期待どおりの甘美なスパイスを利かせた彼に、わたしはあっさり陥落した。



End
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