Knight―― 純白の堕天使 ――

星蘭

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第三十章 照れ隠し


 騒ぎもある程度収まり、貴族たちも解散となった。カロンに別れを告げ、ルカとフィアは家に戻ることになった。

「傷は大丈夫か?」

 歩きながら、ルカはフィアにそう問いかけた。屋敷で一通り傷を濯がせてもらったが、軽い手当しか出来ていない。痛むのではないかと、気遣う言葉をかければ、フィアは軽く頷いた。

「大丈夫だ、心配性だなお前は」

 そう言って笑うフィアを見て、ルカは苦笑する。

「心配するのは当然だろ。大事な家族なんだからさ」

 そうルカが言うと、少し驚いたように目を見開いた後、頬を赤く染めてそっぽを向く従弟。その可愛らしい様子に目を細めながら、ルカは彼を促し、家路を急いだ。

***

「ただいまー……」
「ただいま帰りました」

 家につき、ドアを開けると二人は同時に帰宅を告げる声をあげる。二人の声に、家の奥からぱたぱたと足音が近づいてくる。軽いそれは、ルカの母、イブのもの。元々伝えていた時刻を過ぎている。きっと心配していたのだろう。

「お帰りなさい。遅かったわね、って……」

 笑顔で奥から出てきたイブは、フィアの姿を見て呆然とした。それも、当然だろう。着飾って出ていったはずの可愛い姪が、ボロボロの傷だらけになって帰ってきたのだから。
 暫し茫然としていたイブは、我に返るとフィアに駆け寄り、がしりとその肩を掴む。正直、傷よりもその方が痛いのだが……心配してくれているということがわかるため、何を言うことも出来ない。

「フィアちゃん?! 大丈夫なの!?」

 そう言いながら、彼女はフィアの頬を冷たい手で包み込む。心配そうなイブの様子に、申し訳なさがこみ上げてくるが、傷のある体を触られるのは、流石に痛い。

「否、あの、伯母上、だ、大丈夫です、俺……これくらいの怪我は、日常茶飯事ですから……」

 フィアは彼女を落ち着かせようとそう声をかける。しかしその声など届いていないかのように、イブはフィアの肩を掴んだまま、キッと険しい表情を浮かべて、ルカを見た。思わず一歩引く彼を睨みながら、イブは声をあげた。

「ルカっ! 貴方は何をしていたの!? 婚約者くらいしっかり守りなさい!」
「あ、えと……っ」
「言い訳無用! どういうわけか、しっかり説明なさい!」

 文字通り、言い訳をする暇すら与えらず、物凄い剣幕で叱られて、ルカもたじたじである。流石に、少し気の毒になってきて、フィアは軽くイブの肩をつついて、言う。

「あ、あの、伯母上……俺、本当に、平気ですから」
「女の子の体に! 傷が残ったらどうするつもりなのルカ!」

 嗚呼駄目だ、これは聞いていない。ルカは気の毒だが、暫く放っておく他ないだろう。フィアはそう思いながら、心の中でルカに合掌したのだった。

***

 イブが落ち着く頃には、ルカがすっかりぐったりしていた。母からこんな説教を食らったのは、随分と久しぶりな気がする。それがほんの少し嬉しいような気がしないでもなかったが……否、やはり疲れた。そう思いながら、ルカは苦笑いを浮かべていた。

「伯母上、俺たちそろそろ帰ります」

 ふと時計を見たフィアは、そう伯母に声をかける。ひとしきりルカに説教していた彼女は一息ついて、紅茶を飲んでいる。ティーカップを持ったまま一瞬固まった彼女は、驚いたように声をあげた。

「え? もう……?」

 もう帰ってしまうの? と残念そうな顔をするイブ。

「一晩くらい泊まっていったらどうだい?」

 ルイもそういうが、その言葉にはルカが首を振った。

「そうゆっくりしている暇はねぇんだ、悪いな。また来るよ」

 明日から通常任務だ。セラであるルカが長期間休む訳にはいかない。
 それに、今日の事件のことも報告しなければいけない。クオンが先に戻って話をしている筈だが、実際敵とやり取りをしたフィアの証言があった方が良いに決まっている。
 そうした騎士としての事情を理解して、イブは渋々といった具合に頷いた。

「そう……じゃあ、またゆっくり出来るときに来て頂戴ね?」

 今度は、お菓子を作って待っているわ。そういって、イブはフィアの両頬にキスをする。少し照れくさそうな顔をしながら、フィアは彼女にキスを返す。こんなやり取りをするのは、随分と久しぶりだ、と思いながら。

「ルカ、もっと強くなれよ?」

 そう言いながら、ルイは息子の肩を叩いた。父として、そして引退した先輩騎士として、彼を励ます。その言葉にルカはにかっと笑って力強く頷いた。もっと、強くなる。フィアに、またあんな怪我をさせないように。そう思いながら。
 イブとルイに見送られ、二人は家の外に出る。来た時と同じようにルカの愛馬に二人で跨る。ルカは軽く手をあげ、両親に笑みを向ける。

「じゃあ、親父、母さん、またな!」
「また来ます」

 フィアもそう言って、微笑む。優しく笑って自分を見送ってくれる伯父伯母の表情を見つめながら、照れたように表情を綻ばせた。

***

「なぁ、ルカ」

 馬を走らせる途中、フィアがルカを呼んだ。手綱をしっかりと握ったまま、ルカはフィアに問い返す。

「どうした?」
「急いでいるのは、わかっているのだが……一箇所だけ、寄り道させてくれないか?」

 フィアの静かな声。ルカはその言葉だけで、フィアが行きたがっている場所がわかった。一瞬だけ表情を強張らせたルカは、小さく頷く。

「……あぁ」

 わかったよ。そう言ったルカは方向を少し変える。フィアは少し表情を綻ばせ、ありがとう、と素直に礼を言った。

***

 フィアが寄り道をしたいといった場所……それは、フィアの両親の墓だ。街の外れにあるその場所に来るのは随分と久しぶりだが、二人の名が刻まれた墓石は綺麗に磨かれている。恐らくイブやルイが手入れをしてくれているのだろう。そのこともお礼を言わなければならなかったな、と思いながらフィアは自分の魔術で咲かせた花を供え、静かに、静かに祈る。

―― 父さん、母さん。

 フィアは心の中で、両親に呼びかける。自分はまだ弱い。カロンに、自分と同じ思いをさせてしまった。強くなるために、騎士になったというのに。もっと強くなりたい……否、なってみせるから、だから、どうか……どうか、見守っていてほしい。そう、心の中で両親に語り掛ける。

 ルカはそんなフィアの様子を心配そうに見つめていた。彼が両親を想って泣く姿を、騎士になってからは一度も見ていない。こうして墓参りに来た時にも、いつもこうして熱心に祈るばかりなのだ。本当は、辛いだろうに。まだ心の傷も、癒えてなどいないだろうに。そう思いながら、ルカはそっと嘆息した。
 フィアは何でも一人で背負おうとする。昔から変わらないその癖がずっと心配だった。どれだけ辛いことも、苦しいことも、全て一人で抱え込んでしまおうとする。家族である自分にも、相談してくれない。自分の前で、涙を見せることもしない。それがたまらなく、悔しかった。

―― 自分がもっと強ければ、彼も頼ってくれるのだろうか。

 そう思いながら、ルカは彼の後姿を見つめていた。

***

 やがて、目を開けたフィアはにこりと笑う。ルカに手を出して、言った。

「……よし。ありがとうルカ。帰ろう」

 そう言いながら自分を見つめ、微笑むフィアを見て、ルカは思わず目を見開いた。返事が出来ず、そのままただ、”彼女”を見つめる。

「……ルカ?」

 フィアは怪訝そうに、従兄の名を紡ぐ。その声にルカははっとした顔をして、軽く首を振った。

「え? あ、あぁ」

 ごめん、といってルカは曖昧に微笑んで見せる。
 ……ルカにはその表情に幼い頃の無邪気なフィアの笑顔が重なって見えたのである。幼い頃の、未だただの少女だった頃の彼女の姿が。

「? 変なルカ」

 そう呟くと、フィアは墓の前から立ち上がり、ネーヴェの傍まで行く。そして、愛し気にネーヴェの鬣を撫でた。小さく嘶くルカの愛馬に声をかける彼の表情は、穏やかなものだ。ルカはじっとそれを見た後、俯いた。

「……ルカ?」

 動こうとしないルカを不思議そうに見て、フィアは声をかけた。ルカは俯いたまま何かを考えているような表情。フィアは怪訝そうな顔をしたまま、首を傾げた。普段わかり易いルカの表情が探れず、困惑する。

「一体、どうしたんだ?」

 一度馬から降りて、フィアはルカの顔を覗き込む。具合でも悪いのか、と心配そうに問いかけても、ルカは答えない。

「なあ、フィア」

 暫し沈黙を守っていたルカだが、やがて顔を上げて、真っ直ぐに”彼”を見た。従兄の赤い瞳を見つめ返し、フィアは不思議そうに首を傾げる。

「フィア、お前、後悔してないか。騎士になったこと」

 静かな声でルカは彼にそう問いかける。真剣な表情を浮かべる彼の黒髪を、そっと風が揺らしていった。

「え?」

 唐突なルカの問いに、フィアは目を丸くした。予想もつかない質問だったらしく、満足に反応すら返せず、ただルカを見つめ返す。それ以上言葉を重ねることなく、もう一度、ルカは顔を伏せた。
 本当は……ずっと、悩んでいたのだ。フィアが騎士になりたいと望んだときに、無理にでも止めれば良かったのではないかと。フィアが騎士になってから、フィアが怪我をする度、誰かを守れなかったといって落ち込む度、ルカはその思いに駆られた。

 騎士としての仕事は厳しく、危険な任務も多い。それは、ルカも理解していた。しかし、自分が守ってやればいい、騎士になっても、自分が傍にいて守ってやればいいと思っていた。フィアには力がある。だから、騎士になっても上手くやっていけると、思っていた。だからフィアが騎士になることを許し、手伝ったのだ。その時は、それが最善だと思っていたのだ。
 しかし、ふとした時に思うのだ。もしも、フィアが騎士になるのを止めたら、フィアは普通の女の子として生きていたのではないか、その方が幸せだったのではないか、と。
 フィアが人一倍正義感の強い人間であることはルカも知っていた。両親が死んでから、その想いが尚更強くなったことも。フィアが騎士になったら、誰かを救えなかったと思い悩んだり、誰かを助けるために危険な任務に巻き込まれたりすることも、目に見えていたはずだった。
 騎士として、フィアは強くなった。しかしそれでも、男には敵わないことがあるのも事実だ。そもそもの話、女の子が……普通、戦うことなんか覚えずに育つべき少女が戦うなんて、無謀な話だった。
 彼が騎士になりたいと言い始めた時に止めるべきだと、心の何処かでは思っていたはず。それでも……

―― 私は、騎士になりたいんだ!

 もう二度と……大切な誰かを、自分の力不足の所為で、失いたくない。フィアは声を震わせて、それでも視線はしっかりとあげたままに、言ったのだ。ルカは、そんなフィアの熱意には勝てなかった。
 あの日の、真剣なフィアの瞳を思い出す。自分の想いを絶対に曲げないと言わんばかりに真っ直ぐに自分を見据えていた、サファイアの瞳。その真剣な想いを受け止めない方が、却ってフィアを傷つけると思い、騎士になることを承諾し、手助けしたのだ。

―― だけど。

 ルカは、思う。止めれば良かった。例え、フィアを傷つけることになっても、無理矢理にでも、強引にでも、諦めさせるべきだったのではないか。それができたのは、自分だけだったのに。騎士になる道を諦めさせ、普通の女の子として育つ道だって、あったはず。その方が幸せだったのではないだろうか。ルカはそう思っていた。
 俯いたままのルカを暫し見つめていたフィアだが、やがて一つ、溜息を吐いた。そして、軽くルカの頭を小突いて、口を開く。

「……馬鹿か、貴様は」

 吐き捨てるように、フィアは言った。その言葉を聞き、ルカは顔を上げる。
 迷いに揺れるルカのルビーレッドの瞳に映るフィアは、困ったような、呆れたような表情でルカを見ていた。……いつもの見下したような態度ではない。緩く吹いた風が、二人の髪をそっと揺らした。ルカの目を見据えると、フィアははっきりした声で、言った。

「騎士になりたいといったのは俺の我儘だ。ルカはその我儘を聞いてくれた。それだけの事なのに、なんだお前がそんな顔をする? ……前にシストにも言ったが、命を捨てる覚悟なら、騎士になると決めた時からしている。騎士になったことに後悔など、していない。もし後悔していたならとっくに逃げているさ。馬鹿なことを考えて女々しくくよくよしているなら、俺は一人で城に帰るぞ」

 彼はそう言い放つと、ひらりとネーヴェに跨る。驚き固まっているルカを見下ろして、彼はそっと息を吐いて、言った。

「……さっさと馬に乗れ」

 本当に、帰らないつもりか? そういって、彼は微かに笑う。
 そっけない言葉と、そっけない態度。しかし、ルカにはきちんと伝わっていた。”彼”の、本当の想いが。

―― 俺は平気だから、心配するな。

 そんな態度と、そっけない言葉に込められたのは、きっとフィアなりの感謝の気持ちなのだろう。素直ではないフィアは照れ隠しにそんな言い方をしているのだろうと、ルカは理解する。
 ルカにまじまじと見つめられ、フィアはぷい、とそっぽを向いた。心なしか、顔が赤い。その様子を暫し見つめていたルカだが……やがて、ふっと表情を綻ばせた。そして、ネーヴェの鬣をそっと撫で、言う。

「置いていかれるのは、困るな」

 そう呟いた彼も、馬に乗った。フィアはそれをみて溜息を吐くと、ルカの背を軽く小突いた。

「あまり情けない顔をするな。貴様が落ち込んでいるのを見ると……気が滅入る」

 ぽそり、と呟くように言う彼。ルカはそれを聞いて笑う。

「……そう言う言い方するか、普通。本当、可愛げのない奴だなぁ。まぁ、いいや。俺は割とフィアのそういうとこが好きだぜ……痛ッ?! 何で殴る?!」

 後ろからごすりと強い力で殴られて、ルカは思わず声をあげる。無論、彼の背を殴ったのは、フィアだ。彼は少し上ずった声で、言う。

「す、好きとか……ッ馬鹿なことを言うな!」

 掠れた声でそう言うフィア。そんな過剰反応をする彼は珍しく、ルカは目を丸くする。そんな反応をする理由は、明確だった。それに気付いたルカはにやりと笑みを浮かべて、フィアに問うた。

「フィア、お前……照れてる?」
「照れてない!」

 やや被せ気味に、彼は言う。怒ったようにそう答えるフィアの顔は真っ赤だ。
 理由は単純。フィアは自分から他人との関わりを避けてきた。故に、こうして好きだ、と誰かに好意を向けられることに免疫がない。ルカからかけられた言葉が家族愛的な意味合いでの好きだということを理解しているはずでも、そうした直球な言葉で告げられることは少ない。そのために、照れていたのである。

「……前言撤回。マジ可愛い、お前」
「煩い! 言うな! もう良い、俺は歩いて帰る!」

 半ば叫ぶように言うと、フィアは馬から飛び降り、走り始めた。ルカはそれを見て、クックッと笑う。フィアが騎士にならない方が良かったのではないか、などと下らないことで悩んでいた自分が馬鹿だったな、と思いながら。
 走っていくフィアの後姿。それは、かつて彼が守りたいと思った幼く弱い背中ではない。自分や他の騎士たちに比べれば確かに小さいかもしれないが、確かに勇ましい、一人の騎士の背だ。ルカはそれをみて、ふっと笑う。

「おーいフィア! 走って帰ったら夜が明けるぞ!」

 後ろからフィアを追いかけながらルカは叫んだ。結局、走るフィアをルカが抱き上げ、強引に馬に乗せる羽目に陥ったのは言うまでもなく。フィアはむすっとしてルカの後ろに乗っていた。

「フィア、そんな顔すんなって。俺が悪いことしたような気分になるだろう?」

 ルカはそう言って、喉の奥で笑う。フィアは拗ねたような表情のまま、呟くように言った。

「……事実だ。貴様の所為でこんな顔をしているのだから」
「そんなに恥ずかしかったのか?」
「当たり前だろう」

 フィアは顔を真っ赤にするともう一度ルカの背中を殴る。思わず手綱がぶれて、ルカは声をあげた。

「痛いっての! フィア、事故するからやめてくれ!」
「知らん!」

 フィアはそっぽを向いたまま、時折ルカの背を殴る。照れ隠しとはいえ、流石に少し痛いぞ、と呟くルカだったが、そんな彼の表情は重い悩むそれではなく、穏やかに緩んだものだった。

***

「何で休暇を取って里帰りしてた人間がこんな怪我して帰ってくるんだよぅ」

 べし、と消毒液をしみこませたガーゼをぶつけながら白髪の少年はぼやく。じとりとした黄色の瞳に灯るのは心配と同時、呆れの色だ。たっぷりと消毒液を含んだガーゼをぶつけられ、痛みにフィアは思わず顔を顰めた。

「痛……乱暴にやらないでくれアル。……痛い」

 アルの治療の腕は確かなものだが、怒っている彼は普段のように丁寧な治療をしてはくれない。無論傷を悪化させるような真似はしないだろうが、普段は痛みを感じることがないようにとそっと触れて治療してくれるというのに、今日は全くそうした気遣いがない。どうやら相当怒っているらしい、と思いながらフィアが苦笑すれば、アルは頬を膨らませて言った。

「痛くて当然だよ、痛くしてるんだもの」

 むすりとした声で言いながら、アルはフィアの腕の傷にガーゼを貼りつける。そして溜息を一つ吐き出してから、じとりとした眼でフィアを睨んで、言った。

「僕、怒ってるんだからね! すぐに無茶してこういう目に遭うんだから。……爆発に巻き込まれたなんて聞いて、僕、心臓止まりそうになったんだからね」

 そう言ってアルは黄色の瞳を潤ませる。
 部屋に戻って休もうと思って廊下を歩いていた時、偶然会ったのはフィアの従兄であるルカ。お帰りなさい、といえば彼は思いがけないことを言ったのだ。

―― あぁ、フィアが爆発に巻き込まれて怪我をしたから診てやってくれ。

 そう言われて、驚かないはずがない。……ルカの表情や声色からしてそんな大事でないことは推測出来たのかもしれないが、親友が爆発に巻き込まれた、という一言でアルがパニックに陥るのは当然で。
 治療道具を手にフィアの部屋に飛び込んでみれば、ベッドに腰かけたまま、フィアは目を丸くしていて。そんなに慌ててどうしたのか、と問われてへなへなと脱力することになったのは、言うまでもない。ルカの大袈裟な伝えた方についても明日一言言わなければ、とは思うが、眼前の親友が怪我をしているのも事実。爆発に巻き込まれた、というのも事実だと聞いて、いつもの説教モードに入ったのだった。

「ほんとに僕……心配したんだからね」

 反省、してよね。そう言いながらフィアを見つめるアル。フィアは決まり悪そうに頬を引っ掻いて、そっと息を吐いた。そして、素直に詫びる。

「気をつけるよ。ごめんな、アル。心配させて」

 友達を心配させるというのはやはり心が痛い。アルが本気で自分を大切に思ってくれていて、こんな風に心配してくれているのが良くわかるから一層だ。
 アルはそんなフィアを暫く睨んでいたが……すぐにその表情を崩した。

「……狡いな、フィア。そんな顔されたら、許すしかなくなっちゃうよ」

 アルは困ったように笑って、フィアの額を突いた。そして真剣な表情で言う。

「自分の体を大事にすること。良い?」

 フィアはわかった、と頷いた。素直な彼を見て、アルは表情を綻ばせる。それでよろしい、という彼は、彼の上官に少し似てきた気がする。そう思いながらフィアも笑った。

―― 騎士になったことに後悔なんか、していない。

 騎士になったからこそ、アルに出会えた。アルだけではない。シストや、アネットや、他の仲間たちにも騎士になったからこそ、出会えた。そして、騎士として強くなれば、彼らを守ることも出来る。彼らが生まれ育った場所を守ることも出来るかもしれない。そうした力を求めたきっかけは確かに、哀しい出来事だった。あの日がなければ、両親を喪うことがなければ、騎士になることはなかっただろう。しかし、その過去がなくなることがないのなら、今眼の前にあるものを守ることが出来る力を持てることは、素直に喜ばしいことで。

 処置を終えて医療道具をしまいながら、アルはフィアに問いかけた。

「フィア、何か飲み物いる? 僕淹れてくるよ」

 お仕事の話も聞きたいし、といいながら、アルは部屋を出ていこうとする。フィアはそれをとどめながら、声をかけた。

「あ、いいよ。俺も一緒に行く」

 アルを追いかけながら、フィアは微笑んだ。

―― やっぱり騎士になってよかった。
 
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