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第十八章 勇者と中央都市の魔法使い
しおりを挟む広い広い訓練場。中央都市アレキシアにある魔法使いの訓練施設の一角を借りて、リオニス達は魔法の特訓を行っていた。
その指導役をしているのは先刻出会った魔法使い、オズワルド・スチュアート。国にも認められる強い力を持つ魔法使いである彼は、リオニス達からこれまでの旅の話を聞かせてもらう対価として彼らに魔法の特訓を付けると申し出てくれたのだった。
魔法による攻撃手段を持っているリオニスとシュライクとがオズワルドの前に立つ。ほんの少し緊張した表情を浮かべている二人を見て、オズワルドはふっと微笑んだ。
「この設備ならば多少派手に魔法を使っても問題がない。私を敵だと思って攻撃して構わない」
武器であるらしい青い宝玉のついた杖を構えながらオズワルドは言う。それを聞いたシュライクは目を丸くした。
「え、本当か?」
「あ、危なくないですか……」
ユスティニアは心配そうに眉を下げて彼らを見つめている。これはあくまで訓練であり、どちらかが傷つくようなことがあってはならない。ユスティニアはそういうが、オズワルドは全く怯む様子を見せず、頷いて見せた。
「問題ない。寧ろ、それくらいしてくれた方が実力を量りやすい」
しっかりと訓練を付けるためにも正確な実力を知りたいとオズワルドは言うのだ。シュライクとリオニスは顔を見合せると、小さく頷き合って、オズワルドに向き合った。
「悪ィけど俺手加減とか苦手だから、本気で行くぜ!」
シュライクはそう言って、勝気に笑う。そして両手をオズワルドに向けながら、呪文を叫んだ。
「リドス・ファルコ!」
鋭い声と同時、強い風が巻き起こった。普段見る機会の少ないシュライクの魔法。彼の魔力で生み出された鋭い旋風は狙いを過たずオズワルドへ向かう。
加減が苦手だ、と言う彼の言葉通り、全く勢いを緩めることもない旋風。ユスティニアは少し驚いたように目を見開いている。
「……ふむ」
小さく声を上げたオズワルドは軽く杖を振る。それと同時、オズワルドへと向かっていた旋風は霧散し、柔らかい風として空間内に居る人間の髪を揺らしていった。
「な……」
あっさりと無効化されてしまったことにシュライクは大きく目を見開いている。リオニスも暫し茫然としていたが、すぐに首を振ると表情を引き締めた。
シュライクが手を抜いたとは思いにくい。実際、彼が纏っていた気迫は本物だった。オズワルドが"本気で来て良い"と言ったから、彼はそれに従ったはずだ。それをああもあっさり無効化するオズワルドは、やはり優れた魔法使いなのだ。そんな彼に訓練を付けてもらえる機会は、そうないはず。孤児で、本来ならば満足な教育すら受けられなかったはずの自分なのだから、一層。そう思いながら、リオニスはすっと息を吸い込んだ。
「レグルス・リティング!」
全力の魔法。生み出されたのは炎。魔獣を焼き尽くすために使われるそれは、オズワルドの方へと向かった。
「なるほど、リオニスは炎系か」
私と同じだな、と呟くオズワルドはやはり余裕の表情を崩さない。ゆったりと杖を掲げ、彼は唇を開いた。
「フレア・ドラコニス」
彼がそう呟くと同時、彼の魔道具である杖から強大な炎が噴き出し、リオニスの魔法を飲み込んだ。それがまるで爆発するかのように、飛び散る。
「わ……!」
思わず身を縮こまらせるユスティニア。
「凄い……」
リオニスはぽかんと口を開け、霧散してしまった自分の炎を見つめている。
「魔力量が桁違い、だね」
ロレンスは冷静にそう呟いた。綺麗な、眩しいものを見た時のように目を細めながら。
何のことはないように杖をおさめ、オズワルドはシュライクとリオニスの方へ歩み寄る。
「怪我はないか?」
そう問われ、リオニスは苦笑混じりに頷き、シュライクは悔しそうに唇を噛みながら頷く。オズワルドは良かった、と呟くと、シュライクの方を見て、言った。
「シュライク、魔力の籠め方が少し甘い。広範囲に分散してしまうと君のような風属性の魔法使いでは攻撃が出来ない」
「はあ……やっぱかぁ。なかなか難しいんだよなぁ」
そう言いながらシュライクは手を握ったり開いたりしている。
「普段あんまり使わねぇし、細かい調整とかは俺苦手なんだよな。力づくでは流石に何ともならねえか」
悔し気にそう言って、シュライクは溜息を一つ。
「力だけで押し切るには少し魔力量が足りないな。目晦ましや妨害としては十分だが」
オズワルドはそう言って、躊躇いがちにシュライクの頭を撫でた。
「リオニスは……」
口を開きながら、オズワルドはリオニスの方を見る。少し緊張したように背筋を伸ばすリオニスは、まるで叱られるのを待つ子供のようで、オズワルドは少しだけ表情を緩めた。
「そう緊張しなくて良い……リオニスは実用レベルではあるが、あと一歩だな。威力が足りないし速度も少し遅い」
小型の魔物相手ならばなんとかなるだろうが、とオズワルドは冷静な分析を述べた。
なるほど、とリオニスは頷く。彼の言うことは尤もだ。普段の戦闘では剣を使うことが多く、魔法は補助程度にしか使わない。実用レベルには少し足りないな、と思っていたのも事実なのだった。
「攻撃魔法を実戦にも使っているのは主にリオニスか」
オズワルドは一人一人を見つめた後そう言う。リオニスは小さく頷いて見せた。
「あぁ。シュライクは正直肉弾戦の方が強い」
「腕っ節には自信あるぜ!」
にっと笑い、シュライクは拳を構える。そんな彼の様子に苦笑を漏らしつつ、リオニスはオズワルドに言った。
「ユスティは治癒や防御、ロレンスは強化の方が向いているんだ」
「攻撃魔法も護身程度には使えた方がいいのでしょうが……」
ユスティニアはそう言いながら俯いてしまった。
シュライクに護身術を習っているのも、リオニスやシュライクに守られてばかりの自分が悔しいから。せめて彼らが心配せず敵との戦闘に集中できるように、と考えてのことだというのはリオニスもわかっている。元々戦いを赦されなかった彼にいきなり戦え、と言った所で難しいだろう。
そもそもの話、性根が優しいユスティニアが誰かを、何かを傷つけるような行動をとることが出来ないであろうことは、これまで共に過ごしてきた仲間達には簡単に想像がつくのだった。
仲間達の足を引っ張らないようにするためにも戦えた方が良いだろう、と呟くユスティニア。それを見つめ、オズワルドはゆっくりと首を振った。
「否、無理にできるようになる必要はない」
冷静な声音で言う彼。それを聞いてユスティニアは不思議そうに首を傾げた。言葉を選ぶように視線を伏せた後、オズワルドは言った。
「魔法にも様々な適性がある。無理に苦手な魔法を使おうとしても疲労が大きいばかりで長所を潰しかねない。先刻のユスティニアの防御魔法は私も目を見張るものがあった。それを伸ばす方がずっと良いだろう」
そう言われて、ユスティニアは幾度か瞳を瞬かせた後、安堵の表情を浮かべた。自分の在り方を認めてもらえたことによる安堵なのだろう。オズワルドはそんな彼の様子に目を細めた後、皆を見つめて、言った。
「そろそろ休憩にしよう。今までの旅の話も聞かせてほしい。家に、案内しよう」
***
オズワルドはリオニス達を自身の家に連れて帰った。
かなり広い家の中は大して物もない、どちらかと言うと殺風景なものだった。無駄なものをそぎ落としたような雰囲気は、寂しいというよりは、オズワルドの性格によくあっているような気がするな、とリオニスはつい先刻出会ったばかりの魔法使いへの感想を抱く。
共に茶を飲み、休憩しながらリオニス達は今までの旅の話をオズワルドに語った。自分の旅立ちのきっかけを話すのはなかなかに気恥ずかしいものではあった。高尚な想い故に出てきた訳ではないから一層だ。しかし、オズワルドは聞き上手で、余計な言葉を挟むことはせず、それでも問いたいと思ったことははっきりと問うてくれるために、然して緊張することもなくこれまでの道筋を語ることが出来た。
話しながら、自分の中でもこれまでの旅路が整理されていく。始まりは納得がいかないものであったものの、旅に出たことに後悔はない。こうして今共にいる仲間達と出会えたのも、"魔王を倒す"と言う自分には少し重たすぎる使命があったからなのだから。
旅に出てすぐにシュライクたちのスリに遭い、それを追った。彼らと語らう中でシュライクと心を通わせ、共に街を発った。
星読みの街では星読教団の闇を暴き、危うく贄として捧げられかけたユスティニアを仲間にした。外の世界を知らずに育った彼は今、この旅を楽しんでくれているだろうか。
二人と共に"眠り病"の解決をして、その村の傍でロレンスに出会った。魔王の手下に破壊された馬車、その中はさながら極小の地獄で……その中で生き残ったロレンスは幸運だったのだろう。そしてそんな彼は楽士としても強化者としても優秀だ。
自分は仲間に恵まれたな、とリオニスはつくづく思った。
「……そうか」
静かに話を聞いていたオズワルドはそっと息を吐き出した。その表情はややわかりにくいが翳っているように見える。
「やはり、この街以外にも被害は出ているのだな」
魔王の復活に伴う魔獣の襲撃。それはこの街の話だけではないのだな、とオズワルドは呟く。それに頷いたシュライクは隣の席の楽士に視線を投げて、言った。
「ロレンスはその被害者の最たるもの、みたいなものだもんな」
「ボク?」
呑気にお茶を飲んでいたロレンスは色の違う双眸を瞬かせた。被害者、と言う言葉に少し目を伏せた彼は緩く首を振って、言った。
「ボク自身は何ともなかったし、そのお蔭でリオたちに出会えたから嘆く程の事でもないけどね」
穏やかに微笑むロレンス。その表情に嘘も強がりも一切ない。心からそう思っているのだということがよくわかって、リオニスは小さく笑った。
「お前のその前向きさは美徳だと思うよ」
「そう? 嬉しいな」
ほんの少し、空気が緩む。オズワルドはそんな二人の様子を見てそっと榛色の瞳を細めた。仲間としての絆を感じさせる彼らのやり取り。それをほんの少し、羨むように。
そんな視線に少し照れ臭そうに頬を掻いたリオニスは小さく咳ばらいをして、オズワルドの方を見た。
「さて、この街のことも少し聞かせてほしいんだが……今日みたいな襲撃はよくあるのか?」
先程彼は"この街以外にも"と言った。と言うことは、この国において魔獣の襲撃は頻繁なものなのだろうかと思ったのである。
「それなりに、だな。襲撃の報せが届いたら私たちが討伐に向かうことになってはいるが、時折街の人間にも被害が出る。……尤も」
そこで一度言葉を切ったオズワルドはそっとティーカップに口をつけた。
「被害に遭うのは、"持たざる人々"、だがな」
「なんだそれ」
含みのある彼の言葉にシュライクは眉を寄せた。オズワルドは一度カップを置く。そして指先でその縁をなぞりながらそっと溜息を吐き出すと、呟くように言った。
「……私たちが優先して向かうのは、王族や貴族が住む地域だ。そうでない地域の人間は、当然被害に遭う」
「おかしいです、そんなの!」
声を上げたのは、今まで静かに話を聞いていたユスティニアだった。その橄欖石色の瞳に色濃い怒りを灯して、彼は珍しく声を荒らげた。
「命の価値は同じはずです、それなのに……」
「そうだな。私もそう思……っ」
そう思う、と言おうとしたのだろう。しかしその言葉は紡がれなかった。かちゃん、と音を立てて、ティーカップがソーサーの上に倒れる。
そんな派手な音を鳴らした張本人……オズワルドは顔を歪め、胸を強く押さえている。荒く息を吐く彼の顔は蒼白だった。
「オズ?!」
「おい、どうした?」
リオニスとシュライクが慌てた声を上げて席を立つ。驚き、慌てる彼らに掌を向け、オズワルドは掠れた声をあげた。
「……いや、いやなんでもない」
ゆるゆると首を振るオズワルド。それを見てユスティニアは眉を下げ、その背をそっと撫でる。
「なんでもないはずがないでしょう?!」
持病か何かか、と心配そうに問いかける彼にオズワルドは首を振った。何でもないと繰り返す彼だが、到底そうとは思えない。先刻よりは幾分呼吸も様子も落ち着いてきたが、顔色は蒼白のままだ。酷い痛み故にか、体温は酷く下がっているのに額には汗が滲んでいる。
「これ、だよね」
ロレンスはそっとオズワルドの手を取った。すっかり血の気を失っているその左手の中指に嵌められた紅い石の指輪。ぴくり、とオズワルドの指先が強張る。
「さっき、オズが苦しそうにしたとき、ほんの少しだけその指輪が光ってた。ただの装飾品かと思ったけど……違うんだね」
ロレンスは答え合わせを待つ子供のようにじっとオズワルドを見つめる。オズワルドは暫し視線を逃がしていたが、やがて観念したように息を吐いた。
「……中央都市の魔法使いの一部がつけられている魔道具だ。一定の力を認められた魔法使いが与えられる魔道具……と言うのは表向きで」
幾らか血色の戻った指先でオズワルドはそっと自分の指輪をなぞった。そして顔を歪めつつ、呟くように言う。
「この魔道具は私たちに付けられた枷だ」
「抑制器具、と言うことですか?」
そう問いかけながら、ユスティニアはまだ心配そうにオズワルドの背を擦っている。そんな彼を見て榛色の瞳を細めたオズワルドは緩く首を振って、答えた。
「勿論その側面もある。だが、それだけではない。この指輪は国の……この街の"指示"に従わない魔法使いを"従わせる"ための道具だ」
その言葉の意味は、すぐに理解できた。先刻のオズワルドの発言はきっと、"街の意思"に逆らうものだったのだろう。だから、彼は苦痛に顔を歪めることとなった。
そんな彼の言葉に、リオニスは顔を歪め、シュライクは固く拳を握った。ユスティニアは目を伏せ、ロレンスは表情を変えずにオズワルドを見つめる。
「私たちがこの街に集められているのは国を守るためなんかじゃない。"この街"を……この街に住む"高貴な人々だけ"を守るためだ。
王族が、貴族が集まるこの街を守るために、国中の強い力を持つ魔法使いが集められているんだ。国を守るためだと言われて集められ、実際はこの街を守るためだけにその力を利用される。
この街から遠く離れた街で獣の被害が増えようとも、魔王の手下が現れようとも、上からの命令がなければ私たちはそこへ向かえない」
吐き捨てるようにオズワルドは言う。悔し気に顔を歪める彼を見つめて、シュライクは問いかけた。
「拙いことを言ったら痛めつけられるんだろ、じゃあそれを外しちまえば……」
「それは思った。だが、この魔道具は外せないんだ」
深々と溜息を吐いて、オズワルドは言う。ぱちりと瞬いたシュライクは緩く首を傾げた。
「外せない?」
彼の反応にオズワルドは小さく頷く。そして忌々し気に指輪がはまった指に爪を立てながら、言った。
「許可なく外すことが出来ないように特殊な魔法がかけられている。解くことは出来ないし、物理的に外すことも不可能だ。実際指を斬り落として外そうとした者も居たが……」
オズワルドはそこで言葉を切る。……その者がどうなったかは、彼の表情を見れば簡単に想像がついた。ぞっとしたように表情を強張らせるユスティニア。リオニスは顔を歪めて、呟いた。
「呪いじみた魔法だな」
力の強い魔法使いを従わせるための魔法。それほど強大な力を使えるのなら、もっと別の用途で使えば良いのに。悔しさで顔を歪めながらリオニスは言う。シュライクも顔を顰めながら拳を握っていた。
ふ、と一つ息を吐き出したオズワルドは静かな声で言葉を紡いだ。
「私は、自分で言うのも可笑しいが、他の魔法使いより強い魔法を使える。私はそれを役立てたいと思って、この街に来た。多くの人のためになるのなら、と。
貴族や王族だけのためではなく、本当に守らなければならない、より多くの人間のために。それなのに……っ」
オズワルドの指輪がまた光る。ぐっと唇を噛み、苦痛に耐えるように胸を掴むオズワルド。国に、街に逆らう発言を咎めるように、指輪は彼に"罰"を与えているようだった。その苦痛の程は、リオニス達にはわからないが、あまり表情が変わらないオズワルドが顔を歪めている辺り相当のものなのだろうという推測はついた。
しかし、オズワルドは言葉を紡ぐのをやめようとしなかった。ぜいぜいと荒く息をしながら、半ば叫ぶように言葉を紡ぐ。
「それ、なのに、……っあぁ、間違っている、こんなこと、弱者を見捨てるなど、間違って……ッ」
「オズやめろ」
リオニスは静かな声で彼の言葉を遮る。それと同時、ぐらりと傾いだ彼の体を、ユスティニアがそっと支えた。
「ユスティ」
「任せてください。スティラ・ポラリス」
リオニスの声に頷くと、ユスティニアはオズワルドの背にそっと手を添えたまま、呪文を唱える。驚いたように顔を上げるオズワルドを見つめ、ユスティニアは微笑んだ。
「痛み止めの、魔法です。お役に立てているかはわかりませんが」
「は……ありがとう、ユスティニア。大分、楽になった」
礼を言いながら、オズワルドはぎこちなく微笑む。ロレンスはそっとそんな彼の手を握りながら、そっと溜息を吐いた。
「この指輪は、まるでキミに付けられた首輪みたいだね。ボクの枷はシュライクが壊してくれたけれど……これはなかなか壊すのに苦戦しそうだ」
どうにか出来たら良いのだけれど。そう呟くロレンスは、表情こそいつも通りだが少しだけ悲し気に見えた。
「なぁ、リオ」
シュライクは隣に居る"勇者"に声をかける。問われるまでもなく頷いて、リオニスは言った。
「オズ、一緒に来てほしい」
その言葉にオズワルドは顔を上げる。
ライラックの瞳で真っ直ぐにオズワルドを見据えて、リオニスはそっと彼に向かって手を差し伸べた。
「魔王を倒すための仲間に、なってほしいんだ」
その言葉にオズワルドは榛色の瞳を大きく見開く。そして、困ったように眉を下げながら、口を開いた。
「……そう言ってもらえるのは嬉しいし、力になりたいと思う。だが……無理だ。この指輪を嵌めたまま無断でこの街を離れれば、どうなるかわからない。君たちに迷惑が掛からないとも言い切れない」
魔王を倒す勇者の仲間。それは、確かに自分(オズワルド)が望んだ魔法の使い道。他の人間より強い魔力を、少しでも多くの人のためにと言う願い。それを叶えるのに渡りに船ともいえる提案。しかし、頷くことが出来ない理由が明確過ぎた。
言葉だけでこの有様なのだ。この街から逃げ出すようなことがあれば、どうなるか分かったものではない。自分がどうこうなる分には構わないが……最悪の場合、オズワルドをこの街から逃がそうとした罪でリオニス達が罰を受けることになるかもしれない。それだけは絶対に避けたいことだった。
力にはなりたいが、なれそうもない。視線を落とし俯くオズワルドの手を、小さくごつごつとした手が握った。驚いて顔を上げれば、ネモフィラ色の瞳と視線がかち合う。にっと勝気に笑ったシュライクは、言った。
「許可が下りれば良いんだよな! 簡単なことだ!」
「そう、ですよね、許可を得に行きましょう! きっと、世界のためだとわかれば、赦してくださいます!」
ね、と無邪気に笑うユスティニア。
そんな彼らの言葉にオズワルドは少し困ったような顔をしている。確かに、許可を取って街を出るのなら、問題はないはずだ。しかし、そう簡単に許可が下りるのならば、きっと今頃、指輪(こんなもの)は存在していないはずだ。
「大丈夫だよ、オズ」
断りの言葉を紡ごうとしたオズの背を、ロレンスがぽんと押した。驚いた顔をするオズワルドを見つめて、ロレンスは穏やかに微笑んだ。
「彼らは、きっとキミを助けてくれる」
「彼ら、じゃなくてロレンスも、だろう? 俺たちは仲間なんだから」
リオニスはそう言いながらくしゃりとロレンスの頭を撫でる。そんな彼の手と言葉にロレンスは薔薇色と海色の瞳を大きく見開いた。
「仲間……か。……ふふ、そうだね」
嬉しそうに破顔するロレンス。それを見てリオニスも笑っている。
―― 仲間、か。
この中に、加わることが出来るのなら。そう思いながらオズワルドは眩しそうに榛色の瞳を細めたのだった。
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