若蕾燦華

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魔法少序

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 夜の公園には昼間のような活気はない。子供達は微睡み、その親達がようやくひと心地ついている頃。
 半分崩れた砂城や冷たい雰囲気の滑り台が昼間の陽気さとは全く異なる空気を醸し出している。

「あっ♡やだッ!イヤッ!そこッ♡らめぇッ♡やめ…ひぎいぃぃッッ♡イっでるッ♡イっでりゅからあああッッ!!!乳首やらぁッッ♡」

 公園真ん中にはこの世ならざる光景が広がっていた。
 蠢く漆黒の肉塊とでも形容しようか。タールのようなぬらぬらとした異形が無数の触手でもって一人の少女を弄んでいる。
 それらが明確な意思を持っている事はすぐに分かるだろう。
 触手は彼女の服や下着を引き裂き、形の良い乳房の先につんと立つ桜色の乳頭や充血した恥部に集い、半透明の粘液を少女の白い肌に塗りたくっている。
 触手が蠢くたびに少女は嬌声を上げ、身をくねらせる。それを愉しむかのように触手が踊りくねる。
 胸元を強調するフリル付きのオフショルドレスは汗ばんだ肌に張り付き、衣服としての機能を喪失している。
 穴だらけになった白のニーソックスに包まれた、健康的な足は触手によって大きく股を広げさせられ、自らの秘部を冷たい夜の空気に晒させるがままだ。
 無数の触手が彼女の秘部に出入りする度に、異形の粘液と泡立った彼女の愛液が官能的な音を奏でた。
 あられもない姿を晒し、泣き叫ぶその姿はお世辞にもヒーローと呼べるものではない。
 さながら蛇に弄ばれる蛙、猫に玩具にされる鼠、子供の無邪気な残酷さに翻弄される蟻達のようだ。
 幸運だったのは救援にやって来た宇津木ウツギ 京香キョウカを除いて、その痴態を見る者がいなかったくらいだろうか。

『あまり長く放置するとイノスの影響排除は困難になるよ』

 感情の欠落した飄々とした声がどこからか京香に囁く。

「…リェズィユ、頼む」
『了解。変身するよ』

 京香の首にかけられたペンダントが一瞬輝き、彼女の胸の谷間に沈み込むように消えた。
 パチパチと京香の頭で幸福が弾ける。京香と精神レベルで融合したリェズィユによって脳内に擬似ドーパミンが生成されたのだ。
 同時に京香の胸元から琥珀色の結晶が広がり、彼女を包み込んだ。
 結晶が砂のように崩れ去り中から現れたのは、妙に煽情的な衣装に身を包んだ京香、もとい魔法少女だ。
 身体を覆うのは絹のような質感の、深いスリットの入った黒のシースルードレス。
 脇の開きが大きいため、はみ出した豊満なバストは今にもはち切れんばかりだ。
 羽織のような意匠の真っ白なケープマントを羽織り、足首を艶やかな革のブーツが覆っている。
 手に持つのは二尺三寸(約73cm)の日本刀だ。刀身は例の琥珀色の結晶で、月の光を吸い取るように淡く輝いている。

「待っててくれ。今、助ける」

 京香は異形に向かって弾丸のように飛び出した。
 接近する彼女に気付き、異形は一時的に少女を弄ぶ二本の触手を残して、全ての触手が燦華に殺到する。

「ふっ!」

 鋭い呼気と共に燦華が刀を振るうと、刀身がゴムのように伸び、瞬時に無数の触手を二枚おろしにする。触手は紫の血を辺りに撒き散らしながらぼとりと地面に落ちた。
 断面が煮立った鉄のようにシューシューと煙を吐いている。

「ギュギィィィイイ!!」

 異形は聞くに耐えない苦悶の声を上げ、全身を波立たせた。逆だった肉塊の奥に輝く結晶体が見え隠れする。
 その隙を逃さず異形の懐に潜り込むと、京香は少女を捉える触手を、伸びる刃で斬り落とした。
 落下する少女を宙で抱きかかえ、スライディングで速度を殺す。スリットが捲れ下着が顕わになるが、京香は気にも留めない。

「大丈夫かい?」

 返事の代わりに、少女は彼女の腕の中で身震いした。異形の粘液に含まれる催淫物質によって、着地の衝撃で達したのだ。
 加えて常人ならば発狂するような過酷な責苦によって一時的に脳機能が壊れていた。
 少女は京香に抱かれながら、何度も何度も達した。壊れた蛇口のように膀胱から潮を噴き続ける。

「ここまで来たら大丈夫か…。リェズィユ、彼女の様子は?」
『敵性個体による魔力の略奪で疲弊してるね。それにこの娘のイノスは魔力不足で休眠中。自力での回復は不可能だ』
「あ、ありが…んッ♡、と…ッ…」

 涙を流して感謝を示す少女を見て、京香は怒りが燃え盛るのを感じた。あれは人の尊厳を、意思を踏み躙る邪悪だ。
 彼女の感情に呼応するように、琥珀色の刀身が赤みを帯びた。

『気を付けて。魔法少女一人分の魔力を吸い取ったんだ。余剰魔力が大量に残っている』
「それでも、やる事はいつも通りだろう?」

踵を返し、京香は異形、イノスを見上げた。
 肉塊は今や立ち上がり、無数の触手は剣のような形状に変わっている。魔法少女といえど、あれに当たればタダでは済むまい。
 イノスの唸りには怒りが満ちていた。言葉は通じずとも、殺してやるという意志が感じられた。
 貴様に怒りを抱く資格はない。京香も負けじとイノスを睨み返す。
 それに怯んだのか、あるいは更に猛ったのか、イノスは奇声を上げ、矢継ぎ早に触手を繰り出す。
 対する京香の動きは刀を持っているとは思えない程に軽やかだ。
 跳び、弾き、いなし、斬る。リズミカルな剣戟が静寂な夜に鳴り響き、触手が地面を打つ衝撃で木々がギシギシと揺れる。
 斬り飛ばされた触手がべちゃりと滑り台に落ち、紫色の体液を後ろに残しながら、滑走部を滑り落ちた。
 イノスは傷付いても再生する。イノスを殺す方法は一つ、核となる結晶体の破壊だ。
 先の攻撃で、京香は核の位置をおおよそ掴んでいる。
 彼女の刀は別の生物のように自分勝手に動き回り、無数の触手を斬り飛ばす。
 触手の数が減った一瞬の隙を付き、彼女は大きく跳躍した。すぐに触手が後を追うように伸び上がる。
 月明かりを背にした京香は上段斬りの姿勢を保ち、符号を叫んだ。

「黄金は我が胸にあり!」

 刀が砕け、現れたのは光を固定したような黄金の刀身。
 不定形のそれは、常にゆらゆらと揺れている。魔力を底なしに食らう彼女の必殺技だ。
 殺しきれなければ待っているのは凄惨な陵辱。天下分け目のなんちゃらというやつだ。
 それを理解したのだろうか。イノスは触手を盾のように固めて剣へと伸ばす。少しでも攻撃を逸らそうとしている。
 だが、彼女の方が早い。
 重力と、魔力で強化された筋力で振るわれた神速の刀は大気を切った。
 音速を超えた切先は、しかしソニックブームを起こす事なく、イノスの触手や肉塊を一刀両断にする。
 それから一呼吸置いて、パンと結晶が砕ける音が響いた。
 同時にイノスの身体がどろりと歪み、地面に広がっていく。
 イノスが完全に死滅した事を確認すると京香は少女を抱え、闇夜へと消えた。
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