悪役令嬢の、お気楽すぎる辺境ライフ!

夏乃みのり

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レオンハルトとカタリーナが率いる辺境の軍勢は、静まり返った東の森へと、固い決意を胸に進軍した。
呆然と立ち尽くすアラン王子の一行は、町の防衛という名目で、後方に残されている。

カタリーナの動物たちが示した森の最深部。
そこは、木々が不自然に枯れ、淀んだ空気が漂う、呪われたような広場だった。
広場の中央には、禍々しい紋様が描かれた祭壇があり、一人の男が不気味な呪文を唱えている。

「ゴーウェル子爵…!」

カタリーナがその名を呟いた瞬間、男は狂気に満ちた笑みを浮かべた。

「おぉ、お待ちしておりましたぞ、氷の辺境伯に、元王太子妃殿下!我が主、リリアナ様より、貴殿らに滅びの贈り物を、と!」

男が高らかに杖を振り上げると、周囲の闇の中から、無数の赤い光が浮かび上がった。
今までとは比べ物にならない数の、魔物の大群だった。

「総員、陣形を組め!怯むな!」

レオンハルトの檄が飛ぶ。
辺境の兵士と村人たちは、勇気を奮い起こし、魔物の大群に立ち向かう。
凄まじい戦いが始まった。
剣と爪がぶつかり合い、怒号と咆哮が森に響き渡る。

レオンハルトとフェンリルは、獅子奮迅の働きで魔物を屠っていく。
しかし、敵の数はあまりにも多すぎた。
じりじりと防衛線が後退し、負傷者が増え始める。

後方で戦況を見守っていたカタリーナは、強く唇を噛んだ。
このままでは、全滅も時間の問題だ。
もう、迷っている暇はない。

「お嬢様、いけません!」

護衛のマリアの声も、もはや彼女の耳には届いていなかった。
カタリーナは、陣の中央へと進み出ると、すっと目を閉じた。

彼女は、特定の動物に呼びかけたのではない。
もっと大きく、深く、この森そのものに、その魂に、語りかけたのだ。

(お願い、わたくしの愛する森。わたくしたちの故郷を、共に守って)

その祈りに応えるかのように、カタリーナの体から、若葉のような、淡く優しい緑色の光が溢れ出した。
それは、聖なる生命の輝き。
彼女の動物に好かれる力とは、その生命力を介して、あらゆる生き物と心を通わせる、聖女の力だったのだ。

光の波動が、戦場全体に広がっていく。
闇の魔力から生まれた魔物たちは、その聖なる光を浴びて、苦しげに身をよじらせ、動きが鈍った。

そして、次の瞬間。
森が、一斉に牙を剥いた。

大地から、巨木の根が生き物のように隆起して、魔物たちの足を絡め取る。
木々の枝が、鞭のようにしなり、魔物を打ち据える。
そして、今まで息を潜めていた、森の全ての動物たちが、反撃の雄叫びを上げた。
熊が、猪が、鹿が、狼が、ありとあらゆる獣たちが、一つの意志を持った軍隊となって、魔物の群れに襲いかかったのだ。

それは、辺境の土地そのものが、侵略者に対して怒りの声を上げた瞬間だった。

「…なんだ、これは…」

ゴーウェル子爵が、信じられないものを見る目で、呆然と呟く。

「今だ!総攻撃をかけろ!」

この機を、レオンハルトが見逃すはずがない。
彼は、天に轟くような声で号令をかけた。

形勢は、完全に逆転した。
森という最強の味方を得た辺境の軍勢は、怒涛の勢いで魔物を駆逐していく。
レオンハルトは、血路を開くと、全ての元凶であるゴーウェル子爵へと、一直線に斬り込んでいった。

広場の中央で、カタリーナは静かに祈りを続けていた。
彼女の体から放たれる緑の光は、傷ついた兵士や村人たちを癒し、その心に勇気を与えていく。
その姿は、まるで戦場に舞い降りた、勝利の女神のようだった。

辺境の領主と、森に愛された聖女。
二人が、そしてこの土地を愛する全ての人々と生き物が一つになった時、リリアナが放った邪悪な闇は、その光の前に、為すすべもなく消え去ろうとしていた。
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