婚約破棄された悪役令嬢は美味しい人生を手に入れた

夏乃みのり

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31話

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料理対決の舞台は、村の広場に急遽設えられた。
村人たちが見守る中、二つの調理台が用意される。
一つは、マスカルの愛用する、移動式の石窯と、簡素な調理台。
そしてもう一つは、王家の馬車から運び込まれた、銀食器のように輝く、最新式の調理器具の数々。

そして、オルト王子が「我が王宮最高の料理人」として紹介したのは、一人の壮年の男だった。
その男の顔を見て、マスカルは息を呑んだ。
リコッタから聞いていた、かつてのマスカルの師であり、そして、彼を裏切った男。

「……アントニオ師匠」

男──シェフ・アントニオは、マスカルを一瞥すると、ふんと鼻で笑った。

「まだ、そんなママゴトのような料理を続けていたのか、マスカル。お前には心底がっかりしたよ」

その言葉が、マスカルの胸に突き刺さる。
対決が始まり、アントニオは、まるで魔法のように、次々と料理を作り上げていく。

彼が使うのは、王子が王都から持ってきた、最高級の食材ばかり。
黄金色に輝くフォアグラのソテー。
芳醇な香りを放つ黒トリュフのソース。
活きのいいオマール海老を使った、美しい一皿。
それらが、寸分の狂いもない洗練された技術によって、豪華絢爛なフランス料理のフルコースへと姿を変えていく。

その様子は、もはや料理というより、芸術の域だった。

一方、マスカルが使えるのは、いつものように、この村で手に入る素朴な食材だけ。
村人たちが丹精込めて作った野菜。
グルメアが見つけた、香り高いキノコとベーコン。
そして、マスカルが魂を込めて育てた、ピザ生地。

並べられた食材の差は、誰の目にも明らかだった。
村人たちも、アントニオの作り出す、見たこともないような豪華な料理の数々に、圧倒され、不安そうな表情を浮かべている。

「くっ……」

マスカルは、焦っていた。
アントニオ師匠との、圧倒的な差。
過去のトラウマが、悪夢のように蘇る。
家柄も、金も、コネも、何もない自分が、この人に勝てるはずがない。
あの王宮で、無力感に打ちひしがれた、かつての自分が顔を出す。

プレッシャーで、ピザ生地をこねる手が、わずかに震えた。
このままでは、負ける。
負ければ、グルメアは……。

最悪の想像が、マスカルの思考を支配しようとしていた。
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