婚約破棄された悪役令嬢、沈黙を破って絶叫する。

夏乃みのり

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「突撃ィィィィィッ!!」

私の号令と共に、巨大フロート『デッド・オア・アライブ号(命名:私)』は、敵陣のど真ん中へと突き進んだ。

ズズズズズズッ!

魔導エンジンを搭載したこの鉄塊は、戦車も裸足で逃げ出すほどの馬力がある。

「ひ、ひぃぃぃっ! 轢かれるぅぅぅ!」

「道を開けろ! 歌姫のお通りだぁッ!」

兵士たちが蜘蛛の子を散らすように左右へ逃げ惑う。

まるで海が割れるようだ。

私たちはその真ん中を、大音量でBGM(クラウスの超絶ギターソロ)を流しながら優雅にパレードしていく。

「ハロー、王国の諸君! 私の顔色は良く見えるかしら!?」

私はマイクパフォーマンスをしながら、兵士たちに手を振った。

「肌ツヤ最高! 睡眠不足も解消! 見ての通り、絶好調よーッ!」

「うおおおっ! ローレライ様ーッ!」

「なんてロックな登場なんだ!」

「俺、ファンになりました!」

一部の兵士(主にM気質の人々)が、恐怖を通り越して感動し、ペンライトの代わりに剣を振っている。

どうなってるのこの軍隊。

そんな狂乱のパレードの先、本陣にいるギルバート殿下の姿が見えてきた。

彼は白馬の上で、こちらに向かってくる私を見て、目を潤ませていた。

「おお……ローレライ! やはりそうか!」

殿下が叫ぶ。

「自ら動く要塞を奪い取り、敵陣を突破して私の元へ駆け寄ってくるとは! なんて健気で、勇敢な愛なんだ!」

「はあ!?」

私はマイクを通さずに素でツッコんだ。

距離はもう50メートルほど。

私の声は十分届くはずだ。

「違うって言ってんでしょ! 轢き殺しに来たのよ!」

「なになに? 『生き別れは嫌』? ああ、私もだローレライ!」

「耳腐ってんのかお前はーッ!!」

会話が成立しない。

殿下の脳内フィルターは、私の罵倒をすべて『愛の囁き(大音量)』に自動変換しているらしい。

「よし、私が受け止めてやるぞ! 飛び込んで来い!」

殿下は馬から降り、両手を広げて待ち構えた。

その顔は、感動のラストシーンを演じる俳優そのものだ。

「……気持ち悪いわね」

隣でギターを弾いていたクラウスが、弦をミュートして冷ややかに言った。

「あいつ、本気で自分がヒーローだと思っている顔だ。……吐き気がする」

「奇遇ね、私もよ。……ねえクラウス、あれやっていい?」

「あれとは?」

「特訓の成果その2。『音響衝撃弾(ソニック・バレット)』の連射」

「許可する。ハチの巣にしてやれ」

「了解!」

私はニヤリと笑い、マイクを握り直した。

ターゲット、ギルバート王子。

狙うは、その勘違いしまくった脳天。

「あんたみたいなナルシストはぁぁぁぁッ!!!」

「おお、愛の告白か!?」

「顔洗って出直してきなさいッ! ついでに耳鼻科も行けェェェェッ!!」

「『顔が見れて嬉しい』? 『耳元で愛を囁きたい』? ああ、わかっているぞ!」

ダメだ、通じない。

なら、言葉じゃなく『物理』で分からせるしかない。

「『帰れ』ッ! 『消えろ』ッ! 『うっせえわ』ッ!!!」

ドォン! ドォン! ドォン!

私は単語ごとに区切って、衝撃波の塊を連射した。

空気の弾丸が、殿下に向かって飛んでいく。

「ぐおっ!?」

一発目が殿下の腹部に直撃。

「がはっ!?」

二発目が肩にヒット。

「ぶべっ!?」

三発目が顔面を捉えた。

殿下はタコ殴りにされたように、見えないパンチを浴びてよろめいた。

「な、なんだこの衝撃は……!?」

殿下は鼻血を出しながら、それでも倒れない。

「これが……愛の重さか……! 言葉の一つ一つが、物理的な重みを持って私に突き刺さる……!」

「……頑丈ね、あいつ」

私は少し感心した。

普通なら吹き飛んでいるはずなのに、根性(と勘違い)だけで耐えている。

「ローレライ! 痛いぞ! だが、その痛みが心地よい! 君の愛を全身で受け止めている実感がある!」

「ドMかお前はーッ!!」

私は頭を抱えた。

どうすればいいの。

この男、何をしてもプラスに解釈して復活してくるゾンビみたいだ。

「くっ……ミナ! 回復魔法を!」

殿下が背後のミナに声をかける。

しかし、ミナは青ざめた顔でフロートを見上げ、震えていた。

「い、いやぁぁ……! あんなの勝てませんわぁ……! お化粧崩れちゃいますぅ……!」

彼女は戦意喪失していた。

私のメガホン破壊攻撃がトラウマになっているらしい。

「ええい、しっかりしろ! ……よし、ならば私が直接説得するしかない!」

殿下は懐から拡声器(手動のアナログなやつ)を取り出した。

そして、フロートの真下まで来ると、叫び返してきた。

「ローレライ! 聞け! 魔王に脅されているなら、瞬きを2回してくれ!」

「してないわよ!」

私はカッと目を見開いたまま睨みつけた。

「おお、瞬きを我慢している! やはり監視されていて合図も送れないのか! 可哀想に!」

「……もう殺していいかしら」

「待てローレライ。ここで殺すと国際問題になる」

クラウスが冷静に止めた。

「死なない程度に、心を折るんだ」

「心が折れる気がしないんだけど……あの鋼のポジティブシンキング、どうなってるのよ」

「ならば、会話を諦めろ。筆談だ」

クラウスがフロートの床からスケッチブックとマジックペンを取り出した。

「音で伝わらないなら、文字で見せるしかない」

「……なるほど。ライブのMCコーナーね」

私はマイクを置き、マジックペンを受け取った。

キュッキュッキュッ……。

私は太い文字で、今の気持ちを素直に書き殴った。

そして、それを殿下に向けて掲げた。

ババン!

『大嫌い。帰れ』

簡潔かつ明瞭なメッセージ。

これなら誤解のしようがないだろう。

殿下は目を細めて、その文字を読んだ。

「だ……い……き……ら……い……?」

彼は一瞬、呆然とした。

そして、ハッと顔を輝かせた。

「そうか! 『大好き』と書こうとして、魔王の検閲を恐れて、わざと反対の言葉を書いたんだな!?」

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

私はスケッチブックを地面に叩きつけた。

「裏読みしすぎだろ! そのまま受け取れよ!」

「なんていじらしいんだ……! 『嫌い』の文字の震えに、君の本当の想い(愛してる)が滲み出ているぞ!」

「怒りで震えてんだよッ!!」

ダメだ。

完全に詰んでいる。

言葉も通じない。

文字も通じない。

暴力(音波)は「愛のムチ」と解釈される。

最強の敵だ。

ある意味、魔王よりタチが悪い。

「……クラウス、どうしよう。私、あいつに勝てる気がしない」

私はガックリと膝をついた。

「精神的ダメージが大きすぎるわ……」

「しっかりしろローレライ。ここで負ければ、君はあのバカ王子の国に連れ戻され、一生『可愛いお人形』として、静かに微笑むだけの生活を強いられるぞ」

「……っ!」

それは嫌だ。

絶対に嫌だ。

私は顔を上げた。

「そうね……。私の自由は、私の声で勝ち取るしかないのよね」

「そうだ。……ローレライ、最終手段だ」

クラウスが不敵な笑みを浮かべた。

「あいつの『勘違い』を逆手に取る」

「え?」

「あいつは君を『可憐で弱い被害者』だと思いたいのだ。……ならば、その幻想を、完膚なきまでにぶち壊す『現実』を見せつけてやればいい」

クラウスは私の耳元で、ある作戦を囁いた。

それは、公爵令嬢としてのプライドを全てドブに捨てるような、とんでもない作戦だった。

「……本気?」

「本気だ。できるか?」

私は少し考え、そしてニヤリと笑った。

「上等よ。私の『本性』、骨の髄まで見せつけてやるわ」

私は立ち上がった。

マイクを握り直す。

「ギルバート! よく聞きなさい! これが私の、本当の姿よ!」

私はドレスの裾を豪快に引き裂いた。

ビリィッ!

深紅のドレスがミニスカートになり、ジャージ(下に履いてた)が露わになる。

「なっ……!?」

殿下の目が点になる。

「いくわよクラウス! BGM、スタート!」

「応ッ!」

ズダダダダダダダダッ!!

激しいツーバスの連打。

私はフロートの上で、仁王立ちになり、今まで隠していた『一番汚い言葉遣い』と『一番下品な態度』を解禁した。

「あぁぁぁん!? 何見てんだオラァァァッ!! ガン飛ばしてんじゃねぇぞ金髪豚野郎ォォォッ!!」

「ぶ、豚……!?」

「テメェのそのツルツルの脳みそ、私の声でシェイクしてミルクセーキにしてやろうかァァァン!?」

私は中指を立て、鬼の形相でベロを出した。

「ヒッ……」

殿下が初めて、恐怖で後ずさった。

「ロ、ローレライ……? そ、そんな……まさか……」

「幻滅したか? ああん? これが私だ! 清楚? 可憐? 知るかボケェェェッ! 私はなぁ! 毎晩この城で、窓ガラス割りながらヘドバンしてんだよォォォッ!!」

私はマイクスタンドをへし折り、それを投げ捨てた。

「私の本性はなぁ! 暴走族(バイカー)も裸足で逃げ出す『爆音女』なんだよ! それでも愛してるって言えるなら言ってみろォォォォォォッ!!!」

会場が、静まり返った。

殿下の顔から、血の気が引いていく。

彼の脳内フィルターがついに、『限界』を迎えてショートしようとしていた。

「ち、違う……。私のローレライは……もっとお淑やかで……」

「夢見てんじゃねぇよ! 現実見ろ!」

私はトドメの一撃を放つべく、大きく息を吸い込んだ。

「さあ、どうするギルバート! この『悪女』を、それでも抱きしめられるかーッ!?」
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