婚約破棄された悪役令嬢、沈黙を破って絶叫する。

夏乃みのり

文字の大きさ
27 / 28

27

結婚式から数ヶ月。

世界は、二つの対照的な国家によって分断されていた。

一つは、ギルバート王子が治める王国。

「……静かに。紅茶を置く音がうるさい」

王城のテラスで、ギルバート殿下(次期国王)は神経質に眉をひそめていた。

あの日、ローレライの轟音と罵倒によって完全にトラウマを植え付けられた彼は、『音恐怖症』になっていた。

「鳥のさえずりも禁止だ。風の音も耳障りだ。……ああ、もっと静寂を」

彼は国中に『静粛令』を発令した。

街から音楽が消え、市場の活気ある呼び込みも消え、人々はヒソヒソ声で会話することを強要された。

結果、国は急速に活気を失い、経済は停滞し、陰気な空気が漂う『沈黙の国』へと成り下がっていた。

ミナという『癒やし』を失い、ローレライという『活力』を捨てた王子の末路は、あまりにも静かで、寂しいものだった。

***

対して、もう一つの国。

隣国ガレリア帝国、その辺境にある『ナイトメア・パレス』領。

ドォォォォォォォォン!!!!!

早朝から、謎の爆発音が轟いた。

「おはようございまァァァァァァすッ!!!!」

私のモーニング・シャウトである。

「今日も最高の目覚めだ、ローレライ」

隣で寝ていたクラウスが、衝撃波で吹き飛んだ布団を気にすることもなく、爽やかに起き上がった。

「君の声を聞くと、細胞の一つ一つが活性化するのがわかる」

「でしょ? 今日は低音を効かせてみたのよ」

私はガウンを羽織り、窓を開けた(窓ガラスは既にないので枠だけだ)。

眼下に広がる領地は、異様なほどの活気に満ち溢れていた。

「へいらっしゃい! 魔王印の野菜だよォッ!」

「安いよ安いよォッ! 買ってけドロボウ!」

「ガハハハハ! 今日もいい天気だな!」

住民たちの声がデカい。

とにかくデカい。

なぜなら、領主である私が毎日大声で演説し、歌い、叫んでいるため、住民たちも「声が小さいと聞こえない」という環境に適応し、自然と声量がアップしたのだ。

さらに驚くべき現象も起きていた。

「見てくれローレライ。畑の大根がまた巨大化したぞ」

クラウスが指差した先には、人の背丈ほどもある巨大な大根や、メロンのような大きさのトマトが実っていた。

「私の声波振動が、植物の成長を促進させてるみたいね」

「ああ。『ソニック農法』と名付けよう。収穫量は去年の5倍だ。国庫が潤って仕方がない」

騒音あるところに、繁栄あり。

私の声は、ただの騒音公害ではなく、国を富ませる『豊穣の叫び』として崇められ始めていたのだ。

「姉御ーッ! 朝メシできてやすぜーッ!」

廊下から、ミナのダミ声が響く。

彼女は今や、メイド長として使用人たちを取り仕切っている。

その迫力ある指示出しと、元々の計算高さを活かしたマネジメント能力で、城の業務は完璧に回っていた。

「おう! 今行く!」

私は返事をした。

「……ふふ」

クラウスが、私の背中を見て笑った。

「なに?」

「いや。……幸せだなと思って」

彼は私の腰を引き寄せ、頬にキスをした。

「ギルバートの国は静かすぎて滅びかけているらしいが……俺たちの国は、うるさすぎて平和だ」

「皮肉な話よね。あんなに『静寂』を求めてた魔王様が、今じゃ一番の騒音好きなんて」

「君限定だがな」

クラウスは甘えたように私の肩に顎を乗せた。

「ローレライ。……今日も仕事(公務)が終わったら、セッションするか?」

「もちろんよ。新曲が出来たの」

「タイトルは?」

「『愛の巣は瓦礫の山~修理費なんて知るか!~』よ」

「最高だ。アンプを新調しておこう」

私たちは顔を見合わせて笑った。

窓の外では、ギガント・ベアのポチが、私の声真似をして「ヴォォォォ!」と吠えている。

騒がしくて、落ち着かなくて、ガラス代がかさむ毎日。

でも、ここには嘘がない。

我慢もない。

あるのは、ありのままの自分をさらけ出し、笑い合えるパートナーと、賑やかな仲間たちだけ。

「さあ、行くわよクラウス! 今日も元気に、世界を揺らしにいきましょう!」

「ああ、ついていくぞ。俺の最愛の騒音姫」

私たちは手を繋ぎ、朝の光の中へ飛び出した。

二人のバカップルぶりは、国境を越えて伝説となり、後世まで語り継がれることになる。

『静寂は死を招き、騒音は生を育む』

そんな、間違ったことわざが辞書に載るくらいに。
感想 0

あなたにおすすめの小説

全てを奪われてしまいそうなので、ざまぁします!!

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
義母に全てを奪われたジュディ。何とかメイドの仕事を見つけるも義母がお金の無心にやって来ます。 私、もう我慢の限界なんですっ!!

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい…… ◆◆◆◆◆◆◆◆ 作品の転載(スクショ含む)を禁止します。 無断の利用は商用、非営利目的を含め利用を禁止します。 作品の加工・再配布・二次創作を禁止します 問い合わせはプロフィールからTwitterのアカウントにDMをお願いします ◆◆◆◆◆◆◆◆

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。