婚約破棄前におバカな王子たちを根性叩き直しコースに強制入会

夏乃みのり

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王立晩餐会。そこは、情報の毒と虚飾の華が入り乱れる、貴族たちの主戦場。

会場に集まった貴族たちの関心は、もっぱら一ヶ月もの間、姿を消していた「おバカコンビ」のことだった。

「聞いたか? レオン王子が、リコ嬢に監禁されて再教育を受けているという噂だ」

「どうせ、公爵家の権力で無理やりマナーを詰め込んだだけだろう。あの王子が、三行以上の文章を理解できるはずがない」

会場のあちこちで、扇子の陰から毒が吐き出される。

そんな中、扉が重々しく開かれ、三人の男女が姿を現した。

先頭を歩くのは、漆黒のドレスに身を包んだ「氷の悪役令嬢」リコ・ド・モンフォール。

そしてその後ろには、かつての「締まりのない笑顔」を封印したレオン王子と、隙のない足運びで歩くマリエッタが控えていた。

「……雰囲気が、違うわね?」

誰かが小さく呟いた。

レオン王子の背筋は定規を入れたように真っ直ぐで、その瞳には「次は何を食べようか」という空虚な食欲ではなく、周囲を冷静に観察する「知性」の光が宿っている。

マリエッタもまた、ふわふわとした頼りなさは消え、完璧に整えられた美容(武装)によって、近寄りがたいほどの淑女のオーラを放っていた。

「レオン殿下、お久しぶりでございます。……一ヶ月もお姿を見せないとは、よほど『愛の巣』が居心地よろしかったようで?」

嫌味で知られるギルバート伯爵が、嫌らしい笑みを浮かべて近づいてきた。

周囲の貴族たちが、「さあ、王子はどう返失言をするか」と耳をそばだてる。

以前のレオンなら、「愛は場所を選ばないんだ!」とトンチンカンな返事をして失笑を買っていただろう。

だが、今のレオンは、ゆっくりとシャンパングラスを傾け、冷徹な微笑みを浮かべた。

「……ギルバート伯爵。一ヶ月の不在を『愛』で片付けるのは、少々想像力が欠如していませんか? 私はその間、あなたが放置していた北部の治水予算の『使途不明金』について精査していたのですよ」

会場が一瞬にして、凍りついたような静寂に包まれた。

「な……な、何のことかな、殿下。私はそのような――」

「先月二十四日の物流記録と、あなたの領地の石材購入量。それらを照らし合わせると、銀貨二百枚分の誤差が生じている。……計算式、ここで披露しましょうか? あ、私のパートナーのマリエッタは暗算が得意でしてね。彼女の頭の中には、あなたの不正の証拠がパズルのように組み上がっていますよ」

レオンは、隣に立つマリエッタに視線を送った。

マリエッタは優雅に会釈し、扇子をパッと開いた。

「左様でございますわ、伯爵。ちなみにその銀貨二百枚があれば、王都の孤児院の屋根を三つ直せますの。愛も慈悲もない予算配分……淑女として、見過ごせませんわ」

「バ……バカな……。あの王子が、数字を!? あの男爵令嬢が、正論を!?」

ギルバート伯爵は、幽霊でも見たかのように顔を青くして後ずさり、そのまま人混みに紛れて逃げ出した。

周囲の貴族たちは、今のやり取りを呆然と見届けていた。

「……喋った。あの王子が、まともな論理で相手を論破したわ……!」

「マリエッタ嬢のあの落ち着きは何だ? まるでお嬢様(リコ)の影武者のようではないか……」

ひそひそ話の内容が、「嘲笑」から「畏怖」へと変わっていく。

リコは、その様子を満足げに眺めながら、レオンの耳元で囁いた。

「いいですわ、レオン様。今の返しは八十分ですわね」

「八十点か。厳しいな、リコ。あとの二十点は?」

「少し、ドヤ顔が過ぎましたわ。強者は、相手を追い詰める時こそ『無関心』を装うものです。……マリエッタ、あなたは百点ですわよ。あの伯爵の血圧が上がるのを見て、少し楽しそうにしていましたわね?」

「リコ様に褒めていただけるなんて! ええ、おじ様の顔が真っ赤になるの、とっても『計算通り』で楽しかったですわ!」

マリエッタが不敵に微笑む。その笑顔には、もはや「癒やし」の成分は微塵も含まれていなかった。

リコは冷たく周囲を見渡した。

「さあ、おバカさんたちの化けの皮が剥がれたと笑いに来た皆様。……残念ながら、ここにいるのは更生された『猛獣』です。噛み付かれたくなければ、背筋を伸ばして挨拶にいらっしゃいな」

リコの宣言と共に、貴族たちが雪崩を打つように挨拶の列を作った。

それは、婚約破棄を狙っていた悪役令嬢による、社交界の完全支配が始まった瞬間であった。
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