悪役令嬢(志望)、婚約破棄? はい、お先に失礼しますわ!

夏乃みのり

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エドワード王子は、やり遂げた、という表情でカレン姫を抱きしめている。
周囲は水を打ったように静まり返り、誰もが私の次の言葉を待っていた。

(さあ、行くのですわ、ルーシュ・フォン・ヴァインベルグ!)

悪役令嬢として、今こそ、あのセリフを言う時!
私はゆっくりと口を開き、満面の笑みを浮かべた。

「まぁ! エドワード様、カレン姫!」

私の声は、緊張した大広間によく響いた。

「この度は、ご婚約、誠におめでとうございますわ!」

私は、心の底からの祝福を込めて、優雅にカーテシー(お辞儀)をしてみせた。

「……………は?」

エドワード王子が、間抜けな声を出す。
腕の中のカレン姫も、キョトンと目を丸くして私を見ていた。

(あれ? 反応が薄いですわね)

もっとこう「何を言っているんだ、この女は!」みたいな非難が飛んでくるかと思ったのに。
練習が足りなかっただろうか。

私は、もう一度仕切り直すことにした。

「ですから! ご婚約、おめでとうございます! お二人は本当にお似合いですわ!」

私はパチパチと拍手までしてみせる。
これぞ悪役令嬢の「余裕」というものだ。(違う)

「…る、ルーシュ…? 貴様、自分が何を言われたか、わかっているのか?」

エドワード王子が、本気で困惑した顔で聞いてくる。

「もちろんですわ、エドワード様」

私は、うふふ、と扇で口元を隠す。

「わたくしとの婚約を破棄なさって、カレン姫と新しく婚約される。そうおっしゃったのでしょう?」

「そ、そうだ! 貴様の陰湿な嫌がらせと、公務の怠慢ゆえに!」

王子は慌てて、断罪のテンションを取り戻そうと声を張り上げる。

「ええ、ええ。重々承知しておりますわ」

(私の努力が認められた瞬間ですもの!)

私は嬉しくて、顔がニヤけてしまいそうになるのを必死でこらえた。
悪役令嬢は、ここで喜色満面になってはいけない。
あくまで「負け惜しみ」か「狂気」を装わねば。

「それにしても、よかった」

「な、何がだ!」

「だって、エドワード様、ずっとお辛そうでしたもの」

「なっ!?」

私は、あえて同情するような視線を王子に向ける。

「わたくしという、こんな(素晴らしい)悪役令嬢が婚約者で、さぞ息苦しかったことでしょう。これからは、可憐なカレン姫と、どうぞお幸せにお過ごしくださいまし」

「……」

王子が絶句している。
カレン姫も、潤んだ瞳で私をただ見つめている。

(完璧ですわ! この「負け惜しみ」と見せかけて、実は何も堪えていない感じ!)

周囲の貴族たちも、ザワザワと囁き合っている。

「ルーシュ様は、ショックでおかしくなられたのでは…」

「なんて痛々しい…」

「いや、あれは公爵令嬢としての最後の意地か…?」

(皆様、お好きなように解釈してくださいまし!)

私は気分が最高潮だった。
長年の夢が、今、まさに叶ったのだ。

「…ルーシュ。貴様、本気で言っているのか?」

エドワード王子が、信じられないという顔で、もう一度問う。

「本気ですわとも」

「悔しくないのか! 俺に捨てられるのだぞ!」

「悔しい? まさか」

私は、きっぱりと首を横に振った。

「わたくし、悪役令嬢ですもの。ヒーローである王子と、ヒロインであるカレン姫の幸せな未来のために、潔く散るのが役目ですわ。ええ、わかっておりますとも」

「あくやくれいじょう…?」

カレン姫が、首をこてんと傾げる。
ああ、可愛い。

「そうだ! 悪役令嬢だ! …ん? いや、そうだが…そうではない!」

エドワード王子が、自分で言っていて混乱し始めている。

「何を言っている、ルーシュ! 貴様は罪人として、今、断罪されているのだぞ!」

「はい! 光栄ですわ!」

「ぐ…!」

王子が言葉に詰まる。
どうやら、私の反応は彼の想定を完全に超えていたらしい。

(ふふふ。悪役令嬢とは、常に王子の想像の上を行くものですわよ)

私は、今日の主役である二人に向かって、もう一度、深く深くお辞儀をした。

「エドワード様、カレン姫。お二人の輝かしい未来に、祝福を」

「あ、ありがとう…ございます…?」

カレン姫が、戸惑いながらも、小さくお辞儀を返してくれた。
なんて良い子なのかしら。
ヒロインの鑑だ。

「さあ、エドワード様! 断罪の仕上げをお願いしますわ!」

「し、仕上げ…?」

「わたくしへの処分ですわ! 追放! あるいは幽閉! 悪役令嬢のテンプレですわよね!」

私は期待に目を輝かせる。
第二の人生(スローライフ)は、もう目の前だ。
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