公爵様、これは冷たい契約結婚のはず、ですよねっ!?

夏乃みのり

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リアム様が、私のために母の薬を手配してくださった。その事実が、私の心を温め続けていた。彼の不器用な優しさに触れるたび、私はこの人をもっと知りたいと、そう願うようになっていた。

そんなある日、私の脳裏に、彼がかつて口にした言葉が蘇った。

『私の代で、星の守護の役目は終わりにする』

星の守護。それは一体、何なのだろう。彼の苦悩の根源に、その言葉が深く関わっている気がしてならなかった。

「マーサ、公爵家の書庫を、少し見せていただくことはできますか?」

侍女長のマーサにそう願い出ると、彼女は少し驚いた顔をしたが、やがて静かに頷いてくれた。

「ええ、もちろんでございます。ですが、奥にある古い書物は、専門的で難解なものが多いかと……」

「構いません。少し、調べたいことがあるのです」

広大な書庫は、知の迷宮のようだった。マーサの案内で、私は普段は誰も立ち入らないという、古い文献が集められた一画へと足を踏み入れた。革の匂いと、古い紙の匂いが混じり合って、厳かな空気を醸し出している。

そこで、私は一冊の古文書を見つけた。『ヴァレンシュタイン公爵家と星辰の記録』と題された、分厚い本だった。

ページをめくると、そこには私の想像を絶する事実が、古めかしい文字で記されていた。

『――ヴァレンシュタインの血を引く者は、天空の星々の力をその身に宿す「器」となる。その力は、領地の天候を司り、国の運命にさえ影響を及ぼす。故に、公爵は代々、その力を正しく制御し、国を守護する「星の守護者」としての役目を負う――』

国の運命を左右する、強大な力。リアム様は、そんなものをその身に宿しているというのか。

読み進めるうちに、私の指は微かに震え始めた。

『――されど、星の力はあまりに強大にして、時に人の精神を蝕む奔流となる。力を制御できぬ者は、その輝きに焼かれ、狂気に陥ることもあり。過去には、力に呑まれ、自ら命を絶った当主もいた……』

背筋に、冷たいものが走る。リアム様の苦悩。悪夢。それは、ただの過去のトラウマだけではなかったのだ。彼自身の内にある、この恐ろしい力との戦いでもあったのだ。

文献の最後の方には、力の制御が困難になる時期や、それを鎮めるための儀式についての記述があったが、その多くは曖昧で、不吉な記述に満ちていた。

私は、本を閉じた。リアム様が背負っている宿命の、そのあまりの重さに、言葉を失う。

氷の公爵。それは、彼が内に秘めた、いつ暴走するかも分からない灼熱の星を、必死に凍らせて抑え込むための、悲しい仮面だったのかもしれない。

彼がなぜ、世継ぎを望まないのか。その理由が、痛いほどに分かってしまった。こんなにも過酷な宿命を、誰にも継がせたくはない。彼の優しさが、そうさせているのだ。

書庫の冷たい空気の中で、私は彼の孤独に思いを馳せ、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
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