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私の看病と、力の効果があったのか、リアム様は翌日には熱が下がった。しかし、根本的な解決には至っていない。空の星は依然として輝きを失ったままで、彼の力の不安定さは続いている。
そして、まるで彼の心身の状態を映すかのように、領地の天候はさらに荒れ狂った。
長雨は、やがて冷たいみぞれ混じりの暴風雨へと変わった。収穫を終えたばかりの畑はぬかるみ、いくつかの村では小規模な土砂崩れも発生した。川の水位は再び危険な領域に達し、領民たちの不安は頂点に達していた。
「これも全て、ヴァレンシュタインの力が弱まったせいだ……」
「新しい公爵様は、先代様ほどのお力がないのかもしれない……」
そんな不敬な噂が、民の間で囁かれていることを、私は侍女たちの会話から知った。
「申し訳ありません、奥様。ですが、皆、不安なのです」
マーサが、申し訳なさそうに言う。
「分かっています、マーサ。彼らが悪いわけではありません」
一番辛いのは、リアム様のはずだ。民からの信頼を失い、自らの無力さを痛感しているに違いない。
病み上がりの身体に鞭打って、リアム様は再び陣頭指揮のために屋敷を飛び出していった。その背中は、悲壮な覚悟に満ちていて、見送る私の胸を締め付けた。
私にできることは、屋敷を守ること。
「皆、落ち着いて。不安なのは分かりますが、今こそ私たちが、領主様を支える時です」
私は使用人たちを集め、毅然として言った。
「炊き出しの準備をします。被害の大きかった村へ、温かい食事と毛布を届けましょう。動ける者は、皆、協力してください」
私の言葉に、戸惑っていた使用人たちの顔に、少しずつ決意の色が浮かぶ。私の纏う「静かな覚悟の青色」が、彼らの「不安の灰色」を塗り替えていくようだった。
その日から、公爵邸はさながら後方支援の拠点となった。私は厨房に立ち、次々とスープやパンを準備し、マーサが中心となって、物資の仕分けと配送の手配をする。
皆が一体となって、この危機を乗り越えようと必死に働いた。
リアム様が、泥だらけになって深夜に帰宅する。
「……すまない、エリス。屋敷のことまで、君に……」
「当たり前のことをしているまでですわ。さあ、スープが冷めないうちに。これを飲んで、少しでもお休みください」
私は、彼の冷え切った手を握り、静かに「若草色の光」を送る。彼の疲労困憊のオーラが、ほんの少し和らぐ。
彼は、何も言わずに、私の淹れたスープを静かに飲んだ。
外では、まだ嵐が吹き荒れている。けれど、この屋敷の中だけは、確かな絆と温かい希望の光が、確かに灯っていた。
そして、まるで彼の心身の状態を映すかのように、領地の天候はさらに荒れ狂った。
長雨は、やがて冷たいみぞれ混じりの暴風雨へと変わった。収穫を終えたばかりの畑はぬかるみ、いくつかの村では小規模な土砂崩れも発生した。川の水位は再び危険な領域に達し、領民たちの不安は頂点に達していた。
「これも全て、ヴァレンシュタインの力が弱まったせいだ……」
「新しい公爵様は、先代様ほどのお力がないのかもしれない……」
そんな不敬な噂が、民の間で囁かれていることを、私は侍女たちの会話から知った。
「申し訳ありません、奥様。ですが、皆、不安なのです」
マーサが、申し訳なさそうに言う。
「分かっています、マーサ。彼らが悪いわけではありません」
一番辛いのは、リアム様のはずだ。民からの信頼を失い、自らの無力さを痛感しているに違いない。
病み上がりの身体に鞭打って、リアム様は再び陣頭指揮のために屋敷を飛び出していった。その背中は、悲壮な覚悟に満ちていて、見送る私の胸を締め付けた。
私にできることは、屋敷を守ること。
「皆、落ち着いて。不安なのは分かりますが、今こそ私たちが、領主様を支える時です」
私は使用人たちを集め、毅然として言った。
「炊き出しの準備をします。被害の大きかった村へ、温かい食事と毛布を届けましょう。動ける者は、皆、協力してください」
私の言葉に、戸惑っていた使用人たちの顔に、少しずつ決意の色が浮かぶ。私の纏う「静かな覚悟の青色」が、彼らの「不安の灰色」を塗り替えていくようだった。
その日から、公爵邸はさながら後方支援の拠点となった。私は厨房に立ち、次々とスープやパンを準備し、マーサが中心となって、物資の仕分けと配送の手配をする。
皆が一体となって、この危機を乗り越えようと必死に働いた。
リアム様が、泥だらけになって深夜に帰宅する。
「……すまない、エリス。屋敷のことまで、君に……」
「当たり前のことをしているまでですわ。さあ、スープが冷めないうちに。これを飲んで、少しでもお休みください」
私は、彼の冷え切った手を握り、静かに「若草色の光」を送る。彼の疲労困憊のオーラが、ほんの少し和らぐ。
彼は、何も言わずに、私の淹れたスープを静かに飲んだ。
外では、まだ嵐が吹き荒れている。けれど、この屋敷の中だけは、確かな絆と温かい希望の光が、確かに灯っていた。
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