公爵様、これは冷たい契約結婚のはず、ですよねっ!?

夏乃みのり

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戦場の混乱の中、私の五感は極限まで研ぎ澄まされていた。騎士たちの「闘志の赤色」、そして、敵の「殺意に満ちたどす黒い色」。その全てが、スローモーションのように、私の目には見えていた。

「ライオネル様!」

私は、叫んだ。

「あなたの右後方、二人!木の陰です!」

私の声に、ライオネル様は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに背後の木の陰に剣を突き立てた。鈍い呻き声と共に、隠れていた敵が二人、地面に倒れる。

「なっ……なぜ、分かったのですか、奥様!?」

「見えたのです!悪意の色が!」

もう、隠している場合ではなかった。

「左から三人、来ます!足元を狙って!」

「くっ……信じられんが、賭けるしかない!」

ライオネル様は、私の指示通りに動いた。私の「目」と、彼の「剣」が、完璧に連動する。次々と、奇襲を仕掛けてくる敵を打ち破っていった。

私は、戦場の司令塔となっていた。

「護衛の方!背後から弓が!」
「そこです!今、飛びかかって!」

私のこの力は、人を癒すだけのものではなかった。大切な人を守るための、戦うための力でもあったのだ。

騎士たちの奮戦と、私の的確な指示によって、敵の数はみるみるうちに減っていった。形成は、逆転した。

「化け物め……!」

追い詰められた敵の頭目らしき男が、最後の手段に出た。彼は、儀式を続けるリアム様に向かって、隠し持っていた毒矢を放ったのだ。

それは、誰も反応できない、死角からの不意の一撃だった。

「――リアム様!」

私は、考えるより先に、駆け出していた。
約束を、破ってしまう。けれど、彼を失うくらいなら。

リアム様をかばうように、その前に立ちはだかる。ぎゅっと、目を閉じた。

だが、衝撃は来なかった。

目を開けると、私の目の前で、放たれた毒矢が、まるで透明な壁に当たったかのように、ぽとりと地面に落ちていた。

私の身体から無意識に放たれた「守護の若草色の光」が、彼を、そして私自身を守ったのだ。

その光景に、敵も味方も、誰もが息を呑んで立ち尽くしていた。
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