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『筋女』という不名誉極まりない(とアレンは思っている)称号が広まって以来、私は領民からますます神格化されるようになってしまった。
一方、アレンは私や領民たちから逃れるように、仮住まいとして与えられた城の一室に引きこもりがちになっていた。
「アレン様、いらっしゃいますこと?」
その日も、私は彼の部屋を訪れていた。もちろん、座りっぱなしの彼の健康を心配してのことだ。
「(また来た…)」
アレンは内心でため息をつきながら、渋々ドアを開けた。
「アレン様、長時間同じ姿勢で読書をするのは、血行に悪いですわよ!エコノミークラス症候群の危険性も…」
「エコノミー…?とにかく、私は研究で忙しいんだ。邪魔をしないでくれ」
「まあ、そんな邪険になさらず。少しお話でもいかが?例えば、筋肉を動かすメカニズムについて、とか」
私は部屋に上がり込むと、いつものように筋肉理論を語り始めた。
「筋肉を効率的に動かすには、ただ力を入れるだけではダメなのです。どの筋肉を、どのように動かすのか、脳が正確に指令を出し、神経を通じて伝達することが重要でして…」
最初はうんざりした顔で聞いていたアレンだったが、私の言葉が続くうちに、その表情が徐々に変わっていった。
「…神経伝達、だと?」
「ええ。その指令が正確であればあるほど、筋肉は最大のパフォーマンスを発揮しますの」
アレンはハッとした顔で、自分の手を見つめた。
「…君の言う、その『筋肉を意識する』という感覚は、魔術師が体内の魔力の流れを緻密にコントロールする感覚と、非常に似ているのかもしれない」
魔術の発動もまた、術者の明確な意志(指令)が、魔力(伝達経路)を通じて、世界に現象として現れるものだ。
「筋肉を鍛えることが、魔力のコントロールを向上させる…?いや、まさか…。だが、もし、肉体という器そのものが強固になれば、扱える魔力量の最大値も増えるのでは…?」
アレンは、ぶつぶつと何かを呟き始めた。その目は、もはや私を見ていない。彼の頭の中では、私の脳筋理論が、高度な魔術理論へと変換され、新たな仮説を生み出していた。
初めて、彼は私の言葉に、学術的な、そして個人的な興味を抱いた。
それは、虚弱な魔術師の心に、ほんの小さな『筋肉』という名の種が植えられた瞬間だった。
一方、アレンは私や領民たちから逃れるように、仮住まいとして与えられた城の一室に引きこもりがちになっていた。
「アレン様、いらっしゃいますこと?」
その日も、私は彼の部屋を訪れていた。もちろん、座りっぱなしの彼の健康を心配してのことだ。
「(また来た…)」
アレンは内心でため息をつきながら、渋々ドアを開けた。
「アレン様、長時間同じ姿勢で読書をするのは、血行に悪いですわよ!エコノミークラス症候群の危険性も…」
「エコノミー…?とにかく、私は研究で忙しいんだ。邪魔をしないでくれ」
「まあ、そんな邪険になさらず。少しお話でもいかが?例えば、筋肉を動かすメカニズムについて、とか」
私は部屋に上がり込むと、いつものように筋肉理論を語り始めた。
「筋肉を効率的に動かすには、ただ力を入れるだけではダメなのです。どの筋肉を、どのように動かすのか、脳が正確に指令を出し、神経を通じて伝達することが重要でして…」
最初はうんざりした顔で聞いていたアレンだったが、私の言葉が続くうちに、その表情が徐々に変わっていった。
「…神経伝達、だと?」
「ええ。その指令が正確であればあるほど、筋肉は最大のパフォーマンスを発揮しますの」
アレンはハッとした顔で、自分の手を見つめた。
「…君の言う、その『筋肉を意識する』という感覚は、魔術師が体内の魔力の流れを緻密にコントロールする感覚と、非常に似ているのかもしれない」
魔術の発動もまた、術者の明確な意志(指令)が、魔力(伝達経路)を通じて、世界に現象として現れるものだ。
「筋肉を鍛えることが、魔力のコントロールを向上させる…?いや、まさか…。だが、もし、肉体という器そのものが強固になれば、扱える魔力量の最大値も増えるのでは…?」
アレンは、ぶつぶつと何かを呟き始めた。その目は、もはや私を見ていない。彼の頭の中では、私の脳筋理論が、高度な魔術理論へと変換され、新たな仮説を生み出していた。
初めて、彼は私の言葉に、学術的な、そして個人的な興味を抱いた。
それは、虚弱な魔術師の心に、ほんの小さな『筋肉』という名の種が植えられた瞬間だった。
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