断罪されたので、これからは私が一番輝きますわ!

夏乃みのり

文字の大きさ
25 / 28

25

ノワール公爵領の大聖堂。
そこは本来、厳かな静寂と歴史の重みに包まれた、神聖な祈りの場である。

しかし今、その聖域は「物理的な暴力」を伴う輝きの実験場と化していた。

「……キラリ。今すぐその、手にした建築図面を置きなさい。それと、床に敷き詰められたその銀盤を撤去しろ」

リュカオンは、特注の遮光ゴーグルを二重に装着し、視界を確保しながら必死に訴えた。
彼の目の前には、聖歌隊の席に仁王立ちし、金糸の巻尺を振り回しているキラリがいた。

「何を仰いますの、リュカオン様! わたくしたちの結婚式ですわよ!? この程度の輝きでは、わたくしの幸福度を表現しきれませんわ!」

キラリはバサリと扇子を広げ、聖堂の天井を指し示した。

「見てくださいませ、あの天井画! あんな色褪せたフレスコ画では、わたくしの歩みに影を落としてしまいます。ですから、天井も壁も、すべて『一面鏡張り』に改装いたしますわ!」

「鏡張りだと!? ただでさえ貴様が歩くたびに光線が飛び交うのに、全方位が鏡になったら……そこはもう、式場ではなく巨大な電子レンジだろうが!」

「まあ、素敵な表現ですわね! 参列者の皆様の情熱を、わたくしの輝きで『こんがり』と焼き上げて差し上げる……まさに愛の調理場ですわ!」

「死人が出るわ! いいか、参列者は人間なんだ。光ファイバーではないんだぞ!」

リュカオンの制止を完全にスルーし、キラリは次に、控えさせていた宝石商たちの山へ向かった。

「さあ、そこの方々! わたくしのウェディングケーキのデザイン案はできておりますわね!?」

「は、はい、お嬢様……。こちら、土台から装飾まですべてを『可食用の人工ダイヤモンド』で構成した、高さ十メートルのピラミッド型ケーキでございます……」

「……待て。食えるのか、それは」

リュカオンが横から口を挟む。

「当然ですわ! 噛み砕くたびに、口の中から七色の光が溢れ出す……これこそが、真の美食というものですわよ!」

「歯が折れるだろうが! 招待客に抜歯の予約をさせてから呼べというのか!」

キラリはオーッホッホッホ!と高笑いし、流れるような動作でセバスを呼び寄せた。

「セバスさん! 参列者に配布する『公式・超高密度溶接用ゴーグル』の数は足りておりますわね?」

「承知いたしました、お嬢様。すでに隣国の工房をすべて買収し、不眠不休で生産させております。なお、式場入り口には『失明に関する免責同意書』への署名コーナーも設置済みでございます」

「セバス……貴様、いつからキラリの信者になったんだ。主人を裏切って光の陣営に寝返るとは」

「閣下、もはや抗うのは無意味かと存じます。お嬢様の輝きは、もはや物理法則の域を超えておりますので」

リュカオンは、聖堂の中央で「ここに特大のサーチライトを設置して……」と独り言を呟く婚約者を見つめ、静かに悟った。

この結婚式は、社交界の伝説になるだろう。
ただし、「最も美しい式」としてではなく、「世界で最もまぶしい災害」として。

「……キラリ。演出については百歩譲って認めよう。だが、聖歌隊の件はどうなった。私の記憶が正しければ、貴様は『合唱曲は不要だ』と言っていたはずだが」

「あら、覚えていらしたのね? 当然ですわ! 聖歌隊の皆様には、歌の代わりに、わたくしの『オーッホッホッホ!』という高笑いを三部合唱で練習していただいておりますの!」

「…………」

リュカオンは絶句した。
聖堂に響き渡る、数十人による「オーッホッホ」の輪唱。
それはもはや呪いの儀式ではないか。

「見てくださいませ、リュカオン様。想像するだけで、わたくしの肌がさらなる発光を求めておりますわ! これこそ、わたくしの魂が望む最高の門出ですわよ!」

キラリが喜びのあまり魔力を解放すると、聖堂のステンドグラスが一斉にカタカタと震えだした。
彼女の内側から溢れ出るポジティブな魔力が、大気中の光の粒子を強制的に整列させていく。

「……わかった。もう好きにしろ。ただし、私の誓いのキスの瞬間だけは、光量を少し落とせ。貴様の顔が見えないどころか、私の唇が光線で蒸発しそうだ」

「まあ、リュカオン様。甘えたさんですわね! よろしいですわ、その一瞬だけは、わたくしの出力を『微光(びこう)』レベルにまで絞って差し上げますわ!」

「……微光と言いつつ、普通のロウソク百本分くらいはありそうだがな」

リュカオンは苦笑しながら、キラリの肩を抱き寄せた。

式場全体が鏡張りになり、全方位から自分の幸せな顔を拝むことができる。
キラリにとって、これ以上の楽園はない。

「あーっ、楽しみですわ! エリオット様やリリィさんにも、特等席をご用意して差し上げなくては! わたくしの輝きに、一生消えない後悔の焼き印を刻んで差し上げますわよ!」

「……貴様、案外執念深いな。だが、そういうところも嫌いではない」

光の洪水の中で、二人の(主にキラリの)準備は着々と進んでいった。
隣国の空が、結婚式の一週間前から不自然に明るくなり始めたのは、言うまでもない。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております