断罪されたので、これからは私が一番輝きますわ!

夏乃みのり

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キラリとリュカオンの結婚式を数日後に控えたその頃。
国境を隔てた二つの国では、対照的すぎる「明と暗」が生まれていた。


まずは、キラリの祖国。
かつては栄華を誇った王宮だが、今やそこは「陰気」という名の霧に包まれていた。
廊下は薄暗く、庭園の花々はしおれ、何より第一王子エリオットが、完全に「輝き」を失っていたのである。


「……お、お父上。どうか、どうか考え直してください……!」


エリオットは、国王の御前で震えながら平伏していた。
その姿はかつての傲慢な王子ではなく、ただの疲れ果てた男のそれだった。


「黙れ、エリオット! 貴様の失態は、もはや一王子のわがままで済むレベルではない。わが国の『太陽』であったキラリ嬢を理不尽に追い出し、さらに彼女を窃盗犯として隣国の公爵邸に騎士団を差し向けるなど……!」


国王の怒声が響く。しかし、その声すらもどこか力がない。
王宮からキラリがいなくなって以来、国の宝物庫の宝石はなぜか輝きを失い、国民の士気も目に見えて低下していた。
人々は口々に「キラリ様がいれば、こんなに暗くはなかったのに」と囁き合っている。


「リリィ嬢も虚偽の申告で隣国に捕まり、わが国の面目は丸潰れだ。……エリオット、貴様にはもはや王位を継ぐ資格はない。本日をもって、王位継承権の剥奪、および辺境の修道院への永久追放を命ずる!」


「そ、そんな!? 修道院!? あそこは……あそこはロウソクの火さえ制限される、真っ暗な場所ではありませんか!」


「暗闇で、己がしでかした『光の喪失』を一生悔いるがいい。……連れて行け!」


衛兵に引きずられていくエリオット。
彼が最後に見た窓の外の景色は、どんよりとした雨雲に覆われていた。
かつてキラリが「わたくしがいるから太陽は不要ですわ!」と笑い飛ばしていた空は、もうどこにもなかった。


一方、国境を越えたノワール公爵領。
そこは今、別の意味で「パニック」に陥っていた。


「女神様……! 本物の女神様だぁぁぁ!」


「キラリ様! どうか、どうかうちの畑をそのまぶしさで照らしてください! 昨晩、お嬢様が通りかかっただけで、一晩で麦が黄金色に実ったんです!」


公爵邸の門前には、隣国中から集まった領民たちが、ひれ伏して祈りを捧げていた。
キラリが放つ「無意識の光魔法」が、作物の成長を促し、病人の心を(眩しさのショックで)明るくし、さらには夜道の治安を物理的に改善してしまったのである。


キラリはバルコニーから、集まった人々を見下ろして優雅に扇子を振っていた。


「オーーーッホッホッホッホ! 当然ですわ! わたくしの美貌は、もはや国境さえも狭すぎますの。わたくしがそこにいるだけで世界が救われる……まさに『女神・キラリ』の降臨ですわね!」


「……キラリ。頼むから、あまり身を乗り出すな。貴様の後光のせいで、領民たちの網膜が限界を迎えている。……セバス、炊き出しならぬ『サングラスの炊き出し』を急げ」


リュカオンが横から制止するが、キラリの勢いは止まらない。
彼女の背後には、神殿の神官たちが「予言の乙女、万歳!」と唱えながら、彼女を神格化するための儀式を勝手に執り行っていた。


「リュカオン様、見てくださいませ! わたくし、ついに人類のカテゴリーを卒業してしまいましたわ! これからは『公爵夫人』ではなく『公爵女神』と呼んでいただいてもよろしいのよ?」


「……却下だ。そんな不気味な称号、認められるか。それに貴様が神になったら、私は神の夫にならなければならないだろうが」


「あら、素敵じゃありません? 神と公爵の恋! わたくしの新しい伝説のタイトルにぴったりですわ!」


キラリが喜びのあまり指先でパチンと音を立てると、空の雲が物理的に吹き飛び、そこから極太の光の柱が彼女を直撃した。
それはまさに、天から祝福されているかのような神々しい光景だった。


「(……もはや、この女のポジティブさは天変地異だな)」


リュカオンは、眩しすぎる婚約者を見つめ、静かに悟った。
かつて自分を縛っていた闇も、隣国の政治的な陰謀も、そしてエリオットという男の存在さえも。
この女が放つ「圧倒的な光」の前では、すべてが蒸発して消えていく。


「さて、リュカオン様! 準備は整いましたわね! 明日の結婚式、わたくしは『太陽そのもの』になって、世界を焼き尽くして差し上げますわ!」


「……焼き尽くすな。照らすだけでいいと言っているだろう」


「同じことですわ! さあ、歴史上最もまぶしい一日の始まりですわよ! オーッホッホッホッホ!」


没落した王子と、女神へと昇華した悪役令嬢。
二人の運命は、光の速さで正反対の方向へと分かたれた。
そしていよいよ、世界中がサングラスを握りしめて待機する「光の結婚式」の幕が上がろうとしていた。
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